水産振興ONLINE
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2021年2月

内水面3魚種(アユ、渓流魚、ワカサギ)の遊漁の振興策

中村智幸/坪井潤一(国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部)
阿久津正浩/髙木優也/武田維倫(栃木県水産試験場)
山口光太郎(埼玉県水産研究所)
星河廣樹/澤本良宏/降幡充(長野県水産試験場 諏訪支部)

第1章 アユ遊漁の振興策の検討
—栃木県水産試験場の調査—(2019年度)

栃木県水産試験場
武田 維倫

要旨

女性のアユ遊漁の新規参入者を増やす方策の試行として6名の受講生を対象に、アユの友釣りを指導する「女性アユ釣り師養成講座」を実施し課題抽出に取り組むと共に、女性を対象として実施されている芭蕉の里くろばね那珂川レディース鮎釣り大会について実施状況を調査した。講座については全5回実施し、受講生の安全を確保しつつ、きめ細やかな指導ができるよう、全ての講座で受講生1人につきアユ遊漁熟練者1人を講師として付け実施したところ、受講生からの評価は良好であった。募集告知と申し込みについては電子的に行うことが有効であった。また、会場については、安全性が高く、徒歩圏内にトイレが有り、釣れ具合が良好であるという条件を満たすよう選定をしたがこれらについても良好な評価を得た。一方、指導内容については、回を重ねる毎に講師によるばらつきが出てしまう点が課題として抽出され、解決策としてアユ釣り指導法の標準化が必要であると考えられた。また、受講者アンケートの結果から初心者が単独でアユ釣りに出かけることが可能となるには、5回の講座では不足であると考えられた。しかしながら、5回以上の講座を実施することはかなり難しいことから、講座終了後の受講生が情報交換しつつ技術の向上を図れるような場の創出にも取り組む必要があると考えられた。芭蕉の里くろばね那珂川レディース鮎釣り大会については、市観光協会が主体となり地元漁業協同組合と商工会、釣り具製造企業等により構成される実行委員会を構成し行政からの補助金を導入し実施されていた。この大会は、釣果を競うだけでなく、初心者は道具一式を借り受けた上で、講師の指導を受けながら参加することが可能となっており、アユ釣りを始めるきっかけづくりについても考慮されている。今回が開催3回目であるが、回を経る毎に、参加者数は増えており、リピーターや県外からの参加者も多く、地域の特色ある恒例行事として定着しつつある。

目的

レジャーとして釣りを楽しむ人口は1998年以降減少しており(中村 2015)、アユ遊漁者(組合員を含む)も全国的に減少している(農林水産省大臣官房統計部 2015)。天然アユの遡上が多く、全国屈指のアユ漁獲量を誇る那珂川でも、近年遊漁者数は減少傾向にある(酒井 2018)。また、2016年度に実施した当事業の調査によってアユ遊漁者の平均年齢が57.5歳に達し、2001年と比べ高齢化の進行が明らかとなっている(久保田 2016)。このことは、高齢化によりアユの遊漁を継続できなくなる人の数が多く、新たにアユ釣りを始める若年齢層の数が少ないという構造的な問題が背景に存在すると考えられる。栃木県那珂川におけるアユ遊漁による経済波及効果は13億円に達することが2017年に実施した当事業の調査で明らかとなっているが(吉田 2017)、このままアユ遊漁者の減少傾向が続いた場合には、この経済波及効果も併せて縮小していくことが推測される。栃木県内でアユ釣りが行われている河川の流域は、比較的人口密度の低い中山間地域や平地農業地域が大部分を占めることから、アユの遊漁に伴う経済波及効果への期待は相対的に大きく、アユ遊漁者の誘致と新規参入者の増加は地域経済の活性化を図る上で重要な課題である。2017年に実施した当事業のアユ遊漁への参加に係る意識調査の結果、アユ遊漁者の新規参入の促進には、アユ釣りをはじめる際の敷居を低くすることやきっかけづくりが必要との結果が出ている。そこで、2018年に実施した当事業では、釣りはやるがアユ釣りは未経験の方を対象に、道具等一式をレンタルする形でアユの友釣りを指導する「アユ釣り師養成講座」を実施し、その有効性について調査した(阿久津 2018)。その結果、釣り経験者に対して、条件の良い漁場でマンツーマン方式による指導を行うことはアユ釣りへの新規参入を促進する上で有効だと考えられた(阿久津 2018)。

このような状況下、女性の遊漁への参加率は、元々低いものの、男性と比較すると減少していないことが確認されている(中村 2015)。また、2016年度に実施した当事業の調査において、アユの遊漁者数が多い那珂川では、アユの遊漁者のうち1.4%が女性であり、その数は年間2,800人に達することが明らかとなり、女性遊漁者へのサービスについても考えなければならないレベルにあるとの提言がなされている(久保田 2016)。さらに、那珂川流域の上流部に位置する大田原市では、観光協会が中心となり女性のアユ釣り師の増加や誘致を狙いとして「女性アユ釣り大会(アユレディ)」を開催しているが、地元を管轄する那珂川北部漁業協同組合はこのイベントの実行委員会の構成員となり、女性アユ釣り師の増加に向け女性の遊漁料金の割引等の積極的な取り組みを進めている。このような状況を鑑み、令和元年度については、アユ釣りに興味を持つ女性がアユ釣りを始めるための方策を検討するために、「女性アユ釣り師養成講座」を開催するとともに、大田原市観光協会が実施している「女性アユ釣り大会(アユレディ)」の実施状況について実施状況の調査を行った。

方法

アユ遊漁への女性新規参入者を増やす方策の試行

募集

河川湖沼の釣りの経験がある女性とアユ釣りをやっているが伸び悩んでいる女性を対象に、5回のアユ釣り体験型講習会「女性アユ釣り師養成講座」を開催した。県のホームページや水産試験場フェイスブックへの掲載(電子媒体)、釣具店へのビラ配布による周知協力や県庁記者クラブへのプレスリリースによる新聞掲載(紙媒体)により「女性アユ釣り師養成講座」の実施について周知を図り、受講生5名を募集した。募集期間は、2019年5月8日から6月2日とし、募集要項には開催日程と会場に関する情報として表1にある情報を提示した。また、応募資格については自家用車等会場までの移動手段を持つ20歳以上の女性とした。受講中の事故や怪我への対応については、受講生が各自で保険に加入することとし、県は責任を負わないこととした。また、貸し出しをした道具類については、大切に使用してもらうことを前提とするが、破損があった場合に受講生が責任を負わないで済むこととした。

表1 女性アユ釣り師養成講座の開催予定日時と会場
表1 女性アユ釣り師養成講座の開催予定日時と会場
講師

講師については、前年に引き続き、アユ釣りの熟練者に依頼することとし、釣り具メーカーのフィールドテスターに講師適任者の選定についてリーダー的な役割を担ってもらい、全ての回について講座をマンツーマン方式で実施できるよう講師の確保に取り組んだ。

開催

必要となる道具類(竿、仕掛け、たも網、ベルト、引き舟、オトリ缶、オトリアユ、胴付き長靴等)については全て事務局が準備を行い、受講生は遊漁承認証を購入するだけで済むようにした。会場については、安全性、釣れ具合、トイレの有無を総合的に判断し決定した。また、実施の可否を検討する際に会場の状況に関する情報を入手するため、予定会場の近隣に居住する漁業協同組合員からリアルタイムに河川の状況に関する情報を入手できるような体制を構築した。開催の1週間前には、受講生に対して集合(開催)場所の詳細な地図と写真を電子メールにて送信し、当日、スムーズに会場に来ることができるよう配慮した。

アンケート

講座終了後、女性アユ釣り師養成講座の実施方法について検討を行うためアンケート調査を行った。アンケートの項目として、募集方法、受講生の過去のスポーツ経験、実施回数、実施方法(マンツーマン方式について、実釣重視の方式、完成仕掛けと張り替え仕掛けの使用、各実施会場の環境、今後のアユ釣りの継続の可否、)、遊漁料金を設定した。

女性アユ釣り大会の実施状況調査

大田原市観光協会が中心となり実施している「女性アユ釣り大会」の実施状況について、異なる立場で運営に関与していた関係者3名への聞き取りにより実施状況について調査を行った。

結果および考察

アユ遊漁への女性新規参入者を増やす方策の試行

募集

募集期間中に、7名から受講の申し込みがあった。申し込み方法の内訳については、電子申請が6名、FAXによる申請は1名であった。応募のきっかけとなった情報源については、県HPが4名、Twitterが1名、新聞が1名、釣具店に設置したビラが1名であった。これらの結果から、募集から応募までのプロセスを電子的手法により完結できるようにしておくことは、受講生の募集に関して非常に有効であると考えられた。

また、当初、募集定員は5名としたが、受講可能回数が5回である2名と4回である4名の合計6名に受講してもらうこととし、受講可能回数が3回である1名については充分なデータの収集が難しいと考えられたことから本人に説明の上、受講者として選定することを見合わせた。受講生のうち、5名が釣り経験はあるがアユ釣りは未経験、1名がアユ釣り経験はあるものの伸び悩んでいる状況であった。受講生の年齢層については、30歳台が2名、40歳台が3名、50歳台が1名であり平均年齢は41歳であった。これらの結果から、30〜40歳の釣り経験のある女性の中にはアユ釣りに関心を持つ方が一定割合存在していると考えられた。

講師

講座の実施期間中、9名の講師に協力して頂くことができた。各回の講師については、受講生と講師の組み合わせが変わらないよう最大限配慮をしたが、都合が付かない場合については、会場と講師の居住地の関係に配慮しつつ適宜依頼をした。また講師への報酬については、県の規定に従い支払いをした。

開催

6月については、予定通り実施することができたが、7月の予定は降雨により実施することができず、全5回の講座終了は9月にずれ込んだ(表2)。当初は8月10日に講座を終了し、以後は各自釣行を重ねてもらうことを意図してスケジュールを組んだが、結果的にそのような形にすることはできなかった。また、第4回と5回については、当初の予定とは異なる日程で実施することとなり、結果、出席率も低下してしまった。このことから、当初計画については、2日間程度の予備日を設定した上で告知すべきと考えられた。

さらに、第3回については当初、受講生は6名の予定であったが、実施当日に急病により1名が欠席となり、講師が余る可能性があったが、講師にも急病者が出たことから結果としてマンツーマンで実施することとなった。マンツーマンでの実施については、このような急な状況の変化に対処する面で難しさがあることが改めて浮き彫りとなった。

表2 実施回毎の受講者数と講師数
表2 実施回毎の受講者数と講師数

また、釣れ具合については第3回までは放流河川の解禁後、釣れ具合の良い時期に開催し釣れる喜びを感じてもらうことを狙いとしていたが、第3回以降は降雨により計画通りの実施ができず、釣果の面で厳しい状況で釣りをすることになった(表3)。初心者に釣れる喜びを感じてもらうには、時期と場所が良い形でかみ合うことが必要だが、事前の調整にも限界がありこの点についてはコントロールが難しい。

表3 実施回毎の実施河川と釣果の状況
表3 実施回毎の実施河川と釣果の状況

指導については、各講師に任せる形で実施した。しかし、アユ釣りについては、自動車運転のような教本は無く、伝える情報量や指導の順序について講師による違いが出てしまう。このような状況について、今回のような複数回の講座では、同一の講師に指導を受け続けることが出来た受講生には問題とはならなかったが、同じ講師に指導を受け続けることができない受講生には、指導効率が低下する要因となった。今後、こういった問題に対処するため、アユ釣りの指導に関して到達度が客観的に分かるよう標準化を行う必要があり、併せてアユ釣り技術について教則本が編纂されると指導に有用だと考えられた。アユ釣り指導の標準化と教則本の編集については、アユ釣りの熟練者と、マニュアル作りのエキスパートが連携することで分かりやすいものを編集することができると考えられる。

アンケート

講座終了後、全受講生を対象にアンケート調査を行った。

募集告知の方法について、今回用いた手法(県HP、水産試験場facebook、釣具店でのビラ配布、プレスリリースによる新聞掲載)以外に有効と思われる方法について聞き取りをした。その結果、電子媒体としては、instagram、LINE、twitterの利用があげられた。特にtwitterについては、リツィート機能によりねずみ算的な情報拡散が可能となることからPRには非常に有効だとの指摘があった。また、ビラの効果的な配布場所として、カフェ、美容室、スポーツジム、駅、市町村役場、高速道路のサービスエリアが回答として上げられた。特に美容室については、女性に限定した場合には待ち時間に手にとって貰える可能性があることから、効果的なビラの設置場所となると考えられた。

受講生に共通する背景の有無を探るため、過去の運動経験について聞き取った。その結果、5名に運動経験があり、1名は運動経験が無かった。また、5名の運動経験者のうち4名は水泳の経験者であり、過去に水泳を通して水に親しんだ経験が釣りという水辺で行うレジャーへの参入について心理的な障壁を下げる要素となっていることが考えられた。こういったことから、プールでアユ釣り講座のPRを行うことも新規の遊漁者の獲得に効果的な手法となる可能性が考えられた。

独自にアユ釣りが出来るようになるまでに必要となる講座の実施回数について聞き取ったところ、5回が適当であるとした受講生が3名、5回以上とした受講生が3名であった。5回が適当であるとした受講生のうち1名はアユ釣り経験者であった。5回以上とした3名の受講生から必要と思われる講座の実施回数を聞き取ったところ、1名が7回、2名が10回と答えた。7回とした受講生からは、1回を座学、6回を実釣とするのが妥当との意見があった。10回とした受講生からは、独自にアユ釣りが出来るようになるには、アユ釣りに慣れる必要があり、慣れるには10回は必要との意見が共通して出された。特に河川内に立ち込むというスタイルが過去に経験したことのある釣りとは異なり、単独での釣行を躊躇させる要因となっているとの意見もあった。こういったことから、アユ釣りについては、釣りそのものだけでなく、河川内に立ち込んだり、動き回ったりすることも含めて安全に配慮しつつできるようになることが重要であり、そういった部分まで身につけてもらうことを考えると講座の回数は5回では不足すると考えられた。しかしながら、実際に10回を講座でカバーすることは難しいことから、5回程度の講座終了後に初心者女性釣り師の受け皿(例:漁協内女子アユ釣り部)となるようなアユ釣りの場を設定することが現実的だと考えられた。

1回のアユ釣りに支払うことの出来る金額について聞き取ったところ、3,000円以下とした受講生が2名、2,000円以下が4名であった。栃木県内のアユ漁場におけるアユ釣りの日釣り券の平均価格は2,473円であり実態と希望の間にズレがあった。しかしながら、栃木県の一部の漁業協同組合では女性遊漁者の遊漁料半額(1,200円)を打ち出しており、女性遊漁者の誘致のため、このような措置を執る漁業協同組合が増えてくることが望まれる。

講座については、全てマンツーマン方式で実施したが、その点については全受講生が良かったと回答をした。特に、河川内への立ち込みについて不安を持つ受講生が多く、マンツーマンでの実施により安心して受講をすることができたとの意見が多かった。主催者としても、安全性を確保する点で会場の選定には配慮をしたが、講師にマンツーマンで指導をしてもらうことは、指導効果の面だけでなく受講生の安全確保の点からも良かったと考えられた。しかしながら、マンツーマンでの実施については、当日、受講生もしくは講師に急病等が生じた場合にはどちらかが余ってしまう点が課題として残った。また、講師と受講生の組み合わせが変わった場合、現在のようにアユ釣りの指導について標準化がなされていない状況では受講生の到達状況と指導内容についてギャップができ、指導の効率が下がることが懸念される。このことから、アユ釣り指導について受講生毎に達成状況を可視化できるような形で標準化をすることができれば、指導回数当たりの効果を高めることができると考えられた。

今回の講座では実釣経験を重視するため、全ての回について、前年に引き続き座学とテキストを用いず実施したが、その点については4名の受講生から座学とテキストが欲しいとの意見が寄せられた(全員初心者)。また、仕掛け等については、市販されている完成仕掛けと張り替え仕掛けを用いたが、その点について2名から、仕掛けの作り方について最初から学びたかったとの意見が出された(1名は経験者)。時間的な制約もあることから初心者に対して開始年にどこまでの情報を伝えるのかについては吟味する必要があると思われたが、こういった点についてもアユ釣り指導の標準化を行う中で検討すべき課題であると考えられた。

トイレについては、徒歩で行ける範囲内にトイレが有ることを条件として会場を選んだが、その点については5名が良かったと答えた。このことから、女性釣り師を増やそうとした場合に、釣り場周辺へのトイレの設置促進は重要な条件だと考えられた。

講座が行われる6時間でどの程度の釣果があれば満足できるかについて聞き取りを行ったところ、初心者の5名は10尾(1.7尾/時間/人)、経験者の1名は20尾(3.3尾/時間/人)と答えた。初心者の5名は全員同じ尾数を答えた。第1回から第5回までの平均釣れ具合は1.82尾/時間/人であったことから今回の講座での釣れ具合はおおむね良好であったが、第4回と第5回の釣れ具合はそれぞれ1.5(尾/時間/人)、0.55(尾/時間/人)と1.7(尾/時間/人)を下回り、実際に受講生からもこの2回については厳しかったとの意見が出た(表3)。釣果については、コントロールが難しい要素であるが、初心者を対象としたアユ釣り教室では、事前の調査等を綿密に行い6時間で10尾程度の釣果が出せそうな場所を会場として選択することが必要であると考えられた。

今後、アユ釣りを続けるかについて聞き取りを行ったところ、2名が続けると答えた。2名のうち1名は経験者であり既に道具は全て持っていた。残りの1名は初心者であり、受講期間中に全ての道具を買いそろえ、最終回の第5回には自分の道具で参加した。残りの4名については、アユ釣りを始めるかについて迷っていると回答した。迷っている理由としては、4名全員が道具の価格が高価であることを上げ、内3名はアユ釣り仲間がいないことも理由として上げた。初心者で道具を買いそろえた1名については、アユ釣りをする仲間が既におり、講座への参加を機に一式を購入したとの話があった。こういった事から、アユ釣りへの参入を促すには、技術的な面だけでなく、新規参入者同士が釣り仲間になるような仕掛けづくりが必要だと考えられた。アユ釣り道具の価格については、高額ではあるが、継続的に使用することが確実になれば購入に至るまでの心理的障壁は低くなるものと思われる。この新規参入者同士が仲間になるための仕掛け作りについては、自由意見でも受講生同士や直接習っていない講師とも情報交換をする機会が欲しかったとの意見が5名から出された。今回は、マンツーマン指導ということもあり、受講生と講師が一堂に会して情報交換する時間は昼食時の1時間のみであったことから以後、こういった講座を開催する場合には受講生同士が親睦を深める機会を意識的に設けることが、最終的な新規参入者を増やす上で重要だと考えられた。加えて、女性については、仕事や子育てとは全く関係の無い趣味の世界における人間関係の構築へのニーズがあり、釣りはそういった面で一定の役割を果たすことが出来る可能性があると感じられた。

写真 精鋭講師陣と受講生
写真 精鋭講師陣と受講生
女性アユ釣り大会の実施状況調査

女性アユ釣り大会については、プレディスティネーションキャンペーン特別企画として2017年に開催された第25回芭蕉の里くろばね鮎釣り大会に女性部門「鮎レディ」が新設され募集人数20名に対して20名の応募がある等全般に好評であったことがきっかけとなり恒例行事化が進められた(ディスティネーションキャンペーンとは、JRグループ旅客6社と指定された自治体、地元の観光事業者等が共同で実施する大型観光キャンペーンのことであり、2018年には11年ぶりに栃木県が対象に指定された)。その後、2018年にはディスティネーションキャンペーンの一環として第1回芭蕉の里くろばね那珂川レディース鮎釣り大会(鮎レディ)として独立開催され、40名の募集に対して51名の応募があり、令和元年にはアフターディスティネーションキャンペーン特別企画として第2回芭蕉の里くろばね那珂川レディース鮎釣り大会が開催され100名の応募者を集めた。

実施体制については、大田原市観光協会が中心となり、那珂川北部漁業協同組合、黒羽商工会、地元の釣り具製造会社等を構成員とする鮎レディ実行委員会が組織され実施主体となっている。

開催の目的について聞き取りを行ったところ、減少傾向にあるアユ釣り遊漁者を増やす中で特に女性の遊漁者を増やすことに加え、全国的にも珍しい女性のアユ釣り大会を全国から人を集める大田原市の名物行事として育てたいとの意気込みについて説明があった。

開催経費については、各種補助金と参加費によって賄われており、補助金については、2017年から2019年までの期間は市から、加えて2019年には県からの補助金が開催経費の一部に充当されているとのことであった。

実施内容については、一般的なアユ釣り大会と同じく、経験者がアユ釣りの腕を競う要素に加えて、一定数のアユ釣り初心者を受け入れる実施形態をとっており、2019年は50名の初心者を受け入れた。初心者に対しては釣り道具一式を貸し出すと共にインストラクターが付き友釣りを指導する体験講座的な要素を持たせてあることが大きな特徴として上げられる。

実施に際して、必要となる広報活動等については、大田原観光協会が主体となり取り組んだ。広報の媒体としては、観光協会HP、大田原市役所HP、ポスターの作成と全国の釣り具チェーン店への掲示、フィッシングショーへのブース設置、ラジオが用いられた。また、初心者を指導する講師については那珂川北部漁業協同組合が中心となり人集めを行った。初心者への貸し出し用の道具類については、那珂川北部漁業協同組合と地元の釣り具製造会社が協力し50名分を揃えた。

大会については、2019年6月16日の8:00から13:30まで行われ、優勝者は9尾を釣り上げた。参加者全体の平均釣れ具合は0.62尾/時間/人であったが、参加者の半数が初心者であったことを勘案するとまずまずの釣果であると思われた。この女性アユ釣り大会については、2019年の大会で3回目の開催であるが、リピーターや県外からの参加者が多い(36%)ことが特徴となっているとのことであった。

大会の開催に関する今後の課題について事務局関係者に聞き取りを行ったところ、2019年の大会では、トイレを7カ所、着替え場所を4カ所設置したが77名の参加者には数が不足したので次回はさらに増やす必要があるとの意見が出された。加えて、インストラクターについては結果的に男性ばかりとなったが、今後女性の遊漁者を増やすには女性のインストラクターが指導し相談にも乗る体制の構築が必要との意見が出された。

まとめ

アユ遊漁のおかれている状況を把握するため、全国有数のアユ漁獲量を誇る栃木県の那珂川において、インターネットアンケートによるアユ遊漁参加に係る意識調査を実施した。その結果、アユ遊漁者について、著しい男性への偏り、人口構成を大きく上回る高齢化、絶対数の大幅な減少が起きていることが明らかとなった。また、アユ遊漁への新規参入に対する障壁として、道具や技法の独自性、道具の価格、きっかけの無さなどが意識されていることが判明した。

アユの遊漁者を対象としたアンケート調査により、アユ遊漁に係る経済波及効果を調べたところ、栃木県那珂川における経済波及効果は12.6億円と推定され、「アユの遊漁振興=地域経済の活性化」の構図が成立することが明らかとなった。

このような状況を踏まえ、アユ遊漁の新規参入を増やす方策を検討するためアユ釣り初心者を対象としたアユ釣り講座を試行したところ、マンツーマン指導、道具のレンタル、5回の連続した講座の受講は、アユ釣りへの参入障壁の低下に有効であった。加えて、女性のアユ釣りへの新規参入を増やす方策の検討のため女性を対象としたアユ釣り講座を試行したところ、上記の条件に加え、アユ釣りを体系的に学べるテキストの編集、講座実施場所の選定条件(安全性、トイレの有無、釣果)、講座終了後の受講生の受け皿づくりについても考慮する必要があると考えられた。

引用文献

  • 中村智幸(2015)レジャー白書からみた日本における遊漁の推移.日本水産学会誌,81,274-282.
  • 農林水産省大臣官房統計部(2015)2013年漁業センサス第7巻 内水面漁業に関する統計.農林水産省大臣官房統計部,東京,381pp.
  • 酒井忠幸(2019)那珂川アユ漁獲量調査.栃木県水産試験場研究報告,62,22-23.
  • 久保田仁志(2016)天然アユ遊漁の実態把握.内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究、研究成果報告書(平成28年度),64-74.
  • 吉田豊(2017)天然アユ遊漁の実態把握.内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究、研究成果報告書(平成29年度),72-80.
  • 阿久津正浩(2018)アユ遊漁の振興策の検討.内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究、研究成果報告書(平成30年度),63-70.
著者プロフィール

武田維倫たけだ これのり

【略歴】
▷ 1974年(昭和49年)神奈川県生まれ。北海道大学水産学部卒業後、栃木県庁に就職(水産職)。水産試験場資源環境部、農務部生産振興課、水産試験場水産研究部に勤務。現在、冷水病、カワウ対策等の業務に従事。