水産振興ONLINE
水産振興コラム
20235
進む温暖化と水産業

第2回 洋上風力発電 — 沖合展開の課題

長谷 成人
(一財)東京水産振興会理事 / 海洋水産技術協議会代表・議長

3月7日、浮体式洋上風力発電を進めようという企業が主催する Floating Wind Japan 2023 にパネリストとして参加してきました。会議は、内閣府総合海洋政策推進事務局、経産省資源エネルギー庁、国交省港湾局及び海事局、環境省の方たちの基調講演から始まり、その後3つのパネルディスカッションが行われましたが、私は、そのうちの国内編なるパネルに登壇し、洋上風力発電の沖合展開についての問題点をお話ししました。具体的には、「洋上風力発電の動向が気になっている」番外編その2に書いたもので、沖合漁業者にとっては、風車の魚礁効果や施設の保守点検のための雇用といった沿岸漁業には通用した振興策が魅力を持たず、また、今後どれだけの案件と調整が必要になるか示されないままに判断を求められても無理な相談であることをお話ししました。

洋上風力発電事業者に漁業のことをもっと知ってもらおうと講演する筆者

また、浮体式だけの問題ではありませんが、磯根資源や根付き資源を対象とする漁業との協調は比較的には容易であっても、回遊魚を待っている漁業者は、施設の魚礁(蝟集)効果にかえって不安を感じるものだから、合意がなり建設される先行案件で魚類の行動変化について十分な調査を行うべきとの話もしました。

当日は夜の意見交換の場まで居残って様々な方たちとお話をしましたが、まき網は、底びき網は、はえ縄はこういう漁法で、風車が林立していたら操業ができないんですよ、とお話しすると、そういう話は初めて聞きましたという方も多く、改めて水産界側からの情報発信の弱さを痛感しました。

温暖化対策は世界共通の今世紀最大の課題であり、カーボンニュートラルの取り組みが重要であることは紛れもない事実です。産業界の方たちは、その意義を強く意識しながら、大きなビジネスチャンスとして期待を膨らませています。この企業グループが昨年まとめた文書を見れば、2040年30-45GWの案件形成という政府目標を大きく上回る、その後の規模拡大への期待がつづられていました。岸田総理は4月4日に開かれた再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議において、浮体式洋上風力発電について「官民が協調し、早期に今後の産業戦略及び導入目標を策定し、国内外から投資を呼び込みます」と発言されています。今の政府目標のきっかけとなった官民協議会には水産界の人間が入っていませんでしたが、今回は水産界としてもしっかりと事情を説明しその意向を反映させるべきです。

パネルディスカッションでは、番外編その2で示したどの水域での操業が活発かが分かる図も示しましたが、関係省庁の皆さんには、再エネ海域利用法が求める、漁業に支障が見込まれない水域を見出すことに最大限の努力を払うべきともお話ししました。

洋上風力発電と漁業の関係は、これから長く続く問題ですので、引き続き本コラムでフォローしていきたいと思っています。

洋上風力発電に関するコラム:
洋上風力発電の動向が気になっている 第1回

連載 第3回 へ続く

プロフィール

長谷 成人(はせ しげと)

長谷 成人 (一財)東京水産振興会理事

1957年生まれ。1981年北大水産卒後水産庁入庁。資源管理推進室長、漁業保険管理官、沿岸沖合課長、漁業調整課長、資源管理部審議官、増殖推進部長、次長等を経て2017年長官。2019年退職。この間ロシア、中国、韓国等との漁業交渉で政府代表。INPFC、NPAFC(カナダ)、宮崎県庁等出向。
現在 (一財)東京水産振興会理事、海洋水産技術協議会代表・議長