韓国での会議に参加
4月28日から30日まで韓国・釜山で開催された第10回「Our Ocean Conference(私たちの海洋会議)」に参加し、自然エネルギー財団、ウミトパートナーズ、世界洋上風力連合(GOWA)及び海洋自然保護団体(Ocean Conservancy)が共同開催したサイドイベント「海と共存する」において、「日本における洋上風力発電と漁業」と題して、日ごろの主張を発表してきました。

左から自然エネルギー財団大林氏、長谷、ウミトパートナーズ村上氏、韓国環境研究院Cho(趙)氏
(写真提供:(公財) 自然エネルギー財団)
また、これに先立ち4月28日にはサイドイベントで私とともに発表者となった韓国環境研究院のKongjang Cho博士の尽力で日韓「水産業と洋上風力の共存」ワークショップが開かれ、韓国側漁業団体、地方自治体、研究者などの関係者から韓国の事情を聴くよい機会ともなりました。

2025.4.29 電機新聞(韓国)
今回の訪韓で印象深かったのは、個々の漁業者への漁業補償をすることを前提として取り組む韓国とそうではない日本の大きな違いでした。韓国では、これまで企業主導で案件発掘が行われ、漁業者の意向への配慮を欠いたまま産業通商資源部の立地許可がなされてきました。そのことをとらえて我が国でも事業推進派の一部の方々からはそのスピード感を羨む声も聞いていましたが、立地選定過程で漁業者側への配慮を欠いていたために当然のこととして各地で反対運動が起こっています。また、最終事業許可まではかなりの時間がかかりますので、結局、事業推進のスピードにも大きな悪影響を及ぼしています。

2024.8.19 釜山日報から:写真提供 水協中央会
3月5日付けJETROのビジネス短信によれば今年2月27日、韓国の国会で「洋上風力の普及促進および産業育成に関する特別法(洋上風力特別法)」が成立し、今後新法により、政府主導で計画立地を発掘し、環境性と地域住民の受容性が確保された発電地区内の事業者に対し、みなし許認可を一括して処理することを支援する(公用水面使用許可や電気事業許可など28の法律が対象)とのことです。
施行は公布から1年後となっていますが、各地における既存の協議会には国の機関の参加はなく地方自治体まかせになっていることや、新法施行の前後に関わらず、事業により被害を受ける漁業者への経営体ごとの補償が前提となっており、補償問題が片付かないと着工はできず、企業側には、今後、難しい補償料の算定、漁業者との合意形成の問題が控えているということを聞かされました。新法では日本のように立地選定から協議会の設置が義務化されていて、補償ではないwin-winの方策などを模索することになるだろうとも聞かされました。
個々の漁業者への事前の補償を前提としない日本方式
日本の場合は、過去の臨海開発においては、同様に個々の漁業者への補償が行われてきました。そのことにより漁業の持続性のために大切な藻場や干潟などを広範囲に失ったこと、それに伴い多くの廃業者が出たこと、補償金の額やその分配をめぐり漁業界内部の分断、対立が生じたばかりでなく、補償金の算定根拠についての一般国民の疑念、批判も生じたことなど多くの問題が生じました。その反省を踏まえ、「漁業補償から漁業協調へ」という考え方が生まれ、2018年に再エネ海域利用法ができたとき、風力発電事業を進める区域は「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれる」ことが条件とされたのでした。したがって、今回のEEZ展開の改正法案を含め、漁業者に分配される事前の漁業補償という考え方は前提とならないのです。このことは、漁業者側の損害があらかじめ想定されるところには立地されないことを意味します。
このことは企業側から見ると、従来型の開発行為と違って個々の漁業者に分配される補償金の力で同意を取り付けるという手法が使えないことを意味します。
日韓の相違から何を学ぶか
日韓双方の情報交換の中では、おおざっぱに従来の韓国方式はトップダウン型、日本方式はボトムアップ型と認識されましたが、韓国側は補償金算定の問題を抱えながらの合意形成の難しさを強調していたのが印象的でした。その上で、韓国側研究者からは、買いかぶりではないかと思うほど日本での情報が公開された協議会を通じた合意形成の手法を高く評価する声が聞かれたのでした。
それに対して、私の方からは、最初の段階での関係漁業者の把握が何より大切なこと、「聞いていない」というのが最後までひびくボタンの掛け違いになることから、我こそは関係漁業者だと思う人にはみんな手を挙げてもらったらいいこと、現実的にはその関係漁業者のすべてを協議会の構成員にすることは難しくても、協議会として公聴会を開くなど丁寧な合意形成が望まれることなどをお話ししました。また、今後より沖合域に事業を展開する局面で、物理的、空間的に共存できない沖合漁業の漁場との棲み分けと浮体式洋上風力発電施設が回遊魚に与える影響についての知見の集積が急務であり、ボトムアップの良さをさらに磨き上げながらも、一方で現場任せ、当事者任せではない国主導の交通整理とフォローアップが望まれることを強調したのでした。