水産振興ONLINE
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2019年10月

海洋プラスチックごみ問題について

中里 靖(環境省 水・大気環境局 海洋環境室長)

3.我が国における海洋ごみの状況

我が国においては、ごみの回収処理が一般化しているが、国内の海岸には多くの漂着ごみが見られる(図5)。環境省の補助事業により回収、処理される漂着ごみの数量は年間3万トンを超えており、流木等の自然物の割合が大きいが、これは漂着した全てのごみの数量を示すものではなく、我が国の海岸に存在する漂着ごみはさらに多い。また、漂流しているごみ、海底に沈んでいるごみもある。

図5 長崎県対馬に漂着したごみ
図5 長崎県対馬に漂着したごみ

海岸に漂着するごみの多くは海流や潮流、風により漂流し海岸に漂着すると考えられる。我が国周辺には、南西から黒潮や対馬暖流が流れ、北からは親潮が流れており、さらに夏場には南からの季節風が冬場には北西からの季節風が強まる(図6)。フタのついたペットボトルや発泡スチロールのように多くの部分が海面上に浮かぶごみについては、風の影響を大きく受けることとなる。我が国の自然環境も影響して、冬場を中心に多くのごみが日本海側の海岸に漂着しており、こうした漂着ごみの中には外国語表記のある、ペットボトル、食品包装、漁業用の浮き、洗剤容器、ポリタンクなども多く見られる(図7)。一方、瀬戸内海や東京湾などでも多くの漂着ごみが見られ、例えば、東京湾の荒川の河口付近では消波ブロックの内側に多くのペットボトルなどが漂着している。また、水際の葦の根元にはプラスチックの破片が堆積している(図8)。これらのごみは当然国内から排出されたものが多い。

図6 日本周辺の海流、季節風
図6 日本周辺の海流、季節風
図7 我が国の海岸に漂着した外国語表記のごみ(環境省調査より)
図7 我が国の海岸に漂着した外国語表記のごみ(環境省調査より)
図8 国内由来の漂着ごみ(荒川河口付近)(出所:荒川クリーンエイド・フォーラム)
図8 国内由来の漂着ごみ(荒川河口付近)
(出所:荒川クリーンエイド・フォーラム)

漂着ごみ全体ではその多くは流木等の自然物が多いがそれを除くとプラスチックごみが多くを占めている。

海底のごみは目に触れることが少ないため普段は認識しがたいが、空き缶などの金属製のごみ、ゴム製品のほか、海水よりも比重の大きいプラスチックなど多くのごみが海底に存在している。国立研究開発法人海洋開発研究機構(JAMSTEC)が深海探査機で撮影した海底のプラスチックごみ等の映像を公開しているが、数千メートルの海底にもプラスチックごみが発見されているほか、多くのレジ袋が海底に沈んでいる様子も映し出されている。

このほか、我が国から海洋に流出し他国に漂着するごみもある。東日本大震災の際には多くのがれきが海洋に流出し、そうしたがれきの一部が米国の西海岸等に漂着したことが報道で大きく取り上げられた。また、ハワイにも日本語表記のプラスチック製品が漂着しているという。

我が国周辺には多くの海洋ごみが存在しており、外国から漂流してきたものや我が国から流出したものもある。また、マイクロプラスチックも我が国周辺に広く分布していることが分かっており、研究者によると我が国周辺水域は世界の中でも分布密度が高いホットスポットであると指摘している。環境省での取組については後述するが、これら海洋ごみの正確な量的把握は難しく、今後さらなる調査手法の改善が必要となっている。