水産振興ONLINE
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2021年2月

内水面3魚種(アユ、渓流魚、ワカサギ)の遊漁の振興策

中村智幸/坪井潤一(国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部)
阿久津正浩/髙木優也/武田維倫(栃木県水産試験場)
山口光太郎(埼玉県水産研究所)
星河廣樹/澤本良宏/降幡充(長野県水産試験場 諏訪支部)

第2章 アユ遊漁の振興策の検討
—埼玉県水産研究所の調査—(2019年度)

埼玉県水産研究所
山口 光太郎

要旨

放流で成り立っている漁場のアユ遊漁を振興するために、鮎ルアー教室を入間漁業協同組合が管轄する入間川(飯能市)で実施した。参加者の年齢は50歳以下が多く、友釣り漁場の遊漁者よりも若年層が多かった。参加者は、ルアーに親しんでいる人が多かったと考えられたが、釣果は12人で1尾であった。また、教室後のアンケート結果から、鮎ルアーを易しかったと回答した人はいなかった。これら結果から、ルアーに親しんでいる人であっても、対象魚種が代わると易しいと感じる可能性は低いため、指導体制の充実が必要であると考えられた。一方、教室後のアンケート回答者の全員が鮎ルアーを今後も続けたいと回答しており、その理由が「手軽にできそうだから」であった。また、これらの回答者は、友釣りについても手軽にできるのであればやってみたいと回答していた。この傾向は、「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」において実施したアンケートでも同様であった。アユ釣りには潜在的な需要があり、アンケート回答者は、鮎ルアー教室後のアンケートと同様、手軽にできるのであれば、友釣りをしたいという回答が多かった。これらのことから、指導体制に加えて道具のレンタルを充実させるなど、手軽に鮎ルアー釣り、友釣りをできるようにすることにより、アユ釣り遊漁者人口の増加に結び付くものと考えられた。

目的

内水面漁業協同組合(以下「内水面漁協」とする)は、漁業法に基づいて第五種共同漁業権が免許されると同時に、当該水面において漁業権魚種の増殖義務が課せられている。内水面漁協の収入は、かなりの部分を遊漁者が納める遊漁料が占めている(中村 2014、2015a)。しかし、近年、遊漁者が減り、遊漁券の販売枚数減少が顕著である。例えば、埼玉県の秩父漁業協同組合におけるアユ日釣り券の販売枚数は、昭和60年頃が4,000〜7,000枚であったのに対し、平成27年は約200枚まで減少している(図1)。このような遊漁料収入の減少によって、産卵床造成や放流等に充てる費用が不足し、魚類の増殖に支障を来している。この結果、魚類資源量が減少し、釣果が上がらなくなっているため、さらに遊漁者が減少している。このような状況を改善するためには、魚類の増殖を進める一方で、何らかの方策によって遊漁者を増やすことが必要である。

図1 秩父漁協におけるアユ日釣券売上げ枚数の経時変化
図1 秩父漁協におけるアユ日釣券売上げ枚数の経時変化

鮎ルアーの導入を行った貴志川漁業協同組合(和歌山県)と加茂川漁業協同組合(京都府)への聞き取り調査を、2018年度に実施した。この結果によると、鮎ルアーの導入により、これまで友釣りに興味を持たなかった遊漁者が、「ルアーでアユが釣れるのであれば一度試してみたい」とアユ漁場に訪れるようになったという(山口 2019a)。また、両漁協は、「鮎ルアーからアユ釣りに入った遊漁者が、友釣りの遊漁者になることもあると思う」と回答している(山口 2019a)。これらのことから、鮎ルアーの導入によって、放流アユ漁場の遊漁者増加につながる可能性があると考えられた。そこで、2019年度は入間漁業協同組合(以下「入間漁協」とする)の協力を得て鮎ルアー教室を実施し、放流アユ漁場の遊漁者の増加に結び付くかについて検討を行った。

以上に加えて、毎年11月に埼玉県越谷市のしらこばと水上公園で、日本釣振興会埼玉県支部の主催で実施され、1日で1万人以上の来場者がある「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」において、鮎ルアーや友釣りについてのアンケート調査を実施した。

方法

鮎ルアー教室の実施

鮎ルアー教室(以下「教室」とする)の実施水域

教室は、入間漁協が管轄する飯能市の入間川で実施した。入間川は荒川において最長の支流である。飯能市付近の入間川は、下流に存在する堰に魚道が整備され、東京湾からのアユ遡上が可能となった。しかし、入間漁協は魚道が設置されてからもアユの放流を行っており、2018年は1,202㎏のアユを放流している。このため、友釣り遊漁者に釣られているアユは、一部天然遡上アユが混入している可能性はあるが、放流アユが多くを占めていると考えられる。

実施日時及び参加者募集方法

教室開催予定日は、1回目が2019年8月17日(土)、2回目が8月24日(土)であった。教室の講師は、(公財)日本釣振興会埼玉県支部を通して、株式会社パームスの飯田重祐氏に依頼した。参加者募集の案内は、飯能市役所の広報誌である「広報はんのう(2019年8月1日号)」のイベントカレンダーのページに掲載してもらった(図2)。さらに、上州屋新狭山店の店内に、教室開催のチラシを置いて参加者を募った。

図2 広報はんのう(2019年8月1日号)に 掲載された鮎ルアー教室の参加者募集案内
図2 広報はんのう(2019年8月1日号)に 掲載された鮎ルアー教室の参加者募集案内
教室実施方法

8月17日の教室参加者は、午前10時に入間川矢川橋上流左岸(飯能市)にある入間漁協のおとりアユ販売所に集合した。参加者は、受付で参加費2,500円(遊漁料金2,100円、保険料400円) を支払った。各参加者には、無料で株式会社パームス社製の鮎ルアー(エスケードAL-51)を貸与した。なお、この鮎ルアーは、教室終了後、各参加者に持ち帰ってもらった。また、ロッドやウエダー等の道具を所有していない参加者には無料でレンタルを行った。

8月24日は、降雨による増水のため、教室は中止となった。なお、この日に参加予定であった13人には、教室開催当日に配布予定であった鮎ルアー(8月17日に配布したものと同じルアー) を、「この鮎ルアーで、1度鮎ルアー釣りを体験してください」という通知とともに、8月30日までに郵送で発送した。教室では、はじめに入間漁協組合長があいさつを行った。その後、飯田重祐氏から、鮎ルアーでの釣り方を教わった(図3、4)。また、参加者は、教室後に入間漁協が用意したアユの塩焼きを、昼食として食べた。

図3 講師の飯田重祐氏(左)から鮎ルアーでの釣り方を教わる参加者たち(2019年8月17日)
図3 講師の飯田重祐氏(左)から鮎ルアーでの釣り方を教わる参加者たち(2019年8月17日)
図4 入間川で鮎ルアーでの釣りを行う教室参加者たち(2019年8月17日)
図4 入間川で鮎ルアーでの釣りを行う教室参加者たち(2019年8月17日)
教室後のアンケート実施方法

アユ塩焼きを食べた後、教室に対する感想を把握するため、参加者にアンケートを実施した。アンケートの内容は、参加者の属性(住所、年齢、性別など)、過去の鮎ルアー釣りや友釣り経験の有無、教室に参加した動機、当日の釣果、今後も鮎釣りをしたいと思うか、したい場合は道具をどう調達するか等であった(図5、6)。

図5 鮎ルアー教室直後に実施したアンケート表面(令和元年8月17日)
図5 鮎ルアー教室直後に実施したアンケート表面(令和元年8月17日)
図6 鮎ルアー教室直後に実施したアンケート裏面(2019年8月17日)
図6 鮎ルアー教室直後に実施したアンケート裏面(2019年8月17日)
追跡アンケートの実施方法

教室後、遊漁券を購入して実際にアユ釣り(鮎ルアー釣りおよび友釣り)に行ってもらえたかを把握するため、追跡のアンケート調査を実施した(図7・8)。アンケートは、8月24日の参加予定者にも送付した。アンケートには、「8月の教室に参加いただいた人(参加予定であった人) を対象に、アユ釣りをより楽しんでもらうためにはどうしたらよいかを検討するための資料とすることを目的としてアンケート調査を実施することといたしました。御協力よろしくお願いいたします。」という内容の通知と切手を添付した返信用の封筒を同封して、2020年1月24日にアンケート用紙を発送し、回答してもらった。

図7 2020年1月24日に発送した鮎ルアー教室追跡アンケート表面 8月24日に参加予定であった人に送付したアンケートは、「② 8月17日に入間川で実施した鮎ルアー教室の後」の部分を、「② 8月24日に予定されていた鮎ルアー教室の後」と修正して発送した。
図7 2020年1月24日に発送した鮎ルアー教室追跡アンケート表面
8月24日に参加予定であった人に送付したアンケートは、「② 8月17日に入間川で実施した鮎ルアー教室の後」の部分を、「② 8月24日に予定されていた鮎ルアー教室の後」と修正して発送した。
図8 2020年1月24日に発送した鮎ルアー教室追跡アンケート裏面
図8 2020年1月24日に発送した鮎ルアー教室追跡アンケート裏面
鮎ルアーおよび友釣りに関するアンケート調査

しらこばと水上公園(埼玉県越谷市)で開催された「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと(以下「フィッシング祭り」)」において、鮎ルアーや友釣りについてのアンケート調査を実施した(図9、10)。フィッシング祭りは毎年11月に開催されており、2019は11月10日に開催された(図11)。アンケートの内容は、鮎ルアーを知っているかどうか、鮎ルアーの経験があるか、鮎ルアーや友釣りをやってみたいかなどであった。この、アンケートの回答者には、株式会社パームス製の鮎ルアー(エスケードAL-51またはMAL-51)を1個進呈した。

図9 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」において実施したアンケート表面(2019年11月10日)
図9 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」において実施したアンケート表面(2019年11月10日)
図10 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」において実施したアンケート裏面(2019年11月10日)
図10 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」において実施したアンケート裏面(2019年11月10日)
図11 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」において鮎ルアーおよび友釣りのアンケート調査を実施した埼玉県漁業協同組合連合会の出展ブース(2019年11月10日)
図11 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」において鮎ルアーおよび友釣りのアンケート調査を実施した埼玉県漁業協同組合連合会の出展ブース(2019年11月10日)

結果および考察

教室の参加人数および教室直後のアンケート回答数

8月17日に実施した教室の参加者は、12人であった。8月17日の教室直後に実施したアンケートには、11名が回答した。

遊漁者の居住地、年齢、性別(図5の「お住まい、性別、年齢」に対する回答)

アンケート回答者の居住地は、埼玉県が9人(飯能市8人、さいたま市1人)、東京都が2人(小平市、東久留米市が各1人)であった(図12)。今回、教室参加者募集の広報は、主に飯能市役所広報誌で行ったため、飯能市内からの参加者が多かったものと考えられた。

図12 参加者の居住地(図5の「お住まい、性別、年齢」への回答)
図12 参加者の居住地(図5の「お住まい、性別、年齢」への回答)

2018年6月に実施した初心者友釣り教室において、公募で募集した一般市民の参加者(13人)は、全員が40歳以上で、60歳以上の割合は57%であった(山口 2019a)。一方、今回の鮎ルアー教室では、30歳代の参加者が3名あった。また、60歳以上の参加者は、1名のみであった(図13)。これにより、鮎ルアーの導入は、若年層のアユの遊漁者増加につながる可能性がある(山口 2019a)。今回の教室参加者の年齢構成は、この考えを反映したものと考えられた。

図13 教室参加者の年齢(図5の「お住まい、性別、年齢」への回答)
図13 教室参加者の年齢(図5の「お住まい、性別、年齢」への回答)

参加者の性別は、男性10名、女性1名であった。女性のアユ友釣り参加率は、興津川(静岡県水産技術研究所富士養鱒場 2011)や那珂川(栃木県)(久保田 2017)、さらに2017年に埼玉県秩父市の荒川で調査を行った結果(山口 2019b)でも、1〜3%程度と低い。鮎ルアーは、友釣り漁場における女性の比率と大きな違いはなく、女性参加の増加につながる可能性は示唆されなかった。

鮎ルアーや友釣り経験の有無、教室での釣果、過去の釣り経験、参加の動機、参加者が感じた鮎ルアーの難易度(図5の①~⑦に対する回答)

今回の教室参加者の釣り経験年数は、60年以上が1人、40〜59年が3人、20〜39年が3人、10〜20年が1人、10年未満が3人(平均28.7年)と比較的釣り経験が豊富な方が多かった。今回の教室では、過去に鮎ルアーでの釣りを経験したことがある人が11人中3人いた(図14)。経験者3人の経験回数は、2回が1名、3回が1人、無回答が1人であった。したがって、参加者のほとんどは、鮎ルアーでの釣り経験がない、または経験が浅いということであった。今回の参加者は、過去3年間に行った釣りとしてブラックバスや渓流魚をあげている人が多い(図15)。これらの参加者は、ルアーでの釣りには比較的親しんでいると考えられる。また、教室参加の動機として、「ルアーで釣れるのであれば一度試してみたい」と回答している参加者が多かった(図16)。このように、ルアーに親しんでいる人は、ルアーで釣れるのであれば、異なる魚種にも興味を持ってもらえる可能性が高い。しかし、今回の教室における釣果は、このようにルアーに親しんでいる人が比較的多かったと予想されるにもかかわらず1尾釣った方が1人であった(図5の⑥への回答)。また、「参加者が感じた鮎ルアーの難易度」についての質問でも、「やや難しい」、「難しい」という項目が選択した人がいた一方、「やや易しい」、「易しい」を選択した人はいなかった(図17)。この結果は、ある程度ルアーに親しんでいる人であっても、魚種が変わると「易しい」と感じることがない可能性が高いことを示している。したがって、鮎ルアーについては、指導体制の充実が必要であると考えられた。

図14 参加者の鮎ルアーでの釣り経験の有無(図5の①への回答)
図14 参加者の鮎ルアーでの釣り経験の有無(図5の①への回答)
図15 参加者が過去3年間に行った釣り(図5の④への回答、複数回答可、11人で29個の回答)
図15 参加者が過去3年間に行った釣り(図5の④への回答、複数回答可、11人で29個の回答)
図16 参加者が鮎ルアー教室に参加した動機(図5の⑤への回答、複数回答可、11人で25個の回答)。図中の「塩焼き」は、「塩焼きを食べることができるから」という意味。
図16 参加者が鮎ルアー教室に参加した動機(図5の⑤への回答、複数回答可、11人で25個の回答)。図中の「塩焼き」は、「塩焼きを食べることができるから」という意味。
図17 参加者が感じた鮎ルアーの難易度(図5の⑦への回答、複数回答可、11人で14個の回答)
図17 参加者が感じた鮎ルアーの難易度
(図5の⑦への回答、複数回答可、11人で14個の回答)

「参加者が感じた鮎ルアーの難しかった点」は、特定の項目に集中せず、様々な点について難しさを感じたようであった。今後、鮎ルアー教室を実施する場合は、アユの生態やロッド操作など基本的な事柄から指導を行う必要があると考えられた(図18)。

図18 参加者が感じた鮎ルアーの難しかった点(図6の⑧への回答、複数回答可、6人で14個の回答)
図18 参加者が感じた鮎ルアーの難しかった点(図6の⑧への回答、複数回答可、6人で14個の回答)

今後鮎ルアーや友釣りをすることの希望

参加者は、「今後も鮎ルアーで釣りたいですか?(図6の⑨)」という質問に対して、11人全員が「はい」と回答した。その理由としては、「手軽に釣れる」が10人と最も多かった(図19)。手軽であるということは、図16、17でもみられた回答である。

図19 参加者が今後も鮎ルアーでの釣りを希望した理由(図6の⑩への回答、複数回答可、11人で20個の回答)
図19 参加者が今後も鮎ルアーでの釣りを希望した理由(図6の⑩への回答、複数回答可、11人で20個の回答)

また、11人の回答者のうち、9人は「友釣りに(少し)興味がある」と回答している(図20)。友釣りにある程度以上興味がある人は、「道具が安価なら」、「簡単なら」、「手軽なら」友釣りをしてみたいと回答している(図21)。「道具が安価なら」や「簡単なら」ということは、「手軽なら」ということと同じであると考えられる。過去の調査において、友釣りをしてみたかったがしたことがない人の理由として、「道具がない」や「釣り方がわからない」ということをあげる人が比較的多かった(山口 2019b)。一般的に、友釣りの道具類、特に竿などは高価であることが知られている(山口 2019b)。また、友釣りは、多くの人が「簡単にできそうもない」と考えている(久保田 2017)。こうしたことから、「友釣りは手軽にできる釣りではない」と考えられているといえる。一方、鮎ルアー釣りの場合、ロッド等は友釣りの竿などと比較してかなり安価である。また、他魚種でルアー釣りの経験があれば、比較的「手軽に」始めることが可能であると考えられる。

以上のように、鮎ルアー、友釣りとも、「手軽さ」が求められていると考えられる。したがって、アユ釣り人口を増やすためには、指導体制の充実とともに、道具のレンタルを行うなど軽装で手軽に釣行できるようにすることが必要であると考えられた。

図20 参加者の友釣りに対する興味の有無(図6の⑪への回答)
図20 参加者の友釣りに対する興味の有無(図6の⑪への回答)
図21 「今後どのようであれば鮎の友釣りをしますか?」に対する回答(図6の⑫への回答、複数回答可、9人で22個の回答)
図21 「今後どのようであれば鮎の友釣りをしますか?」に対する回答(図6の⑫への回答、複数回答可、9人で22個の回答)

追跡アンケートの結果

追跡アンケート(図7、8)は、2019年8月17日の教室参加者12人と8月24日の教室参加予定者13人に、2020年1月24日に調査用紙を発送した。うち、前者からは9人、後者からは6人の回答があった。以降の分析は、これらの回答を合わせた合計15人で行った。

回答者の居住地は、全員が埼玉県(飯能市11人、上尾市1人、さいたま市1人、狭山市1人、杉戸町1人)であった。年齢は、10歳代から70歳以上までで、10歳代の2人はいずれも8月24日に参加予定であった(図22)。回答者のうち、女性は1人(40歳代)であった。

図22 追跡アンケート回答者の年齢構成
図22 追跡アンケート回答者の年齢構成

回答者のうち、教室後に遊漁券を購入した2人の回答状況を表1に示した。これら2人はいずれも入間漁協で遊漁券を購入していた。回答者番号1の女性は、2回の釣行をしたが、釣果は得ていなかった。しかし、入間漁協への加入を希望しており、今後も鮎ルアーや友釣りなどの釣りをしてもらえるものと考えられた。回答者番号2の男性は、5回の釣行をし、最高で2尾を釣った。鮎ルアー教室後に遊漁券を購入して釣行したいずれの回答者とも、来年も遊漁券を購入したいと回答していた。今回の鮎ルアー教室は、8月の中・下旬の開催ということで、アユ釣りシーズンの後半に差し掛かった時期での開催であった。しかし、受講者のうちの2名ではあったが、教室後に釣行して実際に自分で釣果を得た人や漁協への加入を希望する人がいたということで、アユ釣り遊漁者の増加につながる手掛かりになったと考えられた。

表1 鮎ルアー教室参加者のうち、遊漁券を購入した人の回答状況
表1 鮎ルアー教室参加者のうち、遊漁券を購入した人の回答状況

一方、教室後に遊漁券を購入しなかった13人のうち、「どのような状況であれば、遊漁券を購入していただけたでしょうか」にたいしては、11人から回答が得られた。「時間があれば」や「釣り場が近ければ」という要望に対応することは難しいものの、「遊漁券が安ければ」や「もっと指導してもらえれば」ということであれば、遊漁券割引や、鮎ルアー・友釣り教室、有料の釣りガイドなどで対応可能と考えられる(図23)。これら11人は、全員が「来年は遊漁券を購入してアユ釣りに行こうと思いますか」という質問に、「はい」と回答している。また、これら11人のうちの8人は、教室後に渓流やワカサギなどの釣りをしていることから、釣りには強い興味を持っている人が多いものと考えられる。したがって、これらの方々は、指導体制などを整備することにより、鮎ルアーや友釣りを行ってもられる可能性がある。また、回答者には、10歳代が2名いた。若い遊漁者に鮎ルアーや友釣りを趣味にしてもらえれば、今後長期間にわたってアユ釣りに親しんでもらえるものと考えられる。以上のように、鮎ルアーでの釣りは、従来の友釣りとは異なる層の遊漁者をとりこむことにつながる可能性がある。また、これらの方々にアユ釣りの遊漁者として定着してもらうためには、継続した指導体制(有料の釣りガイドなども含む)や日釣券よりも割安な年券の購入促進、遊漁券の割引などが必要であると考えられた。

図23 追跡アンケートにおける「どのような状況であれば、遊漁券を購入していただけたでしょうか」に対する回答(図8の⑧への回答、複数回答可、11人で15個の回答)
図23 追跡アンケートにおける「どのような状況であれば、遊漁券を購入していただけたでしょうか」に対する回答(図8の⑧への回答、複数回答可、11人で15個の回答)

鮎ルアーおよび友釣りに関するアンケート調査

「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」(以下「フィッシング祭り」)において実施したアンケート回答者は、地元である埼玉県をはじめとした関東近隣都県が多かったものの、滋賀県から来場しアンケートに回答した方がいた (図24)。年齢層は、40代を中心に、10歳以下から70歳以上まで、幅広かった(図25)。

図24 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」におけるアンケート回答者の居住地(図9の①への回答)
図24 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」におけるアンケート回答者の居住地(図9の①への回答)
図25 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」における鮎ルアーおよび友釣りに関するアンケート調査回答者の年齢層(図9の①への回答)
図25 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」における鮎ルアーおよび友釣りに関するアンケート調査回答者の年齢層(図9の①への回答)

回答者の釣り経験

回答者が行っている釣りで多かったのは、海釣りが32人(32.3%)、ブラックバスが26人(27.3%)、渓流魚が16人(16.2%)であった。海面と内水面で分けた場合の割合は、それぞれ32.3%、68.7%であった(図26)。日本の遊漁者は、今回のアンケートとは逆に海面が487.5万人、内水面が336.0万人と海面の方が多い(中村 2019)。今回の回答者の居住地は、埼玉県が55.7%と半数以上を占める。埼玉県は、海がないものの、県土に占める川の面積は3.9%と全国第1位である。こうしたことが、回答者に内水面の遊漁者が多かった原因と考えられる。

図26 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」におけるアンケート回答者が行っている釣り(図9の②への回答、複数回答可、70人で98個の回答)
図26 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」におけるアンケート回答者が行っている釣り(図9の②への回答、複数回答可、70人で98個の回答)

鮎ルアーの認知度と鮎ルアーでの釣りを希望するか

回答者70人のうち、鮎ルアーを知っていた人は37人(52.9%)、知らなかった人は33人(47.1%)であった。フィッシング祭りの来場者は、ほとんどが釣り経験者であると考えられるため、多くの人が鮎ルアーを知っているものと予想された。しかし、半数近くが知らないという結果であり、認知度はそれほど高くないことがうかがえた(図9の③への回答)。一方、鮎ルアーでのアユ釣りをしてみたいと回答した人は59人(84.3%)と、「したくない」と回答した4人(5.7%)を大きく上回った(7人は、「既にやったことがある」と回答、図9の④への回答)。また、鮎ルアー教室が開催された場合、参加してみたいと回答した人は67人(95.7%)と、参加したくないと回答した3人(4.3%)を大きく上回った(図10の⑧への回答)。これらの結果は、鮎ルアーの認知度はそれほど高くないものの、興味を持ってくれる遊漁者は多いことを示唆している。今後、フィッシング祭りのような遊漁者が集まる場所で宣伝することなどにより、多くの遊漁者に鮎ルアーを知ってもらうことができれば、鮎ルアーの遊漁者を増やすことができるものと考えられた。

鮎ルアー教室参加希望者が、教室で学びたいことは、特定の事柄に偏ることなく、幅広いことについて学んでみたいという状況がうかがえた。この結果は、2019年8月17日に入間川で実施した鮎ルアー教室後のアンケートの「参加者が感じた鮎ルアーの難しかった点」に関する回答と類似していた(図27)。したがって、前述のとおり、今後、鮎ルアー教室を実施する場合は、アユの生態や使用する道具の選択方法、ロッド操作など基本的な事柄から幅広く指導を行う必要があると考えられた。

図27 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」におけるアンケートで、鮎ルアー教室 参加希望者が教室で学びたい事柄(図10の⑧への回答、複数回答可、65人で147個の回答)
図27 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」におけるアンケートで、鮎ルアー教室 参加希望者が教室で学びたい事柄(図10の⑧への回答、複数回答可、65人で147個の回答)

友釣り経験や興味の有無

友釣り経験の有無については、1人(15.7%)は経験があり、55人(78.6%)はないと回答した。経験ありと回答した方々の経験年数は、30年以上が1人、5年が2人、3年が1人、2年が2人、1年が4人であった(図10の⑨への回答)。秩父市の荒川におけるアユ漁場では、50歳以上の割合が90%を超える(山口 2019b)。一方、今回アンケートに回答した方々は、これより若い人が多い。このため、友釣りの経験年数が長い人が少なかったものと考えられた。友釣り経験がないと回答した方々のうち、「友釣りに興味がある」と回答した人が34人、「興味はない」と回答した人は18人であった(図10の⑩への回答、無回答3人)。レジャー白書のデータから、釣りの潜在的需要、つまり釣りをしたくてもできていない人は、国内で年間270万人から456万人と、多数存在することが読み取れる(中村 2019)。また、埼玉県内の潜在的なアユ友釣り遊漁者(友釣りをしたくてもできていない人)は、10,000人にのぼると推定されている(山口 2019b)。さらに、本調査の結果、フィッシング祭り来場者では、友釣りをしたことがない人であってもその6割強の人々が友釣りに興味を示している。これらの方々に、「どのようであれば友釣りをするか」と質問したところ、「道具が安価であれば」、「友釣りがもう少し簡単であれば」、「一緒に行く人がいれば」、「教えてくれる人がいれば」、「遊漁料が安ければ」といった回答があった。これらのうち、「一緒に行く人がいれば」という回答以外については、道具のレンタルやアユ友釣り教室の開催などによって対応可能である(図28)。

図28 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」における鮎友釣り未経験者に「どのようであれば友釣りをするか」に対する回答(図10の⑪への回答、複数回答可、39人で78個の回答)
図28 「みんなで遊ぼうフィッシング祭りinしらこばと」における鮎友釣り未経験者に「どのようであれば友釣りをするか」に対する回答(図10の⑪への回答、複数回答可、39人で78個の回答)

以上の鮎ルアー教室と、フィッシング祭りにおいて実施したアンケートの結果から、アユ釣(鮎ルアー、友釣りの両方)人口を増やすためには、アユ釣りに対する潜在的な需要は高いので、これを掘り起こすために道具をレンタルするなど手軽にできるようにすることや、鮎ルアー教室や友釣り教室の充実が必要であると考えられた。特に、鮎ルアー教室や友釣り教室は、釣ることができるようになるまで継続して指導を行う必要があると考えられた。また、埼玉県の遊漁振興に携わる人からは、「レンタルよりも、安くてもよいので道具を購入してもらったほうが、繰り返し釣りに来てくれる」という意見がある。このため、安価な道具の購入促進を行うことも遊漁者増加につながる可能性がある。

まとめ

アユ漁場の遊漁者を増加させるためには、次のことが必要であると考えられる。アユ漁場は、60歳以上の遊漁者が多い。このため、まず若い友釣り遊漁者を増やす必要がある。若い遊漁者は、今後長期間にわたって友釣りを楽しんでくれる可能性が高いからである。また、アユの友釣り未経験者が有する友釣りに対するイメージは、道具が高価であり、高度な技術が要求されるというものである。

若い遊漁者は、ルアーに親しんでいる人が多い。このため、若い遊漁者を増やすためには、比較的手軽にできる鮎ルアーから入門してもらうことがよいと考えられる。2018年度の調査結果によると、鮎ルアーから入門した遊漁者の一部は、友釣りに興味を持って始めることがあるといわれる。

道具の調達に関しては、レンタルの充実が必要である。特に若い人は手軽にできることを望む場合が多いため、荷物を持たずに釣行できるようにすることがよいと考えられる。一方で、「道具をレンタルするよりも、安い道具でも良いので自分の道具を持つことが大切である。このほうが、繰り返し漁場に来てくれる。」という意見がある。現在、かなり安価な鮎竿などが販売されている。このように、安価に道具をそろえることができる、ということを多くの人に知らせることも必要であると考えられる。

多くの遊漁者は、アユ友釣り教室や鮎ルアー教室に1回参加しただけで十分な釣果を得ることは難しい。したがって、これらの人々への継続した指導体制を充実させることが重要である。しかし、各漁協でこれらの指導を継続して行うことは、かなり負担になる可能性がある。このため、有料で釣りガイドを行うことなどを検討する必要がある。

引用文献

  • 久保田仁志(2017)天然アユ遊漁の実態把握,内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究成果報告書(平成28年度),国立研究開発法人水産研究・教育機構中央水産研究所,59-69.
  • 中村智幸(2014)内水面漁協 第1回 内水面漁協の運営や経営の研究を始めた理由(わけ).機関誌ぜんない,31,20.
  • 中村智幸(2015a)内水面漁協 第5回 前回のお話の訂正と漁協の収入額.機関誌ぜんない,35,20.
  • 中村智幸(2015b)レジャー白書からみた日本における遊漁の推移.日本水産学会誌,81,274-282.
  • 中村智幸(2019a)日本における海面と内水面の釣り人数および内水面の魚種別釣り人数.日本水産学会誌,85,398-405.
  • 静岡県水産技術研究所富士養鱒場(2011)富士養鱒場だより,209号.
  • 山口光太郎(2019a)アユ遊漁の振興策の検討,内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究成果報告書(平成30年度),71-87.
  • 山口光太郎(2019b)埼玉県の荒川におけるアユ遊漁の実態.水産振興,613,17-47.
著者プロフィール

山口光太郎やまぐち こうたろう

【略歴】
▷ 1968年(昭和43年)、埼玉県所沢市生まれ。東京水産大学博士前期課程を修了し、埼玉県庁に入庁。埼玉県水産試験場。さいたま水族館、埼玉県農林部生産振興課に勤務。2004年から現在まで埼玉県水産研究所に勤務(現職名は水産技術担当部長)。2011年に東北大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。