水産振興ONLINE
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2019年10月

海洋プラスチックごみ問題について

中里 靖(環境省 水・大気環境局 海洋環境室長)

6. 海洋ごみに係る調査・研究

世界的にも大きな関心を集めている海洋ごみであるが、実測値に乏しく、科学的データが十分とは言えない状況にある。

このため、環境省では、日本周辺のマイクロプラスチックを含む海洋ごみの実態を把握するため、海岸などにある漂着ごみ、海面に浮遊する漂流ごみ、海底に堆積する海底ごみについて、分布状況等の各種調査を行っており、平成26年度からは、マイクロプラスチックに着目した調査も実施している。これらの調査概要などを紹介する。

(1) 漂着ごみ調査

日本各地の海岸をモニタリング調査(毎年10地点を選定)し、漂着ごみの量や種類、組成、ペットボトルの製造国(言語表記)等の情報を収集、整理している。漂着ごみはその年の気象にも影響され、また漂着したごみが再度漂流することなどから、同一地点であっても年変動が大きいことに留意する必要があるが、平成28年度の調査では、流木等の自然物を除く人工物ではプラスチック類が最も多く(容積ベース)、全体の約7〜9割を占めていた。また、漂着ごみがどこからきたものかを推定するため、漂着したペットボトルに着目し、表記された言語で分類を行っている(図10)。その結果、東シナ海沿岸や西日本の日本海側、太平洋側では中国語及び韓国語表記のものが多いのに対し、瀬戸内海や東日本の太平洋側、日本海側では日本語表記のものが多かった。

(2) 漂流ごみ及び海底ごみ調査

日本周辺の沿岸海域と沖合海域を対象に、漂流ごみ及び海底ごみについて、量や種類等の調査を行っている。なお、沖合海域調査については、平成28年度は東京海洋大学及び九州大学の協力を得て実施した。

漂流ごみについては、船舶航行中に目視観測されたごみを種類ごとに集計しているほか、海底ごみについては底曳き網を用いて収集し種類ごとに集計している。平成28年度は、沿岸海域として陸奥湾・富山湾・若狭湾(計12地点)、沖合海域として本州・四国・九州周辺(漂流ごみ調査地点:計175地点、海底ごみ調査地点:計10地点)でそれぞれ調査した。

その結果、漂流ごみについては、沿岸海域では、発見されたごみのうち人工物は約65%(個数ベース)で、人工物のうちレジ袋等の包装材、トレイ等の食品包装、発泡スチロールなどが発見回数の上位を占めた。また、沖合海域については、日本海北部や東シナ海で人工物の分布密度が高い結果となった。海底ごみについては、調査した沿岸海域(陸奥湾・富山湾・若狭湾)の大部分の調査地点において、プラスチックごみの占める割合が高いという結果となった。

図10 漂着したペットボトルの表記言語の割合
図10 漂着したペットボトルの表記言語の割合

(3) マイクロプラスチック実態調査

沿岸海域や沖合海域における漂流ごみの目視観測調査に併せ、マイクロプラスチックを採取し、個数・種類等を計測している。平成28年度の結果では、沿岸海域(陸奥湾・富山湾・若狭湾)では、平成27年度の調査海域である東京湾・伊勢湾・駿河湾と比較すると、東京湾の2点を除き同程度の密度であり、また、マイクロビーズは検出されなかった。また、沖合海域について、平成26年度から平成28年度調査までの結果を合わせてみると、東北の日本海側及び太平洋側、四国及び九州の太平洋側で高い密度を示す海域が見られた(図11)。

上記に加え、海岸や海上で採取されたマイクロプラスチックについて、残留性有機汚染物質(POPs)に関する分析も実施している。平成28年度調査の結果、漂流マイクロプラスチック中に含有するPCBの濃度は、マイクロプラスチック1gあたり数ng〜百数十ngであり、平成27年度調査との比較では都市部に隣接する内湾を除き、平成27年度の結果と同程度であった。なお、これらの結果は他の先進国で観測されるものと同程度で、世界的傾向と一致していた。ちなみに、食品中に残留するPCBの規制値は、遠洋沖合の魚介類では0.5ppm、内海・内湾の魚介類では3ppmとなっており、ngに直すと、それぞれ500ng/g、3,000ng/gとなる。

図11 沖合海域のマイクロプラスチックの分布密度(平成26〜28年度)
図11 沖合海域のマイクロプラスチックの分布密度(平成26〜28年度)

(4) マイクロプラスチックのモニタリング手法の調和化のためのガイドライン

世界的な問題となった海洋ごみに関し、2015年のエルマウサミットにおいて「海洋ごみ問題に対処するためのG7行動計画」が策定され、翌年のG7富山環境大臣会合において同計画の効率的な実施の重要性が確認された。それを受け、各国が、廃棄物管理のベストプラクティスの共有、海洋ごみの削減に向けた国際協力などの優先的施策のいずれかを担当することを表明し、我が国はマイクロプラスチックのモニタリング手法の標準化及び調和化を主導することとした。

マイクロプラスチックの観測は各国で取り組まれているが、採集に用いるプランクトンネットの種類が異なるなど機材が一律でないほか、密度データを面積でみるのか海水の堆積でみるのかなど違いがあり、データを単純に比較できない。このため、各国で収集したデータを比較可能とするのが調和化であり、各国の研究者による会合と、フィールド調査結果を基に本年5月に調和化するためのガイドラインをとりまとめ、環境省ホームページに公表した13)。今後はこのガイドラインが活用され、実測に基づくマイクロプラスチックの世界的な分布が明らかになることを望む。

(5) 環境研究総合推進費による海洋プラスチックごみ研究

海洋プラスチックごみ、特にマイクロプラスチックが海洋生態系などにどのような影響を与えうるのかを解明するためには、より多くのデータを収集するとともに、今後の分布予測精度を向上させるほか、海洋生物にどのような状況で、どのように影響を与えるのかを把握する必要がある。現在、海洋等で採取したサンプルごとに、顕微鏡などを用いるなどして、プランクトンや木片などとマイクロプラスチックを分離し分析しているが、大変な労力と手間を必要としている。データ数を飛躍的に高めるためには、こうした計測手法を改善し、より多くのサンプルを扱えるようにする必要がある。このほか、海洋生態系への影響を予測する上で、分布密度についても地球規模や生物密度の高い沿岸域における予測の高精度化や、マイクロプラスチックに含有もしくは吸着する化学物質の生物濃縮のメカニズムや物質の濃度レベルなどの把握や評価が必要である。このため、海洋プラスチック汚染の実態解明と地球規模での将来予測を目標として、平成30年度より3年計画で、「海洋プラスチックごみの沿岸から地球規模での海洋中の分布状況及び動態に関する実態把握及びモデル化」、「海洋プラスチックごみ及びその含有化学物質による生態影響評価」、「海洋プラスチックごみのモニタリング・計測手法等の高度化」の3テーマの研究を推進しているところである。