水産振興ONLINE
629
2021年10月

座談会 平成の漁業制度改革

司会矢花 渉史 氏
長谷 成人 氏/山口 英彰 氏/藤田 仁司 氏/横山 健太郎 氏/森 健 氏/赤塚 祐史朗 氏/萱嶋 富彦 氏/
永田 祥久 氏/清水 浩太郎 氏/加悦 幸二 氏/中村 真弥 氏/木村 聡史 氏/藤田 晋吾 氏/塩見 泰央 氏/
冨澤 輝樹 氏/牧野 誠人 氏/西尾 暁 氏

座談会 平成の漁業制度改革(2日目)(つづき)

漁業法(つづき)

第4章 漁業権及び沿岸漁場管理

矢花:第4章「漁業権及び沿岸漁場管理」の第60条から第118条までというところに入ってまいります。また萱嶋さんに口火を切ってもらっていいですか。

萱嶋:論点として思いつくところをいくつか申し上げると、そもそも漁業権が存続できたというところは、いろいろな意見があった中で1つの論点だと思います。それも区画・定置・共同というところで、特に共同漁業権をこのままでいったというところがうまくいったのはなぜかというところは、1つ議論としてあろうかと思います。漁業権の性格という意味では、定置漁業権、区画漁業権については優先順位が廃止されたところが一番大きな話であって、元々優先順位があったので、なぜ今回それがなくなったのかをしっかり確認しておくことが必要ではないかというのがあります。

一方、共同漁業権については、法律上の位置付けはほとんど変わっていません。ただ、これまで共同漁業権を根拠に一方では法律を乗り越えたような議論があった中で、そこにどう対応するのかというのが今回の大きな話があって、それに関連して沿岸漁場管理という話も出てきたところがあるので、この話もまとめた論点になるかと思います。

次に漁場計画に移って、第2節第1款(海区漁場計画)です。漁場計画制度というのが元々あったわけですが、条文上に何もなかった中、今回初めて、しかも海区単位で漁場計画を立てるということになったのが大きな変換点であって、これがどういうことなのかという論点が1つあろうかと思います。

他にもいろいろ言いたいことはありますが、あまり言うと拡散するので、今のようなところがまず全体としての話があって、その後は比較的既存の条文にのっとって、漁業権者の責務が74条に入りました。これに関連して、勧告、取消しといった話がつながってきているところが、見ようによってはかなり漁業権の価値を下げるようなものだという議論があったというのは懐かしいところで、この辺りの話もあろうかと思います。

それから行使規則です。ここの第105条(組合員行使権)で今回、組合員行使権という概念が初めて条文に入りました。今までずっと歴史的には旧8条の「組合員の漁業を営む権利」だったところですが、その歴史的な経緯を踏まえたものが今回このような形で入ったというのが1つのポイントかなと思うところです。

これがひとまず私が思うところで、最初に言った漁業権がそもそも維持できたこと、根本的な構造が守れたことというところから話を進めていくのがよろしいのではないかと思って、まず私からの提案といたします。

矢花:ありがとうございます。ちょうど条文の順番で、まとまりで議論ができるという感じがします。この漁業権の基本的な形が維持できたと思うのですが、この辺りについて何かコメントはありますか。漁業権です。長谷理事、お願いします。

長谷:萱嶋さんが言われた前半部分は前回お話をした感じがします。共同漁業権が残っていたり、基本的な漁業権制度が残ったところで、そういうことであれば責任を持って最後までやり切ろうと思えたというのは、前回お話ししたとおりです。逆にそこがないということであれば、とてもゴールまで行ける自信を持てなかったです。自信があったというとまた誤解を生むかもしれないけれども、とてもやれるとは思えなかったというのが正直なところです。ただ、漁場の有効利用について交通整理をしていくことの意義はすごく感じていたので、そのようなことができたということです。

優先順位の撤廃については、これも前回、地方分権一括法の検討以来の持論だったのだという話もしました。地方の創意工夫の余地が大きいイメージを、もっと創意工夫ができるイメージを持っていたのですけれども、東日本大震災時の宮城の特区での話を経て、知事の裁量権を大きく認めることに対する警戒感が非常に大きくなってしまいました。浜の警戒感に影響されて、地方分権の時は「地方分権、地方分権」と積極的だった野党系の先生方も、今回はむしろ知事の裁量権を小さくしようとする反対意見が多かったのがとても印象的でした。

沿岸漁場管理の話は昨年、東大の八木先生たちと一緒に、八木さんが編者になって『水産改革と魚食の未来』という本を出したのですけれども、『沿岸域管理法制度論』という著書もある神奈川大学法学部の三浦大介教授が、沿岸漁場管理制度に注目してくれています。これまでも沿岸漁場整備開発法の育成水面制度など、役人が一生懸命に考えて法律に盛り込んでも広がらない、定着しないという制度は多いですけれども、沿岸漁場管理についてはこれまでの実態もある上で作った制度なので、何とか広がりを期待したいところですが、現状では他の面の対応ばかりに関心と労力が向けられている様子に見えるので、その点は残念というか、今後に期待を持っています。

矢花:ありがとうございます。横山さんの手が挙がっていますので、お願いします。

横山:今、長谷理事から沿岸漁場管理の話が出てきたので、思い出と私の期待も含めて、一言だけコメントをしたいと思います。先週、水産改革の位置付け、スタートが何だったのかという話をした時に出ていた話ですが、実は前々から漁協は現場ですごくいろいろな調整をしていて頑張っているところが多い中、一方で、外から入ってくる人から十分な説明無くお金を取っていると疑われるような事例もあり、そういったところが漁協悪論のような話になってしまって、漁業現場が遅れているかのような分かりやすいイメージを形作っていたのだと思っています。まさに水産改革が始まる前の長谷次長の頃から、「今頑張っている漁協の取り組みをきちんと評価するようなことをしていかないといけない。そのためには、適正にやっている人はきちんと認めていかないといけないし、悪いお金の取り方をしているところは是正して、透明化をきちんとしていくことが大事なのだ」という話の中で、料金徴収の透明化のガイドラインの議論をしながら、当時の長谷次長の下に、何かしらそういう枠組みを作って透明化を図れないかという話をしていたのを覚えています。今回の水産改革が水産庁の内部から出てきた、やるべきだと思ってわれわれが動いた例の1つが、この沿岸漁場管理ではないかと思っています。これは現場のきちんとやっている漁協を応援していこうと、適正にやっているものについては適正にお金を取ることができるようにするための枠組みです。これまでは、料金徴収の根拠の説明としては、共同漁業権に基づく諸々の調整という説明ぐらいしかできなかったところであり、また実態は共同漁業権の内容を超えていると思われる取組もある中で、外部からは何の根拠も権限もなしに料金を徴収しているという批判を受けていたので、行政から委ねられた業務として法律に規定し、正当性を持たせることで、漁協は正当な業務であると主張できるようになったと考えています。また、これまで不適切な事案についても指導しにくかったところ、この制度により、行政もちゃんと指導できるようになるというメリットもありました。

そういったことからすごく期待しているのですが、先ほど長谷理事からあったように、一番喜んでくださると思っていた漁協が、この制度の導入になかなか難色を示しています。この制度にのっとらないで今までどおりやっていいのかという話もしていて、その辺は私たちの思いと漁協の受け止め方がだいぶ違うところがあって、ちょっと残念だなと思っているところです。長谷理事からお話しがあったように、これはしっかりと全国多くの漁協で取り組んでいただきたい制度だと思っています。そこの制度に当たっての調整に携わられていた清水課長は今日いらっしゃらないのですけれども、加悦さんや当時の課長のご意見も含めながら、どうやってこの制度を現場に落とし込んでいけるかを、みんなで議論できたら面白いかなと思っているところです。

矢花:ありがとうございます。萱嶋さんも手が挙がっていますので、萱嶋さんいいですか。

萱嶋:今、長谷理事や横山君から頂いた話も踏まえて、私のほうからも少し今の関連の話を申し上げたいと思います。やはり規制改革など外のほうで議論があったところは、漁業権が既得権となっていて、何の根拠もなく、ただ前からやっていた人がそのままもらい続けているのがけしからんと、そういう議論が恐らくありました。それに対して水産庁として言うべきことは、元々漁業権というのは昭和の漁業法において漁場計画制度というのがあって、そこは水面を総合的に利用するという発想からそもそも立っているのだというところを強調する必要があるだろうと、私も当時思っていました。その辺りが皆さまに書いていただいた資料を作って、そういった話で最終的に漁場計画をしっかり立てた上で、漁業権をきちんと明記しているのだということをしっかり言えるようになったことは、今回の意義があることだったのかと思っています。その副産物として、漁場計画をしっかりと法律に書く必要が出てきて、そうするとどうしても形式的には海区漁場計画みたいになってしまう部分はあったのですが、実質的な意味合いとしては、昭和の漁業法の意義をそのままうまく踏襲することができたのではないかと考えています。

また沿岸漁場管理については、当初の議論の中で共同漁業権が悪用されているという声が一部から挙がっていた中で、違うんですよと、共同漁業権自体は漁業を営む権利としての漁業権があって、それはしっかりと運用しています。また現場の漁業者あるいは漁業協同組合は、漁業を営むことだけではなくて、それに関係するいろいろな有益な活動をされているのだということをしっかりと外に証明する必要があった中で、今回の沿岸漁場管理の話が出てきたと思っています。

本当であれば、この辺りはもっと有効に活用しないといけないのではないかと思っています。ちなみに今、私はドイツにいますので、欧州の事例を紹介すると、EUでは例えば農業について、「農産物を作っている農業」というだけではなくて、「環境のために貢献している農業」が非常に重視されるようになっています。例えば、生物多様性を守るための活動や花畑を作るなど、無駄に農薬をばらまいたりしないで環境に配慮した形で農業を営んでいるなど、そういったものを評価します。そういったことをしっかりやっている人にこそ、補助金などのもろもろのお金を重点的に配分するんだというのが議論されています。そういったところを踏まえれば、日本の漁業も本来的にはそういった水産物を供給するという大事な使命を果たしているだけではなく、環境や社会のために有益な活動をしているところをしっかり評価していただいて、それがしっかりと報われる体制を作っていくということは、中・長期というより長期かもしれませんけれども、課題として今も厳然としてあるだろうと思っています。ドイツの場合であれば、農業団体こそがそういったことを強く主張して、自分たちはしっかり環境に貢献しているのだから、そこを報われるようにしてほしいと力説していることを考えると、日本の漁業協同組合も本来はそういうことを社会に訴えていただくことが意義があると思います。新しい制度を作られたら困るという視点でいられると、将来的に漁業協同組合自体が首を締めることになるのではないかと、私はむしろ懸念しているということもここで申し添えておきたいと思います。

矢花:ありがとうございます。加悦さんの手が挙がったのでお願いします。

加悦:この水産改革の中で沿岸漁場管理制度が漁業法の中に入ったということについては、横山さんに非常に頑張ってもらったと思っています。先週もお話をしたのですけれども、漁協が変なお金を取っているのではないかなど、漁業権の正当性を貶めるような対応を取っているのではないかということで、長谷理事が部長時代からずっとお話をされていることは話したのですけれども、この沿岸漁場管理制度については規制改革で言われたからというより、漁業権の正当性を位置づけるという意味で入ったと思います。

実際に、料金徴収の透明化については指導第1班時代に担当をしていましたけれども、その中で一番大きかったのは透明化をやる原則みたいなものがあって、課内で相談し全漁連などとも話をして、公平性、対価性、透明性、書面化をするといったものを基本としてやっていました。漁協がこういった制度に消極的なのは対価性が非常に難しいからだろうなと思っています。対価性というのは、これだけ働いたのだからこれだけのお金がもらえるということにもなるのですけれども、沿岸漁場の管理という中で漁協が組合員である漁業者のための組織としての役割をしっかり担い、それが納得されるように説明するのではないかと私は思います。

先週、長谷理事からもお話があった宮崎県の串間市漁協の関係で、現場で養殖会社の社長ともお話をしましたが、現場で漁協が漁業者との調整を日常からやってくれることによって安心して養殖ができるということで、そのお金を払ったとしても全く問題がないと言われていました。結果として、水揚げ手数料ではなく漁場の行使料の中に入れるという形になって、現場でそういう漁協がその役割や機能を果たし、仕事をすることが大事と思っています。

そういった意味で、沿岸漁場管理制度を今後しっかり漁協の中でそれを進めていくことが大事で、今それができないのは漁協が脆弱化しているということを先週お話ししました。今、漁協の収入が水揚げの減少により非常に少なくなって、経営が厳しいということで、そこの経営に対してしっかり支援をしてくれと全漁連からも声が上がっています。そういう意味では、漁協がそういう役割を担って費用徴収を行って、それが漁協の財政の柱になっていくような転換を促していく必要があるのではないかと思います。

矢花:ありがとうございます。今のお話で私も何となく記憶がよみがえってきたのですけれども、改革に入る前の段階から漁協への批判はものすごくありました。それは現場で力を持って相応のことをやっていたけれども、それが何をやっているのか伝わらないところがあって、外から見ると本当に分からないなという感じがしていたのです。そこを切り込んでいくというのが透明性の話です。

漁場計画も、今回の改正以前から、県としてはきちんとした全体像を描いた上で適正な利用をするという、仕組みとしてはそういうのをやっていました。ですから、これを制度化することを打ち出した際にも、これは非常に現場の説明もやりやすかったし、透明性を高めるという概念的な説明もすごくしやすかったと思います。それは知っている人から見ると、そういうのは前からやっていたし当たり前のことで、別にどうということはないと言うかもしれないですけれども、それを制度としてきちんと表に説明できるような格好にしたのは、すごく大事なポイントだと思っています。

新たな仕組みを作ることには、やはり現場の抵抗感はありますが、こういった制度をしっかり作った。報告を求めたり、責務を課したり、現場に浸透するまで苦労するけれども、それがないと、背景としてあった「漁協がやっていることは分かりにくいね」「何か不透明だね」というあらぬ話に対して説明ができないという状態が続くのです。そういう意味ではこの改正を機に、しっかりと外の世界とコミュニケーションを取ることを県も漁協もやってほしいという思いが非常に強くいたします。

長官の手が挙がっていますね。山口長官、お願いします。

山口:最初のほうに萱嶋さんが言っていた、なぜ漁業権制度が残ったか、優先順位の規定がなぜ変わったかというのは、長谷理事から前回お話があったことに尽きると思います。

立法論的に言うと、これは私の個人的な見解ですが、一定の水面の上で事業活動を行うことになると、そこは他の人に妨害されない制度にならないと事業が継続してできないと考えています。

最近制定された再エネ海域利用法でも、洋上風力発電施設を設置する場合に、促進区域を作って、その区域の中では施設に影響のある一定の行為ができないような法制度になっています。区域指定は経産大臣と国交大臣が行いますが、区域内に風力発電施設を設置する者は、占用許可を得て事業を行うことになります。

そういう点でいくと、漁業権という言葉自体が持つイメージや物権的な性格については、かなり堅固なものと受け止められる傾向がありますが、一定行為を海面で安定的にやる上ではこういった権限は必要だということは、洋上風力の議論の中で幅広い人に理解していただいたのではないかと思います。

特に、これから新規参入する者は、大企業も含めて海面利用する側になれば、今度は他の者からの妨害を避けることが重要になりますので、この権利を持つこと自体が問題であるという主張は少なくなっていくと思います。

以前から漁業権をなくせば漁業が発展するという乱暴な意見がある一方で、漁業権には一切手を出させないとの保守的な意見も強かったですが、立法論として見ても、優先順位の規定を整理し権利者の責務をきちんと書いたこと、漁業権の設定手続きの透明化という意味で海区漁場計画の法定化や免許基準をきちんと書いたことを前提に、こういった権利を与えること自体は許容される範囲であろうと考えています。

矢花:ありがとうございます。塩見さんが法制局の議論で沿岸漁場管理に苦労されていたということで、コメントをお願いします。

塩見:内容というところではないですけれども、私と法制局ないし文書課という関係での記憶を申し上げます。

最初は、官房文書課ですけれども、文言上は「協力を得る」というところになりますが、簡単にいえばお金が動くようにというところにかなり引っかかられました。どの範囲の者から取って、それをどのような根拠をもって裏付けるかというところも釈然としないし、金を取るといっても例があるのか、そもそもこの制度が立つのかということで、いきなりがつんと殴られたような苦しい滑り出しだったなというのが正直な記憶であります。

法制局も当初は似たような感触で、これは要りますかと結構クリティカルなことを言われた記憶もあって、ちょっと頑張らせてくださいというのがまずありました。

一番難しいのは、負担がなされるようどう裏付けるかです。確実に協力金が支払われるような制度にするには、極端なことを言えば、これは税金みたいなものになってしまうから、そういう硬い制度を志向して頑張るのだったらそれでもいいと指摘があったかと思います。けれどもということで、あとは町づくりの制度で商店街などのエリアレベルで周辺区域をある程度絞って協力を得るというスキームもあるけれども、海ということになって、かついろいろなプレーヤーがいる、エリアで区切ったりどういう区切り方をするのだというのは難しいとずっと言われながらも一緒に悩んでいただいたというのが実感です。

いろいろ用例を出しながら、このような規定もあると言って、「協力を得る」という文言で落ち着きました。最終的には条文でいうと114条に「協力が得られない場合の措置」というところがあるのですけれども、あっせんを受けたにも関わらず協力してこない人がいたときには、都道府県知事は意見を尊重するとふんわりと書いてあるけれども、協力しない人からは権利をはぎ取るわけではないけれども、次から計画に位置付けないことができるなど、よくここまで強力なサンクションを設けることができたなと、私の実感としてあるところです。ですので、協力金がどの程度なら妥当かなどいろいろ議論はあるでしょうけれども、実際に活用していただくときにはこういう規定を心の支えという意味でしていただいて、都道府県知事もそこはバックアップしてやるなど、私の勝手なイメージですけれども、そのように何とか使っていく方向になればいいなというのが正直な感想です。

矢花:ありがとうございます。いくつか出てきましたけれども、漁業権、漁場計画、それに基づく責務など、その辺りでどなたか発言はありますか。山口長官、お願いします。

山口:法案の作成過程における担当者の考え方を聞きたいのですが、63条(海区漁場計画の要件等)と64条(海区漁場計画の作成の手続)の規定を見ると、都道府県知事は、漁場計画の案を作成する段階で、団体漁業権にするか個別漁業権にするかという選択を行った上で、漁場計画の案について意見を聞くプロセスに入ることになっています。団体漁業権が計画の中で明記されていて、それを後からひっくり返すことは多分できないと思いますが、どうしてそういう制度にしたのかということを改めて確認したいと思います。今後、実際に漁業権の切り替えが行われるときに、特定区画漁業権が設定されている場所で個人が養殖をやりたいと言ってきたときに、なぜこんな仕組みになっているのだという不満が出るのではないかと思うので、記録には残してほしいと思い発言しました。

矢花:萱嶋さんのお手が挙がっています。

萱嶋:ありがとうございます。極めて重要な論点だと思うので、確かに申し上げたほうがいいと思います。

話があった根本としては、特定区画漁業権はけしからんという話が、外で議論されていたことだと思います。特定区画漁業権に該当してしまうと、とにかく優先順位第1位は地元の漁協です。だからその業種、例えば小割式養殖業をやりたいという話になった場合、地元漁協が手を挙げたら、他の人は何が起こっても絶対に漁業権をもらえないことになって、これはどういうわけなんだというのが、恐らく外部からの議論としてまず1つあったと思います。

一方、昭和漁業法の制定経緯を重視する立場から元々なぜ特定区画漁業権というものがあったのかというところを論じようと思えば、次のようになるわけです。すなわち、話の根本としては昭和25年の『漁業制度の改革』という本を読む限りにおいては、理屈としては漁業権というのが漁業調整機構である海区漁業調整委員会の意見を聞いた上で樹立した漁場計画に基づいて作ったものをそれぞれの営む個人に免許するというのが原則だと書かれた上で、ものによっては個々人の漁業者に免許することがふさわしくない養殖業もあるという話が次に出てくるのです。例えばということで、昭和24年、25年当時の養殖の実態から見て、とてもではないけれども個々の漁業者に免許するのではなくて、ある程度まとめて漁業協同組合に免許したほうが、普通に考えられるものを別枠で列挙していたわけです。まさにそういうことで、養殖業の実態に照らして、個人に免許すべきものと漁協に免許すべきものを分けたというのが漁業制度の改革で決まったことだったわけです。それで実態的に見てどちらがいいかというところで判別したのが本来の趣旨であるということで、後に昭和37年改正があって、平成13年改正があってとやっていく中で、小割式養殖業は特定区画漁業権ということになりました。

厳密にいうと、昭和37年改正で小割式養殖業を加えたときの発想としては、小割式とはまさに小割だから、多数の組合員が行使したくなるような漁業だという実態を踏まえてやっていたはずですが、例えば半径30メートルの大型のいけすであったとしても、小割式養殖業になったらとにかく特定区画漁業権に該当するのだから、絶対に組合のほうが優先順位第1位だという話とかみ合っていない状態が現実問題として起こっていたのです。実態は知りませんけれども、法律的に考えると本来の趣旨から見ておかしいところがあったのです。じゃあわれわれがマグロだけをこちらに切り分けるのかと、そのようなことを議論し始めたところで、技術が革新していく中であまり意味がないです。それこそ長谷理事がおっしゃっているように、現場の実態や都道府県ごとの話があるのだから、そういったところはしっかりと皆さんでご判断いただくことが本来の趣旨に、つまり昭和24年の漁業法の趣旨に照らすとむしろ意味があるわけです。どうせ論点として言われるところであれば、訳の分からない批判をいちいち受けるよりは、しっかりと実態に応じて各県で判断いただく形のほうがいいのではないかということで、今回、特定区画漁業権というのを表現上は消しました。けれども私の理解としては、昭和24年以来の発想は引き続いていると認識しています。

矢花:ありがとうございます。これに関連して、どなたかご発言はありますか。山口長官。

山口:ありがとうございます。立法者の趣旨はよく分かりました。今の萱嶋さんが言った理屈だと、特定区画で漁業権が設定されているところは、次も団体漁業権になるのが基本ということですね。都道府県の判断ということも強調されましたが、都道府県が本当は団体漁業権でなくて個別漁業権でやったほうがいいと内心思っているときでも、この条文上では団体漁業権が優先するように読めます。それはどうなるかなと思いながら聞いていました。

一方で、63条1項4号のほうは新規漁場になりますので、漁業権の切り替えの際に新たな漁業権の設定の考え方を通知で示すことができますので問題は生じないと思っています。何か萱嶋さんに考えがあればお願いしたいです。

矢花:萱嶋さん、お願いします。

萱嶋:ありがとうございます。現実論としては、こう書いてある以上は今実際に特定区画漁業権を持っていて、組合員をして適切かつ有効に行使せしめている漁業協同組合が引き続きやりたいと言っている場合にはこの条文が適用されるので、引き続き団体漁業権としてやるより他ないと思います。今の法律の条文を素直に読む限りは、仮に直接免許に移していきたいという意思がある場合には、あらかじめ当該地元の漁業協同組合としっかりと事前に話し合って、しかるべくやると。結局そこかと言われたら困るのですけれども、そういう形にせざるを得ないのがまさに新法の解釈ではないかと、私個人は思っています。

山口:関連する情報として、かねてより規制改革からは空き漁場がどうなっているかを調査するよう要請されていて、免許切り替え時に都道府県が漁場調査をするタイミングで調査を行うと回答していましたが、萱嶋さんが言ったように、実際は事前調整を1年、2年とやらないと漁業権はなかなか変更できないので、空き漁場の状況などについては3年度中に調査を開始しようと内部で検討しているところです。

矢花:ありがとうございます。漁業権のところで、論点が本来は山のようにあるのですけれども、これだけはここで議論をしておいたほうがいいという部分があれば聞いておきたいのですけれども、横山さんが手が挙がっていますね。

横山:私なりに意外と重要かと思っている論点がありまして、それは74条の「漁業権者の責務」の2項のところです。ここで団体漁業権の場合は、高度化計画を作ると規定されています。団体漁業権はそもそも多くの方が割と参入が容易で、そこの調整が必要なものということでなっているのですけれども、今の漁業現場において団体漁業権を設定しているところでも徐々に人が減っていったりする中にあって、むしろその団体漁業権が設定されているエリアの中で今後頑張っていく人にどう区画をうまく調整して割り当てていくか、団体漁業権の調整機構を通じて強い漁業経営体をどう作っていくかがすごく重要なことだと思っています。そういった中で、水産改革の中で団体漁業権の調整機構を通じて強い経営体を作る仕組みが必要だろうと私自身は思っており、今回の改正で法律に位置づけるとともに、うまく機能していくように、これに予算措置や支援措置もリンクさせてはどうか、と思っていたところです。

一方、この高度化計画は他の法律上の措置と直接リンクしていないため、きちんと運用しないと規定した目的が果たされません。この高度化計画を規定した趣旨と今後の運用の考え方について、認識を共有する必要があろうかと思います。

矢花:この計画のところで、どなたかコメントはありますか。確かに法制的には少し大変な仕組みではあったと思います。藤田晋吾さん。

藤田(晋):74条(漁業権者の責務)の2項は、「努めるものとする」となっており、法制的な効果という面では、この先に続かないものになっているわけです。ただ、僕もこの74条2項を置いた意味は大きいと思います。特に、担い手が減っていく中でどういう計画を作って運用していくかということで、現場に生きる条文だと思います。今後、しっかり運用されることを期待したいと思っています。

矢花:山口長官も手が挙がっています。

山口:この高度化計画と呼んでいたものについては、今われわれは発展計画と呼んでおり、「海面利用制度等に関するガイドライン」の中でも「漁業生産力の発展に関する計画」という項目を1つ起こして、その中で具体的に漁協等がどういうことをやらなければいけないかということが書いてあります。ガイドラインでは、計画の内容や期間についても、大まかな方針を示してあって、例えば「“将来の自分たちのあるべき姿”、“取り組むべき課題”等について、自ら考えていくきっかけとなるものである。地域の実情に即しつつ、組合員の漁業所得の向上、若い組合員の参画、技術や経験の伝承、資源管理の推進等に資する方法を計画の内容とすることが適当である」ということを記載してあり、計画の点検も毎年1回やることになっています。多くの組合は、総会の時に作成・報告することになると思っていますが、いずれにせよ、きちんとやってくださいということを明記しています。

海面利用ガイドラインでは、「適切かつ有効」の判断基準を明確にすることがメインテーマでしたが、都道府県ごとに判断基準がばらばらだと困るのでチェックシートを作ることになったのですが、最初にこれを作ってくれと言ったのは全漁連でした。それが規制改革の目にも留まって、かなり詳細なチェックシートになりましたが、そういったことで、今回の漁業権制度の運用に関しては海面利用制度ガイドラインを作ったおかげで、皆さんがお話をしたような内容はかなり厳格かつ適切な方向で運用できるようになると期待しているところです。

矢花:ありがとうございます。その辺りの運用面も、そういう意味ではガイドラインの議論で規制改革からも注文が付いた中で、現実的にこなしながら系統団体とも調整をされてきたということだと思います。それを施行されて実行に移していく段階にあるという理解でいます。森総括審から手が挙がっていますのでお願いします。

森:実際上この規定を活用してしっかりやっていくということは、まさに政策的に重要だと思いますが、それを具体的にどう進められるかは、現行の浜プランとの関係も含めて今後いろいろな調整が必要になってくるだろうという点はあるかと思います。

矢花:ありがとうございます。中村さんが手が挙がっていますので、お願いします。

中村:ちょっとまた話が変わるのですけれども、先ほどまで話が出ていました63条1項の海区漁場計画のところで、1号と2号の関係について教えてほしいなと思います。

それぞれ優先しますという話だと思うのですが、都道府県のほうから相談を受けてまして、運用の中で整理していくという話をしたのですけれども、例えば、サケのような定置について都道府県において増殖計画を作って調整している現実があって、一方で定置漁業者は個人なり法人なり、あまり漁協自営というところでもないところで、適切かつ有効にやっている人がいます。その都道府県の計画で見直して動かしたいというときに、これまでは優先順位で漁協が優先されるということで、そういう中で調整をしていたということがあるそうです。今後、実際にここで競願した時に、あなたは今度はこの場所をずれてと言ったら、嫌だという話になったときにどうするのかという話があります。それは今後、実務として調整していけばいいと、それは行政が強く指導すればいいではないですかと、そういう全体的な計画の中で言うことを聞かない人はきちんと指導しましょうという話をしているのですけれども、実際に今度切り替えがくると、そこら辺の話もまた出てくるという気がしています。この辺の考え方の整理のようなものがあれば、教えていただきたいなと思います。

矢花:これはどうでしょうか。北海道のサケ定置の話を聞いた時に、あまりこういうのは想定していなかったというのが正直な気持ちとしてありました。どこまでを類似と認めるかというところが、結構幅があると思います。萱嶋さんの手が挙がっていますけれども。

萱嶋:そうなんです。その話というのは、改正法を作るときにそれを全く動かせないことになったら困るということを踏まえて、63条の1項2号のところはあえて「類似漁業権」という言い方をすることにしたと記憶しています。元々は、前の漁業権ならいいと書きたかったのですが、そうすると1メートルも変えられないのかという話もあったので、「おおむね等しい」という表現でここは逃げているということです。

あとは、おおむね等しいとは何だという話が出てくるわけですが、これは直感的というか、普通に考えたら同じだと言っているところで、あまり何%などと具体的なことは法律上は何も書いていないので、そこをうまく運用してほしいという形になってしまっています。先ほどの中村さんの話に対して、まさにそういうふうに運用でという形で、こちらも落ち着いてしまったという格好に実際のところなっていると思います。これは作った時のイメージとしてはそのような感じだったということで、あまり答えになっていないのですが、当時の話として申し上げます。

矢花:ありがとうございます。適切有効の従来からというところを、同一性をどこまで認めるかというのは法律に書く時には非常に苦労したけれども、あまり厳密にやり過ぎるとおかしなことになるという中で整理をしました。山口長官からお手が挙がっています。

山口:次の漁業権切り替えのときに考えないといけない論点ですが、立法者の意見を聞きたいのは、類似というのは1つの漁業権がそこにあったら、それが右に動いたり左に動いたり、または大きくなったり小さくなったりするのは漁業権区域としていいのだけれども、1つあった漁業権が全くなくなるということを法律では想定しているのか、いないのかです。

なくなるということは、中村さんの話では今までは過去の事例としてはたくさんありますが、改正法では、なくなるときに適用する条文というのがあるのか、ないのか。北海道が心配しているのは、残っている漁業権、すなわち前回設定した漁業権は全部残さないといけないというふうにしか読めないので、廃止ができないのかということを聞かれていると思うのです。そこをクリアする道があればいいなと思って条文を見ていたけれども、よく分からないのでおたずねします。

矢花:萱嶋さんの手が挙がっています。

萱嶋:まさにその辺りのことの議論がいろいろあったなと思い出しながら、62条から64条までを書く辺りで、そう言われてみればいろいろな検討があったなということをだんだん思い出してきました。63条の1項は、そういった意味において1号、2号という順番になっているところでその辺りの意識があったのではないかということを今思い出しました。つまり63条の1項1号を見ると、まず「それぞれの漁業権が、海区に係る海面の総合的な利用を推進するとともに、漁業調整その他公益に支障を及ぼさないように設定されている」ということがはっきり書いてあります。純論理的に言えば、今まであった漁業権を全くそのまま置いてしまった場合に、海面の総合的な利用や公益の支障を及ぼすということになってしまうのであれば、そこは見直さないといけないということが規定上書いてあって、その次の2号のところで、元々あったものに類似の漁業権を置きなさいという基準と順番になっている。

ただ、1号と2号の関係がどうなっているのだということは、そういった整理統合という話は一応1号のところに、理念としては入っているということになるのではないかと思います。

山口:そうしますと、1号の「漁業調整その他公益に支障を及ぼさない」というところで、例えばサケの場合で言えば回帰するサケの数が減っているなど、他の網に入るサケがその網によって妨害を受けているということであれば、公益上の観点で制限ができるという解釈をまず1号で立てて、これは2号の個々の漁業権を適切有効に利用することよりも上だということになるというふうに理解しました。

矢花:取りあえずここは第4章「漁業権及び沿岸漁場管理」の範疇ですが、この論点を触れておかないといけないというのは何かありますか。

横山:この章ではないですけれども、漁業権関係で183条に「管轄の特例」というのがあって、規制改革サイドなどの壮大な夢を持たれている方は、沖合にどんどん養殖漁場を作って漁業権を設定してやっていけという話があって、そういった声を受けたのが183条の規定です。従来は、有明海のような「2以上の知事の管轄に属するところについては、国が漁業権を設定する」みたいな話ですけれども、それとは別に、さらにそれを飛び越えて「必要があるときには設定する」という、かなり政策的な規定がここに盛り込まれたところです。ここは総務省との間で苦労したところであり、最後は当時の藤田企画課長にも出ていただいて、お願いして認めていただいた規定です。