洋上風力発電については、2018年12月に成立した再エネ海域利用法に基づき検討が本格化し、21年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画における2030年までに10GWの案件形成をという目標に対し、これまでに秋田県、新潟県、千葉県、長崎県において約3.5GWの案件がまとまってきました。
一方、他海域でも検討が行われる過程で、各業者がバラバラに現地に入ることによる浜の混乱、都道府県庁部局間の意思疎通不足、地元自治体の域外漁業者の操業実態認識不足・意向確認不足などの問題点も多く見られました。
これまでのコラムでも紹介してきた、再エネ海域利用法につながった(一社)海洋産業研究会(現 (一社)海洋産業研究・振興協会)の構想は、もともとは沿岸域での漁業協調策から出発したモデルでしたが、その後の脱炭素化のスピードアップ、発電企業側が求める規模感との齟齬が顕在化しているように思います。
発電企業者にしてみれば、地元と思える漁協に行って、やっとの思いで理解を得て案件形成できたかなと考えていたところ、その沖合で操業する漁業者の反対にあいびっくりしたり、がっかりしたりということが起こっています。逆に、沖合漁業者にしてみれば、自分が知らないうちに、自らの漁場を舞台とした案件形成が勝手になされびっくりしたり、憤慨したりということになります。昨年7月のコラムでご紹介した漁業影響調査の第1段階としての関係漁業者の把握がいかに大事かということです。
また、最近では、政府において、対象海域をEEZにまで広げるための法整備をしようとの検討が行われています。脱炭素が急務のこの時代に、国連海洋法条約に基づいて対象水域をEEZにまで拡大すること自体は当然のことと考えますが、沖合漁業者にとっては、風車の魚礁効果や施設の保守点検のための雇用といった沿岸漁業には通用した協調策が魅力を持たず、むしろ単なる迷惑施設となりかねないことから、いかに漁業協調を図るのかは今後の大きな課題です。
沖合漁業者にとって、一つ一つの案件の面積は自らの漁場全体に占めるシェアとしては必ずしも大きくはないとしても、今後どれだけの案件と調整が必要になるのかということが示されないままに、「この案件についてだけでも個別に判断して欲しい」と言われてもそれは無理な相談ということになります。2030年10GW の次には40年30-45GWの政府目標があり、さらにその先にはもっと拡大する必要があるとの言説がある状況ではなおさらです。
こうした状況で、これまでの延長上で企業任せにいわばボトムアップに案件形成しようとすれば、漁業側にも、企業側にもフラストレーションが溜まり、お互いのためにならないことは明白です。
EEZまで行かなくとも、今後沖合域に本格的に候補水域を広げて行こうとするなら、「漁業に支障を及ぼすことが見込まれる」漁業操業が密に行われている水域に企業が案件形成努力を向けるような非効率なことは避けるように、政府レベルで両者の棲み分けについてある程度の調整を図ることが必要です。現状では、企業側は、どこに良い風が吹くかという風況のマップを見て案件形成を考えていると思いますが、今回、岩手大石村学志准教授と武蔵大阿部景太准教授に依頼して漁船に装備されたAIS(自動船舶識別装置)のデータをもとに、漁業活動が盛んな水域と比較的そうでもない水域が分かる図を作成して頂きましたので、参考までに掲載します。
これは、国際非営利団体Global Fishing Watchのデータをもとに、わが国漁船のうちのモニター対象船6444隻について集計したものです。この数字は、2021年漁船統計の総トン数ごとの漁船数に対し、15トン以上20トン未満の漁船では約3割、20トン以上100トン未満では7割以上、100トン以上では97%に当たる漁船のデータであり、沖合域でのわが国漁船の利用状況を相当程度反映したものと考えます。図1の航海時間には、漁撈活動中だけでなく漁場と港の往復航、探索活動なども含みます。図2の漁獲努力時間については、機械学習漁獲行動解析による推定になります。
洋上風力発電の漁業への影響については、このような操業への物理的、空間的な直接的影響のほかにも、回遊する水産生物への影響などもある上、今後の海洋環境の変化による漁場の変動ということもあり得ますから、漁船が航海しない空白水域なら支障はないと断言できるものでもありませんが、漁業者側、発電企業者側双方のフラストレーションを減らし、建設的・効果的な棲み分けがなされるための一助になればと考えています。