石川県では、富山とともに寒ブリが有名で、富山に追随する形で売りにしている。実は私の定置網は冬場にすごくシケてしまう漁場にあるため、冬は網を揚げてしまい寒ブリは獲らないが、石川県から寒ブリのブランド化をしたいということで会合に声が掛かった。
その会合には漁業者、県の水産課、県漁協が参加していた。私はメンバーをみた段階から不満が爆発し、「何で市場や仲買を呼んで意見を聞かないのか」と、県の水産課および県漁協(以下「県」と略す)に問うたが、「まずは生産者主体で決めたものを降ろせばいい。それをやらせる」という反応だった。しかも、決めようとしているのはブリの中でもトップブランド。重さ14キロ以上、傷がなく胴回りが十分ある、〆方も徹底するなどの条件を決めていた。これはなかなか出ない。県は「レア感を出して広告塔として注目させるのが目的。1本でも、それこそゼロでもいい」と言い放った。「そんなバカな話はない」と私は思ったが、先行したカニのトップブランド「輝(かがやき)」に倣い、天然能登寒ぶりのトップブランド「煌(きらめき)」が決まった。

県はすぐにその企画を仲買に降ろした。すると案の定、仲買からは「注文も取れない、在庫もあるか分からないブランドは相手にするのが難しい」と言われたという。そこで県は直ちに、トップブランドに次ぐブランド「キンブチ」の検討に入った。基準を、県内の定置網で獲れる天然能登寒ぶりで10キロ以上とすれば、在庫も確保でき、味も自信をもって売り出せる。フタを開けてみれば、「キンブチ」は好評となり、今後も伸ばしていくことになった。
事後の反省会では、「もっと頻繁に市場や仲買の意見を聞く」ことも盛り込まれた。「煌」はどうなったかというと、最高値で一尾400万円の値が付いたが、その年は石川で水揚げされた寒ブリ7万1,317本中、8本の水揚げにとどまった。県の水産課は「広告塔としての役割を果たしたという意味では成功」と言っていたが、安定して売れたのは当然「キンブチ」だった。これはブランド化をする際、ブランドのレベルをどこにもっていくのか、いかに市場や仲買の話を聞くことが大切かの一例だ。ただ、石川県が優秀なのは途中で踏みとどまれる点。影響力が絶大なトップブランドは残しながら、周りの意見を聞き入れて、中レベルのブランド「キンブチ」を間に合わせた柔軟さは素晴らしかった。
ブランドに在庫必須
「ブランド化」を考える時は、最初にブランドのレベルから決めないとならない。
まずは弱レベルとして「比内地鶏」「関サバ」などの産地名ブランド。これは乱立していて、ブランドというより、“あるよ” っていう存在。トップバリュやユニクロを思い浮かべればいい。それを厳しくすると中レベルになって「キンブチ」。強めの基準で買う方も期待感が高く、でも確実な在庫がある。ナイキやポロになる。そしていちばん上の強レベルになって「煌」。厳格な基準で希少価値、買う方の期待感も半端ない。シャネルやエルメスだ。
ブランドで大切なのは希少さと在庫。相反することに思うかもしれないが、どちらも兼ね備えなければならない。例えば、どうしても欲しいシャネルのかばんがあり、がんばってお金をためて店に行ったが在庫がなく、入荷するかも分からないと言われたとする。
そうしたらずっと待ちますか? 隣にエルメスがあったらそっちに入りませんか? 食のブランドならなおさらで、わざわざ遠くからおなかをすかせて食べに来ることも考えると、食べたい時に食べられることが絶対的に必要になる。トップブランドは広告塔となるのであるに越したことはないが、それだけでは駄目。天然魚の場合、外見と中身の個体差や寄生虫、〆ムラや保存状態といった、ブランド化することでのリスクも考慮しながら、売り手と買い手が相談してその地に適した、手に入れられるブランドを模索しなければならない。
(連載 第4回 へ続く)