水産振興ONLINE
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2022年12月

水産研究125年の歴史

生田 和正(水産研究・教育機構 理事)  上原 伸二(水産資源研究所 企画調整部門長)  鈴木 敏之(水産技術研究所 環境・応用部門長)  下川 伸也(水産大学校 校長)

要旨

本号は、2022年8月24日に第24回ジャパンインターナショナルシーフードショーにおいて水産研究 教育機構の講演会「水産研究125周年記念講演会」の記録を編集し掲載したものです。水産研究・教育機構は、1897年の農商務省水産検査場水産講習所試験研究部が設置されたことを起点に数えると本年で125周年を迎えます。世界の水産を見まわしてみても規模、歴史とともにまれに見る水産に特化した研究・教育、そして社会実証まで行う機関です。これを記念し、水産研究125年のあゆみ、水産資源研究の125年、水産物の安全・安心のための取組、水産大学校の沿革と人材育成の推進について講演いたしました。

水産研究125周年記念講演会 挨拶録(1)

水産研究・教育機構 理事長
中山 一郎

本日はお忙しい中、水産研究125周年記念講演会にご参加いただき有り難うございます。

さて、この水産研究・教育機構は、明治30年(1897年)の農商務省水産検査場、水産講習所試験研究部が設置されたことを起点に数えると本年で125周年を迎えます。世界の水産を見まわしてみても当機構の規模、歴史とともにまれに見る水産に特化した研究・教育、そして社会実証まで行う機関です。

私が28年前の平成6年(1994年)に採用され、退職したのが平成30年(2018年)ですので24年間勤務していたわけですが、その実に約5倍ということでこの組織は歴史があるということをあらためて実感した次第です。

この組織も歴史的に長いだけではなく研究者の先輩方と一緒に仕事をしていただいている事務職の方々の貢献により成り立っているということに感謝したいと思います。現在の職員数が1,193名ですが元々は違う組織との統合などでいまに至っています。後ほど生田から報告があると思いますが平成13年(2001年)の中央省庁等改革により全国にあった9つの水産庁研究所を統合し、独立行政法人水産総合研究センターが設立され、その2年後には特殊法人等整理合理化計画により海洋水産資源開発センターを統合、日本栽培漁業協会の業務を継承することになりました。その3年後にもさけ・ます資源管理センターと統合し、平成28年(2016年)には水産大学校と統合して、いまの国立研究開発法人水産研究・教育機構となりました。このような組織改編や機関統合など様々な局面を一生懸命議論して前に進める方向にしていただいた職員の皆さまに感謝の想いを馳せる次第です。

自分たちの組織のことだけではなく、水産業界に大激震が起こった東日本大震災もありました。我々の組織は水産庁や他省庁とも協力し大きな被害を受けた東北地方の水産業の復興を目指しました。特に支援物資の運搬や水産庁等の要請による水産物の放射性物質調査や放射能分析技術の研修、さらには、カキの浮遊幼生の調査やアワビ・ウニの津波被害調査、アワビやヒラメなどの種苗生産にも協力をして参りました。

そして水産政策の大きな改革です。漁業法の改正とそれに基づく新たな資源管理方策の推進が始まっています。水産研究・教育機構は組織の最重要課題として、これを支える調査・研究開発に取り組んでいるところです。

さらに、近年は新たな課題も発生してきております。地球環境の大きな変化、継続しているサンマ、スルメイカ、サケ等の不漁問題、北海道での赤潮の発生と大きな被害、貝毒による出荷停止の長期化、高齢化する漁業者の労働力確保、さらに、円安の進行による「買い負け」も顕著になってきております。食料安全保障の観点からも、水産物の輸入に依存するのではない自給率の向上は危急の問題であり、日本人が魚を食べ続けられるためにも、水産研究の役割はさらに大きくなっていると感じています。水産業は、世界レベルで見ると需要は伸びており完全な成長産業です。今後の人口増加の状況下で、さらにその傾向は強まっています。我々も水産国日本の復活に向けて進まなくてはいけません。

今日は研究の先人たちの努力に感謝するとともに今後の水産の抱える課題解決にチャレンジする精神を引き継いで行くことを宣誓して私の挨拶と替えさせていただきます。


水産研究125周年記念講演会 挨拶録(2)

水産庁長官
神谷 崇

今年で水産研究125周年を迎えました。この125周年の基準となる明治30年(1897年)当時は水産庁にあたる水産業を所管する役所は農商務省にあり、農商務省の水産調査所に水産講習所が設けられ我が国の水産研究が本格的に始まりました。我が国の水産研究の中心的な組織は、この水産講習所が母体となり、水産庁の各水産研究所、現在の水産研究・教育機構へと連綿と引き継がれています。

125年間に我が国の水産研究は日本近海のみならず世界をフィールドとして躍進し、水産資源の管理や増養殖、漁村や漁港の改善、食品加工技術の向上、生物学の進歩、海洋環境の理解、漁業に係る国際交渉など幅広い分野に大きく貢献してきました。

たゆまない水産研究が我が国の水産業を支えてきたことは間違いありません。

一方で近年我が国の水産業を取り巻く環境は厳しくなっており、海洋環境の変化に伴う不漁問題、漁獲量の低迷、国民の水産物消費量の減少、漁業後継者の不足、ロシア・ウクライナ情勢に端を発する食料安全保障などは大きな問題となっています。昨年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大による水産物の需要停滞や価格低下、赤潮や軽石の被害により漁業者や水産加工業者などに大きな影響がありました。また今年に入ってからは円安による輸入水産物の買い負け、飼料原料や燃油高騰なども生じております。

このような厳しい状況を切り拓いていくためには、水産資源の適切な管理等を通じて水産業の成長産業化を推進し、漁業を魅力ある産業としていくことが求められています。

水産庁では、水産政策の改革の柱として漁業法等を70年ぶりに大改正し、水産改革を推進しています。新しい資源管理においても「科学的根拠に基づいた水産物の持続的な利用」は、引き続き我が国の基本的な方針です。水産研究・教育機構には改正漁業法における資源管理の基礎となる科学的な評価で中心的な役割を担っていただいていますが、情勢の変化に適切に対応した調査体制の充実と研究の推進をお願いしたいと思います。その資源評価に基づき、国としても持続的に生産可能な最大の漁獲量(MSY)の達成を目標とした資源管理を推進しています。

また、養殖業については、令和2年(2020年)に国が策定した「養殖業成長産業化総合戦略」に基づきマーケットイン型養殖業や環境に配慮した持続可能な養殖業を推進しております。なかでもブリの育種事業や高効率飼料さらには昆虫なども用いた代替のタンパク質となる飼料原料の開発といった技術開発にも取り組んでいただき研究開発に期待をしているところです。

水産庁は、オールジャパンで水産研究を推進し、引き続き我が国の水産業をしっかりと支えてまいります。その中で水産研究・教育機構には、水産研究の中心的な組織として、我が国・世界の水産研究を牽引していただきたいと期待しています。貴機構の一層の御発展と御活躍を祈念するとともに、ともに手を携えて150年、200年に向けて、我が国の水産業の発展に尽くしてまいりましょう。