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水産振興コラム
20257
進む温暖化と水産業

第46回 
ルポ 町ぐるみで向き合う(北海道・浜中町㊦) 
行動する人と支える人

中島 雅樹
株式会社水産経済新聞社

危機感を将来の力に
「若者」が主役張る町

町を歩くとあちらこちらで「ルパン三世」に出合う。町内の霧多布温泉施設「ゆうゆ」では入り口で出迎えられ、あいさつで交わした名刺には漁師姿のルパンがサケを抱えてほほ笑んでいる。ここ北海道釧路地区の浜中町は、ルパン三世を世に生み出した漫画家モンキー・パンチ氏のふるさと。「町のPRになれば」と用意されたイラストの数は30点を超える。いろいろなルパンを探してみるだけでも浜中町を訪れる楽しみになる。

そんな浜中町を率いているのが齊藤清隆町長。スレンダーでダンディーな容姿は、赤いジャケットを羽織ればルパン三世そのもので、「若者が主役」の町の未来を真に語る。

写真1
「ルパン三世フェスティバル in 浜中町」(ルパン・フェス)
で、自らルパンのコスプレに挑戦する齊藤町長
写真2
2012年から浜中町ではルパン・フェスを開催。今年も9月27、28日の両日に行われる

「町の人口減少は続いているが、希望はある。浜中町には、海や霧多布湿原をはじめ豊かな自然がある。その自然に魅せられて移住してくる人もいる。そして何より地元の基幹産業である漁業や農業を担う若者が元気だ。彼らを支えていくのが町の使命」と言い切る。町は、若者たちに生き生きと活動してもらいたいと、農業・漁業・商工業の後継者たちに就業交付金として年間60万円を3年間助成、支援にも力を入れる。この7月には、コンブの産地と消費地という間柄で30年間続いてきた沖縄・与那原町との民間交流を友好都市に発展させ、若者たちを中心に交流を加速させる計画だ。

「駄目な時は駄目」

齊藤町長の話を聞いていると、「よっ!」と気さくに町長室に顔を出したのは、町で水産加工業を営む飯高商店の飯高英樹社長だ。普段は厳しい顔つきで近寄り難いオーラを出すが、語ると熱い。町がブランド化を進めようとしている「氷鮮マイワシ」についても、「俺は駄目な時は駄目って言うよ。価値がないものには、ない、と。それが町のためにもなる。氷鮮マイワシは船上で氷詰めするから鮮度は抜群。あとはそれをしっかり続けて、箱を開けなくても『ああ、浜中のイワシなら大丈夫ね』と言われるまでがんばれるかどうか。それがブランド」と厳しい中にエールを込める。

「俺の写真は駄目、NGだ」とカメラを制止しながら、飯高社長が町の将来に期待を寄せるのは若者だ。

「きのうは盛り上げてくれてありがとうね。あれはよかった」と、たまたま町のスナックで飯高社長らと合流し「すごい男の唄」をカラオケで熱唱した (一財) 東京水産振興会の長谷成人理事に謝意を示しながら、「きのうの若者を見てもらえば分かると思うけど、みんな性格は違うけど本当に仲がいい。それに後々のことまで真剣に考え行動している。浜中町の将来、なんかいいな、って思うよ。そんな彼らがちゃんと食べていけるようにしてやるのが(俺たちの)最後の仕事じゃないかな」と、厳しい表情の中で少しだけ頬を緩ませる。

「コンブあってこそ」

JF浜中漁協を訪問すると、次代を担う漁師たち4人が集まってくれた。サンマ漁からタコやカニのほか氷鮮マイワシにもチャレンジし、太平洋道東海域たもすくい網漁業協議会の会長を務める中田崇氏(46)、北海道漁協青年部連絡協議会の監事で釧勝地区漁協青年部連絡協議会の会長を務め、コンブ漁とウニ養殖を営む山崎賢治氏(40)、全国漁業協同組合学校卒業生で漁協職員から漁業者に転身し、今は小型定置漁業やコンブ漁を営みながら今年4月からウニ養殖も始めた渡部祥太郎氏(32)、そしてコンブ、ウニ養殖と小型定置を営む成田康平氏(39)だ。

写真3
浜中町の漁業を語る若者ら
(左から成田氏、渡部氏、山崎氏、中田氏)

「最近、タラバガニがすごく獲れるけど、いつまで続くかな」と、沿岸に寄ってこなくなったサンマ漁を諦めながらも新たな漁獲対象に柔軟に対応している中田氏。最近の海の変化には「沖の水温は以前15度Cでも高いくらいだったが、最近は頻繁に20度Cを超える。毛ガニもずいぶん深いところへ移動している。海の変化を感じる」と温暖化への懸念を口にする。

浜中の主力漁業であるコンブ漁についても危機感は強い。「浜中町は現時点ではコンブに対する温暖化の影響は少ないが、2040年にここのナガコンブも消滅する可能性があるといわれ、不安は強い」と山崎氏。成田氏も「近年、コンブが枯れるのが早くなり、収穫時期が短くなっているように感じる」と現場での実感を語る。

将来の温暖化の進行に対する危機感から、漁協青年部は、地元に自生するナガコンブとは別に、オニコンブの試験養殖にチャレンジしている。「函館など道南では天然のコンブがほとんど育たなくなってきていると聞く。将来、こちらでも水温が上昇してくると、ナガコンブとは異なるコンブにとって最適な環境になるかもしれない。オニコンブの試験養殖はそのため」と言い、「もしダシを取るコンブが主流になる時代がくるとすれば、どう生産し加工していくかなど考えるべきことはたくさんある。今からその備えをしたい」と将来をしっかり見据える。

町に種苗生産センターができ、今後、町の安定した漁業の一つに-となっているウニ養殖も、実は餌となるコンブが重要な役割をもつ。「浜中でウニ養殖が安定してできるのは豊富なコンブがあるからこそ。それだけコンブは大事」と若者たちは口を揃え、コンブの着生を邪魔する雑海藻を清掃する岩盤清掃などにも余念がない。そうすることが自分たちの漁業や、安定したウニ養殖を守ることにつながるからなおさらだ。

写真5
浜ごとに合った工夫を重ねたウニかご。
すでに出荷サイズに育ったウニをみて「よっしゃ!」と気合が入る

漁協職員から漁業者へ転身した渡部氏は、今年念願のウニ養殖の権利を取得。力が入る。譲り受けたウニかごを手入れしながら、「そりゃ、収入にもつながるし楽しみ。これからいろいろなことにチャレンジしたい」と、ウニ養殖ができることに声を弾ませる。

温暖化による環境変化に危機感を覚えながらも悲観的にならず、「次にすべきこと」にエネルギーを注ぎ続ける若い漁師たち。浜中町が長年培ってきた歴史が若者に引き継がれ、町の未来、水産業の将来を築いていく。そう感じる。

写真4
次代を担う漁業者同士は仲がよく、互いの切磋琢磨を欠かさない。
ウニの養殖現場に同行する長谷理事(左端)

連載 第47回 へつづく

プロフィール

中島 雅樹(なかしま まさき)

中島 雅樹

1964年生まれ。87年三重大卒後、水産経済新聞社入社。編集局に勤務し、東北支局長などを経て、2012年から編集局長、21年から執行役員編集局長。