水産振興ONLINE
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2023年8月

処理水の海洋放出を漁業者は認めない

濱田 武士(北海学園大学経済学部教授)

東京電力福島第一原子力発電所の敷地内タンクに貯まり続けているALPS 処理水の海洋放出計画に対して、日本の漁業者は反対の姿勢を貫いている。本稿では、現在まで続く原子力災害=原発事故の影響で、苦しい立場に置かれ続けている福島県の漁業や水産物マーケットの動向などを踏まえ、海洋放出計画に対して漁業者が不信感を抱き、反対を表明する理由を明らかにするとともに、国として果たすべき責任について述べる。

東京電力福島第一原子力発電所(以下、福島第一原発)に膨大な量の多核種除去設備(以下、ALPS)処理水がタンクに貯められている。政府はこのALPS処理水を海洋放出する計画を公表している。

2023年6月22日、全国漁業協同組合連合会(以下、全漁連)の坂本雅信会長がALPS処理水海洋放出計画に関する要望書を西村康稔・経済産業大臣に提出した。そこには「反対であることはいささかも変わらない」とする特別決議に関してと、風評を起こさないような安全性の担保、国民への説明、継続的な漁業者支援を求める内容が記されていた。また「処理水を流されることは、死活問題。放出するのであれば、国が全責任を将来にわたって持ってほしい。われわれの理解を得ない中での放出には、依然として反対だ」と付け加えた。

岸田文雄首相が全漁連に訪問し、理解を求めるという報道(7月16日:共同通信)があったが、漁業者が反対する意向を覆す可能性は低い。注目したいのは岸田文雄首相がどのような決断をするかである。

(なお、本稿の執筆は7月20日時点までの事実関係でまとめている)

著者プロフィール

濱田 武士はまだ たけし

【略歴】
1969 年3 月生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院修了、水産経営技術研究所研究員、東京海洋大学准教授を経て、2016 年4 月より北海学園大学経済学部教授(現在:北海学園大学開発研究所長兼任)

単著『伝統的和船の経済−地域漁業を支えた「技」と「商」の歴史的考察』(農林統計出版、漁業経済学会奨励賞)、単著『漁業と震災』(みすず書房、漁業経済学会賞、日本協同組合学会賞)単著『日本漁業の真実(ちくま新書)』(筑摩書房)共著『福島に農林漁業をとり戻す』(みすず書房、日本協同組合学会賞学術賞(共同研究)単著『魚と日本人 食と職の経済学(岩波新書)』(岩波書店、水産ジャーナリストの会大賞、第8回辻静雄食文化賞)共著『漁業と国境』(みすず書房)