水産振興ONLINE
629
2021年10月

座談会 平成の漁業制度改革

司会矢花 渉史 氏
長谷 成人 氏/山口 英彰 氏/藤田 仁司 氏/横山 健太郎 氏/森 健 氏/赤塚 祐史朗 氏/萱嶋 富彦 氏/
永田 祥久 氏/清水 浩太郎 氏/加悦 幸二 氏/中村 真弥 氏/木村 聡史 氏/藤田 晋吾 氏/塩見 泰央 氏/
冨澤 輝樹 氏/牧野 誠人 氏/西尾 暁 氏

座談会 平成の漁業制度改革(2日目)(つづき)

漁業法 (つづき)

第2章 水産資源の保存及び管理、第3章 許可漁業

矢花:萱嶋さん、お願いします。

萱嶋:別の論点を提示したいというところがあって、今の話を受けてお話をしたいと思います。たくさんあるのですが、第2章、第3章(許可漁業)のところで、せっかくの機会なので私から言及しておきたいのが4点あります。

1つ目が、先ほど話題になっていたIQの部分です。実際にやっていくのかどうか、どういうふうにやっていくのかという話は、先ほど議論があったので私からは何も言いませんが、17条から29条までの具体的なIQの部分の規定は、かなりの部分が本法初書き下ろしのところが多発しています。今後、他の法律でも相当参考にされるのではないかと思っているので、その旨を申し上げておきます。この辺りの条文は、国際的な二酸化炭素排出権の取引に関する規定などを参考にして作っているものの、いろいろな種類のIQがあるという中で特性を踏まえて書いていったもので、ここは法律にしたという意味では最難関の場所でした。私も当時の熱田法令審査官と、ここのところはとにかくいろいろなことを書いては消しとやったところなので、それはここで言わせてください。恐らく実際にやっていくと、またいろいろ問題があると思うので、話題になっているIQ化がだんだん進んでいけば、また改めてしっかりと見ていただく必要があるのではないかと思っています。少なくとも、旧TAC法の規定より充実していることは間違いないので、うまく活用していただければありがたいと思います。

2点目が、3章のほうも話さないといけないので申し上げますが、第3章「許可漁業」の始まりの条文である36条(農林水産大臣による漁業の許可)です。ここは許可漁業の概要を書いているわけですが、第2項の部分で「漁業調整」という言葉が使われています。いろいろなことを書いていますけれども、要は基本的に漁業調整で何でもしっかりやっていかないといけないことを言いたかったのが趣旨なので、その意味において念のためここでもう一回言及しておくものです。

3点目が、これはあまり私の専門ではないですが、第43条の「公示における留意事項」は大変な議論があったと思います。ここは関係する皆さまから言及いただいたほうが今日の趣旨に合うのではないかと思うので、まず提起だけしておきます。

最後が、45条の「継続の許可」という部分です。この話も許可漁業制度の話を論じる上で重要だと思うので、これは私のほうから申し上げたいと思います。元々、昭和漁業法ができたときは、新規許可に対して継続許可を出していくというのが原則として書かれていたわけです。しかし、昭和37年の法改正の時に継続許可の発想はおかしいということで、一斉更新制度を導入しました。その時に継続の許可というのが表現上は消えて、一斉更新するときの勘案事項として書くという形になっていました。ここについては皆さまのほうでご意見があったところで、平成10年を超えた後の改正のところで一段階昔の状態に戻したところであったわけですが、今回はさらにそれを巻き戻して、どちらかといえば昭和24年の書き方に近い形に戻しているところがあります。歴史的変遷という意味ではこの部分に言及したかったので、4点目として申し上げたものです。

以上、4点お話しさせていただきましたので、特に第43条の留意事項については、ぜひ関係者の皆さまからお話しいただけるとよろしいのではないかと思います。以上です。

矢花:ありがとうございます。横山さんの手が挙がっています。

横山:まずは資源管理についていえば、21条の漁獲割当割合の移転のところです。まさにここはいろいろ議論した時に、ITQを認めるかどうかというのが外で非常に議論になったところだろうと思います。条文上は、船舶を譲り渡す場合以外に省令で定める場合に認められることとなっており、一見、省令で規定できる範囲が広い規定になっています。当時の説明としては、あくまでも県が認可しているし、船舶を譲り渡すときに限って行うものであることから、行政の関与や漁業の実態が無く自由に売買を認めるという意味でのITQについては、改正後の法律でも認めていない、としています。今後この条文を極めて限定的に運用していくのか、広げることも含めて運用していくのか、この条文でどこまで許容しているのかということも含めてみんなで認識共有することが、今後のITQの議論をせざるを得なくなったときに、法改正の要否などを検討する上で、重要になると思っています。その点について問題提起をさせていただければと思います。

2点目は、43条(公示における留意事項)です。萱嶋君がただ今論点として出していた留意事項です。ここは数量管理してIQを導入したら、当然、トン数制限はなくなるだろうというのが最初から水産改革の議論としてあった中で、なかなかそこは条文に書きづらいところでした。ただ、努力規定ぐらいは書いておかないといかんのではないかと個人的に思って、当初条文の検討段階で案の中に入れていたわけです。しかし、それがいつしか省内幹部との主要な論点になってしまい、かつ法制局に行った時には、法律に書く以上はもっと具体的に書く必要があるという議論になったところです。最終的に、条文の対象は公示する場合となっており、今回から継続許可は新規許可のような公示プロセスを経ないことになったため、継続許可については除かれていることとなっています。個人的には、この条文について、ぎりぎり詰めて具体的に書きすぎると逆に円滑なトン数制限の緩和に支障を来すことになるため、抽象的な努力規定ぐらいにとどめておくべきと思っていたところ、それで法制局審査の段階でどんどん具体的に書き始めて、嫌だなと思っていたら、最後は新規許可の部分に限定するような書きぶりになったので、ホッとした記憶があります。そういうことで、この条文をどこまで具体的に運用していくようにすべきかが、もう一つの論点ではないかと思っています。

最後に57条(都道府県知事による漁業の許可)の知事許可のところです。今回、漁業法の中に知事許可漁業について明確に書いたというのは、漁業許可は将来的にIQを配分する枠組みになることもあり、知事許可をきちんと法制度の中に位置付けて運用して、透明化していこうというのがわれわれの目的だったと思っています。

そう考えたときに、最初は全ての知事許可をこの枠組みに載せるようにしておいたほうがいいだろうと思っていたのですけれども、最終的に法制局の議論の中で「定数を管理するものについてはこの規定による」という書きぶりになっています。

今後各県で知事許可はできる限り定数化して公明正大にやっていくという思いが考えとしてある一方で、なかなか現実としては難しい状況があります。この規定について、水産庁として各県に定数化していないものはできる限り定数化させて運用していこうとしているのか、定数化している部分については57条の規定に載せて、定数化していないものは引き続き昔の漁業調整規則の中で運用していけばいいというぐらいで、両にらみで淡々とやっていくのか、水産改革をしたメンバーの中でどういう考え方で運用していくのか改めて問題意識を共有していくことが重要ではないかと思っています。

矢花:今、萱嶋さんと横山さんから、少しかぶるところもあったと思いますけれども、1つはIQで、特に移転の考え方というか、どういうものがどういうことを目指していたものかということはメッセージとしては大事なところかと思います。それと先ほどから出ている漁業調整の考え方です。どういう概念の整理をしたのかということと、非常に論点になりました留意事項は何を意図したものかということ、それと最後の許可の考え方は歴史的な変遷もありましたけれども、最終的に今回の制度でどういうところにいて、それが知事許可の範囲ではどこまでカバーしていくのか、そのようなところだったと思います。時間も限られるので、今提示いただいた論点の中でコメントを頂けるとありがたいのですが、どうでしょうか。木村さん、お願いします。

木村:IQを移転する要件は、省令で船舶を移転するときや、自分が複数の船を持っている場合はその船の間でやりくりするということが書かれています。また、IQと漁業許可の接続の部分はしっかり運用を考えないといけない部分です。今の漁業法の条文は第2章で資源管理を独立していて、IQはIQのみ単独で立ち得るような条文になっていますが、第17条第4項にあるとおり、漁業許可を組み合わせて一体的にやれるという構成になっています。実際の運用としても漁業許可と組み合わせる形が想定されているところです。

定数化のところは、中村さんから話していただいたほうがいいので、取りあえず以上にしておきます。

矢花:ありがとうございます。お名前が出ましたけれども、中村さんはありますか。

中村:その部分がこちら側でパソコンのトラブルが起きていて聞けなかったのですが、申し訳ないですが横山さんにもう一回教えてもらっていいですか。

横山:今まで知事許可の部分では、旧法65条に基づき漁業調整規則を作れば、罰則も含めて許可制度を作ることができたわけです。それを今回の改正で知事許可について条文上で規定したところですが、一方でその条文の中では、法制局の審査の過程であくまでも定数管理しているものが対象になる枠組みになってしまいました。そういう中で今後は各知事許可を管理するに当たって、極力、条文の57条の規定に載せて管理していく方向で考えていくのか、もしくは定数管理したものは57条でやって、それ以外の分については引き続き旧法65条の改正後の規定である119条(漁業調整に関する命令)の規定でやっていくというような、あくまでも都道府県の裁量に委ねてやっていくのか、水産庁の方向としてどういうふうに指導していくのかを、法の精神として共有しておいたほうがいいのかと思っています。

中村:ありがとうございます。横山さんがいらっしゃった時はそういう話で検討を進めていましたけれども、その後いろいろな方との調整もあって、横山さんが話していたのは57条が定数、119条1項が非定数というので進めていたのですが、その後の結論として、57条で知事許可を運用していくこととしました。大臣許可を準用しているのだから、その中身が定数か非定数かで分けるべきではないということです。

では119条1項をどうするかというのが残っています。119条1項は、公示をしないで許可するようなもの、つまり特殊な試験研究で、例えば虎網をやりたいなど、この人がもうかる漁業創設支援事業ではないですけれども、そういったものを許可するときに使うのだという考え方の整理をして措置をしました。都道府県漁業調整規則例の中にはそれを定めたのですけれども、実際に試験的な許可を規定した県は、今のところはどこもありません。このため、57条1項の許可によってだけ、今のところは運用されていくことになります。一方で、定数か非定数かというところですが、その一歩前で、大臣許可と違って知事許可は、対船許可か対人許可かというところがまずあります。調整規則を改正する中で、県によっては全て対船許可に変えてくるところもありました。その上で定数をどうするかというところですが、この定数の考え方は、ここもこれからかもしれないですけれども、公示して許可する、あるいは継続だったらそこで一定のキャッピングがされますので、増やしていくときには追加公示になっていくため、定数を定めたほうがいいという話を県にしています。定めなくても、効果として公示されている数が既に定数になってきているという考え方もあると思います。また、これまで国のほうで定数を定めていた法定知事許可漁業の許可枠もいくつか整理をして、中型まき網漁業は国による許可枠を残しましたけれども、キャッピングを外しても県の中の運用でやっていいという整理はしました。

矢花:ありがとうございます。

木村:公示に関する留意事項ということで43条の話もしておこうと思います。基本的にIQの対象になっていくことが前提になっているので、目下IQを入れていこうとしているところであり、直ちに43条の運用が始まるわけではありません。ただ、この条文の存在は認識されているので、IQが進んでいって、こういう状況になったときには、制限措置を定めないと理解しているということです。先々に資源管理が進んで資源状況が回復してもっと枠を増やしていいという状況になってから公示をして、かつIQが入っていたときには、資源管理はIQでやるのだという前提でトン数制限を定めないと、そういうふうに理解してやっていくというところが現状だと思います。

矢花:ありがとうございます。藤田部長、お願いします。

藤田(仁):まず知事許可漁業に関していうと、運用が沿岸遊漁室の時もそうでしたけれども、県によっては行政機関の手続きとして本当にそれでいいのかと思うことがたくさんありました。やはり法律制度に基づくものとしてしっかりしたものにしたほうがいいという認識があったのは事実です。

それからIQに関して言うと、先ほどから出ている17条、43条の部分は、一番端的にわれわれが思ったのは、(トン数制限だけでなく)船舶の数も定めないと法制局参事官が言ってきて、そのときにIQがあれば別に許可は要らないという話になっているわけです。全体の構成としてもそうなっていて、なるほどそうだなと、つらつらと頭で考えてみるとIQがあれば別に許可は要らないところで、そういうところはわれわれの頭の切り替えが必要だった部分ではないかと思っています。

矢花:ありがとうございます。萱嶋さんからまた手が挙がっていますので、お願いします。

萱嶋:今の藤田(仁)部長の話を聞いていろいろ思い出したのですが、確かにこの部分と17条4項は、皆さまからも言及がありましたけれども、ここはかなり法制的にも面白い論点だったと思っています。元々、法制局では、個別割当てをしていれば別に許可は要らない、そもそも何で別に許可があるのかというところがあって、そういった意味では全く無関係の制度として構築すればいいではないかと論理的に考えた話が出てきていました。われわれは、許可があることを大前提にIQをする場合には想定していたので、正直そこの部分の衝突というか考え方の違いは、かなり法制局で説明するときには大変なところでした。最終的に17条4項で橋渡しをして、だから若干ここは同床異夢ですが、これによって実際のところは許可を前提としてやっていくことができるとなったと記憶しています。面白かったのは、まさに法律の構成上、先に第2章で個別割当ての話を書いて、その後に第3章で許可漁業が出てくる順番になったことが、1つの原因だったのかなと思っています。実際に今思い出したのですが、構成の時も最初に資源管理を大きく書いて、その後に許可漁業の話をして、その後に個別割当てのことを書くというのが案として一時あったので、最終的に17条4項が橋渡しの機能をし得るようになったのは、結果的に良かったなと思ったことを思い出しました。

矢花:ありがとうございます。藤田晋吾さん、お願いします。

藤田(晋):今の萱嶋君の話に尽きます。ここの部分の17条4項をどう書くかというところで、「2章、3章問題」などと法案検討室ではよく言っていました。ここは、概念整理をストレートで考えた参事官の頭と、従来の体系を頭に置いたわれわれの議論がぶつかった、一番象徴的なところがここだったと思います。

それで論点を拡散して申し訳ありませんが、1つだけ現役の方に今の運用があれば教えていただきたいと思っているのですけれども、許可のところで文言を入れるのに法制局との議論で悩ましかったのが、41条に許可の適格性が書いてあるわけです。この中に1項6号で生産性という言葉が入れてあります。「漁業を適確に営むに足りる生産性」を有しない者には許可しないという適格性のところで、法制局はそもそもなぜ適格性なのだというところから始まり、入れるのに苦労したのですが、今のこの辺りの運用はどういうふうになっているのか気になるので、教えてもらえたらありがたいです。

矢花:生産性は、木村さんいきますか。

木村:元々経営的基礎を有するかということで破産法人や清算法人は駄目だという運用をしていたのですけれども、改正法では「生産性」に置き換わるとともに、勧告という仕組みが入り、勧告に従わなかったときは取り消すことができるという条文構成となりました。生産性というところをどうやって受け止めるのか、勧告をするにあたって生産性を有しないということをどのような基準とするか。その考え方としては、あくまで許可の適格性として位置づけられている事項なので、ボトムの基準として、許可をそもそも受けられるか、受けられないかという基準になります。そうした適格性に入っている趣旨を捉えて、漁業を継続的に行えるかどうかという整理とし、そこからの発展で漁業者の経営面を見ていこうという形にしました。元々、許可申請の時に貸借対照表を出してもらったり、そもそも船がないと駄目だというのはチェックしていたので、それに加えて決算書から償却前利益を見ていくことにしました。その部分であまりに経営状態が悪いということであれば勧告していくという形になります。経営面にどこまで入っていくかというところは議論があったのですが、これまではある程度魚もいて、漁業で問題なく経営できたというところから、資源も厳しくなってきて単に魚を取るだけでは駄目で、いろいろ工夫なり生産性を高めるところが必要となってきている。そこをやれる人に許可を持ってもらうということです。漁業者が減少している中で、それを単に見届けるだけではなくて、あらかじめ注意喚起をすることも考える。漁業を継続できるかどうか、経営を継続できるかどうかという視点で考えて、決算書を毎年もらって経営の状況や利益の状況を見て運用しようとしています。改正法が施行されたところなので、まさにこれからの話になるのですけれども、そういった部分を水産庁として見ていくということです。

矢花:ありがとうございます。中村さんからも手が挙がっているので、お願いします。

中村:適格性の話になったので聞いてみたかったのですけれども、資源管理の18条(漁獲割当割合の設定を行わない場合)の適格性は経理的基礎で、ここの許可のところは生産性で書き分けられています。資源管理と許可のリンクというところで、これまでの用例が経理的基礎で、許可のほうは一歩先に行くんだということで生産性と書き分けられたのかもしれないですけれども、そこの思いの違いを教えていただければと思います。

藤田(晋):昭和漁業法では、許可又は起業の認可の適格性として、第57条に「漁業を営むに足りる資本その他の経理的基礎」を有していることが要件として規定されていました。このため、改正漁業法を検討する中では、まずは、「経理的基礎」という用語を用いる形で、資源管理の18条(漁獲割当割合の設定を行わない場合)及び許可の41条(許可又は起業の認可についての適格性)に相当する条文の原案を作るところから始まりました。その後検討を重ねる中で、大臣許可漁業については、限られた許可者の中で、相当量の漁獲を行う漁業種類であることを踏まえると、第1条の目的規定にあるような国民に対する水産物の安定供給という使命を果たすためには、許可で認められた範囲内で最大限の漁獲を継続的に行い得る者が許可者の太宗を占める構造にしていく必要があると考え、許可の要件について、単なる財務面ではなく、成長性の有無により判断する基準とするため、「生産性」を有することに変更したということです。

なお、その際、昭和漁業法では、「経理的基礎」を欠いた場合、直ちに許可の取消事由となっていましたが、これは過剰に厳しい措置ともいえるため、改正漁業法においては、「生産性」を有しないこととなった場合でも、直ちに取消事由にはならず、まず必要な措置を講ずべき旨の勧告を行うこととし、その上で改善が見られない場合に取消事由になるという形に改正されています。

山口:生産性については規制改革会議でも議論になったと思います。その背景について私なりに理解しているのは、漁業許可というものは「禁止の解除」に該当するもので、一定のメンバーだけが利益を享受する地位を得られるものなので、産業に貢献しないような人たちがいつまでもそこを占めていると他の人たちが入れないので、そこの産業として特権的な扱いを受けている人々は常に努力しなければいけないのだという趣旨だったと思います。

37条の「許可を受けた者の責務」の中に、「漁業の生産性の向上に努めるものとする」という規定が入っています。そういう努力義務が規定されたからこそ、適格性の中でも生産性の低い者は駄目だということが入ったのだと思います。この場合の生産性の解釈ですが、資源管理をしてIQが入った中の生産性ということになるので、たくさん獲ることで生産性を向上させるというのはマッチしないと思います。解説書などでは、生産性は、「生産要素の投入量に対する産出の割合」ということなので、ぼんぼん燃油をたいて船をあちこち動かして魚を取ることが良いのではなくて、IQ導入のメリットでも言われているようなこと、急いで漁場に行く必要がなくなるとか、質の良い魚がいる時期に操業を集中するとか、高く売れる時期に操業するなど、操業や経営の工夫をしながら生産性を高めることが求められているのだと理解しています。

矢花:ありがとうございます。この範囲でいくと、提示していただいた中では一番大きな漁業調整の話が残っています。そこをやってから休憩に入って、次にいきたいと思います。先ほどの漁業法36条2項のところで、漁業調整の定義が出てくるのですけれども、ここのワードの使い方が今回の改革の整理の中でこの定義に落ち着いていったということだと思います。この点についてご発言のある方はありますか。藤田晋吾さんからお願いします。

藤田(晋):話の前提として、法制局でどのようなことを言っていたかをまず共通認識としてご紹介しますと、先ほど申し上げたように、当初から法制局の認識としては、新法として作り直すぐらいの話なのだからと、漁業調整や漁業上の総合利用という旧法の中にあったアバウトな文言は書き直すのだという話からまず始まったということが1つです。その辺りについて、法制局からたくさん指摘が下りてきたと記憶しています。特に初期の段階ですが、資源管理と漁業調整という概念上の関係がよく分からないということを言われています。資源管理と漁業調整という2つの大きい概念があって、それと許可や免許がどういうふうにこの概念につながるのか分からないから、それを整理しろというところから法制局との間で議論が始まった経緯があります。その後の話としては、先ほどの皆さんの議論のように、IQが先に規定されて、17条4項で3章以下と接続させるという話になっていくわけですけれども、IQがきちんと機能していれば許可などはそもそも要らないのではないかという議論になるわけです。前段としてそういう話があったということをここでご紹介します。

矢花:ありがとうございます。藤田部長さんから何かご発言はありますか。

藤田(仁):正確に覚えていないのですけれども、萱嶋さんやみんなが、漁業調整と資源管理を分けてしまわないといけないという議論で法制局との関係ですごく悩んでいて、もっと斜めに引ける(注:切り分けるのではなく概念が重なる部分があって、それぞれの重みが徐々に変わる)のではないのかという議論をして、それから議論の整理がしやすくなった記憶があります。それは何だったか覚えていないですか。

矢花:萱嶋さんの手が挙がっていますので、お願いします。

萱嶋:本当に懐かしいです。当時たこ部屋のホワイトボードで毎日のように新しい図表を書いて、ああだこうだと私がいろいろ言っていたのを懐かしく覚えています。その中でも、今の漁業調整は最難関でした。イメージとしては、法制局的な発想では第2章が資源管理で、第3章・第4章が漁業調整なるものかと、そういうところがありました。漁業調整というのは資源管理を含まない、しかも狭いものなのかみたいなところがあって、とにかくきっちり説明しないと漁業調整は言葉としても使えないどころか、概念としても消えてしまうという状態にありました。そういった中で、歴史的な意味における水産動植物の繁殖保護に関するものというのは、別に第2章に書いてあるところの狭義の資源管理だけではない、他のところもあるよというのが言いたかったことの1つだったのではないかと思っています。そういう意味において、狭義・広義という言葉ばかりにすると良くないのですが、いずれにせよそういう意味で漁業調整というのは広く捉えないといけないというところから、こういう形にだんだん落としていったのではないかと覚えています。

藤田(晋):僕も思い出しながらですけれども、法律の建付けを議論していた初期の段階で法制局から言われていたのは、資源管理の話は数量管理なので、これはIQでありTAC管理であり、条文上は2章で完結しているでしょうと。漁業調整というのは争い事の調整の話であって、だからこそ許可をしたり免許をしたりするんでしょうと。だから条文上は3章、4章でしょうといった整理がありました。このため、許可には争い事を調整することを目的とするものだけではなく、漁業調整という言葉の中には広く言えばそういうことがあるのだということを説明していたけれども、なかなかそれが理解してもらえなくて、分からないと何度も言われていました。それで例えば何なのかという話になったことがあって、例えば小さい魚を取ったら駄目なときだってありますよねと言って、量は決めたとしても小さい魚を取り過ぎたら後々資源が傷むでしょ、だから小さい魚を取らないように許可でしばることも必要な場合もあるんですよという話をしたところ、何となくその辺から少しずつ分かってきてくれたような感じがありました。それで先ほどの藤田(仁)部長がおっしゃっていた斜めに書いた線というのは、資源管理のツールがTAC・IQで、漁業調整のツールが許可・免許という1対1の関係にあるのではなく、資源管理のツールとしても許可・免許があるという、そういう斜めの線があるのだということを図を描いたということです。萱嶋君、さらに補足してください。

矢花:萱嶋さん、お願いします。

萱嶋:そういうのもあって、漁業調整の中には今出たような再生産の阻害の防止、要するに稚魚を取ったら駄目だとか産卵期を守れという話や、水産資源の保存や管理に関することだって漁業調整の中にあるのだというところを、とにかく丹念に拾い集めて、争い事が起こらないような紛争の防止だけではないということをしっかりと言い切りたかったということです。言い切るには少し長い文章でしたが、そういう意味で最終的には今言ったような措置もきちんと入っているし、これが広い意味の漁業調整なのだということを入れるところで36条2項に、実際に漁業調整の定義をどこに置くかという論点はありましたが、最終的に入ったのかなと思い出したところを申し上げたいと思います。

矢花:山口長官からも手が挙がっています。

山口:条文を改めて読んでみて、萱嶋さんたちの漁業調整に対する思いは理解する一方で、法制局がなぜ違う解釈を主張していたかが、今の話でよく分かりました。7条の定義を作ったということがポイントだと思います。7条の規定の1項のところで、「漁獲可能量とは」の後に「水産資源の保存及び管理(以下「資源管理」という。)のため」と書いてあるので、そこで今、萱嶋君が言っていたのとは裏腹に、法制局の方は、水産資源の保存及び管理に必要な措置は全部資源管理に含まれているという頭でいたということがうかがわれる訳です。だから漁業調整の中に水産資源の保存及び管理の概念があると言うと、漁業調整と資源管理が混在することになるので、そういう理屈では駄目だというのが彼らの主張だったのだろうと思います。この条文をそういった目で見ると非常に分かりやすいです。

資源管理はそう定義されたけれども、36条2項の規定を見ると、漁業調整の定義に「特定水産資源の再生産の阻害の防止」という言葉が出てきていますが、これは皆さんが苦心惨憺して作った部分だったと記憶しています。つまり、資源管理措置の2章に書いてあるものは数量管理に関する規定しかないために、特定水産資源の資源管理は、数量管理になってしまうところでしたが、萱嶋さんたちの粘り強い説得によって特定水産資源に関しては数量管理でない措置があり得るということを彼らも認めてくれて、「再生産の阻害の防止」と、本当は資源の管理と別の概念としてあり得るのだということが本当かどうかは分からないけれども、そこは逆に譲ってくれたのではないかと思うわけです。そして、特定水産資源以外の部分は自由に、あなたたちが書きたいように書けばいいよと、最終調整の段階でそうなったのではないかと思います。そういう理解をしましたが、皆さんはどうですか。

藤田(晋):今、長官がおっしゃっていただいた理解や整理というか、法制局の議論はそうだったと私はそう思っています。

山口:そうすると、われわれのこれからの運用をどうするかが課題になってきます。法制局がそういう整理をしている中で、われわれが今後の漁業調整という言葉を使うときに、資源の保存及び管理に関することも漁業調整なんだという言い方を特定水産資源についても言っていくべきなのか、そこは法律上の解釈が分かれているから資源管理と漁業調整の両方をやってくださいと言っていくのか、そこがこれからの指導方針としてどう書いていくかというところだと思うんです。

個人的な見解を言わせてもらうと、今までは何でもひっくるめて漁業調整と、萱嶋君はかなり昭和漁業法の精神が入っているから漁業調整をやればいいんだということだけれども、一般の人から見れば資源管理という概念のほうが今は明確になりつつあって、漁業調整のほうは紛争が起きたときだけやっているようなイメージが、法制局もそう思ったぐらいなので、そのイメージが強い中では両方やっていくという運用をしていかなければいけないかと思っています。

ちょっと話が脱線するけれども、先ほどの大規模化の話、公示の留意事項の話で私がよく言っているのは、数量管理に関してはIQを導入している漁船について漁獲のほとんどがIQ対象魚種になれば、トン数制限等の規模の議論はしないけれども、それ以外の漁場や漁法の制限や、このラインより入ってはいけないというような漁業者間の取り決めなど、これまで漁業調整で決まった内容についても不要になるわけではないのだよと。資源に対する影響等はIQがあるからいいけれども、他の漁業者との紛争の解決のためにはその規制は残るのだという説明をしていることとの関係でも、私は資源管理と漁業調整と両方をやっていく必要があると言ってはどうかと思っています。

矢花:ありがとうございます。萱嶋さんの手が挙がっています。お願いします。

萱嶋:非常に大事な論点だと思っています。そういう意味で、今、長官からありましたように、数量管理としての意味の資源管理もしっかりやらないといけないし、それ以外のところでの水産動植物の繁殖保護を図るような措置や、紛争を防止・解決するための措置もやっていかないといけないのは、まさにおっしゃるとおりだと思います。あとは、ここまでが資源管理でここからが漁業調整というふうに厳密に切り分けることは、実務上であまり意味があるとは思えないです。個人的な提案としては、そういった意味では「資源管理・漁業調整」というような、まさにこの漁業法でやらなければいけないことはそれなのだということを一括して切り離さないで表現する、全部を漁業法でやっていくという形にさせていただくのが個人的にはいいのではないかと考えています。本音を言えば、漁業調整のほうを広く言いたいですけれども、実務上は「資源管理・漁業調整」という言い方はあるかなと思ったので、コメントいたします。

矢花:ありがとうございます。長谷理事も手が挙がっています。

長谷:今の話を聞いて、水産庁の管理課と漁業調整課が管理調整課になったというのはまさにそういうネーミングだなと思ったのと、地方組織の漁業調整事務所はネーミングがそのままだなと思ったということです。それだけです。

矢花:ありがとうございます。藤田晋吾さん。

藤田(晋):私も一言だけですけれども、両方を中ポツでつないで言うぐらいがいいのかなと、それが条文上も忠実だし、萱嶋君が言ったとおり、分けることに実務的な意味はそこまでは見出さないので、両方を言っていくことが一番きれいな正しい運用かと思います。

矢花:ありがとうございます。大変大事な議論だったのですけれども、だいぶ時間が過ぎたものですから、いったん休みを挟もうかと思いますが、1回区切ってよろしいですか。

横山:すみません。資源管理関係で、休みの前に少しだけお伝えしていてもいいかなと思うので、これまでの論点と違うので最後に一言だけです。

資源管理基本方針の法的性格について共有しておいたほうがいいかと思います。この点について法務省と調整するときに、条文上は、資源管理基本方針を公表するとしか書いていないですけれども、どのような方法で公表するのか、告示なのか何なのか、そこを明確に書けということを延々と言われていたところです。

その意味としては、25条(採捕の制限)を例として見ていただければと思うのですが、漁獲割当管理区分となった管理区分、つまりこの海域でまき網でこの魚種を獲るものについてはIQですというのが定められた管理区分において、IQを持たずにその海域においてその漁法で漁獲してしまうと、禁止規定に抵触して、罰則の対象になってしまいます。

法務省が言っていたのは、漁獲割当管理区分を資源管理基本方針に定めるということは、何が犯罪になるか、何が違法になるかということが資源管理基本方針で定められるということなので、それは法令と同じように明確に、誰がどこを見れば犯罪に抵触するのか分かるようにしなければいけないということをすごくこだわっておられました。そういう性格のものが資源管理基本方針なので、今後これを変えたり手続きするに当たっては、これが犯罪の内容を決めるものだという認識で、作業に当たっていただけるとよろしいかなと思います。

山口:ひとつ質問したいのが、今までは「制限又は条件」と規定されていたものが、今回の改正で「制限措置」に一本化して、条件は許可証の裏に書くのが条件だという運用になった気がするのですけれども。

矢花:藤田部長から手が挙がっています。

藤田(仁):許可の話でいうと、まず許可の内容という概念が法制局にすっと入らなかったというところが一番大きいと思います。時間がなかったからそういうところでうまく従来の制度を認識してもらえなくて、許可の内容が制限措置みたいに変わらざるを得なかったです。それから「条件」になったというのは今の法制度に合わせて、制限または条件というのはあまりないという話でした。現在は許可証の裏などに制限または条件の内容を書いているのですけれども、制限なのか条件なのか、別にどちらでもいいねという話があって、統一するということで条件に合わせたということだったと思います。

矢花:ありがとうございます。では、いったん休憩に入ります。