水産振興ONLINE
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2019年12月

太平洋島嶼国における日本漁業の将来 —ミクロネシアでの素晴らしき日々—

坂井 眞樹((公財) 水産物安定供給推進機構 専務理事)

1. はじめに

筆者は農林水産省時代に2回にわたって水産庁に勤務する機会を得た。1988年から2年間、当時の水産流通課総括課長補佐として、2005年から3年余りの間、企画課長及び漁政課長として忙しくかつ充実した日々を送ることができた。縁あって本年6月から水産物安定供給推進機構に勤務している。機構が運営している水産物の調整保管事業は、課長補佐時代に、イカやサンマの大豊漁による魚価の低迷に対応して、補助率3分の2(一般事業は2分の1)の生産調整対応特別対策を立案した思い出深い事業である。30年の月日が流れ、現在では3分の2の補助率は消え去り、イカは不漁で対象魚種から外れている。企画課長時代には、基本計画の見直しや漁業法の改正に携わった。当時始めた新規就業促進対策や環境生態系保全交付金は現場に浸透して今も継続されている。今や水産庁の看板事業となった儲かる漁業事業創設のお手伝いをし、当時の宮原沿岸沖合課長らとともに長崎に出張したことや、主計局に折衝に行ったこともよい思い出である。当時苦労を伴にした水産庁や水産業界の皆さんと、また仕事ができる機会を得たことに感謝している。

2016年6月に農林水産省を退官したが、公務員生活最後の2年間は思いもかけず拝命した駐ミクロネシア連邦日本国大使として正に得難い経験ができ、幾多の思い出に満ちた日々だった。美しい自然と現地の人々の穏やかな性格のおかげで素晴らしき日々を送ることができた。他方、日本との漁業関係では波乱に満ちた日々であった。

今回かつて執務の参考として大いに勉強させて頂いていた水産振興誌に寄稿する機会を頂いたので、日本と強い絆を持つミクロネシア連邦の現状や、外貨を稼ぐ産業がなく援助に依存せざるを得ないこの国で多くの国や国際機関が展開している援助の実情を紹介するとともに、在任中に発生した日本漁船連続拿捕事件の顛末、目の当たりにした中国漁業の台頭などについて振り返り、この地域で操業する日本漁業が抱えるリスクについて考えてみることとしたい。私の経験が島嶼国における日本漁業の将来を考える上で何らかの参考になれば望外の喜びである。

著者プロフィール

坂井眞樹さかいまさき

【略歴】

東京都国分寺市出身
東京大学理学部及び経済学部卒業
サイモンフレーザー大学経済学修士号取得
昭和56年農林水産省入省
在米日本大使館参事官、国際調整課長、消費安全政策課長、水産庁企画課長、漁政課長、官房政策課長、経営局担当審議官、国際部長、統計部長を経て、在ミクロネシア連邦日本国大使兼在マーシャル諸島共和国日本国大使を最後に退官、損保ジャパン日本興亜株式会社顧問を経て令和元年6月に現職就任