水産振興ONLINE
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2021年10月

座談会 平成の漁業制度改革

司会矢花 渉史 氏
長谷 成人 氏/山口 英彰 氏/藤田 仁司 氏/横山 健太郎 氏/森 健 氏/赤塚 祐史朗 氏/萱嶋 富彦 氏/
永田 祥久 氏/清水 浩太郎 氏/加悦 幸二 氏/中村 真弥 氏/木村 聡史 氏/藤田 晋吾 氏/塩見 泰央 氏/
冨澤 輝樹 氏/牧野 誠人 氏/西尾 暁 氏

座談会 平成の漁業制度改革(2日目)

漁業法

法律の名称と条文構成

矢花:それではよろしくお願いします。まず名称の件について、口火を切っていただける方はどなたかいらっしゃいますか。

萱嶋:漁業法を全面的に書き直すということになると、漁業法という名前自体が生き残るのかどうか、それから水産資源保護法やTAC法を統合した場合にも漁業法という名前が成り立ち得るかというところは、最初に相当、危険があるのではないかということで、法制局にはかなり慎重に持っていく必要があるということを、内部で相当検討していたことが一番記憶に残っています。「水産資源の保存並びに何たらに関する法律」という感じになる可能性があったので、薬事法の例なども踏まえて、そういうことにならないようにうまく説明しようというところで行った記憶はしているのですが、特に法制局でそういうことを言われなかったというのが、最終的に漁業法のままいけて良かったなと思っています。

それから構成のところも、これはかなり早い段階から皆さんで相当議論した記憶が、特に部屋の中で議論した記憶があります。章立てについてはかなり変遷を経ていたと思います。特に、第2章のところに「水産資源の保存及び管理」というのを置くかどうかというところで、それまでの漁業法は、今回の法体系でいうと第4章の「漁業権及び沿岸漁場管理」、特に漁業権の部分が初っぱなに書いてあったので、それを後ろに落として、本来であればその次にあった「許可漁業」を手前に持ってきて、TAC法にあったような内容をさらにその前に持ってくるということで、これだけ変えれば全て条文を見直さなければいけないということで、かなり議論もありました。ここの部分は法制局に最初に持って行くまでにも、中で見直しがあったと思いますが、最終的にこの形になって落ち着きが良くなったのではないかと思っています。

矢花:ありがとうございます。今のことに関連して、横山さんにお願いします。

横山:私のほうから補足というか、その時に法制局と直接調整されていた藤田(晋)さんや萱嶋さんや塩見君に確認させていただきたいところがあります。漁業法という名称は、まさに漁業ということで「なりわい」を管理するための法律で、一方で漁業法の中には一般の採捕を禁止することが制限できる規定もあるわけです。そこが一時期、論点になっていたやに記憶しているのですが、その時にどういう理屈で漁業法、なりわい法というものの名称等を維持することができたのか、そこをもし記憶がありましたら教えていただけると、今後のためになるかと思ってお聞きした次第です。

矢花:藤田晋吾さん、お願いします。

藤田(晋):正直、名称はそこまで議論にならなかったというのが私の印象です。確かに、法制局審査に行く前は、先ほど萱嶋君が言った説明に尽きるのですけれども、萱嶋君はホワイトボードに「漁業法の名称は絶対死守」というのを書いて、漁業法という名前が変わるぐらいだったら、法改正をやらないほうがいいというぐらい彼は言っていて、私もそれは同感でした。せっかくの三文字法を変えるのは変だと思っていたので、そこは心配しましたが、法制局の中で名称に関する議論はほとんどなかったというのが実感です。

矢花:確かに、たこ部屋ができた4月の頭から名称の議論が始まっていて、やはり名前は残そうというのが強く皆さんの意識にあって、心配はものすごくしたのですけれども、結果的にはすんなりと名前は残ったという気がしています。木村さんの手が挙がっていますので、どうぞお願いします。

木村:タイトルはそれほど論点とはならなかったのだと思います。それは結局、漁業法自体が、その中にも漁業調整などのワードがありますけれども、別に資源管理というところを排除していたわけでもなく、一体的に漁業法とTAC法を運用されてきたので、漁業法の枠の中に資源管理の仕組みが入ることについて違和感がなかったということだろうと思います。

矢花:ありがとうございます。山口長官と長谷理事にお願いします。

山口:私の理解で言うと、水産改革の議論が始まったときには、漁業権や漁業許可制度を見直すのだという議論でした。漁業法を改正するという意識はみんなにあって、漁業法を他の法律に置き換えようということは、外部からもあまり意見がなかったのではないかと思います。通常の場合だと、TAC法と漁業法という元々別法として立てられた法律を1つの体系に統合する時は、2つの目的をもった法律が1つになる以上、目的や法律の内容が膨らむので、これを表す名称が元のままではもたないのではないかということが議論になるところです。ただ今回の整理は、「水産政策の改革の方向性」や「水産政策の改革について」(上巻巻末参考資料1)の紙の中でも、「漁業の基礎は水産資源であり、資源を維持回復し適切に管理することが漁業の前提である」と整理がなされていて、それを目的の中にも書きこんでいる訳です。そこはまた目的の議論のところで行ってもらえばいいのですけれども、水産資源を適切に管理するのが漁業の前提だということを明確にしたということが一つ大きなポイントだったと思います。テクニカルに言えばTAC法の目的規定に「漁業法や水産資源保護法と相まって」と書いてありまして、「相まって」の意味は、これらの法律と補完し合ってということですから、本来は漁業法の中に入れてもいいものだけれどもあえて分けたものとも言えます。そういったこともあって、漁業法に入れること自体への抵抗感はみんなになかったのではないかと思います。

矢花:長谷理事、お願いします。

長谷:言いたかったのは今の山口さんの話に近いと思って聞いていました。個人的には、漁業法に関わる仕事を長年やってきて思い入れが強いので、「漁業法をなくした長官」となるのは嫌だなという考えが頭をよぎりましたけれども、一方でそのように名前にこだわっている場合ではないと思い直したりしたことを思い出します。

それで法制局の話が出ましたけれども、山口さんも言ったように、名称変更について他からも強い意見は出てこなかったと記憶しています。「70年ぶりの漁業法改正」というフレーズは水産庁が言い出したものではないですが、法制局以外からの反応としてはこのフレーズの効用もあったのかなと思いました。

矢花:ありがとうございました。名前は当然、法律の構成や目的などを踏まえての題名ということになるのですけれども、今回TAC法を取り込み水産資源保護法を一部取り込んでという条文構成になり、最終的にこの形になったわけです。藤田さんにコメントをもらっていいですか。

藤田(晋):これは法制局審査の初期段階で、漁業法という美しい3文字法の名前を残したいんでしょうと問われ、その通りですと伝えたことは確実に記憶しています。われわれの思いを汲み取ってもらったということなのかと思っていました。

矢花:ありがとうございます。では、少し名前とも関わるのですが、条文構成の話を、萱嶋さんの手が挙がっているのでお願いします。

萱嶋:構成の話、法統合の話にもなるところで、極めて大事な論点をここで1つ申し上げたいと思います。恐らくここでやっておかないといけないことは、漁業調整という言葉がどこまでを指すのかという議論だったと思います。

水産庁の理解としては、元々漁業調整というのは、「水産動植物の繁殖保護、漁業取締その他漁業調整」という概念であって、昭和24年の法律を作った当時からの流れは、漁業調整が全てを包括しているというものであったわけです。さらにさかのぼれば、明治漁業法では「水産動植物ノ蕃殖保護」と「漁業取締」という2つだけが書いてあり、この2つだけをやるのかというところを、昭和24年の昭和漁業法制定のときに、これらをさらに「その他漁業調整」という言葉でくくることで包括的な概念としました。つまり、水産動植物の繁殖保護と漁業取締りというものをさらに含んだ一番広い概念が、漁業調整であると考えてきたのが本来のところです。

したがって、今回の法律というのも改正しようと考えた当初の考え方としては、とどのつまり、TAC法や水産資源保護法に書かれている措置というのは、本来的に広い意味で捉えればその中に入るわけだから、これらを全部含めて漁業法の中に統合することは問題ないというのがあったと記憶しています。

ただ一方で、そのようなことはないと、「水産資源の保存及び管理」という概念は漁業調整の外にあるのだというのも一方の考え方としてありました。その話を突き詰めてしまうと、同じ法律でいいのか、あるいは漁業調整というのが狭くなってしまうという論点があって、そこを避けないといけないというのが、先ほどの題名と構成の話の間にあった一番大きな論点だと記憶しています。

最終的にはその辺りを何とか取り込んで、漁業調整という言葉をとにかく狭い意味で使わせないというところが、確固たる関係者の認識として法制局の議論に当たったのではないかと思っています。第6条(国及び都道府県の責務)のところで漁業調整という言葉をあえて出さないで、これらが全部、漁業調整であるとわれわれとしては認識しようというのが思いとしてありました。最終的には、そういうふうにできたと評価しているところが恐らくあると思うので、ここは議論の相当深い部分だと思うので、まず提示させていただいた次第です。

矢花:ありがとうございます。藤田晋吾さん、お願いします。

藤田(晋):今の話と関連するのですけれども、漁業法をTAC法を取り込むような形で、言葉も含めて全面的に書き直すという話になった時に、審査の初期段階で、昭和漁業法は昭和の前半にできている法律なので言葉遣いが非常に古くて曖昧な部分があるから、その辺りについては必要に応じて書き直すつもりでやってもらうことになるという話を言われていました。その中のターゲットの1つとして挙がっていたのが、漁業調整という言葉でした。その漁業調整というのが何を指すかということについて、この後、各条の話の中で出てくると思いますけれども、漁業調整と資源管理という言葉の整理をするというのは条文を作る上で難しかった論点の1つになっています。

矢花:ありがとうございます。これは一大論点になってしまうので、どこで議論しましょうかという感じです。

藤田(晋):今の話を議論するのにちょうどいいのは、資源管理と漁業調整の概念整理が如実にぶつかるところが2章と3章の間にあります。その辺りを2章でどこまで書いて、3章でどこまで書くか、資源管理を指している部分の2章と、3章以降で許可が入ってくるわけですけれども、それがぶつかってくる辺りが一番議論になります。具体的な条文でいうと、17条の4項などになってくるのですけれども、その辺りを議論するときに萱嶋君から解説してもらうのが一番いいかと思います。

矢花:分かりました。では、そこでまた深い議論が要るということで整理をして、萱嶋さんからまた手が挙がっていますのでお願いします。

萱嶋:条文のところでまた話は出てくるのですが、章立てのところも話をしながらいろいろ思い出したので申し上げたいと思います。

先ほど出たように、まさに漁業調整というのを広く捉えて、ただ漁業調整の中には歴史的に水産動植物の繁殖保護があったから、当然その辺りとして資源管理が含まれるという理解がわれわれとしてはありました。したがって、歴史的にいうと水産動植物の繁殖保護が1番に書いてあって、漁業取締りが2番にあって、その他漁業調整というふうに全部でくくってあったというところを、何とか同じような形で反映させたい思いもあった中で、この章立てができているというふうに記憶しています。

つまり、最初の総則は当たり前として、第2章のところで、昔の言葉でいう「水産動植物の繁殖保護」に該当するところを、新しい近代的な「水産資源の保存及び管理」というところで話をまず持ってきて、きちんとそこの資源管理をやりますというのを土台に載せた上で、けれども資源の管理というのは実際の漁業を成り立たせるための前提条件であるから、それに基づいてやっていくところの漁業ということで、次に具体的な漁業が来ます。

しかもその中では、どちらかというと全国的あるいは海外も含めてやっていく広い意味での漁業である許可漁業が先に来て、それは今出た水産資源の保存および管理に密接な関係があるからという話もあって次に来て、その後にそれ以外のわれわれの認識としての漁業調整の一環である第4章「漁業権及び沿岸漁場管理」というのが次に来ます。それらを書き下ろした上で、かつまだ書かなければいけない「漁業調整に関するその他の措置」があるということで、第5章に来るというふうにしています。そして今言った第2章から第5章までの全ての話に関連するということで、次に第6章の「漁業調整委員会等」が置かれています。あとは歴史的経緯などもろもろがあって、その後ろに書いてあったものとして第7章、第8章、第9章、第10章という構成がそのまま生きているということです。特に第2章から第6章までの順番を講ずるところが議論の対象であって、最終的には今言った歴史的な流れをうまく踏まえた形で書くことができたのではないかと思っていたので、ここで紹介したいと思います。

矢花:ありがとうございます。すごく頭がすっきりとしました。この関連でどうですか。またこの部分は行ったり来たりするのかもしれません。

山口:今、萱嶋さんの説明が、法制的な説明はそういうことだと思います。法律成立から2年が経過して私が思っているのは、「水産資源」がベースになるということが、今回の漁業法の改革を貫く思想となっているのではないかということです。これも条文のところに出てきますけれども、水産資源という定義は今までなかったのですが、今回は「水産資源」に関する定義規定を置きました。「水産動植物のうち有用なもの」、つまり有用資源ということだけれども、それをどう守るか、どう活用していくかということが、今回の法律の全体を貫く考え方になっています。

今までの明治漁業法や昭和漁業法は、資源よりもそれを獲る漁業者、漁獲主体をどうやって調整するか、規制するかということが中心だったと考えます。これを資源をベースにものを考えるようにしようということが大きな変革で、それに応じて条文を変えています。それで、資源管理の規定が真っ先に来て、その次には、資源をたくさん獲るのはどちらかといえば許可漁業なので、許可漁業の規制を置いて、その管理をきちんとやりましょうという話が出てくることにして、漁業権のほうは沿岸のいろいろな漁業があるので、それも自主的にやるものもあるので後ろのほうに持っていったというのが、水産資源の管理をベースにする考え方としていいのではないかと思います。