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水産振興コラム
20266
漁業運営ベーシック講座・青森編

2025年5月に水産経済新聞に連載された下記の窪川敏治氏の講演録について、両者のご了承のもと、あらたに画像を追加し「水産振興コラム」として転載いたします(計8回)。また、第1回の前半部分については、当時の水産経済新聞の掲載から、最新の数値をもとに筆者自身が一部内容を書き変えています。

2025年1月、青森県青年・女性漁業者交流大会で、石川・加賀で定置網漁を営む (有) 金城水産の窪川敏治社長が講演した。元塾講師で、現役漁師の窪川氏が語ったのは漁業運営のこれから。漁業経営者はもちろん、特に漁協や漁連、都道府県の水産課といった漁業を中間で管理・運営する立場の方にはぜひ読んでもらいたい。思わずハッとする指摘にも「何を考えどう動けばよいか」を丁寧に解説している。講演を基に演者が加筆した内容を「ベーシック講座」として、8回にわたり連載する。

第1回 青森の漁業の実態 課題もレベルも混在

窪川 敏治
(有) 金城水産 代表取締役 / 水産庁・水産政策審議会 委員 / 石川県定置漁業協会 代表監事

青森の水産業が危ういということで呼ばれた。

私は東京生まれの東京育ちで、漁業を始める前は、東京海洋大学の在学中からサラリーマンとして塾の先生をしていた。30歳で福井との県境にある石川・加賀市に移住し、親方兼乗組員そして経理も事務も一人でこなす社長として、8人の乗組員を雇って大型定置網漁業を経営している。

まず、青森の漁業の数字をみてみる。

石川と青森を比較すると、石川の年間の水揚げは4万4,000トン、134億円。対して青森は6万8,000トン、355億円もある。石川も漁業をがんばっているが、青森はそれをはるかに上回る。問題なんてさほどないように思えるのだが、さらに調べてみると危うい状況が分かってきた。全体の水揚げは1993年の55万トン、750億円から下がり続け、漁獲量は8分の1に、金額は半分以下だ。

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青森県海面漁業に関する調査結果書—属地調査年報—2025年(青森県農林水産部)より

主要魚種については、ホタテはピークの4分の1、かつて大量に獲れたスルメイカやサバやサケは壊滅的な状況だ。

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青森県の主要魚種の漁獲状況(青森県産業技術センター) より

漁業会社の数もこの30年で6,500経営体から約3,000経営体に減り、就業者数も約1万4,000人から約7,000人と半減している。高齢化も著しく、30歳未満の若い漁師は5%しかいない。50~64歳が31%、それ以上のおじいさんが44%を占めている。

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2023年漁業センサス(農林水産省) より

海水温も、日本海側、津軽海峡、陸奥湾、太平洋側の県内4海域すべてで、平年より2~5°C上昇しており、温暖化の影響を強く受けている。

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青森県沿岸域の海面水温の推移(青森県産業技術センター) より

青森の漁業の実態は、世間的な印象と違い、誰が見ても危機的な状況であることに間違いない。

実態評価は三者三様

次に、実際に関わっている人の受け止めを知るため、漁業者、漁協職員、水産行政、仲卸、漁網会社、一般市民など14人に電話でヒアリングを行った。

200以上の所見を得た中で、例えば人材については、「県内から若い人が転職して入ってくる」と言う人もいれば、「若い人がすぐ辞めてしまう」「市場や加工業の労働力不足は深刻を超えるレベル」と言う人もいた。「漁業者においては優秀な人とそうでない人のレベル差が大きい」という声もあった。魚価については、「特別に青森が安いことはない」と言う人もいれば、「量が少ない割には値段が上がらない」と言う人もいた。

業績については、「結構稼げている」「国の支援制度を活用して利益を出せるようになった」と言う人もいれば、「日本でいちばんやばいと思っている」「廃業が相次いでいる」と言う人もいた。「船によって仕事のレベル差が大きい」「地域によって課題が全然違う」という声もあった。品質管理については、「鮮度は大丈夫」「北海道より全然マシ」と言う人もいれば、「とにかく氷を使わない」「浜にもよるが魚の扱いが悪い」と言う人もいた。「品質管理の考え方に漁業者や市場によって大きなバラつきがある」という声もあった。

流通については、「大漁物の系統が強い」「冷凍や加工の受け皿があって安心」と言う人もいれば、「地元の仲買が弱い」と言う人もいた。県の施策については、「新しい取り組みはしっかりやっている」と言う人もいれば、「漁連の指導力に疑問」「県や漁連は案を出すだけで丸投げ」と言う人もいた。「必要な取り組みがさまざまありすぎて県も漁連も手が出せない。むしろ手を出さないのが正解とでも思っているのでは」という声もあった。

とにかく答えがいろいろ。よいように言う人もいれば、悪いように言う人もいる。これには私もすごく困った。課題解決の手法一つ取っても、当てはまるところとそうでないところが必ず出てくる。漁連や県もどこからどう手をつけるべきか、置かれている状況がいろいろありすぎて逆に手をこまねいているのだろう。地域や漁法、また一つひとつの経営体にもよって、現状の課題もそのレベルも混在している。それが今の青森の漁業の姿だ。

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連載 第2回 へ続く

プロフィール

窪川 敏治(くぼかわ としはる)

窪川 敏治

1980年生まれ、漁業とは無縁な東京育ち。東京海洋大学資源管理学科卒。学生時代含め中学受験の塾講師を12年務め、2011年に石川県に移住転職。大型定置網漁業の(有)金城水産 代表取締役、水産庁・水産政策審議会 委員、石川県定置漁業協会 代表監事、石川県漁協加賀支所 総代、(株)船舶職員養成協会北陸信越 教員。水産庁・「漁業の働き方改革」実現に向けた調査事業検討委員会 委員(2018)、同・資源管理手法検討部会サワラ日本海・東シナ海系群 参考人(2023)。岩手大学(資源経済)および京都大学(資源解析)の研究協力も行う。
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