水産振興ONLINE
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2019年10月

海洋プラスチックごみ問題について

中里 靖(環境省 水・大気環境局 海洋環境室長)

5. 海洋ごみ問題への我が国の取組の現状

(1) 海岸漂着物処理推進法

国内における海洋ごみ対策を推進するための基本的な枠組みを規定するものとして、『美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律』(以下「海岸漂着物処理推進法」という。)がある(平成21年に議員立法として全会一致で成立)。

我が国の海岸には多くの海洋ごみが海流や季節風の影響を受けて漂着することを先に述べたが、この法律は、海岸における良好な景観及び環境を保全するため、海岸漂着物の円滑な処理及び発生の抑制を図ることを目的としており、国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明確化することにより、幅広い関係者が各自の立場に応じて取組を実施し、かつ、相互に連携して海洋ごみ対策に取り組むことを推進するものである。

平成22年には、政府において、海岸漂着物処理推進法に基づく『海岸漂着物対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針』(以下「基本方針」という。)が閣議決定され、この基本方針に基づき、関係省庁が一体となって海洋ごみ対策を推進してきたところである。

(2) 平成30年6月の法改正

法律施行後、10年近く経過したものの、現在もなお、我が国の海岸には国の内外から多くのごみが漂着している。また、船舶が漂流ごみに接触等した場合のスクリューの変形や絡みつき、船底にあるエンジン冷却口の閉塞などによる船舶航行の障害、海底ごみの堆積による漁場環境の悪化、漁業操業中に入網することによる漁業作業の支障などが生じている。さらに、海洋生態系に影響を及ぼす等の懸念が国の内外で高まっているマイクロプラスチックの対策が喫緊の課題となっている。

こうした状況の下、海岸における良好な景観及び環境の保全並びに海洋環境の保全を図るため、昨年の通常国会において、議員立法により改正法案が提出され、6月に全会一致により可決、成立した(本年6月22日公布・施行)。改正法のポイントは以下のとおりである。

  • ① 法律名の一部変更

    従来、海岸漂着したごみの処理を中心としていたが、改正により漂流ごみや海底ごみも対象となったため、法律の題名に「海洋環境」を加え、法律名が「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境並びに海洋環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律」に改められた。

  • ② 目的規定の一部変更

    海洋ごみが海洋環境の保全を図る上でも深刻な影響を及ぼしており、また、大規模な自然災害の場合に大量に発生していることから、法の目的規定にその旨の認識が追加された。

  • ③ 漂流ごみ・海底ごみの追加

    我が国の沿岸海域において漂流し、又はその海底にあるごみその他の汚物又は不要物を「漂流ごみ等」と定義した上で、これを法が対象としている「海岸漂着物等」に追加され、法律が対象とする海洋ごみは、漂着ごみ、漂流ごみ、海底ごみとなり、「国及び地方公共団体は、地域住民の生活又は経済活動に支障を及ぼす漂流ごみ等の円滑な処理の推進を図るよう努めなければならない」旨が規定された。

  • ④ 3Rの推進等による海岸漂着物等の発生抑制

    海洋ごみは陸域で発生したごみが河川等を通じて海洋に流出するなどにより発生していることから、海岸漂着物対策(漂着ごみのほか、漂流ごみ、海底ごみを含む海洋ごみ対策)は、3Rの推進などによる循環型社会の形成促進を目的とする循環型社会形成推進基本法等に基づく施策と整合が図られたものとすることが規定された。

  • ⑤ マイクロプラスチック対策

    微細なプラスチック類をマイクロプラスチックと定義した上で、海洋ごみ対策は、マイクロプラスチックが海洋環境に深刻な影響を及ぼすおそれがあること及びその処理が困難であること等を踏まえ、破砕してマイクロプラスチックになる前のプラスチックごみを円滑に処理することや、ごみとなる廃プラスチック類自体の排出を抑制すること、再生利用等により廃プラスチック類を減量することなどが進むように十分配慮されたものでなければならないとする基本理念が規定された。
    また、事業者は、通常の用法に従った使用の後に河川その他の公共の水域又は海域に排出される製品へのマイクロプラスチックの使用の抑制及び廃プラスチック類の排出の抑制に努めなければならない旨を規定したほか、政府は、最新の科学的知見及び国際的動向を勘案し、海域におけるマイクロプラスチックの抑制のための施策の在り方について速やかに検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる旨が規定された。

  • ⑥ その他

    このほか、国は、海岸漂着物等の処理等の推進に寄与した民間の団体及び個人の表彰に努めることや、海岸漂着物対策の推進に関する国際的な連携の確保及び海岸漂着物等の処理等に関する技術協力その他の国際協力の推進に必要な措置を講ずる旨が規定された。

(3) 海岸漂着物対策推進基本方針

上記の法律改正を受け、法律に基づく基本方針の変更が本年5月31日の閣議で決定された。なお、後述するプラスチック資源循環戦略、海洋プラスチックごみ対策アクション・プランも同日に決定している9)

今般の基本方針の変更では、河川等の水の流れを通じて陸域から海域にごみが流出することに鑑み、海洋ごみの削減を進めるために沿岸域のみならず河川の下流域から上流側も含めた流域圏で、行政や事業者、住民等が一体となって対策を進めること、海底ごみなどは日常的に海を利用している漁業者の協力を得ながらその回収・処理を進めることが記載されている。

また、海洋環境中で分解されにくいプラスチックごみの発生抑制の観点から、廃プラスチック類の排出抑制や、仮に環境中に放出されても容易に分解する生分解性プラスチックの利用、プラスチック資源を繰り返し利用するための再生材の利用などが記載されている。

このほか、マイクロプラスチックの海域への排出抑制の観点から、洗顔料などにスクラブ製品として利用されるマイクロプラスチックビーズのように、通常の使用方法により、製品に含まれるマイクロプラスチックが下水を通じて海洋に流出するような製品の場合には、そうした製品へのマイクロプラスチックの使用の削減を徹底すること、また、そうした製品を輸入したり流通させたりしないことを求めている。

(4) プラスチック資源循環戦略

プラスチック資源循環戦略に関しては、昨年6月に閣議決定した第4次循環型社会形成推進基本計画に、「再生不可能な資源への依存度を減らし、再生可能資源に置き換えるとともに、経済性及び技術的可能性を考慮しつつ、使用された資源を徹底的に回収し、何度も循環利用することを旨として、プラスチックの資源循環を総合的に推進するための戦略を策定し、これに基づく施策を進めていく。」との記述があり、昨年来、関係省庁、学識経験者、業界等で検討が進められ、中央環境審議会の答申を経て、本年5月31日に関係省庁連名により決定した10)

戦略の基本原則は、プラスチックの削減、再利用、リサイクルといった3Rと再生可能資源の利用を進めるRenewableである。

こうした基本原則の下、ワンウェイ(使い捨て)プラスチックの使用削減、中国をはじめとしたアジアの廃プラスチック輸入禁止措置を受けた国内資源循環体制の構築、可燃ごみ指定袋などへのバイオマスプラスチックの使用など3Rや再生材、バイオマスプラスチックの使用、海洋プラスチック対策などが盛り込まれている。

また、これらの対策を進めていく上での目安となるマイルストーンが定められており、リデュースについては、「2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制」、リユース・リサイクルに関しては、「2030年までに容器包装の6割をリサイクル・リユース」、「2035年までに使用済みプラスチックを100%有効利用」などが、再生利用・バイオマスプラスチックに関しては、「2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入」などが掲げられている。

(5) 海洋プラスチックごみ対策アクションプラン

海洋プラスチックごみ対策アクションプランについては、「新たな汚染を生みださない世界」の実現を目指す我が国の率先的・具体的な取組をとりまとめるべく、本年2月に原田環境大臣を議長とする関係府省会議の開催を契機に、策定作業が開始され、内閣官房がまとめ役となり検討が進められ、5月31日の関係閣僚会議で決定した11)

対策分野は、①廃棄物の回収・適正処理、②ポイ捨て、不法投棄等による海洋流出の防止、③陸域での散乱ごみの回収、④海洋に流出したごみの回収、⑤代替素材の開発等のイノベーション、⑥関係者の連携協働、⑦途上国支援、⑧科学的知見の集積となっている。

主な対策、取り組みとしては、上述の基本方針、循環戦略に記述されているものと関連するものもあるが、国内の廃プラスチック処理・リサイクル施設の整備を予算措置により短期集中的に支援することや、不法投棄の監視・取り締まりの徹底、自治体の海岸漂着物の回収処理について予算事業により推進すること、海洋生分解性プラスチックの開発・導入普及ロードマップによる推進、途上国に対する廃棄物管理に関する制度構築、環境インフラ導入支援などが盛り込まれており、それぞれの施策について担当する省庁が明記されている。また、プラスチックごみの国内適正処理量、海洋プラスチックごみ回収量など5つの指標が設定され、プランの進捗を毎年把握するほか、科学的な知見の進展等を踏まえつつ、3年後を目途として見直しを行うこととされている。

(6) 海洋ごみの回収

海岸漂着物処理推進法においては、海洋ごみの回収・処理や発生抑制の具体的な取組について、都道府県が必要に応じ策定する地域計画に基づき地域の実情に応じ推進することとされている。また、政府は、海岸漂着物対策を推進するために必要な財政上の措置を講じなければならないとされている。環境省では、同法に基づき、「海岸漂着物等地域対策推進事業」として、都道府県等が実施する漂着ごみの回収・処理や発生抑制等の事業に対する財政支援を実施している。平成21〜27年度にかけて合計約160億円の財政支援を行い、全国で合計約19万tのごみが回収・処理された。その後も、平成28年度は計30億円(平成28年度当初予算及び平成27年度補正予算の合計)が計上されるなど、年間30億円を超える予算措置がなされており、令和元年は平成30年度補正予算と合わせると35億円となっている。

こうした予算措置により各地域(地方自治体)において海洋ごみの回収・処理、発生抑制対策が行われており、ここ数年は年間3〜4万トンの海洋ごみが回収処理されている。

海洋に流出したごみは広く分散して漂流することから効率的に回収することが難しく、海洋ごみの効率的な回収という観点から、漂着ごみの回収は有効である。また、海岸にプラスチックごみを放置すれば、それが紫外線等の影響を受け自然環境の中で劣化及び細分化し、マイクロプラスチックの発生に繋がるため、景観及び環境保全だけでなくマイクロプラスチックの発生抑制という観点からも、海岸に漂着したプラスチックごみの回収は特に重要である。

なお、上述した漁業者の協力による海底ごみの回収・処理についても同事業を活用し、その取組を推進していくこととしている。

(7) 海洋ごみ削減のための発生抑制対策等モデル事業

海洋ごみのうち、国内に由来するものの多くは、陸域で発生した散乱ごみ等が河川を経由して海域に流れ出たものとされており、今般の海岸漂着物対策推進基本方針にも盛り込まれたように、沿岸域のみならず内陸を含めた流域圏が一体となった広域的な発生抑制対策が重要となる。

このため、環境省では、内陸を含めた複数の地方自治体連携による発生抑制対策等モデル事業を昨年度から3か年の予定で実施している。モデル事業では、漂着ごみの発生実態把握や、地域の実情に応じた発生抑制対策、効果の検証などを行う予定であり、海岸漂着物処理推進法の各種制度(地域計画、海岸漂着物対策活動推進団体及び同推進員等)の活用方策についても併せて検討することとしている。事業の最終年度では、モデル事業を通じて得られた成果をもとに各種ガイドライン等を作成し、これらを用いた取組を全国の都道府県等へ横展開を図ることとしている。

(8) 海洋ごみ問題普及啓発用教材

海洋ごみの問題に関心を持ち、その解決に向けた自主的な行動を促す上で、教育は大変重要な役割を担うものと考えている。このため、環境省では小中学生用と高校生用の教材を作成した12)。陸域で発生したごみが川などを通じ海洋に流入し海洋ごみとなることや、海洋生物に影響を与えることなどを解説している。これらは環境省のホームページでダウンロードでき、必要に応じスライドを減らす、追加するなどが可能で、各々の現場のニーズに応じて自由にアレンジ可能となっている。多くの教育現場での活用を通じて海洋ごみ問題への認識が拡がることを望む。