1. 変化した日本の水産物消費
戦後の日本の水産物消費は大きく変化した。漁獲や水産物の輸出入、国民の所得金額の変化によるものだけでなく、近年では家族構成や働き方の変化、すなわち共働きあるいは単身世帯が増えたことの影響が強い。このような変化はさらに進行しそうであり、今後、家庭内での時短調理や持ち帰り総菜等の工夫が行われることが予想される。
水産物消費には、食品流通を担う食品小売り業者等のあり方も大きく関わる。一般的に、食品小売業は会社の規模が大きくなるにつれて取り扱いのロットが拡大し、同時にある程度計画的に調達できることを求める。その結果、取り扱いアイテムが主要魚種を中心に単純化する方向に進んできた。一方、日本沿岸で漁獲される多様な水産物を好むインバウンド消費や、映えの良さからそれらを強調するSNSによる発信、水産物直売所の展開、低利用魚の活用等、取り扱う水産物のバラエティを増やす方向性も示されている。

2. 世代で異なっている水産物消費 —秋谷重男氏の分析—
水産物消費の年代別の分析については、2006年に出版された秋谷重男氏の「日本人は魚を食べているか」(漁協経営センター)、及び2007年の「増補版 日本人は魚を食べているか」(北斗書房)という一連の著作がある。これは総務省「家計調査年報」の水産物購入金額について、鮮魚の魚種別及び水産加工品別に分析しただけでなく、水産物が入っている持ち帰り総菜についても可能な範囲で分析したものである。そこで示されたのは、団塊の世代(1947-49生:上記本の出版時に50歳代後半)より下の世代では、水産物消費量が明らかに少なくなっているという世代間の違いであった。それは一見、日本人は加齢すると淡泊なものを好むようになり、タンパク質源を畜肉から水産物にスイッチするという嗜好の変化のように見えたが、同じ年代層を追って分析するコホート分析により実は若いときに形成された食習慣を保持して加齢した結果であることが分かった。団塊の世代は2025年現在、既に70歳代後半である。さらに、近年、高齢者は積極的に肉を食べたほうがよいと言われていることもあり、高齢者の水産物消費は激変していると推察される。
また、2006年時点で秋谷氏が指摘した持ち帰り寿司のような中食や回転寿司といった外食で水産物が食べられている傾向が進んでいるものの、秋谷氏が分析に利用した「家計調査年報」においては中食や外食の項目が限定的で、水産物消費の実態把握はより困難になっているといえる。
3. 私たちの水産物消費は今後、どのように変化していくのだろうか
近年、海洋環境の変化により漁獲される魚種や漁獲量などの生産状況が様変わりしている。その一方で世界的な水産物需要は高く、大手水産業者は人口が減少し水産物消費が減退している日本よりも、世界市場をみている。それらの結果として、水産物単価は上昇傾向にある。
100年後に日本人は何を食べているのだろうか。何を食べたいのであろうか。人間は若い頃においしいと感じた記憶や郷愁をベースに食べ物を評価することが多いように思われる。水産物は多種で地域の特徴があり、ひと昔前のこの地域であればこの魚という認識が、海洋環境の変化とそれに伴う漁獲状況の変動により既にそうでなりつつあり、頼るべき水産物の味覚の寄る辺を失いつつある。それ以前に、果たして日本に漁業者が生き残っているのだろうか。世界の水産物需要や供給がどのようになっているのか、経済的に日本人が水産物を確保できる状況なのか。
ともすると悲観的な書きぶりになってしまうが、新しい水産物の味覚の時代がくるかもと楽観的にも考えられる。料理の作り方も親から伝わるよりも早くてバラエティに富むwebから習う時代である。将来、AIが水産物の資源状況や漁獲情報を把握して、消費者に今夜のメニューを提案し、それまでに水産物を宅配等で調達したり、クッキングマシーンと連動した冷蔵庫に食材を入れておけば、指定時間までに料理を済ませておいてくれたりするようになるかもしれない。
それでも、たんぱく質源となる動物のなかで消費者に丸のままの姿をテーブルやキッチンで現わしてくれる可能性があるのは、将来的にもほぼ水産物だけと考えられる。そのことにより水産物はSNSでの映え志向者から水産物が支持されやすいという利点があるだけでなく、食事は命をいただいて成立しているという根源的な気持ちを人にもたらし続ける対象であり続けられるのではないだろうか。

(鹿児島県肝付町内之浦)
