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水産振興コラム
20257
第一次産業の相手は自然か。漁業の相手は魚か。

第4回 流通 (上) 流通の主導権を握る

窪川 敏治
(有) 金城水産 代表取締役 / 石川県定置漁業協会 代表監事

石川と秋田では魚の流通が違う。秋田県の場合、水揚げ港に産地市場があって、そこにすべて出すのが基本。一方、石川県では、産地市場のほかに金沢などに漁業者自身が出し分ける。他県である富山の氷見に持って行くこともあるし、うちの場合は県南部にあるので福井にも出す。石川県では多くの漁業者が複数の出荷先をもっている。

私は毎日、魚の顔が見えてその日の水揚量が分かった時点で船上から各市場や仲買に電話する。加賀、小松、福井など、やっている市場に船上から電話して、どれだけ欲しいか聞く。市場も大量に入荷すると値崩れしてしまう。複数の出荷先を私がマネジメントして、港に着く頃には、各市場への振り分けが決まっている。魚が多い時には仕分けが終わる頃合い目掛けて、売り先のトラックも呼ぶ。

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(水産経済新聞社提供)

隣県の福井中央卸売市場には頻繁に出荷する。なぜ福井かというと、さらに隣の京都府には舞鶴という超絶魚が高い港がある。それは地元に京都と大阪という大消費地を抱えているからで、福井中央卸売市場はうかうかしていると、福井の漁業者はみんな舞鶴に魚を出荷してしまう。その危機感をもっている福井の荷受は、さらにバイヤー的なことをして、相場をみながら、関西だけでなく、名古屋、東京、海外にも送る。こちらとしてはこれほど安心なことはない。出荷先がその先に魚を強く押し出してくれる。しかも、冷凍の大きな倉庫をもっているので、鮮魚の相場が下がっている時は「冷凍の方が高いので冷凍しました」となる。

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昨年、水産経済新聞にもその記事が掲載された。

「地元仲買への優先的な販売を維持しながらも、地元だけでは手に余る量は福井の市場に連絡する。地元仲買人とも福井の市場とも駆け引きは一切しない。ありのままの情報とできることを伝えるだけ」。

信頼できる仲買、信頼できる市場にありのままの情報を出す。これくらいの水揚げがあるよ、型はこんなだよ、など販売に必要な情報を伝える。そんなひと手間をすることで、トン単位の水揚げがある船にとって重要な大漁時の底値を下げ止めることができる。それが業績に直結する。

この流通網は簡単にできたわけではない。5年、6年の時間がかかったが、複数の流通先をもつのは大変に価値がある。相場感覚もつかめる。

ただ、勘違いしてほしくないのは、実際に流通を行っているのではないこと。あくまで流通の主導権を握っているだけで、実際の流通は市場や仲買が担っている。自分たちで流通まで行っている漁業者もいるが、それはすごく大変だと思う。自分ですべてやろうとすれば、仲買には「お前たち、勝手にやっているんだろ」と言われ、大漁で捌き切れない時にも「いつも通り一人でやれば」と言われてしまう。

漁師にとっては「獲ってきて終わり」が何よりも理想の働き方だ。利益が十分確保できるのなら、港に戻ってきたあと、自分たちで加工したり、トラックを長距離運転したりはしたくない。市場、仲買と連携して、流通の「主導権を握る」で止めることが重要になる。

連載 第5回 へ続く

プロフィール

窪川 敏治(くぼかわ としはる)

窪川 敏治

1980年生まれ、漁業とは無縁な東京育ち。東京海洋大学資源管理学科卒。学生時代含め中学受験の塾講師を12年務め、2011年に石川県に移住転職。大型定置網漁業の(有)金城水産 代表取締役、石川県定置漁業協会 代表監事、石川県漁協加賀支所 地区総代、(株)船舶職員養成協会北陸信越 教員。水産庁・「漁業の働き方改革」実現に向けた調査事業検討委員会 委員(2018)、同・資源管理手法検討部会サワラ日本海・東シナ海系群 参考人(2023)。岩手大学(資源経済)および京都大学(資源解析)の研究協力も行う。
進む温暖化と水産業(7) - 洋上風力発電で漁業者が混乱している/窪川敏治 | 水産振興コラム | 東京水産振興会