水産振興ONLINE
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2020年12月

漁村女性のこれまで、そしてこれから
—全国漁協女性部連絡協議会60周年を記念して—

副島久実(摂南大学 准教授)
三木奈都子(水産研究・教育機構 室長)
関いずみ(東海大学 教授)

第5章 おわりに

以上、漁村女性がどのような役割を果たしてきたのか、これまでを振り返ってきました。これまで私たちが発表してきた論稿等を再整理してきたわけですが、あらためて漁村女性たちのバイタリティとこれからの可能性を感じます。私たちが漁村女性に注目する中で、「女性に注目して、日本の漁業生産量が増えるのか?」と言われたこともあります。しかし、彼女たちは、海上作業や陸上作業を通じて漁業に携わりながら、家事や育児、介護をこなし、その中でも家族や地域の課題を漁協女性部や漁村女性起業グループなどを通じて解決しようと試みてきました。近年では、女性たちの中から、漁獲量に付加価値を与えるための新しいアイデアを生み出し、そのアイデアを実現し始めています。若手の漁村女性の一人である熊本県天草市で車海老養殖・加工・販売等を手掛ける深川さおりさんは、このコロナ禍の下で、経営的に苦しくなった養殖業者や加工業者とホテル業界を結び付け、魚の冷凍弁当や総菜を加工・販売する新たなビジネスを生み出したり、コロナ禍で休校になって、子供たちのお昼ご飯に困っている自分自身や周りの女性たちの状況をみて、ひとり親家庭の子ども向けにそれらの弁当を無償提供をはじめたり、と漁業や地域の課題に積極的に取り組んでいます32。ヨーロッパにも漁業や漁村に関係する女性たちがたくさんいて、彼女たちは漁村女性ネットワークAKTEA(アクティア)を作り、活動しています(URL:http://akteaplatform.eu/ )。AKTEAのスローガンは、Behind every boat, there is a woman, a family and a fishing community(すべての漁船の後ろには、女性、家族、そして漁村がある)です。このことは日本はもちろんのこと、世界中に通じることです。漁業や漁村は女性の存在なしには成立しません。何か困ったら、自分たちで解決できないかと考え、行動にうつす。そんな行動力は、女性という枠にとどまらず、人として本当に素敵で、これからもますます漁業や地域を支える原動力になるはずです。そんな素敵な女性たちを応援しながら、私たちは、これからも日本の水産業や地域の未来を考えていきたいと思います。

【参考・引用文献】

  • 三安藤孝俊『漁村の幸せを求めて』いさな出版、1957年。
  • 宮城雄太郎『漁協婦人部読本』社団法人漁村文化協会、1959年。
  • 岩崎繁野「漁家の生活および生活環境の現状(総括編)—沿岸漁業における婦人労働—
  • 『水産経済研究』No.17、水産庁漁政部企画課、1972年。
  • 水産庁『図説昭和47年度漁業白書』、1973年。
  • 全国漁協婦人部連絡協議会『海の夢を、あしたの暮らしにつなぐ—漁協婦人部読本—』、1989年。
  • 農山漁村の女性に関する中長期ビジョン懇談会『新しい農山漁村の女性 2001年に向けて』、1992年。
  • 荒井由美子・長野章・児玉いずみ『女性の視点から見た漁港漁村整備』、東京水産振興会、1993年。
  • 中村丈夫「沿岸漁村の現状に取り組んで」、『農村と都市をむすぶ』第44巻第8号、1994年8月、pp.19〜26。
  • 三木奈都子「様似町における高齢者福祉と児童福祉」、社団法人全国沿岸漁業振興開発協会『平成9年度沿岸優良漁業経営条件調査委託事業 地域調査報告書(北海道様似地域)』1998年、p.145〜148。
  • 全国漁協婦人部連絡協議会『夢と希望のある漁村へ—漁協婦人部読本Ⅱ—』、1994年。
  • 全国漁協婦人部連絡協議会『漁協婦人部読本Ⅲ』、1999年。
  • 三木奈都子「行政主導型の漁村都市交流の可能性〜千葉県を事例に〜」、漁協経営センター、『漁協経営』、2004年6月号、2004年、pp.22〜25。
  • 農山漁村女性・生活活動支援協会『漁業・漁村における男女共同参画社会推進に向けて 男女共同参画関係調査・分析調査事業 平成17年度報告書』、2006年。
  • 甫喜本憲「岡山県日生町における水産物の流通について」、『水産物流通構造改革事業支援事業』、(財)魚価安定基金、2008年、pp.79〜84。
  • 副島久実「陸上作業の再評価と女性の漁協正組合員化」、中道仁美編著『女性からみる日本の漁業と漁村』農林統計出版、2008年、p.53〜55。
  • 関いずみ「環境と漁村女性」、中道仁美編著『女性からみる日本の漁業と漁村』、農林統計出版、2008年、pp.103〜128。
  • ・藤井和佐「漁業地域における女性リーダーの育成—「女性漁業士」認定制度」、中道仁美編『女性からみる日本の漁業と漁村』農林統計出版、2008年、pp.77〜99。
  • 木村都「女たちと海」、中道仁美編著『女性からみる日本の漁業と漁村』農林統計出版、2008年、p.171〜177。
  • 全国漁協女性部連絡協議会『漁協女性連の歩み〜都道府県女性連の足跡と現況〜』、2010年。
  • 財団法人東京水産振興会・うみ・ひと・くらしフォーラム・株式会社漁村計画『全国漁村女性グループ活動実態調査報告書』、財団法人東京水産振興会、2011年。
  • 三木奈都子「漁業・漁村における女性」、『漁業経済研究』第59巻第2号、2015年、pp.1〜21。
  • 全国漁協女性部連絡協議会『2019(第61)年度通常総会資料』、2019年。

本論は以下のものを加筆修正したものです。

  • 関いずみ「漁業・漁村における女性の役割—臼杵市泊ケ内地区におけるタチウオ漁を事例として—」、堀川博史編著『沿岸漁業のビジネスモデル』東海大学出版部、2015年、pp.122〜130。
  • 関いずみ「気がついたら漁師の世界へ—。」、『漁港漁場漁村研報』Vol.26、漁港漁場漁村技術研究所、2009年、pp18〜21。
  • 関いずみ「持続する漁村を目指して」、『水産振興』第506号、2010年、東京水産振興会。
  • 関いずみ「女性の海上作業の実態と漁業後継の形態—岡山県牛窓地区を事例として—」、東京水産振興会『沿岸漁業における漁家世帯の就業動向に関する実証的研究—平成21年度事業報告—』2010年、pp115〜126。
  • 副島久実、「漁業の陸上作業労働における女性従事の特徴と変化」、『漁業経済研究』第59巻第2号、2015年、pp.75〜91。
  • 三木奈都子「JF女性連に集う漁協女性の五〇年史」全国漁協女性部連絡協議会『漁協女性連の歩み〜都道府県女性連の足跡と現況〜』、2010年、pp.159〜253。
  • うみ・ひと・くらしフォーラム・東京水産振興会『うみ・ひと・くらしを考える』2011年。
  • 副島久実、「働く女性と魚食の関係」、湊文社『アクアネット』第22巻第7号、2019年、pp.22〜26。
  • 関いずみ「若者による地域の継承と創造」JF全漁連『漁協(くみあい)』No.165、2017年、pp.3〜5。