水産振興ONLINE
629
2021年10月

座談会 平成の漁業制度改革

司会矢花 渉史 氏
長谷 成人 氏/山口 英彰 氏/藤田 仁司 氏/横山 健太郎 氏/森 健 氏/赤塚 祐史朗 氏/萱嶋 富彦 氏/
永田 祥久 氏/ 清水 浩太郎 氏/加悦 幸二 氏/中村 真弥 氏/木村 聡史 氏/藤田 晋吾 氏/塩見 泰央 氏/
冨澤 輝樹 氏/牧野 誠人 氏/西尾 暁 氏

座談会 平成の漁業制度改革(1日目) つづき

水産基本計画決定前後から新体制発足まで

長谷:水産基本計画決定当時、私は次長でしたけれども、これまでの基本計画にはなかった書きぶりとして、「数量管理等による資源管理の充実や漁業の成長産業化等を強力に進めるために必要な施策について、関係法律の見直しを含め引き続き検討を行う」という記述が最後の段階で入ったわけです。

私は次長でしたけれども、当時そこに書かれていること自体には、役人として否定すべき何物もないというふうに思いました。ただ一方で個人的には、年度内に定年という年齢でしたから、その時点で既に資源管理一つ取っても、クロマグロの資源管理で従来のTAC管理から大きく踏み出す取り組みをして、庁内としてはてんやわんやであったという実感を持っていたものですから、現有勢力に余裕がないなという思いがあり、どの程度の法改正になるのか、戦線をもうこれ以上広げることに対応できるのかという心配な思いがあったというのは、この時点では正直なところです。

それが、新体制というところまで少し話せば、定年の時期にきていましたし、60年間技官の長官はなかったので、長官をやれという話は本当に青天のへきれきというか、びっくりしました。

矢花:山口長官、お願いします。

山口:皆さんお久しぶりです。こういうZoomというものができて、文明の利器というか、世界中の人と会えるということに非常に感銘しています。

この問題について私自身は、今長谷理事からもお話がありましたように、平成29年4月の段階では大臣官房の総括審議官をやっていまして、その際に、当時の大杉漁政部長や中企画課長から、この基本計画の作成状況について話を聞いていました。

実際に基本計画の内容も見たのですけれども、非常に詳しく記述されているところと割とあっさり書いているところとがあり、もう少し議論したほうがいいのではないかと思うところもありましたが、最後の最後になって末尾のところに長谷理事がおっしゃった「引き続き検討」という項目が入ったので、内容については今後も引き続き検討するのだなということを理解したところです。

その後、水産改革の検討を進めるということになって、次官室で当時の長官・次長をはじめ水産幹部の方と、官房の次官・官房長以下われわれも入って議論をするという機会が何度かありました。その際に、水産庁から資料に基づいて説明があるのですが、それに対して次官が最初に発言するのではなく、官房の人間で何か意見のあるやつは発言せよと促されるのですが、その際私は静岡の水産課長を3年やってきたという経験もあるものですから、割と自由に、これはこうしたほうがいい、ああしたほうがいいなどという話をやっていました。

そういうことをしているうちに、7月の人事で水産庁の次長に行けという話になりました。そのときに長官が長谷さんになるという話も聞きまして、驚いたのもあるのですが、なるほどと逆に納得もしました。こういう大きな改革をやるためには、やはり水産行政に関して長い経験のある水産技官がトップに立つということが、水産庁内はもとより水産団体や関係業界を含め、一番説得しやすいといいますか、皆さんとの調和を取りながら話をしていく上ではいい体制なのではないかと思いました。そうなると次長が事務官になるわけで、そうかそれで私が行かされたのかと、やらなければいけないのかと思ったところです。

矢花:貴重なお話をありがとうございます。藤田部長、何かお話いただけますか。

藤田(仁):管理課長のときはどちらかというとミサイル対応に追われていました。はっきり言って目の前のそういうミサイル対応やクロマグロのTAC化というのでしょうか、そちらのほうでもう完全に追われていまして、7月の人事異動で企画課長ということでびっくりしたというのが実情です。

特に漁業権の話がターゲットだと思っていたので、私自身はどちらかというと許可のほうは詳しいのですが漁業権は詳しくなかったので、自分のところにその話が来るというのは、逆に言うと少し驚きがあったといいますか、そのような感じなのです。

矢花:ありがとうございます。この当時、貴重な検討作業に直接携わった横山さんが今日来ていますから、ぜひお願いします。

横山:皆さん、お久しぶりです。皆さん、声は聞こえているでしょうか。よろしくお願いします。

水産改革を進めるに当たり、まさに今お話のあった基本計画に書かれた文言というのが全てのスタートになっているというところではあるのですが、これに関して、経緯等について2点ほどお話します。

一つ目は経緯ですが、私は基本計画を平成29年4月にまとめる直前の3月まで、水産経営課で矢花課長の下で仕事をしていまして、ちょうど水産改革の動きが出始めていた時期でもあったので、水産経営課で水産改革に関わるのかなと思っていたら、突然4月から企画課に行くように言われて少しびっくりしました。4月に企画課で基本計画のとりまとめ作業をする中で、基本計画の最後に書かれた文章である数量管理と漁業の成長産業化に向けて必要な法改正をするという文言が、基本計画の肝であり、その後の水産改革の検討の橋渡しになっているということは認識したところです。

その文章ですが、当時の幹部から、もうこれで庁内の幹部も含めて調整をしたので、当面はこの文章のこの文言をベースに全ての議論を進めていく、これを一言一句動かすことなく、成長戦略などに書いていく、という指示を受けました。その指示に基づき、その後の成長戦略や骨太の方針などの諸々の文章を決めていったというような経緯があります。

そもそも基本計画にあの文言を入れるに至った経緯ですが、前年の12月ぐらいまでは割と淡々と部会も開きながら文章を固めていったところ、年明けの平成29年1月ぐらいの時点で水産改革を抜本的にやらなければいけないのではないかというような動きが省内で出てきたこともあり、このまま基本計画のとりまとめを進めていくかどうかの方針が決まらず、一時期水産基本計画をまとめる作業というのが止まっていたというような状況でした。

その間に水産庁の中でもいろいろと知恵を出しながら、どういう水産改革ができるかというところを、当時の幹部など一部でいろいろと試行錯誤されていた状況であったと私は理解しています。当時水産経営課であったので、そこまで詳しい部分というのは把握していないのですが、そういう時期があり、水産基本計画のとりまとめについては4月中にとりあえずまとめて、その後にしっかりと改革の内容を検討していくということで、取りまとめに至ったというような状況であったのだろうと思われます。

あと、2点目が今回の改革は水産庁から始まったのかどうかという点です。省内幹部が改革の必要性を提起する以前から、水産庁では、漁業への企業参入という観点も含めて、漁協の料金徴収の話などの法制度だけではなく実態面におけるいろいろな課題について、なにがしか検討していかなければいけないという動きがずっとあり、これは規制改革のワーキングから言われている部分も一部ありましたが、現場を少しでもきれいにして対外的に誇れるような漁業現場をつくっていくための議論が、水産庁内でも行われてきたという点です。まさにそこは当時の長谷次長の下でいろいろと調整してきた経緯もありました。まさにそういった動きが、今回の水産改革が始まる前から、庁内の動きとしてあったと思っています。

私も意思決定プロセスの中枢に入っているわけではないので分かる範囲で話をしていますが、当時企画課で改革の黎明期に携わっていた立場から見ると、そういうような流れがあったと理解しているところです。

矢花:貴重なお話をどうもありがとうございます。4月の基本計画、それから5月に規制改革会議の農業ワーキング・グループで水産庁から説明をされて、骨太に29年に検討開始、30年に結論を得るという文言が入り、規制改革の実施計画にも同様の内容が載せられることになりました。

こういう中で、7月に長谷長官・山口次長体制が発足し、そこから9月20日の水産ワーキング・グループへの対応、それに向けた準備としていろいろな議論が進んでいったということかと思いますが、この新体制発足から12月の方向性をまとめるまでのプロセス、この辺りについて少しまたさらにお話を伺えればと思いますけれども、どなたかありますか。長谷理事、お願いします。