本連載第43回で、長谷成人氏は洋上風力推進にあたり克服すべき課題として、沖合漁業と洋上風力発電海域との棲み分けを提言された。水産庁データの活用を示唆しつつ、知事許可漁業や自由漁業を含めたデータ集積の緊急性、さらに都道府県庁の理解と協力、水産庁の頑張りに期待するとした。その言葉には、切実さが滲んでいた。
漁業はその不可視な海洋での経済活動ゆえに、データの海図の上では空白として放置されかねない。その空白に何が起きているのか。それを客観的なデータとして示すことで、はじめて洋上風力をはじめとする新たな海洋経済活動と漁業との共存、そして協働がはじまる。
日本の海の漁業活動の可視化の課題
水産庁が漁業団体の協力を通じて作成した漁業活動状況からは、日本の領海・排他的経済水域(EEZ)はほぼ全域で漁業活動が営まれていることが分かる(図1)。これは大臣許可漁業という日本の漁業の一部に限った集計であり、全体像ではない。それでもなお、北海道から沖縄まで日本の海が、漁業という経済活動によってくまなく使われていることが読み取れる。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/eezriyou.html
筆者は武蔵大学の阿部景太准教授(現・慶應義塾大学経済学部教授)とともに、Global Fishing Watch (GFW) による船舶自動識別装置 (AIS) による個別漁船位置情報データの機械学習解析(大量のデータから潜在的なパターンや法則を自動的に学び、分類・予測などを行うコンピュータの技術で、AI を実現するための中核的な技術の一つ)からの漁獲行動時間推定(実際に魚を獲ろうとしている行動)を用いて、日本の漁業の戦略の模索を続けてきた。本連載第20回で長谷氏にご紹介いただいた解析結果は大臣許可漁業を対象としたその一部だ。
ところがここに、大きな壁がある。2026年現時点で日本の漁船でGFWと私たちの研究グループで捕捉できるのはわずか約8,000隻に過ぎない。100トン以上の大型船では捕捉率は九割に達するが、大勢を占める10トン未満の小型船では一割にも届かず、5トン未満に至ってはほぼ捕捉できてはいない。
つまり、こうした個別漁船位置情報の解析技術で可視化されてきた日本の漁業は、ごく一部でしかなかった。日々沖に出てゆく沿岸の漁業者が、データの上では透明な存在となっている。これを私は、単なる技術上の制約とは受け止めていない。日本の海洋空間利用が直面する根本的な課題が、ここに映し出され、長谷氏の言葉へと繋がる。
現在の日本の海洋経済の柱である漁業が、洋上風力政策のみならず海洋経済発展の議論から抜け落ちたまま進められてしまえば、それは一産業の問題では済まされない。日本の食料安全保障、こうした漁業からの水揚げに依存する沿岸コミュニティの経済活動、海洋国家としての日本の必需が静かに削り取られてしまう。
宇宙から漁業活動を眺める
2024年、科学誌『Nature』に掲載されたPaoloらの論文は、強い衝撃を与えた。世界の漁船のうち約七割が、公開されている船舶位置情報には現れていないと推定されたのだ。私たちがこれまで「世界の漁業」と呼んできた姿は、海の現実のごく一部を映したにすぎなかった。漁業という経済活動が海をどのように使っているのか、私たちはその大部分を「見ていなかった」。
この研究の核心は、宇宙衛星ネットワークからの画像データを組み合わせた機械学習の多層的アプローチにある。一つはSAR(合成開口レーダー)衛星。自らマイクロ波を海面に照射し、その反射を捉える能動型センサーで、雲も夜も貫いて船を検出する。金属構造物である船体は電波を強く返すため、暗い海面のなかに明るい点として浮かび上がる。解像度は約20メートル。もう一つは光学衛星で、太陽光の反射を捉える受動型センサーである。解像度は約10メートルと高く、船体の色や甲板の装備まで視認できる。ただし雲と夜には無力という弱点をもつ。
特定海域での漁船検出はSAR衛星画像で行われる。SAR衛星からの全天候・全時間帯の画像データに機械学習の一種であるディープラーニング(深層学習)技術を用いて船舶を検出し、その長さを推定する。漁船か否かの判別には、検出地点周辺の船舶密度、平均船舶長、水深、港からの距離、海面水温、海流、クロロフィル濃度をはじめとする11の環境変数を用いる。例えば、漁船とそれ以外の船舶では活動海域や活動パターンが異なるため、こうした活動状況や地理条件等から漁船か否かを判別する。海洋環境における高い平均クロロフィル濃度は植物プランクトンが多い海域を示唆する。植物プランクトン生産量などの海洋環境データを組み込むことで漁場としての最適性が示唆される。そうした海域には魚も集まるため、漁船がいる可能性が高い。検出された漁船とAISデータを照合し、一致しない船舶をAISを搭載しない「漁船」として特定する。こうして既存のGFWによる個別漁船位置情報解析では捉えきれなかった漁船の存在が次々と明らかになる。
SAR衛星画像解析から6ヶ月間で動きのないものは海上固定構造物として抽出され、さらに光学衛星画像により、石油・ガス施設・洋上風力発電施設、その他の人工構造物、などの構造物の分類に使用される。つまり、こうしたSAR衛星・光学衛星の二種類の画像解析によって、これまで可視化することのできなかった、AISを搭載しない漁船活動のみならず、そうした洋上風力発電施設との関係性も明らかとなりつつある。また、この研究には述べられてはいないが光学衛星画像解析による漁船検出もSAR衛星画像解析と同様に可能だ。経済活動としての漁業を海図に描き出す技術はいま整いつつある。
こうした衛星画像の解析で注意しなくてはいけないのは、衛星は常時同じ海域を観測しているわけではなく、その上空を通過する瞬間を切り取るに過ぎないという点であり、例えば今回のSAR衛星の解析要件ではおよそ6日おきに衛星が通過して画像を撮る形となるため、得られるのはその時その時間にどれだけの漁船がいるかという情報にとどまる。一方で、AISなどの解析から得られるものは、5分間隔で連続する位置情報と個別の漁船情報からなる解析であり、漁船がどのような行動をしていたのかを推定することができ、本連載第20回で長谷氏にご紹介いただいた解析結果は、こうした点と点の移動から計算された、漁業を行っているだろう時間の総計を示したものである。両者は同じ海を見ているようで異なる断面を映しており、必ずしも一致するものではないため、この元となるデータの違いや解析手法を十分に理解したうえで、政策の場に活かしていく必要がある。
日本の海を、宇宙から見直す
筆者らの研究チームは、この技術を日本周辺海域に適用した。結果は、日本の漁業活動をより鮮明に描き出している。
2019年から2024年までのSAR衛星によるAIS非搭載船の検出延べ数は、日本のEEZと領海で約34万隻に達する(図2)。緯度経度0.5度セルで可視化すると、沿岸から沖へ向かって密度が減じてゆく様子がはっきりと見える。日本海西部のEEZ境界ぎりぎりで濃く検出されるのは、日本漁船ではなく外国漁船の可能性が高い。
先述の研究では触れられていない光学衛星による漁船検出に切り替えれば、日本のEEZと領海内での検出延べ数は約247万隻にまで跳ね上がる(図3)。SARに比べ解像度が高く、小さな漁船までより細やかに捉えられるためだ。さらに両者を1度セルで比較すると、沿岸部ではほぼ同等の検出だが、沖合ほど光学の検出率が高くなる(図4)。これは、洋上風力の区域設定に対し、極めて重い示唆を与え、比較的小さな漁船が大勢を占める日本の海域では光学衛星画像解析技術をより発展させる必要があることを示す。
日本の海には、こんなにも多くの漁船がある。そしてそのほとんどは、これまで政策議論のテーブルに乗ることすらなかったのである。AIS等の個別漁船位置データだけを見て「漁業活動が少ない」と判断された海域に、実は何千、何万という漁船の足跡が重なっている。
データが導く海洋政策
政府は2018年(平成30年)以降、証拠に基づく政策立案 (EBPM: Evidence-Based Policy Making) を推進している。海洋政策もその例外であってはならない。「海洋国家」として我々の海を総合的・計画的に管理・利用・保全してゆくには、「いま、海で何が起きているのか」を正確に見つめることが、すべての出発点である。
海図に点を打つだけでは、漁業は語れない。だが一日また一日と点を重ね、季節の移ろいに沿って層を積み上げてゆけば、日本の海に空白など存在しないことが見えてくる。漁業という経済活動の特性を理解し、その実態を正確に把握すること —— ここにすべての出発点がある。相対的に漁業のみならず既存の海洋経済活動利用の薄い海域を丁寧に探し出すこと、それこそが洋上風力発電を含む新しい海洋空間利用を進めるための唯一の路だ。
筆者らの研究チームは、GFWの技術と日本独自のデータを統合した海洋可視化のビッグデータ解析プラットフォームを構築しようとしている。都道府県が持つ情報、漁協が蓄えてきた記録、そして漁業者ご自身の「この海で何十年やってきた」という記憶 —— そうしたデータを我々の解析に統合できるのならば、日本の海に漁業の姿はさらに鮮やかに浮かび上がる。
引用文献
- Paolo, F.S., Kroodsma, D., Raynor, J. et al. Satellite mapping reveals extensive industrial activity at sea. Nature 625, 85–91 (2024).
(連載 第61回 へつづく)

