水産振興ONLINE
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2020年12月

漁村女性のこれまで、そしてこれから
—全国漁協女性部連絡協議会60周年を記念して—

副島久実(摂南大学 准教授)
三木奈都子(水産研究・教育機構 室長)
関いずみ(東海大学 教授)

要旨

漁業は「男の産業」というイメージが強いですが、男性の存在だけでは成立しません。多くの漁村女性が海上作業や陸上作業を通じて漁業に貢献しています。漁協女性部や漁村女性起業グループ等の地域にくらす女性たちが自分たちの地域のくらしが抱える課題解決に接近しようと試みる事例もたくさんあります。全国漁協女性部連絡協議会(JF全国女性連)が、1959年の創設から60年が経過したという節目のこの時に、あらためて漁村女性がどのような役割を果たしてきたのか、これまでを振り返り、そしてこれからについて、私たちなりに展望しました。

第1章 はじめに

漁業は「男の産業」というイメージが強いですが、男性の存在だけでは成立しません。多くの漁村女性は陸上作業を通じて漁業に貢献しています。それだけではありません。自ら海に潜って漁獲物をとる女性や、夫とともに船に乗り込む女性もいます。漁村のくらしをみても同様です。漁協女性部や漁村女性起業グループ等の地域にくらす女性たちが、自分たちの地域のくらしが抱える課題の解決に接近しようと試みる事例がたくさんあります。最近では、水産業に関わる、あるいは漁村にくらす若い女性を今のうちから発掘し、ネットワークを作っていこうとする動きも出てきています。

ここでは全国漁協女性部連絡協議会(JF全国女性連)が、1959年の創設から60年が経過したという節目のこの時に、あらためて漁村女性がどのような役割を果たしてきたのか、これまでを振り返り、そしてこれからについて、私たちなりに展望してみたいと思います。私たち3人は、約18年前に漁村女性たちの発想力や行動力に魅了され、悩みながらも進もうとする彼女たちに、小さくてもいいから何か少しでもお役に立てることがないかと、自称「勝手に浜の応援団」として、「うみ・ひと・くらしフォーラム」という任意グループを立ち上げました。それをきっかけに全国の多くの漁村女性たちに出会ってきました。そうした経験などもふまえながらお伝えできればと思います。

なお本稿は、巻末にあるこれまで著者らが発表してきた論稿等に若干の加筆修正を行い、それらを再編成したものをベースとしています。私たちがこれまでに書き連ねてきたものを振り返ることで、私たち自身、漁村女性たちのエネルギーと行動力をあらためて再確認するとともに、今まさに新型コロナウイルス・パンデミックによって、なかなか将来を見通せない現状から、何とか希望の光を掴みたいと思っています。

副島久実そえじま くみ

【略歴】大阪生まれ。摂南大学農学部食農ビジネス学科准教授。農林水産業や農山漁村の振興、豊かな食生活のための農水産物・食品流通のあり方に関する研究、農山漁村女性に関する研究等を行っている。国内外の農山漁村をめぐり、素敵な女性たちと出会い、いつも刺激を受けている。

三木奈都子みき なつこ

【略歴】静岡県生まれ。国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所養殖部門養殖経営・経済室室長。全国漁業協同組合連合会職員や水産大学校教授等を経て、現職。海女の生態人類学的調査がきっかけで足を踏み入れた水産経済学研究では水産現場での実態把握を重視している。

関いずみせき いずみ

【略歴】東京生まれ。東海大学海洋学部海洋文明学科教授。漁村における生活・文化や人々の活動に興味を持ち、日本の漁村を歩き続けている。地域主体の新たな産業おこしとしての漁村ツーリズムの可能性や、漁村の女性を中心として活発化している起業活動について、実践活動と併せた調査研究を行っている。

関・三木・副島は2020年に仲間たちと一緒に(一社)うみ・ひと・くらしネットワークを設立。漁村女性の応援団として活動中。