水産振興ONLINE
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2021年2月

内水面3魚種(アユ、渓流魚、ワカサギ)の遊漁の振興策

中村智幸/坪井潤一(国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部)
阿久津正浩/髙木優也/武田維倫(栃木県水産試験場)
山口光太郎(埼玉県水産研究所)
星河廣樹/澤本良宏/降幡充(長野県水産試験場 諏訪支部)

第1章 アユ遊漁の振興策の検討
—栃木県水産試験場の調査—(2018年度)

栃木県水産試験場
阿久津 正浩/髙木 優也

要旨

アユ遊漁の新規参入者を増やす方策の試行として受講生5名を募り、「アユ釣り師養成講座」を実施した。平均釣果は1人1日8.7尾と良く釣れ、その要因として、受講生1人につきアユ遊漁熟練者1人を講師として付けることできめ細やかな指導ができたこと、解禁直後に条件の良い場所で実施できたことなどが考えられた。講座終了後道具類を貸し出したところ、全員がアユ遊漁を実施し、その内2人が年券を購入していた。翌年に向けた取り組みとして、4名がフォローアップ講座の実施を要望した。

アユ遊漁者による消費実態と経済波及効果算出のための具体的方法を整理した。漁業協同組合(以下、漁協)による実施を想定し、調査用アンケート用紙例と、そのデータを入力・解析する表計算シートを作成した。

目的

レジャーとして釣りを楽しむ人口は1998年以降減少しており(中村 2015)、アユ遊漁者(組合員を含む)も全国的に減少している(農林水産省大臣官房統計部 2015)。天然アユの遡上が多く、全国屈指のアユ漁獲量を誇る那珂川でも、近年遊漁者数の減少傾向が顕著である(髙木 2016)。また、2016年度に実施した当事業の調査において、アユ遊漁者の平均年齢が57.5歳に達し、2001年と比べ高齢化が進んでいることが明らかとなった。アユ遊漁者の減少と高齢化は、漁協の経営を悪化させ、将来的には漁場の荒廃につながる可能性もある。内水面漁業を発展させるためには、良好なアユ漁場を維持し、新規のアユ遊漁者を増やすことが必要であり、そのための方策を検討することが急務である。昨年度実施したアユ遊漁参加に係る意識調査から、アユ釣りをはじめる際の敷居を低くすることやきっかけづくりが必要と考えられた。そこで、本課題では、アユ遊漁の新規参入者を増やす方策の試行として、他の釣りはやるもののアユ釣りは未経験の者を対象とした「アユ釣り師養成講座」を実施し、その有効性について調査した。

また、昨年度実施した調査では、栃木県那珂川におけるアユ遊漁による経済波及効果が13億円と算出された。アユ遊漁者が釣りをするために漁場に訪れることで、沿川地域や県内に大きな経済効果をもたらしていることが確認された。アユ遊漁者が減少すれば、それ相応の経済効果も減少するが、それについては漁協やおとり店など直接遊漁者を対象とした事業者、水産行政だけの問題認識にとどまっており、地域全体の問題として共有されることは少ない。経済波及効果を算出することにより、地域経済への貢献が具体的な数字として示すことができることから、アユ遊漁振興に対する地域内での理解促進につながると考えられることから、漁協が調査することを想定した「アユ遊漁者による消費実態および経済波及効果の算出方法」について整理した。

方法

アユ遊漁の新規参入者を増やす方策の試行

河川湖沼の釣りを趣味としている遊漁者を対象に、複数回のアユ釣り体験型講習会「アユ釣り師養成講座」を開催した。県のホームページやフェイスプックへの掲載、釣具店による周知協力等により受講生5名を募集した。開催回数は5回とし、1回目から3回目は2018年6月16日から7月7日に栃木県鹿沼市の3河川(放流アユの中小河川)で、4回目および5回目は7月28日および8月11日に那珂川(天然アユの大河川)での開催を企画した。講師は釣具メーカーのフィールドテスター等アユ釣り熟練者に依頼し、1〜3回目までは受講生一人につき講師一人が専属で、4回目以降は講師2名で全員を指導した。着衣や釣り竿等道具類はすべて貸出しし、参加費は傷害保険代と遊漁承認証で、概ね3,000円であった。最終講座終了後、道具類を貸出し、アユ遊漁の実施を促した。アユ漁期終了後、参加者から講座に関する意見、講座終了後のアユ遊漁の実施状況等を聞き取り、講座実施の効果を検証した。

アユ遊漁による消費実態と経済波及効果の算出

アユ遊漁者による消費実態と経済波及効果の算出に必要なデータを収集するためのアンケート用紙例を作成し、回収したアンケート用紙のデータを入力することで計算結果が出力されるよう、表計算ソフトエクセルで入力・出力フォームを作成した。省力化によりデータが限られる場合の結果出力について整理した。

なお、これらの手法の検討にあたっては、国立研究開発法人水産研究・教育機構中央水産研究所経営経済研究センターの宮田 勉博士から適宜アドバイスをいただいた。

結果および考察

アユ遊漁の新規参入者を増やす方策の試行 受講生5名の性別は、女性2名、男性3名で、年齢は30代3名、40代1名、50代1名であった。受講生が主に実施してきた釣りは、バス釣り(2名)、ニジマス釣り(1名)、ヤマメ釣り(1名)、ワカサギ釣り(1名)であった。

1回目から3回目は計画通り実施できたが、4回目は悪天候のため8月11日に延期したものの増水のため仕掛けづくり講習会に内容を変更した。5回目も悪天候のため9月8日に変更して実施した(図1)。

図1 講座の実施の様子
図1 講座の実施の様子

中小河川で実施した1〜3回目で受講生は1日平均6尾〜13尾を釣った(表1)。5回目の大河川那珂川では、周囲の釣れ具合が悪い中、参加した受講生3名全員がアユを釣ることができた。トータルの釣果は、1人1日平均8.7尾であり、良く釣れたと言える。釣れることは、受講生のモチベーションを上げるだけでなく、釣ったアユの取り込み、おとりアユの交換等の技術習得に重要である。良く釣れた要因として、マンツーマンでのきめ細やかな指導ができたこと、解禁直後に条件の良い場所で実施したことが考えられた。

表1 講座での釣果
表1 講座での釣果

漁期終了後、受講生から聞き取りを行った。

講座に参加した際の決め手についての質問に対し、道具の準備が不要であることを全員が回答した(図2)。次に多かった回答は、参加費が安いことであった。1回の参加費として許容できる金額は、4,000円までが2人、5,000円までが3人であった。本講座の全体的な印象は良かったが1名、とても良かったが4名であった。講座への満足度が高かったため、今回の参加費約3,000円超える金額の負担を惜しまないと考えられた。

図2 講座参加への決め手
図2 講座参加への決め手

アユ釣りをおおよそ理解できた(一人でなんとかできるレベルになった)のは何回目かを聞いたところ、全員2回目以上で、3回目が2人、4回目が1人であった(図3)。通常のアユ釣り教室は1日限りの場合が多く、アユ遊漁を定着させるためには回数が少ないと考えられた。

図3 アユ釣りをおおよそ理解できた(一人でなんとかできるレベル)のは何回目?
図3 アユ釣りをおおよそ理解できた(一人でなんとかできるレベル)のは何回目?

講座終了後、アユ釣りをしたかどうかを聞いたところ、全員が実施し、日釣り券購入者が3名、年券購入者が1名、両方購入した人が1名だった(図4)。

図4 講座以外のアユ釣りで購入した遊漁券の種類
図4 講座以外のアユ釣りで購入した遊漁券の種類

今後のアユ遊漁継続に向けての質問をしたところ、道具レンタルサービスを利用したい人が2名、安ければ利用したい人が2名に対し、利用せず道具を購入するという意欲のある人が1名であった。釣り場ガイドサービスについては3人が利用したいと回答した。また、来年に向け、フォローアップ講座を要望する人が3名いた。

以上、今回の講座は受講生に多くのアユを釣ってもらうことができ、実際に講座終了後自らアユ遊漁を実施したことから、アユ遊漁継続の可能性が高い企画であると考えられた。一方、アユ遊漁を継続してもらうためには、道具のレンタル、釣り場ガイド、フォローアップ講座など何らかのバックアップ体制も必要であると考えられた。

次年度は、今年度の受講生のアユ遊漁実施の追跡調査を行うとともに、新たな受講生を募集して、データを積み増したうえで、とりまとめを行う予定である。

アユ遊漁による消費実態と経済波及効果の算出

アユ遊漁者による消費実態(遊漁者1人の消費額、消費総額など)や経済波及効果(アユ遊漁者がもたらす利益額、その漁場でアユ釣りができることにより生み出される価値)の算出について、具体的な手順を下記のとおりまとめた。

  • 必要なデータセットを得るために、アユ遊漁者を対象としたアンケート調査を実施する。設問内容は、釣行に関する情報、移動に関する情報、釣行に伴う出費に関する情報、その他とする(図5)。
  • 回答結果を、表計算ソフトエクセルのデータシート(図6)に入力すると、遊漁者が1回の釣行に支払う金額が各項目、地域別に算出される(表2、表3)。年間の延べ遊漁者数(遊漁承認証発券枚数、アンケート回答者の釣行日数等から集計)を乗じることで消費総額が算出される(表2)。2016年那珂川の場合、アユ遊漁者の1回の釣行における消費額(平均6,658円)に2013年から2017年の平均遊漁者数(20万人)を乗じると遊漁料を含めた消費総額は約13億円と算出された。
  • 各都道府県が作成している産業連関表により部門ごとのGRP(雇用者所得、営業余剰、間接税)率を求める。2011年版栃木県産業連関表に基づき代表的な支払項目について計算した結果は表4のとおり。
  • 支払額に部門ごとのGRP率を乗じてGRP増分を算出する。全てのGRP増分を積算して、アユ遊漁者一人あたりの利益額を求める。
  • 1人あたりの効果額に年間の延べ遊漁者数を乗じて、経済波及効果(アユ遊漁者がもたらす利益額)額を求める。必要に応じて県内と県外遊漁者の比率、日帰りと宿泊の比率を用いて補正を行う。那珂川の場合、遊漁者全体がもたらす利益額は約6億円と算出された(表5)。
  • トラベルコスト(TCM)法による経済波及効果(その漁場でアユ釣りができることにより生み出される価値)を算出する。算出の基礎情報として、移動に係る経費(移動費用および機会費用)が必要となる。移動費用は各回答者の居住地から最初に釣りをした市町、その後に移動して釣りをした市町を経て再び居住地まで戻る最短距離をgoogle mapやNAVITIME等を用いて算出。那珂川の場合、アユ遊漁者の平均移動距離は106km、平均移動時間は2時間45分であった。これらにより算出した那珂川でのアユ釣りの価値は、遊漁者全体で約6.5億円と算出された(表5)。
  • アユ遊漁者がもたらす利益額⑤とトラベルコスト法で算出した漁場でのアユ釣りの価値⑥の合計が、アユ遊漁による経済波及効果として推定され、遊漁者全体で13億円と推定された(表5)。
図5 アンケート用紙例
図5 アンケート用紙例
図6 表計算ソフトエクセルのデータシート
図6 表計算ソフトエクセルのデータシート
表2 遊漁者1名あたりの消費額(地域別の消費額・遊漁者の消費総額)
表2 遊漁者1名あたりの消費額(地域別の消費額・遊漁者の消費総額)
表3 遊漁者1名あたりの消費額(遊漁者の住所別)
表3 遊漁者1名あたりの消費額(遊漁者の住所別)
表4 栃木県産業連関表から求められた部門ごとのGRP率
表4 栃木県産業連関表から求められた部門ごとのGRP率
表5 経済波及効果
表5 経済波及効果

②の段階で遊漁による消費実態が算出される。やや煩雑になるがGRP率を算出できれば⑤経済波及効果が算出される。作業は増えるが⑤TCMの金額を算出し、⑤と⑥を合計した金額がTCMを含めた経済波及効果として示すことができる。作業にかけられる労力を踏まえ、どの金額を算出したいかを判断すればよい。

引用文献

  • 中村智幸(2015)レジャー白書からみた日本における遊漁の推移.日本水産学会誌,81,274-282.
  • 農林水産省大臣官房統計部(2015)2013年漁業センサス第7巻 内水面漁業に関する統計.農林水産省大臣官房統計部,東京,381pp.
  • 髙木優也(2016)アユの釣れ具合と発券枚数の関係.栃木県水産試験場研究報告,59,36-37.
著者プロフィール

阿久津正浩あくつ まさひろ

【略歴】
▷ 1972年(昭和47年)栃木県生まれ。北海道大学水産学部卒業後、栃木県庁に就職(水産職)。水産試験場養殖部、農務部生産振興課、塩谷南那須農業振興事務所企画振興部、水産試験場水産研究部に勤務を経て退職。

髙木優也たかぎ ゆうや

【略歴】
▷ 1988年(昭和63年)、福島県生まれ。東北大学卒業後、同大学院の博士前期課程を修了し栃木県庁に就職(水産職)。水産試験場水産研究部においてアユや渓流魚の資源管理研究に従事。2019年(平成31年)より栃木県塩谷南那須農業振興事務所へ配属。理学修士。