水産振興ONLINE
629
2021年10月

座談会 平成の漁業制度改革

司会矢花 渉史 氏
長谷 成人 氏/山口 英彰 氏/藤田 仁司 氏/横山 健太郎 氏/森 健 氏/赤塚 祐史朗 氏/萱嶋 富彦 氏/
永田 祥久 氏/清水 浩太郎 氏/加悦 幸二 氏/中村 真弥 氏/木村 聡史 氏/藤田 晋吾 氏/塩見 泰央 氏/
冨澤 輝樹 氏/牧野 誠人 氏/西尾 暁 氏

座談会 平成の漁業制度改革(2日目) (つづき)

漁業法 (つづき)

第5章 漁業調整に関するその他の措置、第6章 漁業調整委員会等

矢花:順番としては、5章の漁業調整の部分と、調整委員会の6章という感じになるかと思いますが、萱嶋さんにまた口火を切ってもらっていいですか。

萱嶋:まずは第119条(漁業調整に関する命令)のことを言及しないといけないなと思います。漁業調整に関する命令は明治漁業法から伝統のある部分でして、これを削られる事態は絶対に避けたいと、私の中では名称死守と漁業調整と並んで、これはかなり優先度が高かったです。幸い法制局では、いろいろあったのですが最終的にいじられることなく残って、大変良かったと思っているので、一言コメントとして申し上げます。

変わり種としては、第124条から「協定の締結」というのがこの章に入っています。TAC法にあったような内容を、2章ではなくここに置いたというのも今回のみそだったところだと思っています。これが実際にどう活用されるのかというところはあるのですが、法的に申し上げれば、これが「漁業調整に関するその他の措置」ということで5章に盛り込まれているのは、全体構成としても意味があると考えています。

それから変わったところでは、131条に「停泊命令等」というのがあって、この辺の論点も今回整理ができたのではないかと思っています。132条の「特定水産動植物の採捕の禁止」のところも、これは私よりもっとおっしゃっていただくべき方がいらっしゃると思いますが、このような形で入ったのも大変特筆に値することだと思っています。

もう一つ、133条の「漁獲努力量の調整のための措置」もエピソード付きで出てきた条文だと思っていますので、後でどなたかから話があると面白いと思います。

それで第6章の「漁業調整委員会」ですが、ここは漁業調整機構ということで基本的なところを維持しつつ、任命の部分を改めたというのが最大のポイントだと思っていて、この辺りは国会でも話題になったところです。

矢花:ありがとうございました。いろいろな変遷を経て、この章にだいぶ重要な項目が入り込んでいる感じがします。今、挙げていただいた論点についていかがでしょうか。長谷理事、お願いします。

長谷:119条は、われわれが昔から聞いていたのは、これを省令でというのは大変なことだと、いじると危ないのだと聞いていたので、萱嶋さんが言われたように維持できて良かったということだけです。

調整委員会のほうですけれども、6月1日の水産政策改革についての決定前の、5月15日の規制改革推進会議の第15回水産ワーキング・グループにおいても、野坂座長がこう言われました。「過半数を漁業者の委員が占めているということで、新規参入を促す上では、それが客観的公平的に審査できるものかという点に非常に疑問を感じています」ということでした。

私は漁業の新規参入についても、これは洋上風力発電施設の建設にも通じる話ですけれども、地元協調型が参入の早道であるという認識を持っていますので、それだけでなくてむしろ漁業者の自主管理の伝統や co-management(注:官民一体となった「共同管理」)というわが国の漁業管理の特徴、そのよりどころとしても、漁業者主体の組織という点こそがポイントだという認識でいました。

一方、公選制のところでずいぶん議論がありましたけれども、農業委員会の公選制がなくなって委員会の選挙の実施率も低調な中で、省内に漁調委の公選制にシンパシーを持つ土壌は失われていると思っていましたので、公選制を残すことで漁調委の議論が将来に持ち越されるのは得策でないということを当時考えました。

矢花:ありがとうございます。森審議官もお手が挙がっているのでお願いできますか。

森:私は124条の「協定の締結」というところです。前回も言ったのですが、私はこの水産改革全体も、ある意味これまでの資源管理の政策の発展した先にあるという理解をしています。その中で、特に漁業者の自主的管理と公的管理というのを組み合わせた共同管理や、積みプラの導入以降に全国で進めてきた資源管理指針・資源管理計画体制をどうしていくのか、28年4月の基本計画の中に資源管理指針・資源管理計画に基づく資源管理を推進すると書いていたことについて、どうフォローをしていくのか非常に関心を持っていました。そういった意味で、資源管理基本方針の中にも漁獲可能量の管理以外の手法による資源管理に関する事項や、その他資源管理の重要事項というのが位置付けられましたし、さらに新しく漁業法に規定された124条以降の協定についても、既存の資源管理計画をかなり内容として想定し、それを生まれ変わらせて公的な位置付けを与えるという中身になった形で法定化されたのは、法制化に携わった方々は苦労されたと思いますけれども、大変意義があるのではないでしょうか。

現実に昨年、新しい漁業法下での資源管理の枠組みの中でも、資源管理計画を全て漁業法に基づく協定という形でブラッシュアップ、バージョンアップしていこうという方向性が位置付けられたので、この制度が整備されているのは大きな話ではないかと、意義ある話でないかと思っています。これをしっかり実のあるものにして、IQ管理以外の管理の手法としての協定を活用した資源管理の実行ということや、さらにそれを経営安定対策に結び付けて、関連付けていくということは進めていく必要があるのではないかと思っています。

矢花:ありがとうございます。藤田晋吾さん、お願いします。

藤田(晋):漁業調整委員会のところで1つだけコメントです。138条に委員の任命の規定があり、その第5項に「漁業者が委員の過半を占める」旨規定されています。さらにその上で、私としてはここが大事だと思っているのですけれども、「この場合において」というのがあって、漁業種類や操業区域等に著しい偏りが生じないように配慮すべき旨、つまり、様々なバックボーンを持つ委員が選ばれるようにすべきことが定められています。新しい漁業法の中で、海区漁業調整委員会が果たす役割は引き続き非常に大事です。そこには多様な意見が反映されていくことを私は期待したいと思っていて、この辺りの条文は、私は原案の時から大事だと思っていました。

実際に、私自身、静岡県庁で仕事をさせてもらっていたとき、海区漁業調整委員会において、いろいろな地域や漁業種類を背景に持つ漁業者の人たちが活発に議論を交わしていましたが、それが資源管理と漁業調整に、非常に良い効果を生み出していたと思っていました。そういう姿を思い浮かべながら、この辺りの条文を考えていきました。実際に書いたのは木村君で、海区漁業調整委員会の条文の整理はすごく頑張ってやってくださったので、ここはぜひ木村君にも発言をしてもらいたいと思います。

矢花:ありがとうございます。ご指名ですので、木村さんにお願いします。

木村:委員についてはある程度事前に調整されているというのが現場の実態としてあり、それが元々選挙という規定が入ったところの狙いと、現場がどういうふうに育ってきたかというところとで、当初との違いが出てきていました。

民主化という目的規定の中でこの海区漁業調整委員会が設けられたわけですが、民主化が着実に進んできて、その流れの中で海区漁業調整委員会がどういうふうに存在しているのが適切かという経緯の中で現在まで育ってきたところがある。選挙という制度に、現場が合わせる形になっているのではないか、時代に合わせた見直しをやっていく必要があったということではないかと思います。

そういう意味で、操業区域や漁業の種類の偏りという観点を考慮したり、学識者や公益委員の人数の内訳を厳密に決めていてそこに絶対に当てはめないといけないというところを柔軟にしたり、実情に応じて内水面漁場管理委員会についても置かないことができるような、ある程度現場の実態に合わせて柔軟に対応していけるようにしないといけないという意識があったものです。

矢花:ありがとうございます。藤田部長。

藤田(仁):選挙の話に関しては、選挙人名簿の作成が本当に正しいのか、法律どおりに資格もきちんと調べてできているのか、そういうところも問題意識があったということだと思います。

それと選挙そのものについて非常に都道府県の財政が厳しくなる中で、多くの都道府県で困っていたのだろうと思います。そういう中で、現実に起こっている状況と、他のところが選挙がなくなっている中で本当に続けていくのかというときに、この際に知事が任命する制度に改めたほうが長期的に見ると安定した形になるだろうという認識は間違いなくあったと思います。

それから、先ほどの知事許可と同じですけれども、旧65条というのは万能ですが、それであるがゆえに何でもできるというか、都道府県の人も含めて結構いいかげんな認識になりがちな部分があって、やはりやることが決まっている話はできるだけ法律に位置付けたほうが、制度の安定性という意味でもいいだろうという意識が従来からあります。それで、可能であれば停泊命令も漁業法に位置付けたほうがというのが、私の中にはありました。

牧野:停泊命令の関係で1点補足です。行政手続法関係の手続や行手法準拠の公開聴聞の規定は新漁業法でもおおむね変わっておりませんが、旧TAC法にもあった採補停止命令違反とIQ超過採補に対する停泊命令については、今回、聴聞の手続きをなくし、行手法の適用除外としています。当初は聴聞だけでなく、行手法第12条の「処分基準の策定」や第14条の「理由の提示」についても、命令の緊急性を理由に適用除外にするべく、制度所管の行政管理局と調整しておりましたが、停"船"命令のような状況ほど切迫した場面ではないこと等から、停泊命令の書面に理由を付記する、又は、真に緊急を要する状況が生じた場合は行手法第14条第1項ただし書の例外規定を使うという整理にして、最終的には「行政手続法第三章(第十二条及び第十四条を除く。)の規定は、適用しない。」という規定になっております。併せて、今回新設したIQを受けないで採補した場合の停泊命令や、漁具の使用禁止・陸揚げ命令についても同様に、行手法の聴聞等の手続は適用除外となっています。なお、第131条に基づく、これら以外の一般的な停泊命令等は聴聞が必要となっています。

矢花:ありがとうございます。今の関連でもいいですし、別の視点でも構いませんけれども、ご発言はありますか。山口長官。

山口:このパートは、いろいろな規定があるので、論点も多岐にわたるのですが、まず119条の話からいうと、先ほども話に出たように、知事許可漁業に関しては条文を大臣許可並みの準用規定を入れて整理して、通常の営業活動としての漁業については75条のほうで規制をするということで、119条1項のほうはかなり限定的な形態のものとして考えるということでいいと思っています。

また、同条2項というのは、さらに禁止の規定が入っていて罰則まで適用されるので、萱嶋さんから紹介があったように省令で罰則が作れるのは画期的かもしれません。一方で、罰則規定の量刑がかなり低くなっているのは、省令だからだということもありますが、もう一つは、ここの行為規制については、随時禁止するというか、想定していない事態が起きた場合にやめさせないといけないときなど、緊急避難的に措置を講じないといけない場合に使うことを想定しているからだと私は解釈しています。

ですので、恒常的に密漁みたいなことが行われたり、違法性の高いことが行われる場合まで119条の規定で規制していく、すなわち昔の65条のような規定のような運用をするのは、新漁業法の法目的に合わないのではないかと思っています。その一方で、132条を新設して特定水産動植物に対する重い罰則がかかるというのも、今後どこまで適用範囲とするかという課題はありますが、違法性の高いこと、即刻採捕をやめさせるべきときには、こちらの規定を使うようにすべきだと思います。

それから協定制度に関していうと、先ほど萱嶋さんからTAC法にも協定制度があるという話でしたが、実態は全く違います。TAC法上の協定制度はTAC管理のための協定を結ぶ、要するに数量の管理のための協定ができるという規定になっていますが、それはほとんど使われてこなかったのです。

一方で、先ほど森さんから話があったように、これまでは、国が策定した資源管理指針と漁業者が作成する資源管理計画に基づく自主的な資源管理が行われていました。今回は自主的な資源管理のほうを協定制度として法律に位置付けて、特定水産資源でなくても漁業者の合意で数量管理を入れることもできるようにしています。代わりに、利用実態が少ない都道府県TACやTAC協定をやめたりしていますので、その辺の整理について立法者の皆さんから、どういった考えでそうしたかを教えてもらえばと思います。

矢花:ありがとうございます。119条と協定について、萱嶋さんの手が挙がっていますのでお願いします。

萱嶋:119条については、明治漁業法以来の条文ですごく意義があると思う反面、まさに先ほど長官からあったとおり、何でもこれによってしまえばいいというのも本来ではなくて、恐らく本来の趣旨としては緊急事態に即応できるような省令や都道府県規則が作れるようにというところに眼目があったことを考えれば、どこの県でもやらなければいけないことや常に規制しなければいけないことは、法律本体のほうに書いていくこと自体は進めていくべきだと思っていました。ですから今回こういう形で進められたのはいいと思います。かつ、そういうこともやりながら119条が生き残ったというのは、そういった意味では大変いい前進だったと思います。

協定制度については、長官からもお話があって、おっしゃるとおり数量管理に限らず広く使えるという意味で、数量管理にも使えるし他にも使えるものを第5章の「漁業調整に関するその他の措置」に全部入れることで、2章から4章までを敷いて、その他の5章という項立てであることが明確になっています。そういう意味で、法律の構成としてもいい位置に入ったのではないかと感じています。

矢花:ありがとうございます。

山口:別な論点ですが、1回目の話題の中で、条文の位置があちこちと動いたものがあったり、その後実際に法制局長官・次長に上がるような事態になったときは、条数を変えては駄目だと言われて、かなり苦労したという話がありました。もう少し具体的に、どの条文がどう動いたのか、またはまとめるべき条文を残したり、一本立ち上げるべき条文をまとめたことなど、この際紹介しておいた方がよいと思いますが、どうでしょうか。

萱嶋:そういった意味では、本当だったらもっと整理したかったものがたくさんあって、冒頭からいくと3条と4条の法の適用範囲は統合したかったなど、そういうところからスタートして数は多くあります。

移せなくて苦労したという意味では、133条(漁獲努力量の調整のための措置)などの各章の最後にあるような条文は結構くせ者というか、パズルゲームをする中で活用したところです。他にも、密漁の関係をどこの位置に置くかというのは相当問題が起こりました。132条(特定水産動植物の採捕の禁止)の位置にはめるのは、最初は第9章の雑則にあったものを、これはやはり漁業調整に関する措置なんだと言い張って、何とかここまで持ってきたというのは、他の条番号を動かさないようにやらなければいけないというので大変苦労したということです。

それとまさに第7章以降の話をする時に申し上げようと思っていたのが、第9章の雑則の最初の174条(運用上の配慮)です。ここに運用上の配慮ということで、漁業協同組合の活動が健全に行われたり、漁村が活性化するようにしなさいと、これもなかなか苦労した条文で、恐らく藤田当時企画官も覚えていらっしゃると思います。これも元々はもっと後ろのほうにあったものを前にしてほしいという要望を受けて、第9章の頭に何とか持ってきたという話があって、本当はもっと前に置けというのもあったのですが、それは条番号上、無理だったなど、そのようなことが具体的にあったと記憶しています。

矢花:補足はありますか。

山口:また、別の話ですが、全漁連から多面的機能の条文を言われたのは、いつ頃でしたか。結構早かったですか。

藤田(晋):相当早くて、平成30年4月12日の自民党水産総合調査会で、全漁連会長から「国境監視機能を法律に明記すべき」との発言があったというのがあります。私が法案検討室に4月1日に配属となり、すぐそういう話があったと記憶しています。以後、それをどこにどう書くのかという論点が最後まで続くことになるのですが、スタートはその頃だったと思います。

矢花:森審議官。

森:海区委の関係で「過半数以上の漁業者に」というのは、これはどういう経緯ですか。その後国会などでも増やしたかったら増やせるという議論をして、大変うまく議論はできたのですけれども、ここはそもそもどういう発想で過半数以上という、上限なしという規定になったのか、私も記憶がないのでどういう考え方だったか、参考までに教えてもらいたいということです。

矢花:木村さん。

木村:農業委員会を参考にしているので、あちらは認定農業者を過半数と確か書いてあったと思います。また、漁業者中心であるという組織の性格は維持しないといけない。その中で、漁業者はまず過半数は絶対に必要であるという考え方でボトムの部分を定めて、そこからはある程度現場のほうで判断できるように意識していました。

矢花:ありがとうございます。現行は定数で定まっていて、9名でしたか?

木村:現行は漁業者が9です。