水産振興ONLINE
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2019年10月

海洋プラスチックごみ問題について

中里 靖(環境省 水・大気環境局 海洋環境室長)

1. 海洋ごみをめぐる世界的な動向

(1) 注目を集める海洋ごみ問題

2015年にドイツのエルマウで開催されたG7サミットで、海洋ごみが重要な世界的、政治的な課題として取り上げられた。その首脳宣言の中で、「我々は、海洋及び沿岸の生物と生態系に直接影響し、潜在的には人間の健康にも影響し得る海洋ごみ、特にプラスチックごみが世界的課題を提起していることを認識する。(中略)G7は、陸域及び海域に由来する海洋ごみの発生源対策、海洋ごみの回収・処理活動並びに教育、研究及び啓発活動の必要性を強調しつつ、附属書に示された、海洋ごみ問題に対処する上で優先度の高い活動と解決策にコミットする。(仮訳)」といった文言が盛り込まれた1)

この中の附属書とは「海洋ごみ問題に対処するためのG7行動計画」であり、海洋ごみの発生予防、削減、回収・処理のための国家システムの改善などがうたわれた全体原則のほか、①陸域を発生源とする海洋ごみに対処するための行動、②海洋ごみ回収・処理のための優先行動、③海域を発生源とする海洋ごみに対処するための優先行動、④教育、研究及び啓発活動に関する優先行動が盛り込まれている。

翌2016年に日本で開催されたG7では、G7富山環境大臣会合のコミュニケに「海洋ごみ問題に対処するためのG7行動計画」実施のための優先的な施策」が盛り込まれ、具体的には、陸域を発生源とする海洋ごみの発生抑制削減に向けた廃棄物管理のための資金調達やベスト・プラクティスの共有、マイクロプラスチックに分解する前段階におけるプラスチックごみの回収・処理の促進、マイクロプラスチックのモニタリング手法の標準化及び調和に向けた取組などが記述された。さらにG7伊勢志摩首脳宣言の中にも「我々は、資源効率性及び3R(リデュース(削減)、リユース(再利用)、リサイクル)に関する我々の取組が、陸域を発生源とする海洋ごみ、特にプラスチックの発生抑制及び削減に寄与することも認識しつつ、海洋ごみに対処するとの我々のコミットメントを再確認する。」との文言が記載された。

その後のG7においても、連続的に海洋ごみが取り扱われている。昨年カナダで開催されたシャルルボアサミットにおいては、我が国と米国は、世界の海洋プラスチックごみの流出量全体の中でわずかなシェアしかないG7メンバー国を対象とした「海洋プラスチックごみ憲章」には参加しなかったが、途上国への支援も視野に入れ、資源効率的で持続可能なプラスチック管理への移行などが内容に含まれる「健全な海洋及び強靱な沿岸部コミュニティのためのシャルルボア・ブループリント」については、我が国も承認している。

G7構成国に加え、ロシアや中国、韓国のほか新興国もメンバー国となっているG20では2017年のG20ハンブルグサミットにおいて、「G20海洋ごみに係る行動計画」を採択している。この行動計画の中には、廃棄物防止及び資源効率の促進に関し、3Rの推進、マイクロビーズ及び使い捨てプラスチックバッグ(レジ袋)の使用削減や適切な場合の段階的な廃止、インフラを含む廃棄物管理への支援、定期的な廃棄物回収サービスの促進などが掲げられている2)。最近のG7、G20では、毎回のように海洋ごみ対策が議論されており、これら会合での主要議題の一つとなっている。

(2) G20エネルギー・環境閣僚会合及びG20大阪サミット

海洋プラスチックごみへの関心が世界的に高まる中、本年、我が国においてG20が開催された3)

6月15、16日には、長野県軽井沢において、「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」が開催され、この中で、新興国・途上国も参加し、各国が自主的な対策を実施し、その取組を継続的に報告・共有する実効性のある新しい枠組みとして、「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」を構築することが合意された。

この枠組の内容には、1)環境上適正な廃棄物管理、海洋プラスチックごみの回収、革新的な解決方策の展開、各国の能力強化のための国際協力等による、包括的なライフサイクルアプローチ(生産から廃棄、処理の各段階における対策の実施)の推進、2)G20資源効率性対話等の機会を活用し、G20海洋ごみ行動計画に沿った関連政策、計画、対策に係る情報の継続的な共有及び更新の実施、3)海洋ごみ、特に海洋プラスチックとマイクロプラスチックの現状と影響の測定とモニタリング等のための科学的基盤の強化等がある。軽井沢会合の後の6月29、30日に開催されたG20大阪サミットでは、首脳宣言が採択され、その中には、

「我々は、海洋ごみ、特に海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチックに対処する措置は、全ての国によって、関係者との協力の下に、国内的及び国際的に取られる必要があることを再確認する。
【略】
 我々は、共通の世界のビジョンとして、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を共有し、国際社会の他のメンバーにも共有するよう呼びかける。これは、社会にとってのプラスチックの重要な役割を認識しつつ、改善された廃棄物管理及び革新的な解決策によって、管理を誤ったプラスチックごみの流出を減らすことを含む、包括的なライフサイクルアプローチを通じて、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指すものである。我々はまた、「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」を支持する。」

といった文言が盛り込まれた2)

このように今回のG20において、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロとするといったビジョンを共有し、それに向け各国が取り組むこととなった。

(3) 海洋ごみ問題への各国、企業の取組

多くの諸外国で、海洋に流出するプラスチック製品などの使用等を規制する動きがみられる。レジ袋への課税や有料化、使用禁止の動きは、ヨーロッパのみならず、アジア、アフリカ、オセアニア、中南米でもみられる。具体的に有料化・課税の対象としている国は、韓国、ベトナム、インドネシア、ベルギー、イタリア、オランダ、ルーマニアほか、その他多くの国で実施している。製造・販売・使用等を禁止している国も、中国、台湾、インド、バングラデッシュ、エチオピア、モロッコ、パプアニューギニア、パラオほか多数に及ぶ4)

EUでは、EU議会が、EU市場全体における使い捨てプラスチック製品(ナイフやフォーク、ストローなど)を2021年から禁止する規制案を可決した。このように先進国ばかりでなく途上国も含めて世界的に使い捨てプラスチック製品の規制の動きが拡がっている。こうした背景には、プラスチックによる環境汚染が途上国を含め深刻化していることがあるが、「G20海洋ごみに係る行動計画」にインフラを含む廃棄物管理への支援、定期的な廃棄物回収サービスの促進といった項目があるように、途上国においてはプラスチックごみを含むごみ処理体制が不十分であるといった事情も大きく影響していると考えている。海洋プラスチックごみ問題が世界的に注目を集める中で、グローバル企業において、使い捨てプラスチック製品の使用の抑制、リユースやリサイクルの促進等を発表する動きが見られる。コカ・コーラでは、2018年1月に、2030年までに製品に使用する全てのボトルと缶の回収・リサイクルを推進するグローバル目標を設定した。ネスレでは、2018年4月に、2025年までに包装材料を100%リサイクル可能またはリユース可能にするとした。スターバックスでは、2018年7月に、2020年までにプラスチック製のストローの使用を世界中の店舗で廃止するとした4)

(4) 各国で異なるごみ処理事情

海洋ごみは今や世界的な問題となっているが、海に直接捨てられるごみよりも、陸域から主に河川等を通じて海域に流入するごみが多いとされている。このため、海洋ごみの削減のためには陸域でのごみ処理が適切に行われているかどうか、環境中への排出が抑えられているかが非常に重要なポイントとなる。

我が国では、事業系廃棄物は産業廃棄物処理業者による回収・運搬、処分が行われるほか、家庭から排出される一般廃棄物は市町村が分別収集し、ペットボトル、金属等はリサイクルされ、調理くずなどについては焼却処分処理する仕組みが全国的に確立されている。

我が国は土地面積が狭く、ごみの埋め立て処分場の確保が難しいことから、焼却によりごみの減量化を図ってから埋め立て処分を行っているが、国土に余裕のある欧米では我が国に比べ、焼却処理を伴わない埋め立て処分の割合が高い状況にある。

世界銀行によると、世界の都市からのごみの排出は年間20.1億トンに及ぶが、少なくとも33%は衛生的な方法で処理されていない状況にあるとしている5)。高所得もしくは中所得の国では廃棄物の回収がほぼ全国的に実施されているが、低所得国では、廃棄物の回収率は、都市部で約48%、農村部では約26%に止まっている。

東南アジアでは川がゴミ捨て場となり川面がごみで埋め尽くされているところもある。こうしたごみは洪水などにより海洋に流され、海岸に大量に押し寄せる状況を生みだしていると考えられる。リゾート地の海岸を多くのごみで埋め尽くされる様子もインターネット上に度々紹介されている。

2015年にサイエンスに掲載された論文によると、1年間に海洋に流入するプラスチックごみは世界で500万トンから1,300万トンの間と推定されている6)。この推計は人口密度や経済状況から2010年時点での状況を算出したものであるが、その算出方法に基づき計算すると、上位は中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、スリランカといったアジアの国々となっており、これら5カ国で世界全体の過半を占める。ちなみに日本は30位で2〜6万トンの間と推定されている(表1)。

表1 国別プラスチックごみ流出量(2010年の推計値)
表1 国別プラスチックごみ流出量(2010年の推計値)
(出典)Jambeckら : Plastic waste inputs from land into the ocean, Science (2015) より算出

先に世界各地で進むレジ袋の規制について記述したが、ごみの回収率自体が低い国も多いなどプラスチックごみをめぐる状況は各国で異なり、プラスチックごみをはじめとする海洋ごみの効果的な削減のためには、各々の国の事情に応じた対策を講じていく必要がある。

参考資料