水産振興ONLINE
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2019年12月

太平洋島嶼国における日本漁業の将来 —ミクロネシアでの素晴らしき日々—

坂井 眞樹((公財) 水産物安定供給推進機構 専務理事)

7. 広すぎて漁業取締りが困難な排他的経済水域

広大な海洋面積に恵まれていることの裏返しが取締りの困難さである。荒天時に環礁から外洋に出て取締りができる警備艇は、豪州が供与した3隻しかない。豪州海軍はポンペイ島の基地に武官2名を常駐し技術指導を行って多大な貢献をしているが、燃料や乗員の制約から3隻を駆使して取締りに当たることは難しく常に1、2隻が港に停泊している。常駐しているポンペイ州から隣のチューク州まで700㎞以上あって航空機でも1時間かかるので、密猟船を見つけても駆けつけて拿捕することは難しい。

チューク州はかつてトラック諸島と呼ばれ日本帝国海軍の根拠地があったところで、周囲200㎞の世界最大級の環礁で島々が囲まれている。環礁内には熱帯海域の高級魚ナポレオンフィッシュを追って中国の密漁船が侵入して来るが、連合艦隊を収容した広大な水域で捕捉することは容易ではない。大陸に近いヤップ州にはベトナム漁船が船団を組んでナマコの密漁にやって来る。釣り船が時々拿捕されるが、沖にいる母船は逃げてまた船団を整えて帰って来る。こうした例は氷山の一角にすぎない。

密漁船を拿捕できてもそれはそれでミクロネシア連邦のような小国には大きな負担となってしまう。密漁船は政府の許可を得ているわけではないので、本国に掛け合ったところで何の弁償もしてくれない。拘束した乗組員には人道上水や食料を与える必要があるし、帰国させるにも多大な費用を要する。各州で拿捕された漁船で暮らす乗組員をよく見かけたが、本国が帰国費用を負担しないため徒に滞在が長期化し現地の負担は増していく一方である。教会が市民から食料の寄付を求め何とかしのいでいる状況を見るに見かねた豪州が、IOM(国際移住機関)を通じて帰国費用を援助し漁船員を本国へ送還したことがあった。

米国の関係者が航空機を活用した取締り活動を検討しているという話を聞いたことがあるが、これ以上密漁船を拿捕したらパンクしてしまう。物事は全体像を見なければいけないなと痛感した。最近パラオやインドネシアで密漁船を爆破しているが、国際法上の位置づけはともかく、心情的にはとてもよく理解できる行動だ。

密漁船に対する取締まりがザルのような状況であるのに対し、連邦政府から許可を受けて操業する巻き網船や延縄船に対しては厳重な取締りが行われている。次章で述べるように、島嶼国による漁業取締りは運用いかんによっては日本漁船にとって大きなリスクとなる。