水産振興ONLINE
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2021年2月

内水面3魚種(アユ、渓流魚、ワカサギ)の遊漁の振興策

中村智幸/坪井潤一(国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部)
阿久津正浩/髙木優也/武田維倫(栃木県水産試験場)
山口光太郎(埼玉県水産研究所)
星河廣樹/澤本良宏/降幡充(長野県水産試験場 諏訪支部)

第6章 釣り人の遊漁規則、内水面漁業調整規則の認知率

国立研究開発法人水産研究・教育機構
水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部

中村 智幸

要旨

日本における内水面遊漁の振興策を検討する際の基礎資料とするため、遊漁者(釣り人)の遊漁規則と内水面漁業調整規則の認知率を調査した。7魚種(類)(アユ、イワナ、ヤマメ・アマゴ、ニジマス、ワカサギ、コイ、フナ)の釣り人の認知率は、遊漁規則96.3%(190名中183名)、内水面漁業調整規則86.8%(190名中165名)と高かった。ただし、認知率は遊漁規則より内水面漁業調整規則の方が低かった。両規則ともに、認知率に男女間、魚種間、年代間で有意差は認められなかった。遊漁規則の中で釣り人が読んだ項目は人数が多い順に、遊漁料、禁止区域、遊漁期間、漁具漁法の制限・禁止、全長制限であった。

目的

2016〜2019年度に実施された東京水産振興会委託事業「内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究」(水産研究・教育機構中央水産研究所(当時)受託)の2016年度の中央水産研究所の研究により、遊漁承認証未交付、すなわち遊漁券未購入の男性の遊漁者の割合が、イワナ釣り33.3%、ヤマメ・アマゴ釣り25.0%、ニジマス釣り27.5 %、アユ釣り15.8%、ワカサギ釣り31.2 %であることがわかった(中村 2020)(以降、釣りを行う遊漁者を「釣り人」と記す)。内水面の組合の経営をみると、最近,組合の4〜5割が単年度収支でみると赤字である(中村 2019a)。また、組合の収入の内訳では、受入遊漁料、いわゆる遊漁料収入の額が全収入額に占める割合が最も高い組合が全体の約35%と最も多く(中村 2019a)、組合にとって遊漁料は大きな収入源である。釣り人は組合に遊漁料を納付することが前提である。しかし、釣具店や釣り場において、釣り人の「遊漁券なんか買ったことがない」、「監視員に見つかったら買えばいい」というような声をよく聞く。前述のように組合にとって遊漁料は大きな収入源であるので、釣り人による遊漁料の納付率が低い場合、そのことが組合の赤字の原因のひとつになる可能性がある。

遊漁料の納付の他に、釣り人は遊漁期間や禁止区域、全長制限、漁具漁法の制限・禁止等のルールを守らなければならない。それらのルールは組合の規則である遊漁規則や都道府県の規則である内水面漁業調整規則(2020年12月からは、単に漁業調整規則)に規定されている。そこで、日本における内水面の釣りの振興策を検討する際の基礎資料とするため、釣り人の遊漁規則と内水面漁業調整規則(当時)の認知率を調査した。

方法

インターネットアンケートにより調査を行った。方法は次のとおりであった。

設問を作成し、民間のインターネットアンケート会社に調査を依頼した。インターネットアンケート会社は自身の会社に登録されている日本在住のモニターにインターネット経由で設問を送付した。これまでの研究(中村 2019b、2020)と同様に、モニターの年齢範囲を15歳から79歳とした。インターネットアンケート会社は総務省統計局のホームページに掲載された都道府県別の人口推計データ(https://www.stat.go.jp/data/jinsui/)をもとに、都道府県ごとのモニターの人数の割合と年齢構成を実勢とほぼ同じにした。設問に先立って、住所(都道府県名)、性別、年齢を訊ねた。なお、海面も含めて漁業協同組合の組合員は対象者から除外した。北海道と沖縄県の居住者も除外した。北海道には第五種共同漁業権が設定されていない(内水面の組合が存在しない)水面が多く、沖縄県には第五種共同漁業権が設定されている(内水面の組合が存在する)水面が無いからである。

設問と回答の選択肢は次のとおりであった。


  • 設問1:今年、あなたが行った川や湖、沼、池での釣りの中で、最も回数多く対象魚としていたのは次のどれでしたか。ひとつお選びください。釣れなかった場合もお選びください。
  • 選択肢: 1. アユ、2. イワナ(アメマス、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ、ゴギ)、3. オショロコマ、ミヤベイワナ、4. サクラマス、5. サツキマス、6. ヤマメ、7. アマゴ、8. ニジマス、9. ヒメマス、10. ブラウントラウト、11. レイクトラウト、12. カジカ、13. ワカサギ、14. ウグイ、15. オイカワ、16. カワムツ、17. コイ、18. フナ、19. タナゴ、20. モロコ、21. モツゴ、22. ナマズ、23. ウナギ、24. オオクチバス、25. コクチバス、26. ブルーギル、27. ザリガニ、28. その他(魚の名前をお書きください。)、29. 特に対象魚はいなかった

  • 設問2:前問でお答えになった魚を釣りに行った川や湖、沼、池の中に、漁業協同組合が管理したり魚を放流している場所はありましたか。
  • 選択肢:
    • 1. あった
    • 2. なかった
    • 3. わからない

  • 設問3:前問でお答えになった場所に釣りに行った時に、あなたはその漁業協同組合の「遊漁規則」を読みましたか。最も当てはまるものをお選びください。遊漁規則とは、漁業協同組合が定めた釣り人が守るルールです。
  • 選択肢:
    • 1. 全文読んだ
    • 2. 一部だけ読んだ
    • 3. 遊漁規則があることを知っていたが、読まなかった
    • 4.遊漁規則があることを知らなかったので読まなかった
    • 5. その他(自由記入)

  • 設問4:前問で「一部だけ読んだ」とお答えになりましたが、その際にあなたは遊漁規則のどの部分を読みましたか。読んだ部分をすべてお選びください。
  • 選択肢:
    • 1. 禁漁期(あるいは遊漁期間)
    • 2. 禁漁区
    • 3. 全長制限
    • 4.遊漁料
    • 5. 制限や禁止されている漁具や漁法
    • 6. その他(自由記入)
    • 7. 覚えていない

  • 設問5:今年、川や湖、沼、池に釣りに行った時に、あなたは「内水面漁業調整規則(あるいは漁業調整規則)」を読みましたか。最も当てはまるものをお選びください。内水面漁業調整規則(漁業調整規則)とは、都道府県が定めた漁業者や釣り人が魚などを採捕する時に守るルールです。
  • 選択肢:
    • 1. 全文読んだ
    • 2. 一部だけ読んだ
    • 3. 内水面漁業調整規則(漁業調整規則)があることを知っていたが、読まなかった
    • 4.内水面漁業調整規則(漁業調整規則)があることを知らなかったので読まなかった
    • 5. その他(自由記入)

「今年」とは、2019年1月から12月である。設問1の回答から、釣り人ごとの最も回数多く釣りに行った魚種を特定した。設問2の回答から,設問1で回答した魚種を釣りに行った場所が組合に管理されていたのかどうかを確認し、組合が管理している場所で釣りをした人が設問3に進むようにした。設問3の回答から、遊漁規則の存在を知っているのかと、知っている場合、遊漁規則をどの程度読んだのかを確認した。選択肢の「1. 全文読んだ」、「2. 一部だけ読んだ」、「3. 遊漁規則があることを知っていたが、読まなかった」を選択した人を遊漁規則の存在を知っていた人、「4. 遊漁規則があることを知らなかったので読まなかった」を選択した人を遊漁規則の存在を知らなかった人とみなした。設問4で、設問3で遊漁規則の「一部だけ読んだ」と回答した人が遊漁規則のどの部分を読んだのかを確認した。設問5で、設問1を回答した人が内水面漁業調整規則の存在を知っているのかと、知っている場合、どの程度読んだのかを確認した(規則の存在を知っていた人と知らなかった人の条件は遊漁規則についての解析の場合と同様)。

結果および考察

解析対象者

組合が管理している場所で釣りをしたと回答した人のうち、多くの組合で漁業権の対象となっている7魚種(類)(アユ、イワナ、ヤマメ・アマゴ、ニジマス、ワカサギ、コイ、フナ)の釣り人190名の回答を解析した。

男女別の釣り人の遊漁規則、内水面漁業調整規則の認知率

161名の男性のうち、96.9%にあたる156名が遊漁規則の存在を知っており、知らなかった人はわずか5名(3.1%)であった(表1)。29名の女性のうち、93.1%にあたる27名が遊漁規則の存在を知っており、知らなかった人は2名(6.9%)であった。遊漁規則の存在を知っている人と知らなかった人の割合、すなわち認知率に男女間で有意差は認められなかった(Fisherの正確確率検定、p = 0.290)。

内水面漁業調整規則についても、多くの人が存在を知っており(男性:140名、87.0%、女性:25名、86.2%)、知らなかった人は少なかった(男性:21名、13.0%、女性:4名、13.8%)。遊漁規則の場合と同様に、内水面漁業調整規則の認知率に男女間で有意差は認められなかった(Fisherの正確確率検定、p = 1.000)。

表1 男女別の釣り人の遊漁規則、内水面漁業調整規則の認知率
表1 男女別の釣り人の遊漁規則、内水面漁業調整規則の認知率

遊漁規則と内水面漁業調整規則の認知率の比較

男女ともにみると、190名のうち遊漁規則の存在を知っていた人は183名(96.3%)、知らなかった人は7名(3.7%)、内水面漁業調整規則の存在を知っていた人は165名(86.8%)、知らなかった人は25名(13.2%)であった(表1)。両規則の間で認知率に有意差が認められ(Fisherの正確確率検定、p = 0.001)、認知率は内水面漁業調整規則の方が低かった。

男女別にみると、男性では両規則の間で認知率に有意差が認められ(Fisherの正確確率検定、p = 0.002)、内水面漁業調整規則の方が認知率が低かった。女性では両規則の間で認知率に有意差は認められなかった(Fisherの正確確率検定、p = 0.670)。

魚種別の釣り人の遊漁規則、内水面漁業調整規則の認知率

魚種別にみると、7魚種の釣り人7〜55名のうちほとんどの人が遊漁規則の存在を知っており(7〜52名、93.9〜100%)、知らなかった人はわずかであった(0〜3名、0〜6.1%)(表2)。また、遊漁規則の認知率に魚種間で有意差は認められなかった(Fisherの正確確率検定、p = 0.767)。

内水面漁業調整規則についても、ほとんどの人が存在を知っており(5〜49名、71.4〜89.2%)、知らなかった人は少なかった(1〜6名、10.8〜28.6%)。遊漁規則の場合と同様に、内水面漁業調整規則の認知率に魚種間で有意差は認められなかった(Fisherの正確確率検定、p = 0.837)。

表2 魚種別の釣り人の遊漁規則、内水面漁業調整規則の認知率
表2 魚種別の釣り人の遊漁規則、内水面漁業調整規則の認知率

年代別の釣り人の遊漁規則、内水面漁業調整規則の認知率

6つの年代(10・20代、30代、40代、50代、60代、70代)の間で、遊漁規則の認知率(表3)に有意差が認められた(Fisherの正確確率検定、p = 0.013)。ただし、Holmの補正により多重比較を行ったところ、いずれの年代間でも認知率に有意差は認められなかった。6つの年代の間で、内水面漁業調整規則の認知率に有意差は認められなかった(Fisherの正確確率検定、p = 0.384)。

表3 年代別の釣り人の遊漁規則、内水面漁業調整規則の認知率
表3 年代別の釣り人の遊漁規則、内水面漁業調整規則の認知率

釣り人が読んだ遊漁規則の項目

設問4(前問で「一部だけ読んだ」とお答えになりましたが、その際にあなたは遊漁規則のどの部分を読みましたか。読んだ部分をすべてお選びください。)の回答者である73名の釣り人が読んだ遊漁規則の項目は釣り人数(割合)が多い順に、遊漁料45名(30.6%)、禁止区域33名(22.5%)、遊漁期間32名(21.8%)、漁具漁法の制限・禁止24名(16.3%)全長制限13名(8.8%)であった(表4)。

表4 73名の釣り人が読んだ遊漁規則の項目(複数回答)
表4 73名の釣り人が読んだ遊漁規則の項目(複数回答)

まとめ

釣り人の遊漁規則、内水面漁業調整規則の認知率はそれぞれ96.3%、86.8%であった。また、認知率に男女間、魚種間、年代間で大きな差はなかった。遊漁規則の96.3%という認知率は高いと言え、釣り人の間で遊漁規則の存在は広く知られていると言える。内水面漁業調整規則の86.8%という認知率も高く、この規則の存在も広く知られている。ただし、遊漁規則に比べて内水面漁業調整規則の認知率は低く、内水面漁業調整規則の周知の必要がある。なお、今回の研究では設問で、「遊漁規則とは、漁業協同組合が定めた釣り人が守るルールです。」、「内水面漁業調整規則(漁業調整規則)とは、都道府県が定めた漁業者や釣り人が魚などを採捕する時に守るルールです。」と記したが、回答者が遊漁規則と内水面漁業調整規則をどの程度分けて認識しているのか疑わしく、内水面漁業調整規則の認知率は実際にはもう少し低い可能性がある。釣り人が読んだ遊漁規則の項目で最も人数が多かったのは遊漁料であり、釣り人が遊漁料に最も高い関心を持っていることがわかった。遊漁期間(逆に言えば禁漁期)や禁止区域(いわゆる禁漁区)、全長制限、漁具漁法の制限・禁止も重要な釣りのルールであるので、これらの規定も釣り人に読んでもらう工夫をする必要がある。

引用文献

  • 中村智幸(2019a)内水面漁協の経営改善に向けた組合の類型化の試み.漁業経済研究,62・63,75-87.
  • 中村智幸(2019b)日本における海面と内水面の釣り人数および内水面の魚種別の釣り人数.日本水産学会誌,85,398-405.
  • 中村智幸(2020)内水面5魚種(アユ,イワナ,ヤマメ・アマゴ,ニジマス,ワカサギ)の釣り人の遊漁料納付の実態.水産増殖,68,253-261.
  • 中村智幸(2020)日本における海面,内水面および内水面の魚種別の潜在釣り人数.日本水産学会誌,85,398-405.
著者プロフィール

中村智幸なかむら ともゆき

【略歴】
▷ 1963年(昭和38年)11月、長野県駒ケ根市生まれ。東京水産大学卒業、同学大学院の博士後期課程中退後、栃木県庁に就職(水産職)。11年半の県職員生活ののち、水産庁に転職し、中央水産研究所に配属。水産庁の研究所が法人化され、現在、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 副部長。水産学博士。