昨年の11月には、国連気候変動枠組条約の締約国会議COP27がエジプトで開かれ、「地球の気温上昇を産業革命前の1.5°C以内に抑える」目標に向けて、温暖化ガス排出量をさらに削減する新しい目標が示されましたが、ウクライナでの戦争でいきなり足元をすくわれ、その対応は後手を踏んでいます。残念ながら、温暖化の影響はより深刻化することを覚悟しなければなりません。
(一財)東京水産振興会の水産振興コラムでは、過去3年にわたり、「定置漁業研究」「洋上風力発電の動向が気になっている」「ブルーカーボンで日本の浜を元気にしたい」をテーマにリレー形式で、様々な立場の方に寄稿していただきました。これらは、いずれも温暖化が進行する時代に、わが国の漁業や漁村がどのように適応していくべきかというテーマであったと思います。今年度については、これらのテーマをフォローアップしながら、各界の方々の寄稿に現地ルポも交えて情報発信していきたいと思います。
定置漁業については、温暖化に伴う魚種の変動が顕著になる中で、漁村の存立のために重要な役割を担う定置漁業が今後どうあるべきか、魚の資源状況や来遊状況が大きく変わる中で、今年度もTACの導入についての議論が継続します。定置漁業を含め実質的に初めてTAC管理に取り組んだクロマグロでは資源管理の効果が出すぎるくらいに出てきましたが、一方で、TAC管理のための多大な放流努力が行われています。定置漁業に限らず魚種選択性の低い漁法を多くかかえたわが国漁業について、最適な管理方策を見出していかなければなりません。
洋上風力発電については、2030年までに10GWの案件形成をという政府目標に対し、これまでに秋田県、新潟県、千葉県、長崎県において約3.5GWの案件がまとまってきました。最近では、対象海域をEEZにまで広げるための法整備をしようとの検討が行われていますが、沖合漁業者にとっては、風車の魚礁効果や施設の保守点検のための雇用といった先行案件の沿岸漁業には通用した振興策が効果を持たないことから、いかに漁業協調を図るのかは今後の大きな課題です。定置漁業が待つ回遊魚への影響も気になるところです。
(2023年2月17日開催)
ブルーカーボンについては、JBE(ジャパンブルーエコノミー技術研究組合)による試行的な認証、販売が行われるようになりました。この取り組みは、温暖化対策、環境保全、漁場価値の向上、活動資金・副収入と一石で何鳥にもなるもので、漁業・漁村の食料生産だけでない多面的な価値への国民の共感・支持を高めることも期待されます。
今年度も水産振興コラムで読者の参考となる情報を発信していきますので、よろしくお願いします。