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水産振興コラム
20218
洋上風力発電の動向が気になっている
第6回 洋上風力発電に係る山形県の漁業協調策の検討とりまとめ
加賀山 祐
山形県庄内総合支庁 産業経済部 水産振興課

1. 漁業協調策等検討会議について

前回の笹原さんのコラムでは、山形県における洋上風力発電研究・検討の歩みの紹介がありました。その中でも触れられていますが、令和元年度に漁業者の観点から期待される漁業協調・振興策を検討するため「漁業協調策・漁業振興策等に関する研究会(以降「研究会」)」が、令和2年度には研究会でとりまとめた漁業協調・振興策等を具体化し議論・検討を深化させるため県エネルギー政策推進課と県庄内総合支庁水産振興課を事務局として「漁業協調策等検討会議(以降「検討会議」)」が設置されました。

本県漁業関係者等がどの様な漁業協調・振興策を期待しているのかをこの機会にご紹介したいと考え、山形県の事例の連載にはなりますが、今回のリレーコラムに参加させていただきました。

ちなみに、私は令和2年4月に山形県庄内総合支庁産業経済部水産振興課長に着任し、検討会議の座長を拝命したことから、令和2年度中に4回開催された検討会議で検討された漁業協調・振興策の内容を中心にご紹介させていただきます。

2. 漁業への配慮・協調策について

(1) 現行漁業等への影響及び配慮

現行漁業への影響の検討については、旧吹浦村と旧高瀬村の境から遊佐町と酒田市との境までの汀線1km(鳥海国定公園の普通地域)を除く共同漁業権漁場内(前回リレーコラムで紹介されている事業化想定区域(案)参照)を風車の設置エリアとし、風車の配置や間隔は、事業者から示された南北方向に約650m、東西方向に約1,500mの間隔との想定で行いました。

検討のベースとして第2回リレーコラムを担当した梶脇さんのレポート「遊佐地先の漁業について」があり、そのレポートを参考にすれば、遊佐地先で操業する漁業で風車設置により大きな影響を受けると想定される漁法としては、経営体数や漁場占有の程度の大きさ等から浮刺網、底刺網、底延縄、壺・箱・篭が考えられました。

研究会・検討会議において漁業者委員からは、「これらの漁業は制限され影響が無いとは言えないが、今回想定した風車間隔があれば設置された風車を避けての操業は可能」「3,500mもの延縄を潮流に任せて流す浮延縄の方が影響を受ける」「浮延縄は自由漁業なので設置エリアより沖合での操業が可能」「その場合、ごち網漁業等の設置エリアより沖合で操業している漁業との調整が必要」等の意見がありました。

漁業者委員からはこのように様々な意見があり、また風車の設置エリアはある程度議論が進んだ明確なイメージとなっていますが、各漁法が操業可能かの判断に重要な要素となる風車の配置や間隔の想定は、あくまで一業者の一事例をベースに検討を行ったものであることを踏まえると、現行漁業への影響をこの想定のみで判断しかねる部分もありますし、漁業者委員以外の漁業者もいるわけですから決めつけることはできないと思います。ただし、浮延縄漁業も含めて設置エリア内だけでなく設置エリアの沖合域で操業する現行漁業の操業実態も考慮しながら、影響を最小限とする設置エリアと風車の配置とする配慮が必要であることは少なくとも検討会議の共通認識となりました。

なお、検討会議の場での結論ではないのですが、その後の意見交換等を踏まえ、想定海域(設置エリア)の沖合で操業する知事許可漁業等を考慮し、緩衝地帯を設けることを目的に、最終的な検討とりまとめにおける想定海域は「共同漁業権漁業以外の漁業との兼ね合いを踏まえ、さらに共同漁業権の漁場の沖側のラインから500mの範囲を除く」との見直しが行われました。

(2) 漁業影響調査(モニタリング)の実施

風車設置による漁業への影響を正確に把握し、負の影響が生じた場合に適切に対応するためには、環境影響評価法に基づく環境アセスメントの実施だけでなく、事業者による事業実施前から事業実施後に渡る長期的な漁業影響調査(モニタリング調査)の実施が必要との共通認識があり、その具体的な内容の検討をテーマとしました。

漁業者からは正確な影響把握のために事業実施前から実施後まで統一的手法であるべきとの意見があり、これは重要な視点と考えられました。更に有識者から、対象魚種は遊佐沖想定海域内で漁獲される魚種全般、漁場環境モニタリングの実施、漁業は環境変化による年変動を受けるので最低でも事業実施3年前からの調査開始、先行区域の情報を参考にする等のアドバイスがあり、これらを盛り込んだまとめとなりました。

3. 漁業振興策について

(1) イワガキの「増殖」への期待

イワガキは遊佐沿岸域も含めた山形県の夏場の重要な漁獲物であり、遊佐町吹浦産はブランドにもなっています。資源は減少傾向と言わざるを得ない状況ですが、砂浜域であってもコンクリートブロック等の人工構造物に自然着生し漁獲されており、風車基部への付着にも大いに期待できると考えられますので、イワガキ増殖等に係る検討をテーマとしました。

検討の結果として、風車周辺で養殖を行うという考えもありましたが、時化の多い冬期間も含めた通年管理を行うよりは、自然着生した資源を活用する方が効率的との意見から増殖の方向にまとまりました。

さらに、洋上風力発電設備の支柱や施設基部は付着面積が少ない事や水深が深く潮流の強い漁場となることが想定されることから、現行漁業との調整は必要となりますが、風車と切り離した浅海域へのイワガキ増殖礁の設置についても事業者に求めていくという方向となりました。風車支柱に損傷を与える可能性や、水深が深く潮流が強い場所での採捕を避ける事にも繋がる現実的な提案と思われました。

なお、増殖礁へのイワガキ再付着がより円滑に進むように、表面基質の更新や再付着促進のための新しい技術の導入、遊佐沿岸域は砂浜域であることから増殖礁の埋没防止策についても検討が不可欠とのまとめとなりました。

(2) 有効な「魚礁設置」に向けて

風車の基礎部分の活用だけでなく、その周辺に魚礁を設置して有用魚種を効率的に漁獲することは、(一社)海洋産業研究・振興協会の塩原さんの第3回リレーコラムにおいても、代表的な漁業協調策メニューとしてご紹介いただいています。イワガキ増殖礁としての利用と同様に、本県においても風車の存在そのものが直接的に漁業振興に繋がる基本的な提案事項と考えられ、魚礁の設置等に係る検討をテーマとしました。

検討の結果として、これまで本県沖に設置されてきた魚礁を利用してきた漁業者の経験を踏まえ、回遊魚の蝟集は回遊のタイミング次第の面があるため、定着性の強い魚を対象魚種とする方が魚礁の効果が得られやすく、加えて水揚げ額が一定程度確保できる高級魚を対象とした専用魚礁設置が望ましいとの方向になりました。

なお、具体的な魚種については本県沿岸(遊佐沖)の環境に適応して生息している魚種から選択することが基本であり、キジハタ、メバル、アイナメ等が候補にあがりました。

また、将来にわたり地区漁業者全体の経営に寄与でき後継者育成につながるよう、計画的な水揚げが可能となる規模と増殖機能付加、風力発電事業終了後も利活用が可能、魚礁からの漁獲物を活魚出荷する等の高付加価値化する取組みの併用等も求めるといった、設置して終わりでなく、将来にわたり効果的に利用できる事を求める方向となりました。

さらには、漁業振興策として実施する訳なので、漁業者以外の遊漁者等の魚礁利用に関するルール作りの検討が事前に必要との意見もありました。

(3) 「基金」の枠組み作りの検討

漁業振興の為の基金設置は既に先行区域において検討がされており、検討会議としては避けられないテーマではありましたが、先行区域の具体的な情報が極端に少ない中で検討を行わなければならない状況でした。

検討の結果としては、慎重な議論が必要ではあるが、どのような漁業振興策が必要かを検討することが先決であり、補償的な意味合いでお金をもらうのでなく、漁業や地域との協調を基本として漁業振興につながる前提での基金拠出を事業者に求めていく方向になりました。

具体的な基金規模や誰がどのような仕組みで基金を設置し管理するかまでは先行区域の情報を得ながら検討することとなりましたが、本検討会議において基金は漁業振興を実現するためのものといった共通認識と方向性を示せたことは大きな意味があったのでないかと感じました。

(4) 「鮭ふ化放流事業及び内水面漁業」への配慮

海上への風車設置とはいえ、川と海を行き来する魚種が影響を受けることは十分考えられますので内水面関係者への配慮も必要であり、検討会議の上部組織である遊佐検討部会のメンバーには鮭ふ化放流事業者や内水面漁業者も含まれています。個別の意見交換会等は行われていましたが、海面漁業者と同様に検討会議としての開催も必要と考え、第4回検討会議は鮭ふ化放流事業者及び内水面漁業者向けに特化した内容として開催しました。

検討会議としては最初で最後となる見込みであったため、当日は影響調査と事業者に望む協調策の二つのテーマに絞って意見交換を行いました。

遊佐町月光川水系に遡上したサケ 遊佐町月光川水系に遡上したサケ

一つ目のテーマである影響調査については、風車設置による音、振動、影、潮流変化が海と川を行き来する魚種へ何かしらの影響を与えることへの不安から、一定期間のモニタリング調査は必要不可欠であり、調査魚種としてはサケ、サクラマス、アユ、モクズガニなどの産業対象種は必須となるが、降海したサケ稚魚等を捕食すると考えられる海産魚種に関しても調査を求めていく方向になりました。

また、調査河川についてはサケやサクラマスの遡河性魚類は降海後に沿岸域を北上移動し南下して回帰してくることから、想定海域の遊佐沖が本県沿岸部の北端に位置することを踏まえ、想定海域付近に河口がある月光川と日向川だけでなく、想定海域より南に河口が位置する最上川を含む県内全河川の資源についても影響調査が必要との意見もありました。

二つ目のテーマである事業者に望む協調・共生策については、鮭ふ化放流事業者及び内水面漁業者の抱える課題解決につながる協調・共生策が望まれており、施設の老朽化や後継者問題の解決につながる支援と風車設置による影響が認められた場合の対応を行うための基金設置を求める方向になりました。

また、地域協調型洋上風力発電事業となっているので、洋上風力発電事業者といった異業種との連携により、将来に向かって地域振興につながる新しい取組みとすべきといった非常に前向きな意見もありました。

なお、有識者からは鮭ふ化放流事業者、内水面漁業者に特化とした意見交換の場を設けるといった理解促進のための丁寧な対応は前例が無く、高い評価を受けたものと感じています。

4. 漁業協調策等検討会議の検討とりまとめについて

漁業協調・振興策を事業者に求めていく際の参考となるように、事務局が中心となって検討会議の「検討とりまとめ」を作成しました。詳細につきましては山形県ホームページ内において「地域協調型洋上風力発電研究・検討会議」の資料として掲載されていますので、そちらを参照願います。

概要は次の通りです。

漁業協調策等研究会とりまとめの概要
(クリックでPDFが開きます)

「漁業権は放棄しない」「不測の事態の迅速かつ確実な補償」「最小限の漁業操業制限」「区域内の安全確保」を基本的事項とし、風車設置により影響を受ける漁業等(鮭ふ化放流事業、内水面漁業も含む)があるため、設置エリアや配置について検討が必要であり、漁業等への影響を把握するためには一定期間のモニタリング調査を行う必要があるとしています。その後に、検討会議で検討された漁業協調・振興策等を列記しています。

「検討とりまとめ」の「おわりに」にもありますが、この検討会議の結果はあくまで漁業協調・振興策等を考える上での基本的な方向性を示すものであり、遊佐町沿岸域が「有望な区域」に選定された際には、発電事業者においては山形県漁協、海面漁業者、鮭ふ化放流事業者、内水面漁業者等の関係者の意見をさらに聴き取りするなどして漁業協調・振興策等を提案していただくことを期待しています。

メンバーとなった海面漁業者、鮭ふ化放流事業者及び内水面漁業者の皆様には、経験のない風車設置の影響に不安を抱えながらも、前向きで将来につながる漁業協調・振興策に関する意見や提案をいただいたことに検討会議の座長として改めて感謝申し上げます。これには、検討会議以外にも懇談会等の開催や先進地視察の実施により、洋上風力発電事業への理解促進に取組んだことも背景にあったと考えます。

検討会議での意見や提案は本県水産振興策を推進する上で参考になるものも多く、示唆に富んだ貴重な内容であったと感じました。さらに「検討とりまとめ」の中には漁業協調・振興策の実現のためには、県水産部局の施策併用や主体的な関与が期待されている記載もあり、当課の本来業務である本県水産業振興に繋がるよう、今後も洋上風力発電に係る漁業協調策等の検討に協力していきたいと考えています。

川と海を往来する山形県の魚サクラマス 川と海を往来する山形県の魚サクラマス

プロフィール

加賀山 祐(かがやま ゆう)

1969年生まれ。1992年北海道大学水産学部卒業後山形県入庁。その後、水産試験場(現水産研究所)、農林水産部水産振興課、庄内総合支庁産業経済部水産振興課、同部海づくり大会推進課、内水面水産試験場(現内水面水産研究所)で勤務。2020年から庄内総合支庁産業経済部水産振興課長。