水産振興ONLINE
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2021年2月

内水面3魚種(アユ、渓流魚、ワカサギ)の遊漁の振興策

中村智幸/坪井潤一(国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部)
阿久津正浩/髙木優也/武田維倫(栃木県水産試験場)
山口光太郎(埼玉県水産研究所)
星河廣樹/澤本良宏/降幡充(長野県水産試験場 諏訪支部)

要旨

レジャーは人々の息抜きや生きがいとなる。健康を増進する。ひいては、社会に活力を与え、経済活動や文化創造に寄与する。釣りを代表とする遊漁もレジャーのひとつであり、その人気は高い。また、内水面の漁業協同組合の収入の中で遊漁者が納付する遊漁料の割合は高く、漁協経営にとって遊漁は重要である。しかし、日本では遊漁について積極的な普及や政策が実施されているとは言いがたい。そのような状況を打開するため、東京水産振興会は2016年度から2019年度の4年間、委託事業「内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究」を実施し、4試験研究機関がアユ、イワナ・ヤマメ等の渓流魚、ワカサギの遊漁研究に取り組んだ。2016年度と2017年度はそれぞれの魚種の遊漁の実態把握を行い、結果は前報(水産振興第613号)で報告した。その後の2年間、それぞれの魚種の遊漁の振興策を検討したので、その結果を本報で報告する。

はじめに

国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所
環境・応用部門 沿岸生態システム部

中村 智幸

レジャーは余暇や自由時間のことであり、その時間に行うこととして人間の多様な活動のうち行為者の自由裁量に裏付けられた、遊ぶ、学ぶ、知る、付き合うなどが挙げられる。第4次国民生活審議会答申において、「レジャーが生活のあり方を規定する重要な要素となってきた」、「レジャーが国民福祉充実にとって重要な分野を占めるようになってきた」、「高福祉時代においてレジャーは人間が人間らしく生きるために、単に経済的充足にとどまらず、心身ともに豊かな生活をおくるのに欠くことのできない要素となってきた」と指摘されているように、レジャーは人間にとって重要である。レジャーは人々の息抜きや生きがいとなる。健康を増進する。ひいては、社会に活力を与え、経済活動や文化創造に寄与する。

遊漁、すなわち釣りもレジャーのひとつである。その人気は高く、日本における参加人口は最近5年(2015〜2019年)で620万人から740万人である。釣りをする年齢の日本の人口が1億人とすると、その6〜8%が釣りをしていることになる。釣りは子供から老人まで広範囲な年齢層の人々が楽しむことのできる自然に親しむ健全なレジャーのひとつである。このことは日本に限らず、海外の国々でも同様である。また、幼少期の体験には人間形成上の重要な役割があり、子供の頃に釣りのような自然に親しむレジャーを体験した大人ほど、やる気や生きがいを持つことが示されている(子どもの頃の体験は、その後の人生に影響する:子どもの体験活動の実態に関する調査研究中間報告改訂版)。

また、レジャー白書(公益財団法人日本生産性本部)から、釣りの潜在需要が高い、すなわち釣りをしたくてもできていない人が多数いることが読み取れる(最近5年(2015〜2019年)で年間270万人から380万人)。さらに、内水面の漁業協同組合の経営状況をみると、遊漁料、すなわち遊漁者が釣りなどをする際に組合に納付する料金の占める割合が収入の中で最も高い組合が全体の約35%と最も多く(中村 2019)、組合の経営にとって釣りは重要である。

前述の第4次国民生活審議会答申において、「レジャーが労働時間等の残余に過ぎないという従来とかくみられた考え方を排し、人間生活の中で積極的な意義を有する自由時間であるという国民的認識を確立する必要がある。そのうえで、たとえば、自由時間の拡充、レジャーのための物的人的環境の整備、レジャー環境の破壊防止、レジャー政策のための総合調整機構の整備等、積極的な政策の展開が図られなければならない」というように、レジャーの普及やそのための政策展開の必要性が提言されている。しかし、日本では遊漁について積極的な普及や政策が実施されているとは言いがたい。

このような現状を打開するため、東京水産振興会は2016年度から2019年度の4年間、委託事業「内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究」を実施した。その事業を我々水産研究・教育機構中央水産研究所(当時)が受託し、栃木県水産試験場、埼玉県水産研究所、長野県水産試験場とともに研究に取り組んだ。遊漁振興に関する研究の対象は、アユ釣り、渓流釣り(イワナ、ヤマメなどの釣り)、ワカサギ釣りである。2016年度と2017年度の2年間はそれぞれの遊漁の実態把握に取り組み、その結果は前報(水産振興613号;中村・久保田・山口・坪井・星河 2019)で報告した。その後の2年間、それぞれの遊漁の振興策を検討したので、その結果を本報で報告する。

また、遊漁振興の基礎資料とするため、海面、内水面それぞれの遊漁の年間支出額と内水面遊漁の主要魚種別の年間支出額、遊漁者の遊漁規則と内水面漁業調整規則の認知率を調査したので、その結果も報告する。

さらに巻末資料として、「内水面における遊漁の振興について(提案書)」を掲載させていただいた。

これらが内水面遊漁振興策の一助となれば幸いである。

ヤマメ
ヤマメ

引用文献

著者プロフィール

中村智幸なかむら ともゆき

【略歴】
▷ 1963年(昭和38年)11月、長野県駒ケ根市生まれ。東京水産大学卒業、同学大学院の博士後期課程中退後、栃木県庁に就職(水産職)。11年半の県職員生活ののち、水産庁に転職し、中央水産研究所に配属。水産庁の研究所が法人化され、現在、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 副部長。水産学博士。