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水産振興コラム
20262
進む温暖化と水産業

第57回 海藻養殖産業を存続させるために —育種と種苗生産—

佐藤 陽一
理研食品株式会社 取締役・原料事業部長/理化学研究所 客員研究員

はじめに

海藻類の国内生産量が減り続けている。農林水産省「漁業・養殖業生産統計」によれば、ワカメは1974年の17万3,860トンから2024年の3万9,700トン(2011年を除く)、コンブは1992年の23万242トンから2024年の5万3,000トン、いずれもピーク時の約2割に減少した(図1参照)。海藻類は食料のみならず各種食品改良剤や工業原料としてもニーズが高まっている。近年は「ブルーカーボン」としての役割も期待されているにも関わらず、現状では国内の食料としての需要を満たすこともままならない。本稿では、第49回で吾妻行雄先生(東北大学名誉教授)が述べられた「コンブの生産を持続させる方策」を受けて、ワカメやコンブ類の生産を国内で今後どのように維持し、増産を目指していくべきなのか、その方策を海外の事例も交えて考えてみたい。

図1
図1:国内のワカメおよびコンブの天然(青)および養殖(赤)の収穫量の推移。
農林水産省「漁業・養殖業生産統計」を元に作成。

海外におけるワカメ・コンブ類の育種研究と実用化の現状

2024年以降の海外視察や国際学会における海外研究者との情報交換により得た情報を元に、各国の現状をまとめた。

1) 韓国

Ministry of Ocean and Fisheries, National Institute of Fisheries Science, Seaweed Research Institute(海藻研究所)においては10年以上前からワカメの育種に取り組み、10品種以上を作出している。主に南部の莞島(わんど)郡を中心に食用またはアワビの餌用原料の養殖生産に活用されているようだ。同研究所のHwang Eun Kyoung 博士に伺ったところ、研究所で開発した系統は種苗生産業者に譲渡し、その業者が販売した売上の数%を国に支払う仕組みが確立されているとのことだった。その一方で、各養殖産地に種苗生産を担う企業や生産団体が複数存在し、40年以上に渡る育種研究により各社独自の系統を作出している。私が訪問した育苗場では、長年培養を継続している特定の母藻に毎年一定量の別系統を掛け合わせることで遺伝的な多様度を保つ工夫をしており、約300万mの種苗生産を実施していた。

2) アメリカ

民間研究機関のWoods Hole Oceanographic Institution (WHOI)では、米国エネルギー庁等の支援を受けてコンブ類(Saccharina latissimaなど)の育種に取り組んでいる。主な用途はバイオエタノール用原料とのことで、成長が早い個体、高水温でも生育する個体、ならびに炭素成分含有量の多い個体などを目指しているようだ。国内各地の母藻を配偶体(微小世代)の状態で保管培養し、毎年数百系統を組み合わせた交雑育種を試しており、陸上水槽および養殖漁場の両方で形質評価を行って7年目になるという。私が訪問した2025年4月は漁場での試験養殖の真っ最中で、前年11月頃に養殖開始した約300系統の生育評価を実施しており、優良系統候補個体の絞り込みが行われていた(図2参照)。また、南カリフォルニア大学などの研究成果として、コンブ目褐藻の雌性配偶体の高水温に対する耐性が、その後の胞子体世代の高水温耐性に引き継がれる可能性が高いことを明らかにしている(Harden et al. 2024)。本研究に参画した Dr. Gary Molano氏は Macro Breed社を設立し、WHOIなどと協力して、配偶体世代での評価手法やゲノム情報処理技術を活用したコンブ類の育種開発サービスの提供を開始している。

図2
図2:WHOIにおけるコンブ類の選抜育種と養殖試験。壁一面に培養容器が並べられており、それぞれに異なる系統の種苗が育苗されている(a,b、Scott Lindel 氏より写真提供)。専用の容器と種苗基質が用意されており作業効率が高い。養殖試験はニューハンプシャー大学の臨海実験施設の協力を得て実施しており、系統別に成長度合いを評価していた(2025年5月1日、著者撮影)。

3) 中国

中国における海藻類の育種とその実用化はよく知られている。例えばマコンブでは7世代にわたる選抜育種により高水温耐性を有する系統の作出に成功し、養殖量の増大に貢献している(Li et al. 2016)。ワカメに関しても多くの優良系統が作出されており、2025年11月には陸上植物で長年用いられている倍数性育種技術がワカメに適用された論文が公開された(Shan and Li 2025)。なお、2025年5月のInternational Seaweed SymposiumにおけるInstitute of OceanologyのShao Jun Pang教授の発表によれば、近年はマコンブ仮根部の生育不良により養殖ロープにしっかり根付かず藻体が脱落する被害が起きているとのことであった。中国においてはこれまでの育種研究の成果を活用して、こうした課題を解決する系統開発も短期間でなされると推測する。

4) 欧州

2010年代の中頃から、新たな種苗生産方法「Direct Seeding」が開発されコンブ類養殖で実用化されている(Kerrison et al. 2018; Boderskov et al. 2021)。日本や韓国の種苗生産は、遊走子や配偶体を糸や養殖ロープに付着させ、その後海中または室内で育苗し芽を出させて養殖種苗とする。これに対してDirect Seedingは、予め用意しておいた配偶体を発芽条件で培養して微小な胞子体を大量に確保する。次にこれらを養殖ロープに付着させるために、増粘多糖類(キサンタンガム等)をバインダーとして使用する。現在は専用の機械も開発されており、大量養殖に備えた技術開発が進んでいる。この手法であれば、日本や韓国のような糸やロープに付着させた後に育苗するよりも省スペースで発芽胞子体を得ることが可能で、漁場環境によっては生育初期の漁場への馴致が不要となるので、種苗生産期間を短縮できるメリットもあるようだ。オランダのHORTIMARE社は本技術を整備し、数十万mのコンブ類の種苗生産が可能とのことである。

日本ではなにができるか:先立つものは優良系統と種苗生産

図3
図3:宮城県南三陸町歌津において品種を使い分けた養殖生産の実績(2023年)。
収穫時期の分散により養殖生産量の底上げに繋がっている。

日本においては、コンブ類は地域系統の特性を重視した天然資源の活用と養殖が主であり、積極的な育種は行われてこなかった。また、ワカメは徳島県や兵庫県において育種研究が活発に行われてきた一方で、国内養殖生産の約7割を占める三陸地域においては、宮城県による南方系個体を活用したメカブが大きい系統の作出や(Saigusa et al. 2009)、企業と国立研究所との連携により開発した早生系・晩生系統の活用による収穫時期延長(Sato et al. 2021、図3参照)などの例はあるものの、産業実装の範囲は未だ限定的である。本コラム第49回で吾妻名誉教授が指摘されているように、環境変動に対応したコンブ類の育種は急務の研究課題である。そこで、海外の事例に加えて、国内の大手種苗メーカーとの研究交流で得た陸上作物での実施事例も参考にし、育種と種苗生産に関して日本において取り組むべき課題や具体的な方針について意見を述べたい。

1) 地域資源の保全

まずは育種母本となる遺伝資源を確保する必要がある。例えば同じワカメであっても、成長至適水温や生理学的特性は生育場所で異なることが知られており、育種への活用が提案されている(Gao et al. 2013, Sato et al. 2016など)。一方で、近年の環境変化によって国内の海藻群落の種組成や分布水深は大きく変化している。たとえば、国内6定点を15年間調査した「モニタリング1000」の研究成果によれば、特に群落の林冠を形成する大型海藻の消失が6定点中2定点で確認されている(Terada et al. 2025)。まさに今、多くの貴重な遺伝資源が失われつつある中で、資源を確保・保全するとともに、育種研究に適切に利用する流れを構築することが急務である。現在文部科学省が行っているナショナルバイオリソースプロジェクトの事例を参照に、さらに産業応用を見据えた仕組み作りが必要だろう。地域資源の権利化の問題も慎重に考慮する必要がある一方で、資源の採取と保全は待った無しの状況である。

2) 育種研究の推進

理研食品株式会社では東日本大震災以降、理化学研究所および岩手県との共同研究によりワカメの選抜育種を行っている(佐藤ら2021)。約10年間で採取した地域系統は300以上、測定した個体は約10万個体に及び、作出した系統の中で3系統は養殖漁業者に評価いただき養殖生産に用いられている。系統の良し悪しはある程度成長させないと分からない上に、ワカメは環境による形態変化が大きいため養殖漁場における複数年の確認が不可欠なので、この「10年間で3系統」は、育種の地道な積み重ねの必要性を表しているとも言える。これに対して、南カリフォルニア大学が開発した配偶体世代での形質確認技術は、育種期間の大幅な短縮とコスト削減に大きく貢献すると考える。韓国や中国での先行研究例をみても交雑育種の有用性は明らかであり、こうした最新技術を活用した育種開発が望まれる。その一方で、これまで地域系統を大切に守り育ててきた地域においては、その地域の範囲内での個体間で交雑育種を行う「オーダーメード育種」を提案したい。日本においては神戸大学や北海道大学において海藻類の分子系統解析を用いた系統関係に関する多くの知見が集積されている(例えばUwai et al. 2024)。これらの結果を科学的根拠として、各地域で漁業生産に従事する関係者が納得する範囲での遺伝資源の活用が今は現実的であると考える。

3) 種苗生産の効率化

育種で得られた優良系統を養殖漁業者に安定的に供給する生産体制が必要である。特にワカメは、三陸では秋の急激な水温低下によって養殖開始に適した期間が年々短くなっており、種苗の生産と出荷は短期間に集中している。また、西日本では食害のリスクが大きいことから、補植用の種苗供給の必要性も高い。2025年12月5日に農林水産省において開かれた「日本の農林水産行政の戦略本部」初会合において、食料の安定供給の確保と地域の維持・発展を図るために想定している分野として「種子・種苗確保」が含まれていた(水産経済新聞2025年12月8日)。種子・種苗が必要なのは農業分野だけでなく、海藻養殖も同様である。行政からの支援を期待するとともに、民間レベルでは工業分野との異業種連携による生産性の向上に取り組むことで、良い系統を確実かつ安定的に供給できる仕組みづくりが必要だろう。なお、欧州のDirect Seedlingが果たして品質や均質性を重視する日本のワカメやコンブ養殖にどの程度適応できるかは未知数ではあるものの、大量に種苗を確保するひとつの手段として試行する価値は高い。

おわりに

地域資源をまもり、育種で優良系統をつくり、種苗として安定供給する一連のプロセスに関して、今後は海藻養殖を存続させるための基本インフラとして捉える仕組みづくりが必要である。そうした取組に産官学連携の重要性は論を待たないが、果たして一定期間の連携プロジェクトが終了した後、その研究成果をどのように産業として定着させるのか。具体的には、集めた地域資源の維持培養をどの機関で誰が行うのか、地域資源の権利情報をどこが集約し、ライセンスをどのように管理するのか、短期集中的な種苗生産を企業が事業としてどのようにマネタイズしていくのか、解決するべき課題は多い。現在筆者が代表を務める「海藻類の大量養殖コア技術研究開発コンソーシアム」では、F-REI(福島国際研究教育機構)の委託研究において、海藻類の大量養殖生産とCO2固定量評価法の高精度化を目的としたコンブ類の育種、種苗生産、ならびに利用促進に関する課題に取り組んでいる。本研究を通して、海外の事例も取り入れた育種研究を推進してその成果を迅速に産業実装し、養殖産業への貢献を目指したい。漁場環境が急速に変化する中で、養殖生産の現場で長年培われてきた暗黙知や経験則を形式知化して新たな技術として定着させることが今の水産研究には求められている。産学官連携が研究フェーズで終わらないように、養殖生産の現場に携わる多くの皆さまが納得して取り組める技術開発を目指したい。

参考文献

連載 第58回 へつづく

プロフィール

佐藤 陽一(さとう よういち)

佐藤 陽一

理研食品株式会社、取締役・原料事業部長。
2000年東北大学農学部、2002年同大学院農学研究科修士課程、2016年東京大学大学院新領域創成科学研究科博士後期課程修了、博士(生命科学)。農林水産省技官、東北大学助手を経て2005年理研食品株式会社入社。2009年より理化学研究所客員研究員、2018年より東北大学、宮城大学などでの非常勤講師を兼任。2025年5月よりInternational Seaweed Association日本代表理事。