水産振興ONLINE

水産の今を読む、明日を知る

2019年9月の「水産振興ONLINE」開設以来、『水産振興』は印刷冊子およびウェブ版で皆様にご愛読いただいてまいりましたが、第635号の刊行を以て印刷冊子は終了し、第636号以降はウェブ版のみの公開とさせていただきます。
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2025年6月10日

進む温暖化と水産業

第43回

「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に関する法律」の成立~漁業との関係でこれからすべきこと~

長谷 成人
東京水産振興会 / 海洋水産技術協議会

米国でのトランプ政権の登場による再エネについての急ブレーキ、資材高騰等による国内外での事業計画からの撤退、見直しに加え、秋田での陸上風車の羽根の落下事件など風力発電についてのマイナスの報道が多くなされている中ですが、我が国では、相変わらず2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、洋上風力発電は再生可能エネルギーの主力電源化への切り札と位置付けられています。

2025年6月10日

第一次産業の相手は自然か。漁業の相手は魚か。

第3回

ブランド化 「煌」より「キンブチ」

窪川 敏治
金城水産 / 石川県定置漁業協会

石川県では、富山とともに寒ブリが有名で、富山に追随する形で売りにしている。実は私の定置網は冬場にすごくシケてしまう漁場にあるため、冬は網を揚げてしまい寒ブリは獲らないが、石川県から寒ブリのブランド化をしたいということで会合に声が掛かった。その会合には漁業者、県の水産課、県漁協が参加していた。私はメンバーをみた段階から不満が爆発し、「何で市場や仲買を呼んで意見を聞かないのか」と、県の水産課および県漁協に問うたが、「まずは生産者主体で決めたものを降ろせばいい。それをやらせる」という反応だった。

2025年6月5日

変わる水産資源2 — 生産と消費の好循環をめざして

第2回

漁業・養殖業へのシステムエンジニアリングの導入

佐藤 弘志
海洋産業タスクフォース

私の水産業とのお付き合いは、顧客の石油会社が海洋油ガス鉱区権取得時に、応札に付加価値を付ける為に産油国の水産業援助提案を始めた2000年頃からとなります。本稿では海洋油ガス田事業導入のシステムエンジニアリングの漁業・養殖業への活用をご紹介したいと思います。産油国はこの段階から石油会社の資金と技術活用で農業や水産業の育成を目論む様になりました。対象は陸上養殖から海面養殖の創出・振興中心の提案となり、昨今は対象海域の気象・海象関連取得データを解析後に産油国政府に報告し、水産業の発展に貢献するという形も出て来ています。

2025年6月4日

進む温暖化と水産業

第42回

ルポ 島に息づく進取の精神(長崎・壱岐㊦) 創造する新たな未来

中島 雅樹
水産経済新聞社

昨年、就任したばかりの篠原一生市長は、おもむろに「壱岐新時代マップ」を広げた。折り畳むと手のひらサイズになるコンパクトなマップには島の未来を描いたイラスト地図、裏には「あそびのみなと」(漁業×観光)など4点の “壱岐のアップデート” 案が示されている。人口減少が続き、気候変動の影響を受ける状況は壱岐も例外じゃない。マップについて篠原市長は、「もう一度、今から50年、100年と豊かな営みが続く島にアップデートしようという思いを込めた」と語る。

2025年6月3日

進む温暖化と水産業

第41回

ルポ 島に息づく進取の精神(長崎・壱岐㊤) マグロと藻場とイスズミ

中島 雅樹
水産経済新聞社

この日、JF箱崎漁協直営の大型定置には10キロを超えるヒラス(ヒラマサ)が大漁だ。ヒラスの水揚げを終えると、乗組員が「昨年はマグロがもっとすごかった」と、網内に飛び跳ねるマグロを写したスマートフォンの動画で見せてくれた。昨年は長崎・壱岐の定置もマグロが大豊漁だった。ただ、限られた漁獲枠はすでにいっぱい。放流するしかない。日によっては一尾150キロ級を50尾の放流記録が残っている。乗組員のやりきれない思いを感じながらも、仕方のないことと割り切る口ぶりにマグロ管理の浸透ぶりを実感する。

2025年5月29日

進む温暖化と水産業

第40回

韓国の洋上風力発電事情~事前の漁業補償の有無~

長谷 成人
東京水産振興会 / 海洋水産技術協議会

4月28日から30日まで韓国・釜山で開催された第10回「Our Ocean Conference(私たちの海洋会議)」に参加し、自然エネルギー財団、ウミトパートナーズ、世界洋上風力連合(GOWA)及び海洋自然保護団体(Ocean Conservancy)が共同開催したサイドイベント「海と共存する」において、「日本における洋上風力発電と漁業」と題して、日ごろの主張を発表してきました。また、これに先立ち4月28日にはサイドイベントで私とともに発表者となった韓国環境研究院のKongjang Cho博士の尽力で日韓「水産業と洋上風力の共存」ワークショップが開かれ、韓国側漁業団体、地方自治体、研究者などの関係者から韓国の事情を聴くよい機会ともなりました。

2025年5月20日

第一次産業の相手は自然か。漁業の相手は魚か。

第2回

ニーズとは (下) それ、押し付けてない?

窪川 敏治
金城水産 / 石川県定置漁業協会

ニーズを外している例をもう一つ。今度は漁業の話。海洋管理協議会(MSC)という国際的な組織がある。資源を守り、地球環境を大切にしながら魚を獲ろう、審査によって持続可能な漁業に認証を与え、その漁業で獲られた水産物には「海のエコラベル」というシールを付ける、といった組織である。私はそこの社内プロジェクト会議に呼ばれたことがある。

2025年5月20日

水産物流通のこれから~流通現場からのアプローチ~

第8回

漁獲量・流通・消費について(その3)

浦和 栄助
東京都水産物卸売業者協会

まずAの「供給増加・消費減少」グループについては、該当する3魚種(ブリ類、タイ類、カレイ類)をそれぞれグラフと表でデータをまとめていますが、代表してブリ類(養殖含む)とカレイ類のデータを示します。他の魚種のデータも全て同じ形式でまとめていますが、豊洲市場(2018年以降、それ以前は築地市場のデータ)での取扱高および家計支出の、1989年から2023年までのそれぞれの推移について、金額・数量・単価の3つの折れ線グラフで示しています。

カツオ 文学 焼津
2025年4月25日

水産振興

649

ノルウェーサーモン養殖の経済学

阿部 景太
武蔵大学

本稿は、世界最大のサーモン養殖生産国であるノルウェーの養殖業について、その歴史的発展と経済的側面を分析するものである。近年、日本でもサーモン養殖が注目を集め、各地でブランドサーモン養殖などの新たな取り組みが始まっているが、その発展形態はノルウェーとは異なる道を歩んでいる。ノルウェーのサーモン養殖業は、フィヨルドという特殊な地理的環境を活かした海面養殖から始まり、約半世紀にわたる発展の中で数々の技術革新、産業政策、環境課題との調和を経験してきた。この豊富な経験から日本が学べる点は多い。

2025年4月22日

第一次産業の相手は自然か。漁業の相手は魚か。

第1回

ニーズとは (上) その卵、買いますか?

窪川 敏治
金城水産 / 石川県定置漁業協会

2024年8月、秋田県青年・女性漁業者交流大会(主催・秋田県、JFあきた)で、石川・加賀で定置網漁業を営む (有) 金城水産の窪川敏治社長が講演した。「第一次産業の相手は自然か。漁業の相手は魚か。」、哲学的な問い掛けから始まった講演は、自らの考えを実践して導き出した答えが指し示され、具体的で説得力に満ちていた。秋田の漁業について語り掛けてはいるが、中身は水産業界全体にも通じる。窪川氏の投げ掛けをどう受け止めるか。聞き読み飛ばすか。演者が加筆した講演の概要を7回に分けて連載する。

2025年4月22日

進む温暖化と水産業

第39回

洋上風力 漁業者の同意をめぐる法的手続きの解説

梶脇 利彦
農林水産政策研究所

2025年3月19日(水)、筆者は仕事を休み、ふるさとの田畑山林などに付いている明治・大正期・昭和期の古い抵当権(休眠抵当権)を「取り除く」ための地方法務局への登記申請の手続きをしながら、刻一刻と締切が迫っているこのコラムも気になりパソコンに向かっています。早くから取り掛からないからよ、との妻の視線を感じています(汗)。人とは、大なり小なり、そういうものではないかと。しかしながら、良いものにしていくためには早くから準備し、取り組む方が良いことはいうまでもありません。わかっちゃいるけど、執筆時の時流をみて一思いに書くのが私流だと(心の中でそっと)呟いています。

2025年4月16日

変わる水産資源2 — 生産と消費の好循環をめざして

第1回

連載の再開にあたって — ネライと背景

和田 時夫
全国水産技術協会

令和5年10月から7年3月まで、「変わる水産資源—私たちはどう向き合うか」をテーマに13回にわたり連載を続けてきました。この間、多くの方々から忌憚のないご意見をいただくとともに、疑問点やご関心を持たれた事項についてお尋ねをいただくことができました。改めて御礼申し上げます。また、ご執筆いただいた皆様や、連載の機会をいただくとともに、毎回の編集・発行をご担当いただいた (一財) 東京水産振興会の皆様に改めて感謝申し上げます。

2025年4月8日

進む温暖化と水産業

第38回

洋上風力発電と水産 —水産海洋研究の立場から懸念されること—

大関 芳沖
水産研究・教育機構フェロー

広範囲で事業が進められている本州・北海道の日本海側を対象に、水産海洋学の立場から今回水産振興648号で懸念点を検討した。漁業振興策と事故回避:船舶衝突事故への安全対策については、国土交通省が技術基準の中で倒壊影響距離(基礎からのタワー高+風車半径)を示している。日本海難防止協会の「洋上風力発電事業に係る航行安全対策のガイドブック」作成や航行安全委員会の開催も進められている。

2025年4月8日

水産振興

648

洋上風力発電と水産 —水産海洋研究の立場から懸念されること—

大関 芳沖
水産研究・教育機構フェロー

洋上風力発電と水産についてはこれまでにも多くの方々が発信されてきているが、主に行政官や漁業関係者からのものが多かったような気がする。そのため、水産海洋学を軸に研究生活を送ってきた立場からすると、余り語られていない視点の中に重要な問題が潜んでいるような気がしてならない。水産海洋学とは、「水産資源豊度とその利用可能性に関わる海洋生態系間の関係および海洋生態系に影響を及ぼす海洋プロセスの研究」と定義されており、我が国の水産海洋学会は「水産業の発展に寄与する」という目的を加えて活動している。

2025年3月28日

水産物流通のこれから~流通現場からのアプローチ~

第7回

漁獲量・流通・消費について

浦和 栄助
東京都水産物卸売業者協会

次のスライドは、先ほどエンゲル係数との関係で説明した総務省「家計調査」の「食料」の支出金額に関して、いわゆる生鮮三品、家計調査のカテゴリーでは生鮮食品4グループ(魚介類、肉類、野菜・海藻、果物)に絞り込み、それらの割合をグラフ化したものです。左側の円グラフが1990年で、右側の円グラフが2023年のデータです。

カツオ 文学 焼津
2025年3月25日

水産振興

647

ALPS処理水の海洋放出が水産業に及ぼした経済的インパクト—貿易統計を用いて検討する—

濱田 武士
北海学園大学 教授

2023年8月24日、東京電力福島第一原子力発電所の構内からALPS処理水が海に希釈処理の上排水された。ALPS処理水は、原子炉建屋に流入する地下水が東日本大震災後に起こった事故により発生した燃料デブリに触れて放射能汚染水となったものをALPSにより放射性物質を除去したものである。トリチウムだけが除去できないが、十分に希釈すれば排水をしても生態系や人間の人体に対する影響はほぼないということから、政府が放水をするとした。

2025年3月25日

私たちが見つめるのは100年後の農山漁村

第12回

私たちは100年後にどのような水産物を食べているのだろうか

三木 奈都子
うみ・ひと・くらしネットワーク

戦後の日本の水産物消費は大きく変化した。漁獲や水産物の輸出入、国民の所得金額の変化によるものだけでなく、近年では家族構成や働き方の変化、すなわち共働きあるいは単身世帯が増えたことの影響が強い。このような変化はさらに進行しそうであり、今後、家庭内での時短調理や持ち帰り総菜等の工夫が行われることが予想される。

2025年3月18日

進む温暖化と水産業

第37回

秋さけ遊漁問題のこと、「進む温暖化と水産業」ワークショップのこと

長谷 成人
東京水産振興会/海洋水産技術協議会

2月15日に北見市の温根湯温泉で開かれた北海道漁業士会オホーツク太平洋会議に参加してきました。この会議は、北海道の東半分の漁業士が年に1度集まる会議です。水産庁勤務時代、同僚の加藤久雄さん(現遠まき組合長)に誘われてこの会議に参加するようになり、以後、様々なインスピレーションを与えてくれた私の定点観測地点の一つです。出発までに気になる記事がいくつかありました。一つは1月15日に札幌で開かれた北海道漁業士会研修大会の様子を伝える記事です。

2025年3月11日

水産物流通のこれから~流通現場からのアプローチ~

第6回

水産物のサプライチェーン(その4)、漁獲量・流通・消費について(その1)

浦和 栄助
東京都水産物卸売業者協会

続いて、「(4)全国中央卸売市場における豊洲市場」という話題に移ります。まずこのスライドは、豊洲市場の水産物取扱高(数量・金額)を世界の主要な水産物の卸売市場と比較したグラフです。これは東京都のデータから作成したもので、卸売業者協会が出している豊洲市場の案内パンフレットにも同様のグラフが掲載されています。世界の主要市場としてパリのランジス市場、スペインのメルカマドリッド、ロンドンのビリングスゲート魚市場などと比べていますが、やはり豊洲市場の取扱高の大きさが際立っています(図1)。