内水面における遊漁の振興について(提案書)
趣旨
レジャーとは余暇や自由時間のことであり、人間の多様な生活活動のうち行為者の自由裁量に裏付けられた、遊ぶ、学ぶ、知る、付き合うなどがそれにあたります。第4次国民生活審議会答申において、「レジャーが生活のあり方を規定する重要な要素となってきた」、「レジャーが国民福祉充実にとって重要な分野を占めるようになってきた」、「高福祉時代においてレジャーは人間が人間らしく生きるために、単に経済的充足にとどまらず、心身ともに豊かな生活をおくるのに欠くことのできない要素となってきた」と指摘されているように、レジャーは人間にとって重要です。レジャーは人々の息抜きや生きがいになります。健康を増進します。ひいては、社会に活力を与え、文化創造に寄与します。
遊漁、すなわち釣りもレジャーのひとつです。その人気は高く、日本における参加人口は最近5年(2015〜2019年)で620万人から740万人です(レジャー白書:公益財団法人日本生産性本部)。釣りをする年齢の人口が1億人とすると、その6〜7%が釣りをしていることになります。釣りは子供から老人まで広範囲な年齢層の人々が楽しむことのできる健全なレジャーのひとつです。また、幼少期の体験には人間形成上の重要な役割があり、子供の頃に釣りのような自然に親しむレジャーを体験した大人ほど、やる気や生きがいを持つことが示されています(注1。
レジャー白書から、釣りの潜在需要が高い、すなわち釣りをしたくてもできていない人が多数いることが読み取れます。その数は、最近5年(2015〜2019年)で年間270万人から456万人であり、実際に釣りをしている人の半数近くです。
さらに、内水面の漁業協同組合の経営状況をみると、遊漁料、すなわち釣り人が組合に納付する料金の占める割合が収入の中で最も高い組合が全体の約35%と最も多く(注2、組合の経営にとって釣りはとても重要です。
前述の国民生活審議会答申において、「レジャーが労働時間等の残余に過ぎないという従来とかくみられた考え方を排し、人間生活の中で積極的な意義を有する自由時間であるという国民的認識を確立する必要がある。そのうえで、たとえば、自由時間の拡充、レジャーのための物的人的環境の整備、レジャー環境の破壊防止、レジャー政策のための総合調整機構の整備等、積極的な政策の展開が図られなければならない」というように、レジャーの普及やそのための政策展開の必要性が提言されています。しかし、日本の現状は遊漁について積極的な普及や政策が実施されているとは残念ながら言いがたいです。
このような状況を打開するため、当会は2016年度から2019年度に国立研究開発法人水産研究・教育機構中央水産研究所(当時)を中心とする研究グループ(中央水産研究所、栃木県水産試験場、埼玉県水産研究所、長野県水産試験場)に委託し、「内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究」を行いました。この研究の大きな目的のひとつは、健全なレジャーである遊漁の普及と、遊漁をもとに内水面の漁業協同組合の活性を高めることにあります。
今回は得られた成果をもとに、内水面遊漁の振興に必要な方策を整理しました。なお、資源を増やすことも遊漁の振興策の大きなひとつですが(「魚が増えれば釣り人も増える」)、今回の提案にあたっては、資源増殖以外の方策を検討しました。
今回提案させていただいた内容について、今後、漁業協同組合等が積極的に取り組むことができるよう、これからの施策(国や都道府県による指導、補助金の交付など)にご活用いただければ幸いです。
内水面遊漁の振興方策
研究に参加したグループのメンバーがそれぞれの地元などを中心に遊漁の実態を調査するとともにアンケート調査等を行い、データを解析しました。
その結果、釣りをしない理由、釣りができない理由のうち、水産サイドで解決できそうなものとして以下のポイントが挙げられました。
1. 子どもの頃に釣りに親しむ機会が少ない。
2. 女性は釣りに親しむ機会が少ない。
3. 釣りを教えてくれる人が周囲にいない。
4. 一緒に釣りに行ってくれる人が周囲にいない。
また、やりたい釣りの姿として以下のポイントが挙げられました。
1. たくさん釣りたい。
2. きれいな魚を釣りたい。
3. 好きなスタイルの釣りがしたい。
4. 自然や資源に優しい釣りがしたい。
これらを解決あるいは具現化するためには、釣りをしたことがない人が釣りをできるようにする工夫(新規者増の方策)と、釣りをする人を呼び込む工夫(既存者誘致の方策=集客の方策)が必要です。特に、新規者増の方策については、年齢や性別等どのような相手を対象とするかも考慮して考える必要があります。
そこで、それら(新規者増、既存者誘致)の方策を収集あるいは考案しました。
以後、それぞれの方策を示します。
表中で「*」印を付したものは実例のある方策、「*」印を付していないものは考案した方策です。
また、今回の研究で、釣り人の4人に1人が遊漁券を購入していない(遊漁料を漁業協同組合に納付していない)ことがわかりました。遊漁料は漁業協同組合が実施する資源増殖や漁場管理の費用の釣り人の「応分の負担」です。
そこで、遊漁券の購入率向上(無券率軽減)の方策も収集あるいは考案して「付録」としてまとめました。こちらもご活用ください。
なお、方策によっては、実施にあたり、都道府県の漁業調整規則の改正や漁業協同組合の遊漁規則の変更が必要なものもあるのでご注意ください。
ご不明の点は次の機関にお訊ねください。
〒321-1661 栃木県日光市中宮祠2482-3
国立研究開発法人水産研究・教育機構
水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部
内水面グループ(日光庁舎)
TEL 0288-55-0055
FAX 0288-55-0064
1. 釣りをしたことがない人が釣りをできるようにする工夫(新規者増の方策)
*釣りをしたことがない人に釣りに関心を持ってもらうための方策を含む。
幼児から小学生が対象 |
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子供、大人の女性が対象 |
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全員(子供、大人の男性、大人の女性)が対象 |
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2. 釣りをする人を呼び込む工夫(既存者誘致の方策=集客の方策)
釣り人が喜ぶ釣り場づくり |
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釣り人が喜ぶ遊漁料、遊漁券 |
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3. その他
地元との連携 |
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釣り人との連携 |
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その他 |
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付録.遊漁券の購入率向上(無券率軽減)の方策
交付方法(販売方法) |
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新しいタイプの遊漁券の交付(販売) |
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監視 |
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その他 |
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- 注1:子どもの頃の体験は、その後の人生に影響する:子どもの体験活動の実態に関する調査研究中間報告改訂版.独立行政法人国立青少年教育振興機構
- 注2:中村智幸.2019年.内水面漁協の経営改善に向けた組合の類型化の試み「漁業経済研究,第63巻,第1号」