水産振興ONLINE
622
2020年5月

2019年度東京水産振興会講演会 (2)
「水産物流通環境の変化と卸売市場流通のこれから
〜豊洲新市場の課題とビジネスモデル〜」講演録

婁 小波(東京海洋大学学術研究院 教授)

6. 質疑応答

司会:婁先生、ありがとうございました。最後のコンビニエンスストアの話は非常に興味深く聞かせていただきました。
 先生への質問ですけれども、豊洲市場の関係者の皆さまにとっては、今回のお話の中にありました新しいビジネスモデルというところをお考えになっていると思うのですが、まず、そのとっかかりとしてそういう情報収集をしようとした場合、どういったところの情報から当たっていけばいいのか、あるいは勉強するきっかけとなる、そういった本や冊子があれば、ヒントになるようなものがあれば、ぜひ、先生のほうからご紹介いただければと思います。

婁講師:なかなか難しいですけれども、私も今回このテーマをいただきまして、ちょっと電商を調べさせていただきました。なかなかテキストがなくて、資料がなくて、2週間ほどかかってしまいました。残念ながら、現状では「このテキスト」とか「これ」というものはございません。興味をお持ちの方であれば、ぜひ研究会とか勉強会とかを作っていただき、その議論には私もぜひ参加させていただきたいと思います。

司会:勉強会という言葉が出たのですけれども、何かこの今回の講演会をきっかけに、皆さんに情報が提供できる場をつくるようなことができましたら、ぜひ、ご協力いただければと思います。
 それでは会場の皆さまから質問がありましたら、どなたかいらっしゃいませんでしょうか。

参加者A:はい。婁先生におかれましては非常に示唆に富んだ、電子商取引とかそういった話をしていただきまして、どうもありがとうございました。
 振り返って経済界を見れば、例えばAIだとか、ビッグデータですとか、EVですとか、仮想通貨ですとか、非常に今、経済界は100年の一度の大転換期を迎えているわけなのですね。そういう中で大きく変わる、目玉になる、お金が止まらないとか、そういった非常に大きな変革が行われている中で、水産業はどういうふうな立ち振る舞いをすればいいのかとか、非常に抽象的ですけれども。また、漁業界においては、今度、70年に一度の漁業法の改正が行われました。今後、IQ制度は資源に対してどう変化していき、どういう漁業に変わっていくのかというところをお話ししていただければ非常にありがたいなと思うのですが、その点はどうなのですか?婁先生はいかがですか。

婁講師:確かに今、100年に一度の変革の時代で、そういった中で漁業というものをどうすればいいかということでございますが、一つだけ私が信念を持っていつも学生たちに言っていることがございます。つまり、水産業あるいは漁業というのはわれわれの命を支える「生命産業」であると。その意味で、われわれが生きている限りは、この産業は絶対になくならないと思います。ただ、この生命産業としての機能を、一体誰が担うのかという問題はあります。この点につきましては、いろいろと議論のあるところですが、時代の変化とともにその担い手も変わりうるという事実を認識することが大事だろうと思います。
 漁業法が70年ぶりに大改正されまして、資源管理もTAC、IQが導入されるというようなことが決まっているわけですので、願わくば、この改正によって、これから日本の漁業が再び成長産業となってほしい。ただ実際、本当にこれでうまくいくかどうかということにつきましては、これからの皆様の努力と検証が重要となりましょう。
 一研究者としては、今般の制度改正が今後の日本漁業、なかでも特に沿岸漁業にどのような変革をもたらし、あるいは、それに対応してどのような形の新ビジネスモデルが有効なのか、といったことに関心をもっております。それらの問題に関して研究もしていきたいと思っておりますので、ある程度の成果が得られましたら、またご報告させていただきたいと思います。

参加者A:どうもありがとうございました。

司会:他に質問がございましたら。どうぞ。

参加者B:貴重なお話をありがとうございました。今、70年ぶりの漁業法改正のお話がありましたが、もう一つ個人的に気になっているところがありまして、EPA関係で、去年、CPTTPが年末に発効して、2月1日から日欧EU・EPAが発効するという形で、EPAが非常に進んできている形になってきていると思います。その中で水産物の流通構造、それとHACCPとか認証の設備の必要性とか、そういうのも連携も含めて、それを含めた上で、流通という面でどうなっていくかというようなことに関して、ちょっとお考えをお聞かせ願えたらありがたいなと思うのですが、お願いできますでしょうか。

婁講師:ご質問ありがとうございます。EPAとかFTAとか、そういったような貿易に関する国際的な条約を締結されるということは、二つの面で実は影響があると考えております。一つは、今おっしゃられた流通ですね。流通に関して言うならば、そのEPAというものはそもそも質の高い貿易体制を構築することが目的なので、関税をどの程度下げていくか、どういうような形で下げていくかという問題はあるにしても、いずれ自由貿易のほうに向かっていくという方向性が目指されています。そうすると、当然、流通という側から見れば、ものが供給されやすくなりますので、そのこと自体は大きなビジネスチャンスにもなり得るといえます。
 それに対してもう一つ、生産者の側に立って考えれば、生産者はあまりにも貿易障壁が低くて、関税が低いという局面に直面せざるを得なくなります。当然、国内市場において厳しい国際競争を強いられることとなります。従いまして、生産者にとってはあまり歓迎されない貿易措置となります。
 だから、そういった意味では、このEPAを導入して、果たしてどういったような地域の、どの業種のどの生産者に影響を及ぼすかというようなことの検証が、当然行われてきているとは思いますが、しっかりとこれからも常に検証する必要がありましょう。その上で、産業競争力を高めるための政策措置がどうしても必要となりましょう

参加者B:はい、ありがとうございました。

司会:それでは、時間となりましたので、以上をもちまして本日の講演会のほうを終了させていただきたいと思います。婁先生、本日はどうもありがとうございました。