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水産振興コラム
20264
進む温暖化と水産業

第58回 リレーコラム「進む温暖化と水産業」は今年度も続きます。

長谷 成人
(一財) 東京水産振興会理事 / 海洋水産技術協議会代表・議長

はじめに

このコラムのシリーズは、2020年6月にスタートした「定置漁業研究」、その後に続く「洋上風力発電の動向が気になっている」「ブルーカーボンで日本の浜を元気にしたい」の3シリーズを受け継いで続けています。今年度も、この定置、風力発電、ブルーカーボンを3つの柱にしつつ気候温暖化の中で水産業に関わる読者に参考となる情報、元気が出る情報をお届けしたいと思います。

定置漁業

沿岸漁業の漁獲量の半分を占め多様な地場の水産物を供給する定置漁業、温室効果ガスの排出量も少なく、漁村への新規就業者の受け皿としても有効な定置漁業が今後の浜の存続にとって極めて重要との思いで継続的に定置漁業をめぐる問題を取り上げています。

特に北日本では温暖化の影響を受けてサケの漁獲量が激減し、定置漁業の生き残り策が喫緊の課題になっています。水産庁の政策としては養殖業との兼業化などの検討も進めていくことになっており、多角的な検討が求められています。一方、本体の定置漁業そのものについては、平成の漁業制度の改革の中で漁業権の切替時には「漁場を適切かつ有効に活用していると認められる」場合、すなわち「まじめに頑張っている」場合には引き続き免許されることは制度上担保されましたが、それぞれの海区において来遊する資源に合わせた適正統数についての議論、検討を進めることが重要だと思います。経営体の自然淘汰を待つだけではあまりに残念です。

写真1
網走合同定置漁業のサケ漁獲の様子

TAC管理についても触れたいと思います。昨今の海洋環境の激変の中での制度運用は本当に難しいことではありますが、科学の限界を認識しつつもその時点での最善と思われる科学的根拠をベースに、いかに公平感を確保しながら運用するかが問われています。公平感の確保については、同種の漁法の間での地域間の公平感、他種漁法との公平感、遊漁との公平感、外国漁船との公平感に配慮しなければなりません。

この中での外国漁船との公平感については、今年1月に出版された北海学園大学濱田武士教授の「サカナ戦争」(家の光協会)を読んだところ、気に入ったフレーズがいくつもありました。「地政学的リスクを考慮しない資源管理は机上の空論」(67頁)とか「漁業外交と内政が資源管理の両輪」(74頁)などです。こうした考え方は実は漁業法改正に先立ち平成30年6月に農林水産業・地域の活力創造本部(本部長安倍総理(当時))が改訂した「水産政策の改革について」(座談会「平成の漁業制度改革」の巻末参考資料参照)では意識されていて、漁業外交や外国船取締を並行して進める考え方として示されていたものです。漁業外交が我が国の思いどおりに進むはずもなく、「両輪」の片側の調子が悪ければ、その様子も考えながら物事を進めるのは基本的なことだと思います。

さて、そうした中で、魚種選択性が低く漁獲量管理との相性が悪い定置漁業の問題は、沖合漁業まで含めTAC管理の中での混獲問題に通じる様々な課題を提起します。今年度は全国の定置漁業にとって共通の重要魚種であるブリのTAC管理がステップ2となります。ステップ2は採捕停止命令を伴うTAC管理の本格実施前の重要な段階です。

昨年度は、核心は混獲問題ではないものの小型イカ釣り漁業のスルメイカのTAC管理が大きな問題になりました。従来からのTAC魚種であるスルメイカはすでに採捕停止命令ありの魚種ですが、ブリは新たなTAC魚種として課題解決を図りながら段階的に順次実施するステップアップ管理の過程です。ステップアップ管理では、ステップ2までの取組に十分な進展があった場合に本格実施段階であるステップ3に移行することになっています。様々な場合を想定して現場が納得できる交通整理を行うことが不可欠です。

水産庁に私と同期で入庁した内海和彦さんは「海のさかなの正しいトリセツ」(日本評論社)を昨年秋に出版しましたが、水産庁OBによる現在の水産庁の資源管理政策へのオブジェクションということで「このままでは日本の漁業は潰れてしまう!」というセンセーショナルな帯が付けられています。漁業を潰そうと思って仕事をしている水産庁職員がいるはずもなく、現場の声、このような批判の声にも耳を傾けながら、現実的なステップアップの方向性を見出していく必要があります。

問題の採捕停止命令(漁業法第33条)ですが、この規定は「必要な命令をすることができる」との「できる」規定です。実際の運用においてはこの伝家の宝刀を抜く前の助言、指導、勧告(同法第32条)を適切に使うことが重要だと考えます。

関係者で一定の目標を決めたなら、あとは漁業者側は資源管理協定なども駆使して仲間間の公平感に配慮した自主的な取組みを進めつつ、行政側はTACの追加配分や融通の手法を駆使して来遊状況に対応し、それでも漁期中に採捕が続くようなら放流に努めるといった対処を助言、指導、勧告する。基本は、そこまでではないかと私は思います。それでも勧告に従わないときに伝家の宝刀を抜くというか、抜くぞ抜くぞと言いながら勧告に従ってもらうということではないでしょうか。

混獲の場合、漁船漁業では漁場を移動するといったことが現実的対応かと思いますが、定置漁業ではそれもできず、まさに「放流に努める」が現場でできる限界ではないでしょうか。勧告で求められる相応の努力をしても漁法上「混入」してしまう魚のために主対象種の漁獲ができないのでは漁業の経営は成り立たないからです。

最後の最後に勧告を無視して放流など相応の努力もしない場合にやむを得ず採捕停止命令を発出するにしても、そこで対応を改め勧告内容にあるような努力をしても若干の「混入」は漁法上避けられない場合もあります。

漁業法の解説書では「採捕が禁じられている〇〇海域で△△を採捕する可能性を予見しながらも、あえて採捕に及んだ場合は一般的には未必の故意が認められるが、△△の採捕を予見しない中で漁獲行為を行った結果、たまたま△△を混獲したにすぎない場合は、故意が認められないものと解される」(大成出版社「逐条解説 漁業法」(505頁))とあります。混獲問題を議論する時に、「混獲」という言葉に、経済的に主たる対象魚種ではないというだけの「混獲」から、漁法上漁業者が現場で確認できない「混入」レベルまで相当幅広い意味があることを意識しながら議論しないと話がかみ合わなくなってしまいます。

このようなことを全国的に関係者の多いブリをテストケースとして様々な状況を想定しながら交通整理しながら、関係者の納得感を得る必要があります。そのことがTAC導入に不信感、警戒感を持つ漁業者の不安を解き、ブリだけでなく今後のTAC制度の円滑な運用に資すること大だと思います。

私とは沿岸沖合課で課長補佐同士として机を並べ、漁業調整課では課長と総括として仕事をし、漁業法の改正も長官と担当課長として取り組んだ藤田仁司長官です。現場のことも制度の成立の経緯も両方をよく知る長官が在職している間に水産庁職員一丸となってこれらの整理をしっかりつけてから前に進んでもらいたいものだと思います。

ブルーカーボン

昨年度のコラムでは東北大学名誉教授の吾妻先生とその愛弟子である理研食品 (株) の佐藤陽一さんにこのまま温暖化が進めば2040年代に北海道周辺でコンブの生息が困難になるかもしれないという危機意識をもってコラムを執筆していただきました。すでに北海道ではコンブ生産安定対策会議が設けられ検討・対応を進めていますが、和食の肝であるコンブの問題を地方任せ、企業任せにせず特に高温耐性を持つ品種の作出をもっと国家的課題として取り組めないものかと感じます。

政府が打ち出している地球温暖化対策計画では、ブルーカーボンによるCO2吸収量を40年に200万トンとする目標が掲げられていますが、現状のペースでは目標には程遠い状況です。そこで、沖合での浮体式洋上風力発電エリア内での大規模養殖ができないかという相談を受けることがありますが、浮体式洋上風力発電についての利害関係者の合意形成において、風車施設による魚の回遊への影響が懸念材料となり克服すべき課題となっています。ましてそこで大規模海藻養殖ということになれば漁船が利用できないウィンドファーム内の水域に回遊魚の蝟集・滞留が起こることが想定されることから合意形成をより難しくすると考えています。そこで私としては、洋上風力発電と関連付けるにしても、地元の磯焼け対策や藻場造成と関連付けて比較的合意形成がしやすい共同漁業権漁場内でまずは考えるべきとお答えすることにしています。

米国におけるトランプ政権の登場によりパリ協定に基づく世界の脱炭素の取組は混迷、漂流状態を呈していますが、日本においては排出量取引制度(GX-ETS)が本年度から本格稼働します。CO2の直接排出量が前年度までの3年平均で10万トンを超える約400ほどと言われる大企業が対象となるそうです。事業者ごとに排出枠が配分され、削減が進んだ事業者は余った排出枠を売却し、削減が難しい事業者は不足分を購入します。制度設計の基本はこの排出枠取引とされ、カーボンクレジットによる相殺は原則排出量の1割までと補助的な位置づけとなるそうです。

さらに、使用できるクレジットは国が認証するJ-クレジットが中心とされていますが、排出量取引の価格が極端に変動しないようにと価格レンジとしてt-CO2当たり1,700~4,300円が示されました。この水準はJ-クレジットでのグリーンカーボン(森林吸収)での平均的な取引価格と比べても低い水準であることから、義務・規制としてだけで枠を購入しようとする企業にとってはカーボンクレジットは魅力を持たないことになってしまいます。

とは言え、これら大企業の扱い量は大きなものになるのでCO2吸収源としての価値以外にも地域貢献として一部でもクレジットで相殺してくれれば小規模な地方の取組みにとっては大きな助けとなります。

一方、官製のJ-クレジットとも違うボランタリークレジットであるJブルークレジットは、少なくとも今のところ排出量の相殺に使えるクレジットとはされていませんが、漁業者中心の取組みが多く認証を受け、地元企業などとの関係性を活かしながらCO2吸収以外の地域貢献や生物多様性といった価値も評価されて、これまで高単価で取引されてきました。これまでに北陸から秋田までなど一部の空白水域はあるものの全国的な広がりを示してきましたが、我が国における温暖化対策の取組の段階が進んでいく中、今後、技術研究組合による実験的、実証的段階からいかにより広範な形で持続的に定着・発展させられるか大事な局面になってきていると感じます。

図2
コンブの繁茂状況を測定する漁業者(積丹町)

洋上風力発電

今年2月に(公財)自然エネルギー財団から「沖合海域における洋上風力発電導入に向けた海域選定プロセスと政策の提言」が出されましたが(図1参照)、私も提言内容を検討する同財団の「洋上風力 漁業共生研究会」に参加し、これまでも表明してきた考え方を提言に盛り込んでもらいました。
https://share.google/akR3Qa5OpS1yaLw2U

図1 海域選定プロセスの全体像
図1

共同漁業権漁場を中心とした案件と違い、沖合水域では漁法的に漁業と風車群との物理的な共存ができないので、合意形成を円滑に進めるためには漁場との棲み分けを基本としつつ、内閣府中心にまずは政府内の調整をし、海しる(海上保安庁海洋情報部が運用する海洋状況表示システム)に検討水域を示すこと、回遊魚の広域影響調査は国主導で行うこと、不測の悪影響が出た場合に備え、漁業者に過度な立証責任を課さない形で国主導のモニタリング体制を活用しながら発電設備との因果関係が推認された場合に支援がなされる基金を創設すべきことといった内容です。

また、東京大学を中心とした産学官コミュニティーの海洋技術フォーラムの中で私も参加する浮体式洋上風力発電円滑導入に向けた検討WGとして水産庁が24年10月に発表した主要な大臣許可漁業の水域利用状況をもとに、過去10年漁獲報告がなかった水域でどれくらいの風車が立ちうるかの試算も公表し相当量のポテンシャルがあることを示しました。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/eezriyou.html
https://share.google/ANepP3WmrS7gakB5z

対象水域から東シナ海が除かれていますが、その理由は、離岸距離が大きく、漁獲報告がなかった理由が日中漁業協定により、我が国EEZであっても漁業に関する主権的権利を行使できず、実態上中国漁船に漁場を占拠されているからです。石狩湾沖、奥尻島沖、室蘭沖、秋田沖、佐渡島沖、石川沖で15MW風車換算で水深500m以浅で0.6GW、水深500〜1,000mで約11GW、1,000〜2,000mで24GW合わせて約36GWの設備容量となりました。これらの数字は、6.25km2に風車1基を設置できるとの保守的な前提を置いての試算です(図2)。

図2 EEZ主要大臣許可漁業の利用空白域における設備容量の推算
図2

この「空白域」はあくまで主要大臣許可漁業の漁獲成績報告書によるもので、その他の知事許可漁業や自由漁業についても精査する必要はあります。また、これらの水域については、例えば室蘭沖は北米と日本を結ぶ繁忙な航路の一部であり、秋田沖や佐渡島沖についても内航フェリーの航路となっているといったことから、これらの観点、さらには外交や安全保障といった様々な観点からさらに検討水域を絞り込み抽出する必要があります。

また、この試算はEEZについてのものですが、数字が一番大きかった秋田沖についてだけ試しに隣接する領海部分についても同様の作業をWGメンバーに行ってもらったところ、500m以浅で0.6GW、500〜1,000mで0.9GW、1,000〜2,000mで1.7GW合わせて3.2GWという数字になりました。

経産省と国交省は40年までに浮体式で15GW(15MWの風車で1,000本)という目標(第2次洋上風力産業ビジョン)を掲げているのですから、個別案件ごとに沖合漁業者の了解を取り付けようとしても、沖合漁業者はあとどれくらいの案件を持ってこられるか分からないまま判断の切り売りはできません。沖合海域については自然エネルギー財団の提言にあるようにEEZに限らず領海域も含め案件形成の全体像を示す意味で検討海域の抽出をまずは行うことが、各地での場当たり的な案件形成に伴う混乱を避けるために極めて重要と感じています。

その他の話題

以上の3本柱のほかに、温暖化による豪雨対策で治水が重要となっている状況での「人と魚に優しい川づくり」についてこれまで取り上げています。本年度は5年に1度の水産基本計画検討の年です。内水面漁業がおかれている現状の中で、河川管理者との協調・連携をいかに進めていくか検討の深化を期待しています。

海洋水産技術協議会ワークショップ

2026年5月28日 (一財) 東京水産振興会にて、水産経済新聞社の協賛も得て海洋水産技術協議会主催の「進む温暖化と水産業」ワークショップを開催します。今回は、(一社) 海洋水産システム協会平石一夫会長、三好潤さんによる水素燃料電池漁船の話題のほか、理研食品 (株) の佐藤陽一さんによる海藻の育種、種苗生産、大規模養殖の話題、そして私の「海洋開発の沖合展開と漁業」を予定しています。オンラインでの参加も可能ですのでご参加を検討いただければ幸いです。

連載 第59回 へつづく

プロフィール

長谷 成人(はせ しげと)

長谷 成人 (一財)東京水産振興会理事

1957年生まれ。1981年北大水産卒後水産庁入庁。資源管理推進室長、漁業保険管理官、沿岸沖合課長、漁業調整課長、資源管理部審議官、増殖推進部長、次長等を経て2017年長官。2019年退職。この間ロシア、中国、韓国等との漁業交渉で政府代表。INPFC、NPAFC(カナダ)、宮崎県庁等出向。
現在 (一財)東京水産振興会理事、海洋水産技術協議会代表・議長