水産振興ONLINE
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2020年5月

2019年度東京水産振興会講演会 (2)
「水産物流通環境の変化と卸売市場流通のこれから
〜豊洲新市場の課題とビジネスモデル〜」講演録

婁 小波(東京海洋大学学術研究院 教授)

2. 前提条件「卸売市場法的」市場流通の転換

まず、1番目の前提条件でございます。

【卸売市場制度の展開】

ご承知のように卸売市場制度はこのように展開してまいりました。第1次法改正、第2次法改正を経て、第3次法改正で抜本的な改正となりました。少なくとも1971年の卸売市場法が成立した後の流通は、「卸売市場法的市場流通」と呼ぶことができます。その後、卸売市場流通が変質し、その実態に合わせるために1999年と2004年の二回にわたる法改正が行われました。その結果、流通の実態は限りなく「ネットワーク型流通」に変貌したといえます。この変貌は、実質的にはもう1980年代頃から始まったわけでございますが、法改正によってこのネットワーク型流通が一層進み、今日まで至っているということを、まず確認をさせていただきたいと思います。

【「卸売市場法的」市場流通の特徴】

それでは「卸売市場法的市場流通」はどういう特徴があったのでしょうか。これも釈迦に説法となりますが、少なくともこの11の取引原則というものが課されまして、市場流通を担うプレーヤーである卸業者、仲卸業者、それから買参人の皆様の活動に対してルールを敷いたということになります。こういうような原則を通じて、いわゆる「公開・公平・公正」という卸売市場法の理念が追求されたということになります。

【卸売市場制度の改革】

ところが、一連の法改正の結果、最後に、「受託拒否の禁止」と「差別的取り扱いの禁止」だけが残りました。あとは、それぞれの開設者が関係者との協議に委ねることとなりました。

【「卸売市場法的」市場流通の転換】

取引ルールがこの二つだけ残って、あとはほとんど撤廃されてしまっているという意味において、卸売市場流通が大転換を遂げたと言っていいだろうし、卸売市場流通の「崩壊」と言ってもいいように思われます。つまり、卸売市場流通そのものが大きく変質してきた中で、ここにきて「卸売市場的流通」がついに終焉を迎え、今後はこのことを前提として、さまざまなことを考えていかなければいけない時代を迎えたことを強調しておきたい。