水産振興ONLINE
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2021年10月

座談会 平成の漁業制度改革

司会矢花 渉史 氏
長谷 成人 氏/山口 英彰 氏/藤田 仁司 氏/横山 健太郎 氏/森 健 氏/赤塚 祐史朗 氏/萱嶋 富彦 氏/
永田 祥久 氏/清水 浩太郎 氏/加悦 幸二 氏/中村 真弥 氏/木村 聡史 氏/藤田 晋吾 氏/塩見 泰央 氏/
冨澤 輝樹 氏/牧野 誠人 氏/西尾 暁 氏

要旨

2018年12月、当時の安倍晋三首相が70年ぶりに行われる漁業法の抜本改正と呼んだ「漁業法等の一部を改正する法律」が国会で可決された。この改正は、1949年に制定された「漁業法」の目的規定自体も改正し、区画漁業権や定置漁業権を都道府県知事が免許する際の優先順位規定を撤廃したり、各都道府県の海区漁業調整委員会の委員公選制を廃止したほか、我が国の国連海洋法条約批准の際にできたいわゆるTAC法に規定されていた海洋生物資源の保存管理に関することも一体の法律とするなどの大掛かりなものとなった。
改正漁業法は、2020年12月に施行されたが、本座談会は、その直後、2021年の1月に、水産政策の改革というミッションを与えられ法改正に携わった当時の水産庁の職員たちが、そのミッションをどう受け止め、検討の過程で何を考え、各条文にどのような思いを込めたかなどを2日間のべ11時間にわたって語り合った記録である。
当時、マスコミ等で頻繁に取り上げられた法改正の要点は、漁業権免許時の優先順位規定が撤廃され、漁場が「適切かつ有効に」利用されず、その改善も図られない場合、新規参入者に免許を与えやすくした点である。実際の、漁業権免許の切替は2023年9月から全国で順次行われる。また、水産庁はすでに2020年9月「新たな資源管理の推進に向けたロードマップ」を公表し、対応を開始している。このように、まさに改正法に基づく諸改革が本格的に取り組まれようとするタイミングで、その改正の意図するところを知るうえで本書は有益な情報を与えてくれるものと言えよう。

2018年12月8日 参議院本会議

座談会 平成の漁業制度改革(1日目)

本号は、2021年1月9日、16日の2日間に渡ってオンラインで開催した平成の漁業制度改革に関わった水産庁関係者による座談会の記録です。1月9日分を1日目、16日分を2日目としてまとめています。

開会の挨拶

矢花:お忙しいところお集まりいただきまして、どうもありがとうございます。このような状況なものですからウェブでということでやっています。

今日は東京水産振興会の皆さまにご尽力いただいて、いろいろ協力をしていただいています。この記録も振興会で議事起こしなどをやっていただくことになっています。最初に振興会の会長の渥美さまからごあいさついただければと思いますので、渥美会長、よろしくお願いします。

渥美:皆さま、こんにちは。今、矢花さんからお話ありましたように、当初は振興会の会議室で皆さんにお集まりいただいて行う予定でしたが、緊急事態宣言が発出され、残念ながらこういうリモートという形で進めさせていただくこととなりました。私どもも不慣れな形ですので途中トラブルが発生するかもしれませんが、その辺はご容赦いただければと思っています。なお開催に当たりまして、企画調整を行っていただいた長谷さん、矢花さんに感謝申し上げます。また本日の進行もよろしくお願いします。

まずこの座談会の趣旨ですが、改正漁業法が施行されたのを機に、漁業法改正の趣旨・背景、担当者の考え方などを後世、行政担当者を始めとする水産関係者に伝えることにあります。私どもとしてはあくまでもこの趣旨にのっとりまして、まずは1番目に記録として残すこと、2番目に主に行政担当者に利用してもらうことを目的としてお手伝いをさせていただく次第です。

最後になりますが、私は民間企業出身なもので、この法律改正の背景や作り方、組み立て方やその辺の手順を全く知らないので非常に興味を持っていまして、一生懸命勉強させていただきたいと思います。長丁場ですが、皆さんよろしくお願いします。簡単ですがごあいさつとさせていただきます。

矢花:ありがとうございます。そうしたら長谷理事から、趣旨説明ということでお願いできますか。

長谷:お久しぶりです。本当は海外にいる人や地方に出向している人以外、久しぶりに直接対面できるのを楽しみにしていましたけれども、緊急事態宣言ということでこういう形になりました。延期もあり得たのかもしれませんが、12月にはついに改正漁業法が施行されたこと、一方でわれわれの記憶も放っておくと消えていったり、反対に自己増殖していったりしてしまう一方なので、私は東京水産振興会の理事の1人を今務めさせてもらっていますが、渥美会長はじめ振興会の協力・理解を得まして、この機会に座談会をやり記録を残したいと思いました。

そういうことで、おなじみの顔がそろっているわけですけれども、渥美会長の他に水産庁のOBでもある早乙女常務と、あと西本さん、記録を取ったりそういうことで今日参加して、出席してもらっています。

言い出しっぺとして少しお話しさせていただきますと、自分自身戦後の漁業制度改革の当事者が書き残したものですとか、実際に会って話を聞いたことが、その後の実務でも、あるいは今回の改正でも大変参考になったし、心の支えにもなったということがあります。

それから私自身も改革について執筆や講演を頼まれることがありますけれども、こういうものは1人だと当然見方が偏りますし、得てして我田引水になるリスクがあると感じていること、それから近い将来漁業法の逐条解説は世に出るのだと思いますけれども、例えば漁業者や都道府県の実務者にはなかなかそういう本では伝わり切らないわれわれの思いもあるとすごく思うものですから、この対談を企画させてもらいました。

声掛けするメンバーについても、今回の改革について関係された方は水産庁以外にも多数いたわけですけれども、今回はいわば水産政策改革というミッションを与えられた行政官が、それをどう受け止め消化し法改正に結び付けていったかというような観点での座談会にして、当時庁内にいた方に声掛けをさせていただいたということです。

この座談会については、改革の理解を深めてもらって、改革を後押しするという意味を込めて公表版を編集したいと思っていますので、よろしくお願いします。

略歴(プロフィール) 発言順

長谷 成人

1957年生まれ。1981年北大水産卒後水産庁入庁。資源管理推進室長、漁業保険管理官、沿岸沖合課長、漁業調整課長、資源管理部審議官、増殖推進部長、次長等を経て2017年長官。2019年退職。この間ロシア、中国、韓国等との漁業交渉で政府代表。INPFC、NPAFC(カナダ)、宮崎県庁等出向。現在(一財)東京水産振興会理事

山口 英彰

1961年生まれ。 1985年東京大学法学部卒業後、農林水産省に入省。水産庁では協同組合課(企画法令係、1987~1989年)に所属、静岡県水産課長(1997~2000年)に出向。経営局金融調整課長、経営政策課長、大臣官房予算課長、内閣官房内閣審議官、大臣官房総括審議官などを経て、2017年に水産庁次長に就任、2019年7月から水産庁長官。2021年7月退職。

藤田 仁司

1965生まれ。1987年水産大学校卒業後水産庁入庁。水産庁管理課長、企画課長、栽培養殖課長を経て、2020年4月から現在、資源管理部長。

横山 健太郎

1983生まれ。2006年慶応大学総合政策学部、2008年東京大学大学院卒業後農林水産省入省。生産局総務課、生産流通振興課、沖縄総合事務局農林水産部、食料産業局総務課、大臣官房予算課、水産庁水産経営課課長補佐、企画課課長補佐を経て、2019年4月から現在、石川県庁農林水産部農業政策課長。

森 健

1964年生まれ。1987年東京大学法学部卒業後、農林水産省に入省。水産庁企画課長(2010年~2011年)、大臣官房文書課長、漁政部長(2017年~2020年)、大臣官房総括審議官(国際担当)等を経て、2021年7月から畜産局長。

赤塚 祐史朗

1978年生まれ。2002年東京大学修士課程修了後水産庁入庁。漁業調整課海外まぐろ・かじき情報調整官、国際課課長補佐(国際協定第一班、企画班)、管理調整課課長補佐(TAC班)を経て、2020年7月から現在、在アメリカ合衆国日本大使館一等書記官。

萱嶋 富彦

1983年生まれ。2006年一橋大学経済学部卒業、2008年同大学院経済学研究科修士課程修了後農林水産省入省(法律職)。水産庁漁政部企画課、大臣官房政策課で勤務後、ドイツ留学。食料産業局総務課、環境省出向を経て、2017年8月から水産庁漁政部企画課、2019年6月から在ドイツ日本大使館一等書記官。

永田 祥久

1971年生まれ。1998年京都大学大学院農学研究科修士課程修了後水産庁入庁。沿岸沖合課漁業調整官、長崎県漁政課参事、加工流通課課長補佐(加工振興班)、漁業調整課課長補佐(沿岸調整班)、企画課課長補佐(制度)、管理調整課課長補佐(指定漁業第2班)等を経て、2021年3月から現在、管理調整課課長補佐(総括班)。

清水 浩太郎

1970年生まれ。1994年東京大学法学部卒業後、農林水産省入省。水産庁では企画課(法令係長、1998~2001年)、漁政課(総括補佐、2009~2010年)、水産経営課(課長、2017~2020年)に所属。この間岩手県庁、山形県庁に出向。2021年7月から林野庁林政課長

加悦 幸二

1961年生まれ、1980年に東京都立小岩高校卒業後水産庁入庁。新潟漁業調整事務所漁業監督指導官、沿岸沖合課(漁業調整課)漁業調整官、水産経営課課長補佐(税制、指導第1班、総括)を経て、2020年4月から漁政課船舶管理室長。

中村 真弥

1979生まれ。2002年東京水産大学卒業後水産庁入庁。沿岸沖合課沿岸調整班免許調整係長、同課漁業調整官、九州漁業調整事務所漁業監督課長、下関市農林水産振興部参事兼水産課長、管理調整課課長補佐(沿岸調整班担当)を経て、2021年2月から現在、栽培養殖課課長補佐(養殖成長産業化推進班担当)

木村 聡史

1984年生まれ。2008年京都大学大学院修士課程修了後、水産庁入庁。企画課、消費・安全局表示・規格課、漁業調整課、宮崎県庁出向を経て、現在、水産庁漁政部企画課課長補佐。

藤田 晋吾

1977年生まれ。2000年早稲田大学法学部卒業後、農林水産省入省。水産庁漁政課企画法令係長、静岡県水産業局長、大臣官房政策課課長補佐等を経て、水産庁企画課企画官として漁業法改正に従事。食料産業局企画課長を経て、2021年7月から農林水産技術会議事務局研究推進課長。

塩見 泰央

1986年生まれ。2010年東京大学法学部卒業、2012年神戸大学法学研究科修了。2013年司法修習終了後、2014年農林水産省入省。経営局協同組織課、農村振興局農地資源課、水産庁企画課、同庁管理調整課、大臣官房政策課を経て、2020年7月から現在、リージョナルフィッシュ株式会社において研修中。

冨澤 輝樹

1989年生まれ。2014年東京海洋大学大学院 海洋生命科学専攻 修了後水産庁入庁。企画課漁業労働班、瀬戸内海漁業調整事務所調整課、企画課検討室、漁場資源課を経て、2021年6月から現在、消費・安全局畜水産安全管理課水産安全室国際防疫係長。

牧野 誠人

1990年生まれ。2014年東京大学卒業後農林水産省入省。食料産業局総務課、同局企画課、島根県庁出向を経て2018年4月から水産庁企画課法案検討室に配属。2019年2月から同庁漁業保険管理官付、生産局総務課を経て、現在、総務省行政管理局副管理官心得(出向)。

西尾 暁

1981生まれ。2004年筑波大学卒業後農林水産省入省。文科省出向、在仏日本国大使館一等書記官、大臣官房秘書課課長補佐、水産庁企画課課長補佐(総括)、食料産業局産業連携課課長補佐、大臣官房文書課課長補佐(総括)を経て、2021年7月から現在、輸出・国際局輸出企画課国際交渉官。

矢花 渉史(司会)

1968年生まれ。1991年慶應義塾大学法学部卒業後、農林水産省入省。食料産業局、林野庁等勤務。この間、山形県鶴岡市、兵庫県等に出向。2015年10月から2020年8月まで水産庁勤務(水産経営課長、漁政部参事官、漁政課長)。独立行政法人水資源機構首席審議役を経て、2021年7月から水産庁漁港漁場整備部長。