水産振興ONLINE
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2021年2月

内水面3魚種(アユ、渓流魚、ワカサギ)の遊漁の振興策

中村智幸/坪井潤一(国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部)
阿久津正浩/髙木優也/武田維倫(栃木県水産試験場)
山口光太郎(埼玉県水産研究所)
星河廣樹/澤本良宏/降幡充(長野県水産試験場 諏訪支部)

第4章 ワカサギ遊漁の振興策の検討
—長野県水産試験場の調査—(2018年度)

長野県水産試験場 諏訪支場
星河 廣樹/澤本 良宏

要旨

長野県松本市の美鈴湖において、未経験者などの寒さ対策としてドーム桟橋の設置および女性のワカサギ釣り参加促進のため、遊漁料金を半額にするレディースデイ設定の遊漁振興方策を試行した。ドーム桟橋効果を検証するために実施したアンケート調査の結果、回答者は、男性は158人、女性85人であった。回答者と非回答者の男女比には、有意差が見られ、回答者に占める女性の割合が高かった。ドーム桟橋を利用した理由を複数回答可で質問したところ、「寒かった」と回答した人が、103人(42.6%)で最も多かった。ドーム桟橋でのワカサギ釣りの感想を質問したところ、「快適」、「少し快適」と回答した人が、それぞれ140人、60人で、全回答者に占める割合は、それらで81.3%となった。ワカサギ釣りへの今後の意欲について質問したところ、「やりたくない」と回答した人が、わずか3人(1.2%)であった。以上の結果より、ドーム桟橋を設置することで、当初の目的どおり、未経験者などの寒さ対策となり、8割以上の人の快適さに繋がり、今後のワカサギ釣りへの意欲も維持させることができた。また、ドーム桟橋は、男性より女性に積極的に利用され、今後の女性遊漁者増加の足がかりになることが期待された。

女性の平均遊漁者数は、レディースデイの実施日が1.8人、非実施日が0.5人で、実施日が有意に多かった。また、実施日と非実施日での遊漁者の男女比に有意差が見られ、実施日での女性の割合が高かった。以上の結果より、レディースデイの設定で、女性遊漁者が増加したと考えられる。ただし、今年度のレディースデイの広報は充分とは言えず、さらに手法を検討することで、集客効果の向上が期待できる。

目的

日本における遊漁への参加人口は1998年以降減少し、2011年には930万人になった(中村2015)。遊漁への参加人口が減少する中で、ワカサギ釣りは渓流釣りやアユ釣りと比べて初心者が参加し易いため、ワカサギ遊漁者は増加していると言われてきたが、その実態は明らかでなかった。本事業の2016年度結果から、2006〜2015年度の野尻湖では遊漁者数は変動しつつ概ね横ばい、2001〜2015年の松原湖では遊漁者数は増加してきた現状が明らかになった。

一方で、2017年度に実施した全国規模でのインターネットアンケートの結果から、3割の人がワカサギ釣りをやりたいと思っているが、「近くにワカサギ釣りができる湖がない」、「きっかけがない」、「寒さが辛い」「やり方を教えてくれる人がいない」などといった理由からワカサギ釣りができないでいることが明らかになった(星河 2019)。さらに、ワカサギ釣りをしたことがある人も、「寒さが辛い」、「近くにワカサギ釣りができる湖がない」などを理由として、ワカサギ釣りから離れてしまっていた。

また、ワカサギ釣りをやりたいと思っている人は、先のインターネットアンケートの結果では、男性が55.4%、女性が44.6%で、その男女比はおよそ半々であったが、2015年度に美鈴湖で実施した遊漁者アンケートの結果では、男性245人(84.8%)、女性44人(15.2%)であった(上島ら 2018)。これらの結果から、女性がワカサギ釣りをやりたいと思っていても、できていない現状が浮き彫りになった。

そこで、長野県松本市の美鈴湖において、上述のニーズ、現状に基づいた遊漁振興方策を2つ試行した。一つ目として、未経験者、初心者、家族層が寒さを気にせずワカサギ釣りをして、その後も継続してワカサギ釣りに参加して貰うために、寒さ対策としてドーム桟橋を設置した。二つ目として、女性のワカサギ釣りへの参加を促進させるため、遊漁料金を半額にするレディースデイを実施した。

方法

遊漁振興方策の試行は、長野県松本市三才山地区の美鈴湖で実施した。美鈴湖は標高1,000mに位置し、周囲長2km、最大水深15mの灌漑用ため池である。なお、レディースデイによる遊漁料金の割引は、漁業協同組合が管理する河川湖沼で行う場合、遊漁規則の変更を伴い、実施が容易でないため、管理者が民間会社で、漁業権がない美鈴湖を、調査湖沼として選定した。また、美鈴湖は、オオクチバスの駆除により、2014年度からワカサギ釣りが再開されており、松本市近隣の住民の視点では、「近くにワカサギ釣りができる湖がない」、「きっかけがない」は解消されている。

ドーム桟橋の設置

ドーム桟橋は、新規に用意した農業用資材と美鈴湖で使われていなかったフロートを利用して、解禁日の2018年12月25日までに設置した。日中のドーム内部は、日光で暖められるが、朝は冷えるため、石油ストーブを設置し、自由に使用できるようにした。ドーム桟橋の利用者を未経験者、初心者、家族層に限定するため、釣り竿をレンタルした遊漁者のみ利用できる形式とした。ドーム桟橋の定員は10人として、利用希望者が定員以上になった場合は、順番待ちをお願いした。ドーム桟橋の利用者は、休日には定員の上限に達することが予想されたため、美鈴湖ウテナ荘のホームページ上での告知はしなかった。ドーム桟橋の効果検証のために、解禁日からドーム桟橋利用者へアンケート調査を実施した。使用したアンケート用紙を図1に示す。

レディースデイの設定

レディースデイは、2019年1月15日からの祝祭日を除く平日の月火水曜日に実施された。実施日の遊漁料は、通常1,000円のところ、女性の場合は半額の500円に割引した。実施の告知は、美鈴湖ウテナ荘のホームページに期間中掲載した。レディースデイの効果は、1月15日以降の割引実施日と非実施日(平日の木金曜日)の平均遊漁者数をt検定で、男女比をχ二乗検定で比較検証した。

図1 使用したアンケート用紙
図1 使用したアンケート用紙

結果および考察

ドーム桟橋の設置

ドーム桟橋の設置には、費用が約320,000円、作業日数が2名で延べ1週間かかった。組み立て作業の難易度は、作業未経験者であっても完成させられる程度であったが、自信がない場合、資材購入店に作業を依頼するのが良いと考えられる。組み立て途中、完成後のドーム桟橋の外観を図2に示す。

図2 ドーム桟橋の外観(左:組み立て途中 右:完成後)
図2 ドーム桟橋の外観(左:組み立て途中 右:完成後)

本年度の美鈴湖のワカサギ遊漁者数は、男性2,298人、女性363人、小学生以下の子供374人の計3,035人であった(2019年2月28日現在)。本年度の遊漁券発行枚数は、小学生以下は無料のため、2,661枚であった。過去の美鈴湖における遊漁者数は、小学生以下の人数が把握されてこなかったため、遊漁券発行枚数を比較すると、2014年度が2,142枚、2015年度が3,135枚で、本年度はその中間程度であった。

釣り竿をレンタルした人数は561人、ドーム桟橋を利用した人数は276人で、ドーム桟橋利用対象者のうち利用した人の割合は49.2%であった。アンケート回答者数は262人で、ドーム桟橋利用者に占める割合は94.9%であった。

アンケートへの回答者数は、性別欄が無記入だった19人を除くと、男性が158人(65.0%)、女性が85人(35.0%)であった。男女それぞれの遊漁者数から回答者数を除いた非回答者数は、男性が2,140人(88.5%)、女性が278人(11.5%)であった。回答者と非回答者の男女比には、有意差が見られた(χ二乗検定、p < 0.01)。回答者に占める女性の割合が高く、女性がドーム桟橋を積極的に利用していたと言える。

ドーム桟橋を利用した理由について複数回答可で質問した結果を図3に示す。回答として最も多いのが、「寒かった」の103人(42.6%)、次いで「その他」の57人(23.6%)、「現地で知って興味を持った」の56人(23.1%)であった。一番回答が多かった「寒かった」以外には、「風が強かった」、「自分の防寒用品、暖房が不十分だった」が寒さに関連する選択肢で、これらを回答する者もいたが、その割合は比較的低かった。ドーム桟橋については、ホームページ上で告知をしていなかったため、現地に来て初めて、ドーム桟橋の存在を知った人が多かったと考えられる。一方、「新聞などを見て」との回答もあるが、今年度のワカサギ遊漁振興の取り組みや解禁日の状況などが、地元紙やテレビで取り上げられたため(図4)、それらでドーム桟橋のことを知った人もいたと考えられる。「その他」の内容としては、レンタル竿でのワカサギ釣りのやり方を教えて貰うためとの主旨のものがほとんどだった。

図3 ドーム桟橋を利用した理由 各項目を回答した人の割合(%)
図3 ドーム桟橋を利用した理由
各項目を回答した人の割合(%)
図4 地元紙でのワカサギ遊漁振興取り組みの紹介
図4 地元紙でのワカサギ遊漁振興取り組みの紹介

ドーム桟橋でワカサギ釣りをした感想について質問した結果を図5に示す。回答として最も多いのが、「快適」の49人(56.9%)、次いで「少し快適」の48人(24.4%)で、これらの合計で81.3%に達した。一方、否定的な意見としては、「あまり快適でなかった」が7人(2.8%)、「快適でなかった」が5人(2.0%)で、わずかであった。雨雪や寒風を遮ることができ、日光やストーブで暖かいドーム桟橋は、大半の遊漁者に快適さを提供することができたと考えられる。

図5 ドーム桟橋でワカサギ釣りをした感想 各項目を回答した人の割合(%)
図5 ドーム桟橋でワカサギ釣りをした感想
各項目を回答した人の割合(%)

ワカサギ釣りへの今後の意欲について質問した結果を図6に示す。最も回答した人が多いのは、「道具をレンタルしながら続けたい」の99人(39.3%)、次いで「機会があればやってもよい」の92人(36.5%)、「自分で道具をそろえてやってみたい」の58人(23.0%)、「やりたくない」の3人(1.2%)であった。ほとんどの人がワカサギ釣りを今後もやりたい、やってもよいと回答した要因としては、ドーム桟橋でワカサギ釣りが快適にできたことが大きいと考えられる。昨年度のインターネットアンケート調査で、ワカサギ釣りから離れた理由として、「寒さが辛い」が30.2%と最も多く挙げられていたことから裏付けられる。

図6 ワカサギ釣りへの今後の意欲 各項目を回答した人の割合(%)
図6 ワカサギ釣りへの今後の意欲
各項目を回答した人の割合(%)

以上の結果より、ドーム桟橋を設置することで、当初の目的どおり、未経験者などの寒さ対策となり、8割以上の人の快適さに繋がり、今後のワカサギ釣りへの意欲も維持させることができた。また、ドーム桟橋は、男性より女性に積極的に利用され、今後の女性遊漁者増加の足がかりになることが期待された。

レディースデイの設定

レディースデイ実施日と非実施日での女性の平均遊漁者数は、それぞれ1.8人、0.5人で、実施日が有意に多かった(t検定、p < 0.01)。女性の平均遊漁者数に遊漁料金を乗じて、女性からの平均遊漁料収入を算出すると、実施日では1.8人×500円で900円、非実施日では0.5×1,000円で500円であった。遊漁料収入の面から見ても、レディースデイを実施することで、収入が増加していた。

また、実施日での遊漁者数は、男性が269人(88.8%)、女性が34人(11.2%)であった。非実施日での遊漁者数は、男性は178人(96.2%)、女性7人(3.8%)であった。実施日と非実施日での遊漁者の男女比には、有意差が見られ(χ二乗検定、p < 0.01)、実施日での女性の割合が高かった。上記3点より、レディースデイの実施で、女性遊漁者数、遊漁料収入が増加したと考えられる。

ただし、レディースデイの告知は、美鈴湖ウテナ荘のホームページと地元紙を通じて行われたが、それだけでは浸透が不十分だったと考えられる。ただの実施の告知だけでなく、美鈴湖が女性遊漁者にとって快適にワカサギ釣りが楽しめる湖であることを、より強調すべきであった。伝えるべき要素は、公衆トイレが湖のすぐ近くに設置されている点、釣り方を指導して貰えて、初心者も安心して釣りができる点、本年度調査で明らかになったドーム桟橋の快適さと女性が積極的に利用している点が適していると考えられる。また、遊漁者を増やす新しい試みは、メディアに取り上げられ易く、ホームページでの告知以上に、多くの一般の方に伝わることが期待できる。

引用文献

  • 星河廣樹(2019)長野県の野尻湖と松原湖におけるワカサギ遊漁の実態.水産振興,53,62-92.
  • 中村智幸(2015)レジャー白書からみた日本における遊漁の推移.日本水産学会誌,81,274-282.
  • 上島剛・星河廣樹・松澤峻・山本聡・沢本良宏(2018)アンケート調査からみた美鈴湖におけるワカサギ釣りの実態と経済波及効果.日本水産学会誌,84,711-719.
著者プロフィール

星河廣樹ほしかわ ひろき

【略歴】
▷ 1983年(昭和58年)、長野県生まれ。2007年北海道大学水産学部海洋生物生産科学科卒業、2013年長野県に入庁。 現在は諏訪支場勤務。

澤本良宏さわもと よしひろ

【略歴】
▷ 1959年(昭和34年)、岐阜県生まれ。1983年信州大学理学部生物学科卒業、1984年長野県に入庁。元長野県水産試験場諏訪支場長。