水産振興ONLINE
627
2021年2月

内水面3魚種(アユ、渓流魚、ワカサギ)の遊漁の振興策

中村智幸/坪井潤一(国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部)
阿久津正浩/髙木優也/武田維倫(栃木県水産試験場)
山口光太郎(埼玉県水産研究所)
星河廣樹/澤本良宏/降幡充(長野県水産試験場 諏訪支部)

第2章 アユ遊漁の振興策の検討
—埼玉県水産研究所の調査—(2018年度)

埼玉県水産研究所
山口 光太郎

要旨

放流で成り立っている漁場のアユ遊漁を振興するために、初心者アユ釣り教室を入間漁業協同組合が管轄する入間川(飯能市)で実施した。参加者の年齢は、1回目(2018年6月23日、14人参加)の参加者は40歳代以上、2回目(6月30日、17人参加)は10歳代と20歳代の学生であった。教室後に実施したアンケートでは、ほとんどの参加者が友釣りの釣り方についてある程度以上理解できたと回答した。この一方で、実際にアユを釣獲した参加者は一部であった。また、多くの人が、今後も友釣りをしたい、と回答した。学生の参加者からは、今後友釣りを行うにあたって、道具のレンタルを望む意見が多かった。友釣り漁期後に実施した追跡アンケートでは、実際に遊漁券を購入した参加者は4人(いずれも40歳代以上)の人で、これらのうち実際に釣行したひとは1人であった。しかし、遊漁券を購入していない人でも来年は遊漁券の購入をしてみたいと回答する人が多かった。これらの人に友釣りを続けてもらうためには、1回だけでなく、継続した指導や道具のレンタルを行う必要があると考えられた。

友釣り遊漁者を増加させるための方策の一つとして、鮎ルアーの導入の効果について貴志川漁業協同組合(和歌山県)と賀茂川漁業協同組合(京都府)に、聞き取り調査を実施した。この結果、鮎ルアーの導入は友釣り遊漁者の増加(特に若い人)が見込めるものの、その効果は導入時の漁協の考え方によるものと考えられた。

目的

内水面漁業協同組合(以下「内水面漁協」とする)は、漁業法に基づいて第五種共同漁業権が免許されると同時に、当該水面において漁業権魚種の増殖義務が課せられている。内水面漁協の収入は、かなりの部分を遊漁者が納める遊漁料が占めている(中村 2014、2015a)。しかし、近年、遊漁者が減り、遊漁券の販売枚数減少が顕著である。例えば、埼玉県の秩父漁業協同組合におけるアユ日釣り券の販売枚数は、昭和60年頃が4,000〜7,000枚であったのに対し、平成27年は約200枚まで減少している(図1)。このような遊漁料収入の減少によって、産卵床造成や放流等に充てる費用が不足し、魚類の増殖に支障を来している。この結果、魚類資源量が減少し、釣果が上がらなくなっているため、さらに遊漁者が減少している。このような状況を改善するためには、魚類の増殖を進める一方で、何らかの方策によって遊漁者を増やすことが必要である。

2017年度に、当県内の放流アユのみで成り立っている漁場(秩父市の荒川)で囮を使ったアユの友釣り(以下「友釣り」)の遊漁者に実施したアンケートやインターネットアンケート調査結果によると、放流アユ漁場の遊漁者を増やすためには、漁場環境や放流手法の改善など釣果をあげる努力を行いながら、これまで友釣りに興味があったものの、行う機会がなかった人達に、一度体験してもらうことが必要であると考えられた。また、これらとともに、若い新たな遊漁者を呼び込むことが必要である。このために、遊漁料金の割引(特に若い人)、釣具のレンタル(可能であれば無料で)、アユ友釣り教室の開催を行うことが考えられた(山口 2019)。2018年度は入間漁業協同組合(以下「入間漁協」とする)においてこれらの方策を実施し、友釣り遊漁者の増加に結び付くかについて検討を行った。

以上に加えて、近年、アユに似せたルアーを用いる「鮎ルアー」と呼ばれる釣りが行われるようになっている。鮎ルアーは、若い世代に友釣りの楽しさを伝えるための「鮎のゲームフィッシング化」であり、減ってしまった友釣り遊漁者が川に帰ってくることを目指している(カツイチホームページ http://www.katsuichi.co.jp/images/reayu/pdf/18-02.pdf)。鮎ルアーの導入は、友釣り遊漁者の増加につながるかどうかを検討するために、鮎ルアーを導入した2つの漁業協同組合に聞き取り調査を行った。

図1 秩父漁協における遊漁券売上げ枚数の経時変化
図1 秩父漁協における遊漁券売上げ枚数の経時変化

方法

初心者アユ釣り教室の実施

初心者アユ釣り教室の実施水域

入間漁協が管轄する飯能市の入間川で実施した。入間川は荒川において最長の支流である。飯能市付近の入間川は、下流に存在する堰に魚道が整備され、東京湾からのアユ遡上が可能となった。しかし、入間漁協は魚道が設置されてからもアユの放流を行っており、2017年は963 kgのアユを放流している。このため、友釣り遊漁者に釣られているアユは、一部天然遡上アユが混入している可能性はあるが、放流アユが多くを占めていると考えられる。

実施日時及び参加者募集方法

教室は、1回目が2018年6月23日(土)、2回目が6月30日(土)に開催された。これらのうち、2回目の教室は、専修大学文学部環境地理学科の学生を受講者とした。1回目の参加者募集の案内は、飯能市役所の広報誌である「広報はんのう(2018年6月1日号)」のイベントカレンダーのページに掲載してもらった(図2)。また、一般社団法人である里山こらぼのホームページにも募集案内を掲載してもらい、参加者を募った。

図2 広報はんのう(2018年6月1日号)に掲載された初心者アユ釣り教室の参加者募集案内
図2 広報はんのう(2018年6月1日号)に掲載された
初心者アユ釣り教室の参加者募集案内
初心者アユ釣り教室実施方法

教室開催日の参加者は、午前10時に入間川矢川橋上流左岸(飯能市)にある入間漁協のおとりアユ販売所に集合した。参加者は、受付で参加費2,500円(遊漁料金2,100円、保険料400円)を支払った。教室では、はじめに入間漁協組合長があいさつを行った(図3)。その後、参加者は、インストラクターである入間漁協組合員1名に対して2〜3名ずつが組となり、友釣りの釣り方を教わった(図4)。また、参加者は、教室後に入間漁協が用意したアユの塩焼きを2本ずつ配布され、昼食として食べた(図5)。

図3 教室開始のあいさつをする入間漁協組合長(2018年6月23日)
図3 教室開始のあいさつをする入間漁協組合長(2018年6月23日)
図4 入間漁協組合員(右)からおとりの扱い方を教わる学生(2018年6月30日)
図4 入間漁協組合員(右)からおとりの扱い方を教わる学生(2018年6月30日)
図5 入間漁協が用意したアユ塩焼きを食べる参加者(2018年6月23日)
図5 入間漁協が用意したアユ塩焼きを食べる参加者(2018年6月23日)
教室後のアンケート実施方法

アユ塩焼きを食べた後、教室に対する感想を把握するため、参加者にアンケートを実施した。アンケートの内容は、参加者の属性(住所、年齢、性別など)、過去の友釣り経験の有無、教室に参加した動機、当日の釣果、今後も友釣りをしたいと思うか、友釣りをしたい場合は道具をどう調達するか等であった(図6)。

図6 教室直後に実施したアンケート
図6 教室直後に実施したアンケート
追跡アンケートの実施方法

教室後、遊漁券を購入して実際に友釣りに行ってもらえたかを把握するため、追跡のアンケート調査を実施した(図7、8)。アンケートには、「6月に実施した教室に参加いただいた方を対象に、遊漁者の方々にアユの友釣りをより楽しんでもらうためには、そしてアユの友釣りを振興するためにはどうしたらよいかを検討するための資料とすることを目的としてアンケート調査を実施することといたしました。御協力よろしくお願いいたします。」という事務連絡を添付して、6月23日の参加者には、2018年12月6にアンケート用紙を発送し、郵送で返送してもらった。また、6月30日の参加者である専修大学学生には、教員を通じて2019年1月30日にE-mailでアンケート用紙を送付し、回答してもらった。

図7 追跡アンケートの用紙(両面印刷の表面)
図7 追跡アンケートの用紙(両面印刷の表面)
図8 追跡アンケートの用紙(両面印刷の裏面)
図8 追跡アンケートの用紙(両面印刷の裏面)
鮎ルアーに関する聞き取り調査

鮎ルアーを導入した漁業協同組合として、貴志川(図9)を漁場とする貴志川漁業協同組合(和歌山県、以下「貴志川漁協」とする)と賀茂川(図10)を漁場とする賀茂川漁業協同組合(京都府、以下「賀茂川漁協」とする)に、それぞれ2018年8月30日と31日に聞き取り調査を実施した。主な聞き取り内容は、以下の4項目であった。

  • (1) 鮎ルアーを導入した理由と導入の過程でどのような意見があったか?
  • (2) 鮎ルアーを導入した結果
  • (3) 遊漁者の反応
  • (4) 鮎ルアー遊漁者のうち、友釣り遊漁者になる人はどのくらいか?
図9 貴志川漁協の漁場である貴志川(和歌山県紀の川市付近)
図9 貴志川漁協の漁場である貴志川(和歌山県紀の川市付近)
図10 賀茂川漁協の漁場である賀茂川(京都府京都市北区付近)
図10 賀茂川漁協の漁場である賀茂川(京都府京都市北区付近)

結果および考察

教室の参加人数および教室直後のアンケート回答数

6月23日に実施した教室は14人、30日は17人の参加があった。教室直後のアンケートには、1回目の教室では全員である14人、2回目は15人が回答した。

遊漁者の居住地、年齢、性別(図6の①に対する回答)

1回目の教室である6月23日の参加者(以下「一般参加者」とする)の居住地は、埼玉県が12人(飯能市11人、狭山市1人)、東京都が2人(いずれも西東京市)であった(図11)。2回目の教室である6月30日の参加者(以下「学生参加者」とする)の居住地は、神奈川県が10人(川崎市7人、相模原市1人、茅ヶ崎市1人、横浜市1人)、東京都4人(八王子市2人、世田谷区1人、渋谷区1人)、埼玉県1人(所沢市)であった。一般参加者の募集の方法は、里山こらぼがインターネットで行ったものの、多くの人が飯能市の広報誌を見て応募したものと考えられる。このため、地元である飯能市からの参加者が多かったと考えられた。一方、学生参加者は、専修大学文学部環境地理学科の所在地が川崎市であることから、神奈川県からの参加者が多かったものと考えられた。

図11 参加者の居住地(図6の①に対する回答)
図11 参加者の居住地(図6の①に対する回答)

一般参加者の年齢は、全員が40歳代以上であった。同じ埼玉県内を流れる荒川(秩父市)における友釣り遊漁者の年齢は、2017年に調査した結果、40歳代以上がほとんどを占めていた(山口 2019)。この結果と、今回の参加者とはほぼ同じ傾向であった。また、高齢化率(60歳以上の割合)は、57%であり、興津川(静岡県)の65%(静岡県水産技術研究所富士養鱒場 2011)とおおむね同様であった。一方、学生参加者は、全員大学生であるため20歳代以下と若かった(図12)。遊漁の参加率は、59 歳以下の年齢層で、年々低下している(中村 2015b)といわれるなか、一般参加者は40歳代の人たちの参加があった。また、定員10人の教室に、これを超える14人の参加者が集まった。こうしたことから、友釣りを体験してみたいと考えている人は、遊漁参加者が減少しているといわれる59歳以下も含めて、一般市民の中に比較的多くいるのではないかと考えられた。さらに学生参加者の、若い年齢層の人々に友釣りを体験してもらうことができた。また、女性の遊漁参加希望率、潜在需要は低く、女性の参加率を増やすことはむずかしいと考えられているなかで(中村 2015b)、特に学生参加者は女性が半数以上であった(図13)。若い年齢層の人々、特に若い女性に1度でも友釣りを体験してもらえたことは、今後友釣りの遊漁者になってもらえるか否かにかかわらず、意義深いものであった。

図12 参加者の年齢(図6の①に対する回答)
図12 参加者の年齢(図6の①に対する回答)
図13 参加者の性別(図6の①に対する回答)
図13 参加者の性別(図6の①に対する回答)

過去の友釣り体験の有無および教室参加の動機、釣れた尾数および教室の内容に対する理解度(図6の②・③・④・⑤に対する回答)

今回の教室参加者のほとんどは、過去に友釣りを体験したことがない人たちであった。これらの方々のうち、過去に友釣りを体験したことがある人は一般参加者が2人、学生参加者が1人であり、体験回数は1回が1人(残り2人は無回答)であった(図14)。

図14 「アユの友釣りをしたのは、今日がはじめてですか?」(図6の②)に対する回答
図14 「アユの友釣りをしたのは、今日がはじめてですか?」(図6の②)に対する回答

一般参加者の参加動機は、「教えてくれる人がいなかった」が、17個の回答中8個を占めた。つまり、一般参加者のうち半数以上の人がこの回答をしたことになる(図15)。アユ遊漁は参加希望者数が最も多いのに不参加率が最も高い魚種とされ、その原因として指導者の不在が大きいといわれる(中村 2018)。このような傾向は、今回の参加者にも共通する問題であると考えられた。今後、これらの参加希望者を掘り起こすためには、初心者を教える指導者が必要であることがうかがえる。2017年に荒川(秩父市)で実施したアンケートでは、友釣りを始めたきっかけとして、「家族・友人・知人に誘われて」という回答が多かった(山口 2019)。荒川で実施したアンケートに回答した遊漁者は、その多くが継続して漁場に出て友釣りを行っている人たちであった。これらの方々は、誘ってくれた人が継続して釣り方を丁寧に指導してくれた結果、長期にわたって友釣りをするようになった可能性が考えられる。今回の教室参加者は、「釣り方をよく理解できた」、「だいたい理解できた」と回答した人が多かったものの(図16)、釣果は0尾であった人が多い(図17)。これらの参加者には、指導者が身近にいないため、今後も継続して指導を受けることができる体制が必要だと考えられた。

図15 「なぜ友釣り教室に参加しようと思いましたか?」に対する回答(図6の③に対する回答。複数回答可。一般参加者は14人で17個の、学生参加者は1人が未回答であったため14人で15個の回答)
図15 「なぜ友釣り教室に参加しようと思いましたか?」に対する回答
(図6の③に対する回答。複数回答可。一般参加者は14人で17個の、
学生参加者は1人が未回答であったため14人で15個の回答)
図16 「1回の友釣り教室参加で、釣り方を理解できましたか」(図6の⑤)に対する回答
図16 「1回の友釣り教室参加で、釣り方を理解できましたか」(図6の⑤)に対する回答
図17 「今日は何尾釣れましたか?」(図6の④)に対する回答
図17 「今日は何尾釣れましたか?」(図6の④)に対する回答

一方、学生参加者は、「その他」の回答が多かったが、これらは「大学における授業の一環として参加した」というものであった。若い年齢層の人には、1度でも友釣りを体験してもらうことが大事だと考えられるため、このように学校の授業で取り入れてもらうということも一つの方策である。

以上のように、初心者に対しては、継続して指導が受けられる体制が必要と考えられた。また、特に若い年齢層には、友釣りをはじめるきっかけを作るためにも、仮に1回だけであってもよいので、とにかく体験してもらうことが必要と考えられる。このため、学校の授業などで取り入れてもらうことも一つの方策であろう。

また友釣りをしたいか?、また友釣りをしたいと思う理由は?、次回友釣りを行う場合の道具をどうするか?、今後どうなれば友釣りをしたいと思うか?(図6の⑥・⑦・⑧・⑨に対する回答)

「また友釣りをしたいと思いますか?」という質問には、ほとんどの参加者が「はい」と回答した(図18)。一方、「いいえ」と回答した1人の学生は、図6の⑨(今後どうなれば友釣りをしたいと思いますか?)に対する回答として「もう少しアユが釣れれば」と回答した。入間漁協のおとり屋には、毎年数人、「はじめて友釣りをするので、指導してほしい」という遊漁者が来るという。これらの遊漁者は、1尾でもアユが釣れると、その後も繰り返し友釣りに来てくれるという。今回、「釣れて楽しかった」と回答した参加者は、今後も友釣りに来てくれる可能性がある (図19)。このように、初心者に「釣れて楽しかった」と回答してもらえるようにする工夫が必要であると考えられた。今回の教室では、一つの工夫として、釣れなかった参加者に対して人為的に2尾のアユをつけて、釣れた状況を疑似体験してもらっていた(図20)。

図18 「また友釣りをしてみたいと思いますか?」(図6の⑥)に対する回答
図18 「また友釣りをしてみたいと思いますか?」(図6の⑥)に対する回答
図19 「また友釣りをしたいと思った理由は何ですか?」(図6の⑦)に対する回答(複数回答可。一般参加者は14人で37個の、学生参加者は15人で43個の回答)
図19 「また友釣りをしたいと思った理由は何ですか?」(図6の⑦)に対する回答
(複数回答可。一般参加者は14人で37個の、学生参加者は15人で43個の回答)
図20 人為的に2尾のアユをつけ、釣れた状況を疑似体験する学生(2018年6月30日)
図20 人為的に2尾のアユをつけ、釣れた状況を疑似体験する学生(2018年6月30日)

インターネットアンケートによる遊漁者が考えるアユ遊漁振興方策では、道具のレンタルを行うことが上位に入っていた(山口 2019)。一般に、友釣りに使う道具は高価であり、一通りそろえることは初心者にハードルが高いと考えられるため、このインターネットアンケートでは道具のレンタルをあげる人が多かったものと考えられる。こうした意見を反映してか、一般参加者の4割強と学生参加者の多くが、漁協や友人・知人から借りたいと考えた(図21)。特に、若い遊漁者を増やすことは、今後長期間にわたって友釣りを行ってくれる可能性があるため、重要である(山口 2019)。以上のことから、これらの人々が「友釣りをしたい」と思ったときに、いつでも道具をレンタルできるようなシステムの構築が必要であると考えられた。

図21 「次回友釣りをする際、釣竿、仕掛け、ウエダー などの道具はどうしますか?」(図6の⑧)に対する回答
図21 「次回友釣りをする際、釣竿、仕掛け、ウエダー などの道具はどうしますか?」
(図6の⑧)に対する回答

追跡アンケートの回答数と回答者の居住地、年齢構成

追跡アンケートの一般参加者からの回答数は、参加者14人のうち住所を記録してあった13人に発送し、11人であった。また、学生参加者は、17人に電子メールを送信し、2人から回答があった。以降の分析は、一般参加者と学生参加者を合わせて行った。

回答者の居住地は、埼玉県9人(飯能市8人、狭山市1人)、東京都3人(西東京市2人、渋谷区1人)、神奈川県1人(川崎市)であった(図22)。年齢は、20歳代から70歳以上までで、20歳代の2人はいずれも学生参加者であった(図23)。回答者のうち、女性は4人 (うち1人は学生参加者) であった。

図22 追跡アンケート回答者の居住地(図7の①に対する回答)
図22 追跡アンケート回答者の居住地(図7の①に対する回答)
図23 追跡アンケート回答者の年齢(図7の①に対する回答)
図23 追跡アンケート回答者の年齢(図7の①に対する回答)

教室参加者のうち、遊漁券を購入した人の回答状況を表1に示した。アンケートの結果、教室後に遊漁券を購入したのは3人であった。また、教室前から遊漁券を保持していた人が1人いた(図7の②に対する回答)。これら4人はいずれも入間漁協の年券を購入していた。しかし、実際に友釣りをしたのは1人であった(表1の回答者番号1)。この女性は、道具については全て入間漁協から借りて行っていたが、釣行は1回で、釣果は0尾であった。他の3人のうち2人(回答者番号2と3)は自分で道具を購入したが、実際に釣行しての友釣りはしていなかった。もう1人(回答者番号4)は、今後自ら道具を購入する予定であると回答した。道具を自分で購入した2人と自ら購入予定の人は、友釣りにとても興味を持ってくれていると考えられる。また、道具については借りて釣行したものの、実際に友釣りを行った女性も興味を持ってくれているものと考えられる。興味を持ってくれているということは、これら4人の方々全員が、「来年も遊漁券を購入したいと思いますか?(図7の⑥)」という質問に「はい」と回答していることからもうかがえる。しかし、実際に友釣りを行った女性の釣果は、0尾であった。また、ほかの男性3人も、1回の友釣り教室を受講したのみで釣果をあげることができるのかということについては、疑問が残る。前述のように、アユ遊漁は参加希望者数が最も多いにもかかわらず不参加率が最も高いとされ、その原因として指導者の不在があげられている(中村 2018)。こうした友釣り教室開催は、漁協にとっても負担が大きいと考えられるが、漁協が有料友釣りガイドを立ち上げるなど何らかの形で継続した指導体制を構築する必要があると考えられた。

表1 教室参加者のうち、遊漁券を購入した人の回答状況
表1 教室参加者のうち、遊漁券を購入した人の回答状況

一方、教室後に遊漁券を購入しなかった人は、9人から回答が得られた。これらの人々は、「道具のレンタル」、「釣りに行く時間があれば」「遊漁券がもう少し安ければ」、「もう少し指導してもらえれば」というような条件がそろえば、遊漁券を購入してもらえた可能性がある(図24)。特に、これら9人のうちの2人は、海釣りに行っており(図8の⑨・⑩に対する回答)、釣りに対する興味が強いと考えられるため、これらの条件が満たされた場合、友釣りを始めてもらえる可能性がある。また、これら9人のうちの5人(40歳代女性2人、20歳代男性1人、70歳以上男性2人)は、「来年は、遊漁券を購入してアユの友釣りをしてみようと思いますか?(図8の⑫)」という問いに対して「はい」と回答している。道具のレンタルや遊漁料金の割引、友釣りガイドの整備は、漁協にとっての負担が必ずしも軽いものではないが、友釣り遊漁者を増やすために、今後実施について検討してゆく必要があると考えられた。

図24 教室後に遊漁券を購入しなかった参加者の「どのような状況であれば、遊漁券を購入していただけたでしょうか(複数回答可、図8の⑧)。」に対する回答
図24 教室後に遊漁券を購入しなかった参加者の「どのような状況であれば、遊漁券を購入していただけたでしょうか(複数回答可、図8の⑧)。」に対する回答

鮎ルアーに関する聞き取り調査

貴志川漁協が行っている鮎ルアーに関する聞き取り調査では、和歌山県内水面漁業協同組合連合会(以下「和歌山県内水面漁連」とする)の業務主任、貴志川漁協の事務局員、和歌山県水産試験場内水面水産試験地の研究員の合計3人から聞き取りを行った。また、賀茂川漁協では、組合長から聞き取りを行った。

1. 鮎ルアーを導入した理由と導入の過程でどのような意見があったか?

貴志川漁協で鮎ルアーを導入したきっかけは、2011年に鮎ルアーのメーカーから和歌山県漁連に、「鮎ルアーができる区間をつくってもらいたい」という依頼があったことによる。和歌山県漁連は貴志川漁協に働きかけ、実際に鮎ルアー区間ができたのは、2013年であった。鮎ルアーの区間は、支流である真国川の約10kmで、この区間は鮎ルアー専用区間ではなく、友釣りもできる。全域で鮎ルアーを解禁しなかった理由は、友釣り遊漁者と鮎ルアー遊漁者とのトラブルなどを避けるためだという。鮎ルアーを解禁した10km区間は、川に下りる道が少ないうえ、堰堤が6か所あり、放流アユのみで成り立っている漁場であり、友釣りとしても良好な漁場とはいえないという。貴志川漁協は、友釣りを優先して考えており、あまり友釣り遊漁者の入らない漁場を鮎ルアー区間としたようである。

一方、賀茂川漁協は、以前から鮎ルアーを解禁していたわけではないが、禁止でもなかった。組合長は、「鮎ルアーは、釣り人を増やすための起爆剤になる」と思っていた。賀茂川漁協は、鮎ルアーを友釣りの一部と認識しており、鮎ルアーと友釣りの区域を分けておらず全区間で鮎ルアー可能である。賀茂川漁協には、もともとおとり屋がないため、おとりが売れなくなるといった問題もない。2015年からは、鮎ルアーのメーカーと鮎ルアー体験会を行っている。

以上のように、賀茂川漁協は積極的に鮎ルアーの導入を行った一方で、貴志川漁協は導入に消極的であった。

2. 鮎ルアーを導入した結果

貴志川漁協では、2014年には鮎ルアーの遊漁者はよく見られたが、これ以降ほとんど来なくなってしまったという。このような結果となった原因は、解禁した漁場自体があまりよくないところで、釣果が良好でなかったということが影響していると考えられるという。和歌山県内水面漁連では、鮎ルアーをもっと推進したいが、釣果が良くなかったため積極的にPRできなかった。

一方、賀茂川漁協では、鮎ルアーを積極的に推進するようになって、遊漁者は増加し、アユ遊漁券の売り上げは、倍増した。賀茂川の下流は、川の両サイドが交通量の多い道路になっているため、車もバイクも駐車できるスペースがない。こうしたなか、ルアーであれば、荷物が少ないため自転車で来ることができるというメリットもある。このような都市型河川では、鮎ルアーはとても都合がよいとのことであった。

以上のように、鮎ルアーを導入したきっかけは両漁協で異なり、賀茂川漁協では遊漁券の売り上げが増加した一方、貴志川漁協では遊漁増加にはつながらなかった。

3. 遊漁者の反応

貴志川漁協では、鮎ルアーの遊漁者に話を聞くと、「自分は友釣りには興味がないが、ルアーで釣ることができるので来た」と話すという。また、賀茂川漁協組合長は、「鮎ルアーで釣る人は、ルアーに興味がある人が多い。今までとは違って若い層の遊漁者も来ている。ルアーの導入は、友釣りに興味がなかった人を取り込むことにつながる。」と考えている。以上のように、いずれの漁協も鮎ルアーの導入によって、いままで友釣りに興味がなかった人が来てくれているという認識がある。したがって、鮎ルアーの導入によって遊漁者の増加を見込める可能性がある。特に、若い遊漁者が友釣りをしてくれるようになれば、今後長期間友釣りを趣味にしてくれる可能性がある (山口 2019)。このため、鮎ルアー導入することは、将来の友釣り人口増加につながる可能性がある。

4. 鮎ルアー遊漁者のうち、友釣り遊漁者になる人はどのくらいか?

貴志川漁協では、「鮎ルアーから入った人が友釣り遊漁者になることはあると思う。しかし、ルアー以外の釣りに興味がない人もいるので、どのくらいの人が友釣り遊漁者になるかは不明である。一般の人が友釣りを経験することはあまりないが、経験するとすぐにのめり込む人が多い。このため、ルアーから入った人でも、友釣り遊漁者になることはあると思う。」と考えている。

賀茂川漁協は、「鮎ルアー導入で、友釣り参入へのハードルはかなり下がる。」と考えている。「今までとは違って若い層の釣り人も来ており、またおとりをとるために鮎ルアーを使う人もいる。どのくらいのひとが友釣りを始めるのかは明確でないが、鮎ルアーからはじめてもらい、その後友釣りを始めるということもあると思う。」と考えている。以上のように、両漁協からの聞き取り内容から、鮎ルアーから入った遊漁者のうちどのくらいの遊漁者が友釣りを始めるかは明らかではないが、鮎ルアー遊漁者が友釣りの遊漁者になることはあると考えられた。

賀茂川漁協は、鮎ルアーを友釣りの一部としているため、必ずしも友釣りの遊漁者が増加したわけではないかもしれない。しかし、鮎ルアーの導入によって遊漁者倍増に結び付けた。一方、貴志川漁協は、鮎ルアーの導入が遊漁者増加に結び付いていなかった。このように同じように鮎ルアーを導入したにもかかわらず、異なる結果となった原因は、鮎ルアー導入時の両漁協における考え方の違いにあった可能性がある。貴志川漁協は、あくまで友釣りを優先し、良好とはいえない漁場のみを鮎ルアー区間とした。つまり、鮎ルアーの導入に消極的であった。一方、賀茂川漁協は、友釣りと同じ漁場、同じ漁期で鮎ルアーを使用できるようにし、積極的に導入した。鮎ルアー教室を受講した人は、アユ釣り教室を受講した人よりも友釣り遊漁者になりやすいといわれる(岐阜県内水面漁場管理委員会 2016)。

以上の聞き取り結果から、鮎ルアーの導入は、友釣り遊漁者 (特に「若い」友釣り遊漁者) を増やすことにつながる可能性があるが、その効果は導入時の漁協の考え方によると考えられた。

引用文献

  • カツイチホームページ http://www.katsuichi.co.jp/images/reayu/pdf/18-02.pdf
  • 静岡県水産技術研究所富士養鱒場(2011)富士養鱒場だより,209号.
  • 岐阜県内水面漁場管理委員会(2016)平成28年度 第2回 岐阜県内水面漁場管理委員会 議事録.
  • 中村智幸(2014)内水面漁協 第1回 内水面漁協の運営や経営の研究を始めた理由(わけ),機関誌ぜんない,31,20.
  • 中村智幸(2015a)内水面漁協 第5回 前回のお話の訂正と漁協の収入額、機関誌ぜんない,35,20
  • 中村智幸(2015b)レジャー白書からみた日本における遊漁の推移.日本水産学会誌,81,274-282.
  • 中村智幸(2018)内水面遊漁の全体像の把握,内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究成果報告書(平成29年度),58-71.
  • 山口光太郎(2019)埼玉県の荒川におけるアユ遊漁の実態.水産振興,613,17-47.
著者プロフィール

山口光太郎やまぐち こうたろう

【略歴】
▷ 1968年(昭和43年)、埼玉県所沢市生まれ。東京水産大学博士前期課程を修了し、埼玉県庁に入庁。埼玉県水産試験場。さいたま水族館、埼玉県農林部生産振興課に勤務。2004年から現在まで埼玉県水産研究所に勤務(現職名は水産技術担当部長)。2011年に東北大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。