ここからしばらく、どちらかというと管理・運営する側に向けた内容になる。青森の漁業者の状況はそれぞれ違って正解もいろいろあるかもしれないが、ただし課題解決に向けた共通した考え方の土台がある。これから解説する8項目 —— (1) 経営の3要素「業績・品質・人材」 (2) 会社の成熟3段階「売上・利益・社会貢献」 (3)「面倒くさい」が大切 (4) 予防型で仕事を組み立てる (5) 3・6・12の法則 (6)「知る・考える・決める・動く・確認する」のサイクルを回す (7) 管理の5要素「人・金・物・時間・場所」 (8) レベル別にすべきことは違う —— はありとあらゆる状況において有効な漁業運営の基本である。
すでにできている部分は、これまでの取り組みが正しかったと再認識して自信にすればいい。考えはあっても現場にうまく伝わっていない部分は、その考えを私が言語化していくので伝えやすくなる。できてもいないし考えもしなかったという部分があれば、古い考えを変えていくきっかけにしてほしい。
経営のメカニズム
まず、(1) 経営の3要素「業績・品質・人材」と、(2) 会社の成熟3段階「売上・利益・社会貢献」の取り扱いの違いについて解説していく。
私も定置網漁業の社長を務めているが、現場には業績向上、品質向上、人材育成の3点を求めている。この3つは同時並行で追い求めなければならない。品質は二の次で売り上げばかり気にしてはいないだろうか。逆に品質にこだわりすぎて、もうけを度外視してはいないだろうか。特に漁業は、量を獲ることと鮮度をよくすることには積極的に取り組むが、その分人材育成がおざなりになる傾向があると思う。「乗組員は兵隊、辞めたら殉職」ではない。量と鮮度と同じくらい人材育成にも取り組む。それくらいの意識が必要だ。
一方で、会社には売り上げを上げること、利益を上げること、社会に貢献することの3つが求められる。これらは同時並行ではなく順番だ。十分な売り上げが上がるようになったら利益を考える。十分な売り上げのもと、安定して利益が上がるようになったら社会貢献に取り組む。こうやって段階を踏むのが正解だ。十分な売り上げを確保できるようになることを「軌道に乗る」というのであれば、軌道に乗っていない段階、しょぼしょぼの売り上げで利益を出したところで会社は回せない。もうかっていない会社が慈善活動を行い、利益を食いつぶすようなことがあれば、それは果たして社員や株主にとって幸せなのか。
この、同時並行すべきものと、段階を踏むべきものをごちゃごちゃにしている経営者や団体は少なくない。特に漁協や漁連、都道府県の水産課には経営指導を担当する係があると思う。いま一度認識を新たにしてもらいたい。
「面倒くさい」が大切
次に、(3)「面倒くさい」が大切、を解説する。世界的な映画監督である宮崎駿監督は、「世の中の大事なことってたいてい面倒くさいんだよ。けれど、面倒くさくないところで生きていると、面倒くさいのはうらやましいなぁと思うんだよ」と言う。面倒くさいことこそ取り組むべきで、得られる成果も大きいということだ。
ある定置網会社の給料の払い方を例にしよう。その会社は水揚げに連動した手当を年末のボーナスでまとめて払うことにしていて、毎月の給料はずっと同じ金額で乗組員を雇っていた。親方に聞くと、「手当が毎月変わると税金も変わるし、振込額も計算し直さないとならないし、面倒くさい」と言う。乗組員にとってはどうだろうか。よくても悪くても、がんばってもがんばらなくても、給料はいつも変わらない。これではモチベーションは上がらない。大漁だった次の給料がもし増えればうれしいに決まっている。不漁で給料が増えなくても納得がいく。「網の中にいるのは魚ではなく金である」とはうまいこと言ったものだ。
お金はやる気の源になるし、変化があることは楽しさになる。親方が、面倒くさい計算を大切と思ってやり通せば、現場に求める3要素の人材育成にまずつながり、それが業績や品質への向上にもつながっていく。
青森の漁業を管理・指導する立場の人にとって、地域や漁法や経営体で課題やそのレベルが違う今の状況は、この上なく面倒くさいと思う。これから先、青森の漁業が踏ん張れるかどうかは、それをこの上なく大切なことと理解できるかにかかっている。
(連載 第3回 へ続く)
