水産振興ONLINE
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2021年2月

内水面3魚種(アユ、渓流魚、ワカサギ)の遊漁の振興策

中村智幸/坪井潤一(国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部)
阿久津正浩/髙木優也/武田維倫(栃木県水産試験場)
山口光太郎(埼玉県水産研究所)
星河廣樹/澤本良宏/降幡充(長野県水産試験場 諏訪支部)

第3章 渓流遊漁の振興策の検討
—中央水産研究所の調査—(2019年度)

国立研究開発法人水産研究・教育機構
水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部

坪井 潤一

要旨

釣り人参加型の二大イベントとして放流、河川清掃があげられる。しかし、渓流魚の放流効果は限定的であるとする研究事例が近年報告されている。本研究ではこれら2大イベントの代替として、釣り人が主体的となった資源量推定調査の実現可能性を探るため実証実験を行った。この試みは2018年に続き2度目になるが、2019年の調査では、電気ショッカーを使わず、釣獲のみで標識再捕を行い資源量の推定を行った。

2019年の調査結果では、イワナ、アマゴともに2018年のおよそ半数の生息個体数であると推定され、過小評価の可能性が示唆された。一因として、釣られやすさには個性があり、釣りによって捕獲され標識再放流された個体は、その後の再捕を目的とした釣獲でも、捕獲されやすかったことがあげられる。しかし、電気ショッカーを用いない調査プロトコルであっても、毎年同様の手法で推定調査を行うことで、資源量の増減を相対的に把握でき、相対的な資源量モニタリングに有効であると結論づけられた。

目的

本課題では遊漁の振興ならびに漁協経営の改善を最終目標とし、イワナ、ヤマメといった渓流釣りが行われている河川上流域における釣り人のニーズや漁場管理における問題点の把握、遊漁振興策の立案することを目的とする。

これまで、釣り人参加型のイベントといえば、放流と河川清掃があげられるが、裏を返すと、放流とゴミ拾い以外、やることが見当たらなかったともいえる。近年、人工産卵場の造成といった、野生魚を殖やす取り組みがなされているが、実施には河川管理者への届け出が必要なことや、造成場所の選定の難しさといった技術的な問題があった。そこで、本研究では、釣り人参加型の新たなイベントとして、渓流魚が川に何匹生息しているか調べる「資源量推定」の実現可能性を探ることを目的とし、実証実験を行った。

方法

2019年2月15日から発売される峡東漁業協同組合の年券購入者を対象に、資源量推定調査実施の事前告知のチラシを配布した(図1)。2019年6月8, 9日に山梨県富士川水系釜無川の支流、日川(N35.7082, E138.8276)において標識調査を行った。16名の釣り人有志がボランティアで参加し、餌釣り、ルアーフィッシング、ルアーフィッシングによって釣獲されたイワナ、アマゴについて、標識放流を行った。5箇所の川幅をレーザー距離計を用いて測定し(平均±標準偏差, 7.61±1.47m)、調査終了後、グーグルマップの距離測定機能より計測したところ、調査区間の流程は518mであった。

図1 峡東漁業協同組合の年券購入者に配布した資源量推定実施の告知
図1 峡東漁業協同組合の年券購入者に配布した資源量推定実施の告知

調査終了直後より、釣り人による捕獲調査が開始された(図2)。8月14日までの釣果報告件数は延べ101人となった。釣り人が釣獲した個体に含まれる標識個体の割合から、調査区間内に何匹のアマゴ、イワナが生息しているか、ピーターセン法により資源量推定を行った(http://matuisi.main.jp/wp-content/uploads/2012/12/06mark-recapture.pdf)。

図2 調査区間周辺に設置した釣果報告を募る看板
図2 調査区間周辺に設置した釣果報告を募る看板

結果および考察

2019年6月8, 9日に、日川の3,941m2の調査エリア(流程518m×平均川幅7.61m)において、釣獲による捕獲を行い、アマゴ25個体、イワナ48個体を捕獲した。その後、あぶら鰭の切除により標識を行った後、再放流した。6月10日から8月14日にかけて、延べ101人の釣果報告より、アマゴで288個体(うち標識18個体)、イワナで457個体(うち標識21個体)が捕獲された(表1)。標識率はアマゴで6.3%、イワナで4.6%であった。この標識率の逆数を、6月9日の標識個体数に乗じることで資源量の推定を行った結果、調査区間内には、アマゴで400個体、イワナで1,045個体が6月9日時点で生息していたことが明らかになった。

表1 2019年(上段)および2018年(下段)のピーターセン法による資源量推定結
表1 2019年(上段)および2018年(下段)のピーターセン法による資源量推定結

2019年の調査結果では、イワナ、アマゴともに2018年のおよそ半数の生息個体数であると推定され、調査面積もほぼ同様であったため、生息密度は半減していることになる(表1)。一方、釣れ具合は2018、2019年ともに同程度であり、実際に資源尾数が半減しているとは考えにくい。そのため、2019年の資源量推定結果が過小評価されている可能性が示唆された。一因として、釣られやすさには個性があり、釣りによって捕獲され標識再放流された個体は、その後の再捕を目的とした釣獲でも、捕獲されやすかったことがあげられる。しかし、電気ショッカーを用いない調査プロトコルであっても、つまり、釣られやすさの個体差によりバイアスが生じたとしても、毎年同様の手法で推定調査を行うことで、資源量の増減を相対的に把握でき、相対的な資源量モニタリングに有効であると結論づけられた。

昨年度に引き続き、一連の標識再捕調査は、繰り返しSNSで遊漁者に取り上げられ、漁場のPRに貢献していた。こういった観点から、資源量推定が釣り人参加型のイベントの1つとして成り立つことを実証できたといえる。漁業協同組合員の高齢化や、水産試験場等の公的試験研究機関の人員や予算の削減により、資源量推定さえも満足に行えない現状がある。今後、ますますマンパワーが減少していくなか、本研究のような釣り人参加型の調査手法が、将来のスタンダードになるのかもしれない。

なお、調査結果については、筆者が発表を行い、その様子を撮影した動画を動画サイトに公表した(https://vimeo.com/365919341)。

表2 2018年と2019年の単位努力量あたりの釣れ具合
表2 2018年と2019年の単位努力量あたりの釣れ具合

まとめ

山梨県内の山岳渓流を管轄する漁業協同組合では、遊漁者の遊漁券所持状況について現地調査を行ったところ、無券率は60%(56 / 94人)であった。調査を行った翌年に、漁協が地元警察に協力を要請し、警察官とともに遊漁券所持の確認および安全な渓流釣りへの呼びかけを行ったところ、無券率は4.3%(3 / 70人)に激減した。これらの結果から、監視によって無券率を大幅に低減できると示唆された。

本事業において実施されたインターネット調査結果について、データ解析を行った。その結果、渓流釣りを始めたきっかけは、「友人や家族に誘われて」という回答が多くを占めた。今後、遊漁者の増加のためには、初心者を渓流釣りに連れてきた遊漁者、ならびに誘われた初心者を対象とした遊漁料の割引など、初心者勧誘を後押しするようなインセンティブを設けることが効果的であると期待される。

釣り人参加型の二大イベントとして放流、河川清掃があげられる。しかし、渓流魚の放流効果は限定的であるとする研究事例が近年報告されている。これら2大イベントの代替として、釣り人が主体的となった資源量推定調査の実現可能性を探るため実証実験を2年連続で行った。特に最終年度である2019年の調査結果では、電気ショッカーを使わず釣獲のみによって標識魚の捕獲および、その後の再捕獲調査を行った。残念ながら結果は、イワナ、アマゴともに資源量が過小評価されてしまった可能性が高いものの、毎年同様の手法で推定調査を行えば、資源量の増減を相対的に把握できると期待された。

著者プロフィール

坪井潤一つぼい じゅんいち

【略歴】
▷ 1979年(昭和54年)1月、愛知県生まれ。北海道大学水産学部博士前期課程を修了し、山梨県庁に就職(水産職)。10年の県職員生活ののち、国立研究開発法人水産研究・教育機構に転職し、現在、水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 主任研究員。渓流魚やアユの保護増殖の傍らで、外来魚およびカワウ被害対策の技術開発に携わる。博士(農学)。