水産振興ONLINE
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2026年6月
豊饒な海へ 多魚種漁獲漁業から
海の律動と社会の時間スケールの調和
石村 学志(東北大学大学院 環境科学研究科/WPI 変動海洋エコシステム高等研究所)

豊饒な海

豊饒という言葉は、肥沃な大地が農作物を豊かに育むさまを表す。大地を耕すことで、大地と人間の関わりが生まれ、大地そのものが豊かさを増す。日本の海を「豊か」と評するとき、私たちはその豊かさを「豊饒な海」と呼べるだろうか[1]

漁獲漁業は、海と私たちの関わりの接点を形作る。海から漁獲された魚は、市場に水揚げされた瞬間から、新たな価値を得る。水産加工・流通といった経済活動を経て、私たちの食卓に届く。

本稿では、多魚種漁獲漁業を起点として日本の海と社会の関わりを問いたい。定置網漁業と日帰り操業を中心とする底曳網漁業は、日本の漁業のなかで経済的に重要な役割を担う多魚種漁獲漁業だ。この二つの漁業を手がかりに、海の律動と社会の時間スケールがどう交わり、ときに調和し、ときに齟齬をうみだすことを、読み解いていく。大地を耕すように、海と関わって「豊饒な海」としていく漁業の有り様を、ここから探りたい。

  • [1] 「豊饒の海」は三島由紀夫の小説の題名であるとともに、2021年に(公社)日本工学アカデミーが、地球に生きる私たちの共有資源である海を持続可能な仕方でこれからも利用していくために必要な考え方としてまとめた「海洋テロワール」提言において「豊饒な海」と名付ける。テロワールとは、もともとは「土地」を意味するフランス語terreから派生した言葉で、ワインなどにおける生産地の地理・地勢・気候による特徴を指す語であり、海洋テロワールは地域海洋の長い時間のなかで形作られる海と漁業と社会の関わりの総体を指す。

石村 学志(いしむら がくし)

1997年北海道大学水産学部水産化学科卒業。
University of Washingtonで修士号取得後、Norwegian School of Economicsを経て、University of British Columbiaにて国際資源の経済分析で博士号取得。北海道大学、岩手大学を経て、現在 東北大学環境科学研究科海洋経済・政策学分野・教授、およびWPI変動海洋エコシステム高等研究所兼任。