水産振興ONLINE
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2019年12月

太平洋島嶼国における日本漁業の将来 —ミクロネシアでの素晴らしき日々—

坂井 眞樹((公財) 水産物安定供給推進機構 専務理事)

6. 大きなポテンシャルを持つ漁業と振興計画の現実

ミクロネシア連邦は約300万平方㎞、世界第14位の排他的経済水域を擁し(ちなみに日本は448万平方㎞で第8位)、そこにはパプアニューギニアに次いで豊かなカツオ資源が存在している。大きなポテンシャルを持っていることは間違いなく、経済開発計画には広大な排他的経済水域を活用した漁業振興がメインに据えられる。

しかし、太平洋島嶼国で展開されている巻き網漁業は、大型魚槽を持つ大規模漁船を擁し、搭載したヘリコプターを使って魚群を追う高度なスキルを必要とするもので、現地資本だけで展開することは不可能である。現地に加工場を建設することがよく提案されるが、主要漁獲物であるカツオの太宗は鰹節や缶詰の原料となり高い付加価値は望めない。また、重量にして半分以上になる残さは安価な魚粉に加工するしかなく、島嶼国で現地加工しても消費地まで赤字を覚悟で輸送するしかない。マーシャル諸島で操業する台湾資本のカツオ加工場を訪問したことがあったが、運営管理に当たっているフィリピン人に話を聞くと、人口が少ないため慢性的な労働力不足である上に欠勤も多く、魚を捌く日々の作業ラインを形成するのに大変な苦労があると言っていた。関係者によれば、加工場は入漁を確保するため現地政府の要請に応じて赤字覚悟で運営しているとのことであった。

当地に1年程度滞在しただけで開発計画を書く外国人コンサルタントや時折訪問するだけの国際機関のエコノミストにこうした話をしても、理解ができないか具体策は実態に応じて現場で考える必要があるといった無責任なコメントが返ってくるだけだった。島嶼国の経済開発機構であるPIF(Pacific Island Forum)の職員には島嶼国の中では大国であるパプアニューギニアやフィジー出身のエリートが多く、遅れて加盟した小国ミクロネシア連邦の経済発展についてどこまで真剣に考えているのか疑問だった。

国際機関によってよく指摘されるのが入漁料の引き上げである。島嶼国により公平適正な利益の配分を行うため漁業収入の数パーセントにすぎない入漁料を大幅に引き上げるべきだという主張である。公平性を議論するならば入漁料が経費を差し引いた利益のどの程度を占めるかを見るべきであり、漁業収入の何パーセントであるとか言っても意味がないと指摘し、より建設的な議論を行うことを可能とするため中立的な国際機関として巻き網漁業の経費分析を行ってはどうかと提案したが、本部からはるばる説明に訪れた経済学博士号を持ったエコノミストは、貴重なコメントに感謝する、持ち帰って検討したいと答えるだけだった。こうして何の役にも立たない計画や提案が積み上げられ、沿岸では何の手も打たれないままに資源が枯渇していく。人材不足はミクロネシア連邦に限った話ではないのだ。

漁業に関連する雇用機会と言えばまず漁船員だ。外国漁船が入漁する際には乗組員の10%を島嶼国出身者とすることが求められていた。これを20%に引き上げる要求も出ていたようだが、適任者を探すのが困難なのが実情である。ヤップ州にミクロネシア短大の漁業海事専門校があって、2年間のコースで船舶職員の初歩的な資格を取得することができる。ここの卒業生に乗船経験やより高度な教育を受ける機会を与えれば、外国漁船がミクロネシア人乗組員に困ることもなくなり上級資格を取得する者も出てくるだろう。残念ながら、こうした地に足がついた計画が作られ実行されることは少ない。ちなみに、我が国はこれまで同専門校に対して、教育カリキュラムの作成支援や訓練船、電子機器の供与を行ってその運営をサポートしている。