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水産振興コラム
20225
アンケートにみる「豊洲市場の現在地」
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第1回 共同調査の全体像

一般社団法人豊洲市場協会(伊藤裕康会長)と一般財団法人東京水産振興会(渥美雅也会長)は2019~20年度、東京・豊洲市場の買出人・水産仲卸業者・一般来場者に対して共同調査のアンケートを行った。場内業者からの伝聞に頼るしかなかった“生”の意見を可視化し、今後の活性化に役立てる狙いがある。新連載「アンケートにみる『豊洲市場の現在地』」では結果の一部を紹介。報告書の監修者で、共同調査の検討委員会座長を務めた婁小波東京海洋大学教授らに解説を依頼した。

“生” の意見を可視化
伊藤会長「市場運営に取り込む」

市場の改善策を検討する基礎資料とするために行われた今回のアンケートは、18年10月の豊洲市場開場以来初の大規模調査となった。メインは買出人向けと水産仲卸業者向けの2つだ。両アンケートの内容は東京海洋大学と市場関係者で組織した検討委員会と、下部組織のワーキンググループで設定した。

買出人アンケートは21年1月に場内5団体と6街区協議会の協力で実施。市場を普段使いする利用者中心に寄せられた809部の回答を集計した。一方、水産仲卸業者向けアンケートは、20年11月に実施された。水産仲卸約470事業者が所属する東京魚市場卸協同組合(東卸)の協力で行われ、全体の3割の142部の回答をまとめた。

初セリが行われた今年1月5日のマグロ卸売場の様子 初セリが行われた今年1月5日のマグロ卸売場の様子

新型コロナウイルスの影響が出て以降の特殊状況下の調査となったが、市場業者が自らを客観視できるデータを得たことは大きな前進といえる。

伊藤会長は「(直接はなかなか)聞けない方々にどう思っているのか、どういう点で仕入れがしやすいのか、どういう点を変えてほしいのかを聞けた。素晴らしい調査だ」と喜び、「市場の運営に取り込んでいきたい。とにかくこれを生かしたい」と今後の意気込みを語る。

東卸理事長を務める早山豊豊洲市場協会副会長は「全体から見て自分がどういう立ち位置にいるのか、別の視点がもてるのでは」と評価。開設者である都の大谷俊也豊洲市場場長は「漠然とした声が形になった。『アンケートで要望があった』として具体策が打てる」と歓迎する。

次回はまず買出人アンケートに注目していく。

買出人らで賑わう6街区の水産仲卸売場。19年2月撮影 買出人らで賑わう6街区の水産仲卸売場。19年2月撮影

監修者からひと言

感じられた強い期待
婁小波・東京海洋大副学長

東京水産振興会の早乙女浩一常務から、移転1周年を迎えた豊洲市場の一層の発展を図るための調査を相談された時には、一瞬ためらってしまった。この手のアンケートは相手からの協力を得るのがなかなか難しいからだ。

ところが、フタを開けてみれば、予想を超えて多くの方々から積極的なご回答をいただいた。当初の心配は見事に杞(き)憂に終わった。豊洲市場協会とタッグを組み、都や水産物卸売業者協会、東卸、東京魚商業協同組合など多くの場内の組織からのご協力を得られたことが功を奏した。加えて、仲卸業者や買出人の皆さまの新市場への強い期待も感じられた。

世紀の大事業ともいえる市場移転の真価が問われるのはこれからである。豊洲市場が消費者や生産者、さらには市場関係者にとって今後ともより利用しやすく、社会的公器としてさらなる役割を発揮できるかどうか。本調査ではそれに応えるための基礎情報を収集し、ファクトを分析している。

参考資料

第2回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。