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水産振興コラム
2026年10月
進む温暖化と水産業

第70回 人と魚に優しい川づくり事業について(その3 今後の展開)

大浜 秀規
山梨県漁業協同組合連合会 技術参与 

1. はじめに

今年の夏は各地で豪雨災害が頻発しました。思いもよらぬ事態が何時何処で起こっても不思議ではない時代になりました。家族と我が家を守るため、防災機能の強化は地域住民として強く望むものです。ただし、環境への配慮がないまま河川工事が行われることは、魚との共存を望む私たちが求めるものではありません。人と魚に優しい川づくりを進めるためには、多自然川づくりを積極的に推進していくことが望まれます。

山梨県漁業協同組合連合会では、(一財) 東京水産振興会が行う「人と魚に優しい川づくり事業」に参画し、全国で行われている川づくりの状況を把握し、現状の問題点を洗い出すとともに、その解決策を検討するための調査を行っています。

今回は、本事業で山梨県が分担している内容と今後の展開についてご紹介します。なお、宮崎県の事例については第53回のコラムで、大内山川漁協の事例については第66回のコラムで詳しく紹介しています。

2. 事業の概要

魚に優しい川づくりを進めるため、全国で行われている河川環境整備の推進事例の中から、識者から紹介された優良な取り組み事例について現地視察と聞き取りを行いました。その結果、1つめが懇談会や協議会など河川管理者と内水面漁業関係者との会議体、2つめが講習+認定システム、3つめが優良改修事例の継続性と3つに分類されました。これらの取り組みについて現状の問題点を洗い出すとともに、解決策について検討しています。

3. 懇談会や協議会などの会議体

会議体については、新潟県の「河川懇談会」と山梨県の「漁業・公共事業連絡会議」の聞き取りを行いました。どちらも河川改修による環境悪化を回避・軽減するため、40年以上前から、国と県の河川管理者と漁協関係者が出席し、毎年開催されています。しかし、発注者としての意見を関係者に伝える場であるので発言に責任の取れる職位以上の出席者が多く、実際に施工管理をする担当者が不在であること、参加者が多く時間的制約があること、工事件数が多く工事の内容も多岐にわたることなどから、具体的な河川改修の改善を個別に協議することは困難と感じられました。

また、内水面漁業の振興に関する法律第35条に基づき内水面漁業の振興について協議するための「協議会」を設置することが可能となっています。しかしながら河川工事で困っている漁協は数多くあるにもかかわらず、施行から10年以上経過しても協議会が設置されたのは全国6件しかありません。漁協サイドからの申し出で設置されることがハードルになっている可能性があります。この制度の活用を図るためには、漁協の理解を深める水産行政機関の更なる取り組みが求められます。

山梨県の漁業・公共事業連絡会議

このように会議体は、河川環境の保全にある程度貢献し、関係者間の顔つなぎとしての効果があるものの、この体制のみで直接的に環境改善に結び付けることは難しいと考えられました。このため、会議体で出された意見を実際の設計や施工に反映させる仕組みと共に、環境へ配慮することの動機付けをどのような形で行うかが重要と考えられました。

4. 講習会+認定システム

講習会+認定システムとして3つの事例を視察しました。1つめが岐阜県の自然工法管理士認定事業、2つめが宮崎県の宮崎県自然豊かな水辺の工法研究会の研修会、3つめが大内山川漁業協同組合の河川環境技術者講習会です。

4-1. 岐阜県

岐阜県の事例は、「岐阜県自然工法管理士認定制度」です。これは平成13年に始まり、認定受講者は全国に2,800人、そのうち施工業者が7割、発注者が1割、コンサルタント他が2割です。県が関連団体やNPOと共同で岐阜県自然共生工法研究会を設立し、この研究会が講習会と認定事業を実施しています。試験に合格して認定された場合には、入札参加資格審査や総合評価落札方式で加点が行われます。施工業者やコンサルタントは、入札において有利になることから講習会へ積極的に参加し、認定受講者の確保に努める仕組みとなっています。

一方、発注者も、実施された事業をコンテストで発表することにより、川づくりへのモチベーションの向上が図られ、現地研修会へ参加することで現場力が向上するなど、多彩な取り組みがなされています。

岐阜県の事例
(岐阜県自然共生工法研究会HPから借用)
講習会のテキストと研究会のパンフレット

4-2. 宮崎県

宮崎県の事例(第53回参照)は、県とNPOが協働で実施している「宮崎県自然豊かな水辺の工法研究会」の研修会です。研修会は平成18年から始まり、年3回開催され、毎年1,000人を超える人が受講し、そのほとんどが施工業者です。

研修後の試験に合格し認定された場合には、総合評価落札方式で加点が行われ、コンテストで発表・入賞すると、さらに追加の加点がされるシステムです。施工業者やコンサルタントは、入札において有利になることから積極的に認定を受け、優良な施工に努める仕組みとなっています。

一方、発注者もこの研修会に加え「川づくり現地検討会」により技術レベルの向上が図られるとともに、「うるおいのある川づくりコンペ」によりモチベーションの向上も図られているとのことでした。

宮崎県の事例(全国多自然川づくり会議HPから借用)

岐阜県の場合も同様ですが、宮崎県の事例もシステムとしてかなり確立されていて、その成果も多く出ているのですが、河川工事で直接影響を受ける水生生物、特に魚にとって、濁水の流出、流路の平坦化・直線化、玉石の撤去による多様性の減少が、なぜ問題なのか、また、それを回避するためにはどのように対処すれば良いのかについて、もう少し詳しく施工業者へ説明することが望ましいと感じられました。

また、せっかくの取組みについて、一部事業で水産試験場との連携が行われていましたが、全体として水産サイドの参画度合いが弱く、漁協側における同制度への認知度も低い点が気になりました。

4-3. 大内山川漁業協同組合

この事例(第66回参照)は、三重県南部を流れ、アユ釣りの有名河川である大内山川を有する漁協が独自に行っている、「河川環境技術者講習会」です。

講習会の開催は不定期ですが、半日で3つの講義と実地講習を行い、その後に修了試験が行われます。

受験者は施工業者、コンサルタントですが、発注者や地元関係者も講義に同席しています。

講義は、「漁協」、「河川工事と環境」、「河川生態系」に関する内容で、具体的に河川工事がなぜ魚にとって困ることになる場合があるのか、魚と河川工事の関係について語られています。講義の後の実地講習は、河川環境をより良く維持していくために漁協が進めている取り組みについての紹介です。

この認定で特徴的なのは、合格者が社内研修会を実施することで、会社自体が認定されることです。認定されると毎年度の活動(河川清掃、講習会等)報告書の提出が求められます。

大内山川漁協の講習会

他の講習+認定システムに比べた場合、①漁協単位の活動なので、漁場区域内における河川改修の関係者(発注者、コンサル、施工業者)のほぼすべてが参加する。②漁協が実施しているので、水産的視点に即した講習及び試験となっている。③合格者が社内研修会を実施するので、会社の構成員全員に講習内容が周知される。④継続的な活動報告書の提出を義務づけている、などの特徴があります。

ただし、問題点として、①単独の漁協で実施するのは、技術・労力的に簡単ではない。②発注者ではないので、入札等での加点措置等はない、などの点があり、このままの形で各地の漁協へ横展開するのは難しいと考えられました。

以上3つの優良事例を見るにつけ、この良いところを組み合わせた体制作りを関係者に提案し、全国に広める必要があると感じられました。

5. 優良改修事例の継続性

長野県には、現在の多自然川づくりの先駆となった近自然河川工法に基づく、優良な改修事例があります。施工から20年以上が経過しているにもかかわらず、良好な環境が維持されている河川改修です。

その1つである長野県松本市の牛伏川にある分散型落差工の現地視察を行いました。

牛伏川の源頭部は山腹崩壊がひどく、以前から土石流により下流扇状地は度々被害を受けてきました。流出した土砂は信濃川を流れ下り、新潟港が埋まる被害も生じたことから、明治時代にオランダ人技師ヨハネス・デ・レーケの指導の下、フランス式階段工が施工されるなど、古くから砂防事業が行われてきた所です。平成15年に、その下流に設置された床固め工(落差のある河川横断工作物)と帯工(落差のない河川横断工作物)が、近自然河川工法による分散型落差工(自然石により落差を分散させた工作物)へと再改修されました。この改修は、地元から景観やイワナ等の生物生息環境の復元要望を受け、床固め工の基礎のみを残し、自然石空積みの分散型落差工へと改修されています。分散型落差工は以前に長野県鳥居川で施工されていて、それに基づき「長野県土木事業設計基準」へ掲載されています。

牛伏川の改修事例:分散型落差工
長野県土木事業設計基準 抜粋

しかし、これら先進的な施工が行われ、県の設計基準として定められているにもかかわらず、長野県ではその後、このような人と魚に優しい改修事例が継続していないようです。地方自治体では担当者の異動が頻繁にあるため、優良な改修事例や基準があったとしても、それだけでは継続的な実施が難しく、担当者が変わっても取り組みを引き継げる仕組みが必要だと考えられます。

6. おわりに

これまでの調査を通じて多自然川づくりを進めるため、さまざまな取り組みが行われていることが分かってきました。ただし、どの取り組みにも長所と短所があることも分かりました。これらのことから考えると、会議体による関係者間の継続的な意見交換、講習・認定による技術者の育成、優良事例を継続させる仕組みを組み合わせることで、本事業の課題となっている「人と魚に優しい川づくり」を進めることが可能となると考えられます。

しかし、漁業者が感じている「多自然型川づくりが始まり35年、その間どれだけ川が悪くなったか」という認識を、発注者から感じることはあまりありませんでした。場合によっては「多自然川づくりで、河川環境は良くなっている」と感じさせる発言も聞くことがありました。この認識の違いを乗り越え、多自然川づくりが確実に推進される仕組みや制度を関係者と共に作り上げていくことが、今後の課題だと考えており、まずはその一歩として、講習会で使ってもらえる水産サイドの視点からのテキストを作成し、公開したところです。

(第71回へつづく)

プロフィール

大浜 秀規(おおはま ひでき)

大浜 秀規

1961生まれ 山梨県漁業協同組合連合会 技術参与
1983年農林水産省所管水産大学校卒業後に山梨県へ就職。魚苗センター、県庁、富士湧水の里水族館等に勤務し、2021年水産技術センター所長を退職。
この間、魚の住みよい川づくりについての調査研究を行い、その結果を踏まえ河川管理者との連係を図りながら、河川環境改善の提案を行うなど、魚の住む器について取り組んできた。現在は、漁協と河川管理者の調整に努めている。