水産振興ONLINE
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2019年10月

海洋プラスチックごみ問題について

中里 靖(環境省 水・大気環境局 海洋環境室長)

はじめに

海洋ごみ、とりわけその中でもプラスチックごみの問題は、国内のみならず、国外においても大変注目を浴びている。特に昨年ウミガメの鼻にささったプラスチックストローを引き抜くユーチューブの動画が何度も再生され、また、死んだクジラの胃から多くのレジ袋が見つかるなどの報道がなされるなどにより、一層、海洋プラスチックごみへの関心が高まった。

こうした動きを背景に、企業においては、プラスチックストローをやめ、紙製や木製、パスタ素材のストローへ切り替える、プラスチックから紙製のバッグに切り替えるなど脱プラスチックを模索する動きが見られる。

一方、プラスチックは、自動車や漁網をはじめする様々な産業用資材、住宅、家庭用品、食品容器など現代社会に広く取り入れられ、代替が容易でないものも多い。プラスチックは、成形が容易で、軽量であり、耐水性もあり、酸やアルカリに強いなど素材として大変優れており、現在の我々の暮らしの快適性を保つ上で、プラスチックは非常に重要な役割を担っている。

ある試算では、毎年、海洋に流出するプラスチックごみは500万トンから1千3百万トンの間とされている。正確な数量は把握されていないものの、我が国の海岸を見ても明らかなように、多くのプラスチックごみが海洋に流入していることは事実である。プラスチックの社会的な役割や、国によってはごみの回収・処理が日常的に行われていない地域も多いなどプラスチックごみをめぐる事情は各国で大きく異なることなどをはじめ、様々な事情を考慮しつつ、かつ海洋への大量のプラスチックごみの流入が続いていることを踏まえ、対策を講じていくことが重要である。

本年6月には、我が国でG20が開催されたが、これに先立ち、安倍総理はG20で海洋プラスチックごみを取り上げることを早々に発言していた。G20大阪サミットでは、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が参加国で共有され、「2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す」こととされた。

G20を契機として、環境省をはじめ関係省庁が連携して海洋プラスチックごみに関連する施策を強化しているところであり、海洋プラスチックごみをめぐる世界的な動向や我が国でのごみ処理の状況と併せて紹介したい。

なお、記述に関しては、個人的な見解も多いことをあらかじめ申し添える。

著者プロフィール

中里 靖なかざと やすし

【略歴】
▷1985年東京水産大学卒業、同年水産庁入庁、2008年水産庁栽培養殖課課長補佐(総括)、2009年独立行政法人水産大学校企画情報部長兼准教授(水産流通経営学科)、2015年水産庁北海道漁業調整事務所長、2017年環境省海洋環境室長。

【活動】
水産庁入庁後、本庁での勤務のほか、長崎県、農林水産省総合食料局、水産大学校などで勤務。現行ポストの直前のポストでは、北海道にて漁業取締りを中心とした業務に従事。