水産振興ONLINE
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2020年5月

2019年度東京水産振興会講演会 (2)
「水産物流通環境の変化と卸売市場流通のこれから
〜豊洲新市場の課題とビジネスモデル〜」講演録

婁 小波(東京海洋大学学術研究院 教授)

要旨

拡大しつづける世界の魚食、低迷から脱せずにいる日本の「魚離れ」。しかし、世界の「魚食ブーム」の一端をけん引しているのは「和食ブーム」であり、それを支えてきたのが日本の魚食文化です。水産物をめぐる世界と日本の食シーンはかくもねじれに捻じれています。卸売市場はこれまで高鮮度・多用途の需要を特徴とする日本の「魚食文化」を支えてきた基盤的な流通システムとして機能してきましたが、こうした世界と日本のねじれ現象の渦中にあって、今後どのように新たな活路を見出せるのか。水産物流通を取り巻く環境条件が激変するなかで、卸売市場の今後についての考察を行いました。

本号は、2019年11月12日に豊洲市場講堂で開催された、2019年度東京水産振興会講演会「水産資源の現状とこれからの豊洲市場流通について」の第2講演で東京海洋大学学術研究院の婁教授が講演された内容を再構成したものです。

司会:「水産物流通環境の変化と卸売市場流通のこれから」と題しまして、東京海洋大学の婁先生からご講演をよろしくお願いいたします。

婁講師:皆さん、おはようございます。ただいまご紹介にあずかりました、東京海洋大学の婁小波と申します。本日は豊洲市場開場1周年を記念するための講演会にお招きいただき、大変光栄に存じます。また、このように貴重な機会を与えてくださいまして誠にありがとうございます。私が仰せつかったテーマでございますが、当初「豊洲市場の課題とビジネスモデル」というようなお話でございました。これを、皆さんの前でお話をするというのは非常に勇気がいるものですので、私のほうでテーマを「水産物流通環境の変化と卸売市場流通のこれから」と設定し、サブタイトルに当初のテーマを付けさせていただきました。

1. 報告の主旨

報告の主旨は、水産物流通を取り巻く環境条件が激変する中で、卸売市場流通の今後について皆さまとともに考えていきたいということでございます。4つの話題を用意いたしました。1番目は、前提条件の確認でございます。皆さんご承知のように、卸市場法の大改正が行われまして、卸売市場流通そのものが大きく転換されることとなりましたので、その確認をまず行いたいと思います。2番目は、水産物流通をめぐる新たな環境の変化を確認します。「これは大事だ」と思われる変化をいくつか取り上げたいと思います。3番目としては、eコマースの動向を確認します。電子商取引そのものがどのように展開され、どういう課題を抱えているのかということにつきまして、私なりの理解を申し上げたいと思います。最後に4番目として、卸売市場流通のこれからについて皆さんとともに考えていきたいと思います。

婁 小波ろう しょうは

【略歴】

1962年9月中国浙江省生まれ。1986年3月東京水産大学卒業。1992年3月京都大学大学院博士後期課程修了、農学博士。1992年4月に近畿大学農学部助手、1997年4月に鹿児島大学水産学部助教授、1999年10月に東京水産大学助教授、2004年3月東京海洋大学学術研究院海洋政策文化学部門教授、現在に至る。
専門は海洋経済学、水産経済学、地域経済学。水産物流通やブランド化戦略、沿岸地域資源の利用と管理、沿岸地域の経済振興政策、海洋開発の社会影響評価手法の開発などについて研究中。
これまでに、農林水産省水産政策審議会特別委員、文部科学省科学技術審議会海洋開発分会特別委員、徳島県・石川県水産政策審議会会長、日本沿岸域学会会誌編集委員会委員長等々を歴任。
現在、千葉県水産政策審議会流通分会会長、文部科学省東北マリンサイエンス拠点委員会委員、農林水産省水産庁まぐろ需給協議会座長、日本フードシステム学会・地域文化学会・日本沿岸域学会の理事、国際漁業学会会長等を務める。
主な著書として、『水産物産地流通の経済学』(単著, 1993)、『水産物ブランド化戦略の理論と実践』(編著, 2010)、『海業の時代』(単著, 2013)などがあり、その他著書・論文等多数。