1.はじめに
気候変動、温暖化が進み今年の夏も多くの水害が発生しました。防災のための河川工事の必要性がこれまで以上に高まる中で、人と魚に優しい川づくりを進めるためには、多自然川づくりの積極的な実施が望まれます。我々水産関係者の要望を受け、熱心に取り組んでくれる若手技術者に出会うこともありますが、河川管理の担当者は長くても4年ほどで異動となります。このため、単発の講習会や協議のみで多自然川づくりを継続的に推進することは難しく、何らかの体制やシステムを整備し、川づくりを推進する人づくりを進める必要があると考えられました。
そこで、山梨県漁業協同組合連合会では、(一財) 東京水産振興会が行う「人と魚に優しい川づくり事業」に参画し、全国で行われている川づくりの状況を把握し、現状の問題点を洗い出すとともに、その解決策を検討するため、優良事例の現地視察を行っています。
宮崎県での現地視察について紹介した、第53回のコラムで (一財) 東京水産振興会の長谷成人理事に次いで、三重県の漁協が行っている「人づくり」の取り組みについて紹介します。
2.漁協が単独で行う河川環境技術者講習会
三重県にある大内山川漁業協同組合が独自に行っている講習会が、令和8年4月に開催されるとの連絡を受け長谷成人理事、(国研) 水産研究・教育機構水産技術研究所の坪井潤一主任研究員、それに山梨県漁業協同組合連合会の大浜で現地視察を行いました。
大内山川は、三重県南部を流れる県下最大の河川「宮川」の支流で、全国清流めぐり利き鮎会での準優勝や伊勢神宮への「大内山川のぼり鮎」の奉納など、地域を代表するアユの名産地です。
この講習会の開催は不定期ですが、半日で3つの講義と実地講習を行い、その後に修了試験が行われます。今回の受験者(施工業者、コンサルタント)は63名で、それに加え発注者である国、県、NEXCO中日本、JR東海の11名、さらに地元の関係者や漁協、講演者、主催者を含めると100名規模となり、会場は一杯です。
講演は、長谷理事の「内水面漁協にとっての河川環境整備の重要性」、三重大学の加治佐隆光名誉教授の「河川工事と環境」、三重大学の金岩稔准教授の「河川生態と環境」の3つです。
講習内容は、漁協の役割から始まり、「魚にとって困る河川工事とは」など、魚と河川工事の関係について具体的に語られています。
漁業関係者が河川工事の際に注意してほしい事項や改善を望む内容を、発注者、コンサルタント、施工業者に理解してもらうためには、このように具体的で分かりやすい内容の講義が求められます。
講義後の実地講習では、河川環境をより良く維持していくために漁協が進めている取り組みが紹介されています。法面崩壊による土砂流出や濁水発生を抑制するため、施工業者の協力により施工された試験区です。沖縄県で赤土流出対策に用いられている土壌浸食防止剤に土、肥料、在来植物の種子等を混ぜ、その組成を変えて吹き付けた4区の違いを比べてみました。施工完了からまだ日が浅かったものの、吹き付けた種子からの発芽が丁度始まり、その効果が期待されることが確認できました。また、実地講習では、アユの生息に配慮した根固ブロック「アユ・ストーン」の紹介もありました。
山梨県でも土砂置き場にビニールシートがかけられているのは良い方で、吹き付けもされないまま降雨時に濁水が発生している場合が見受けられます。
濁りが出てから対処するのではなく、濁りが出る前に対処し、さらにそれが設計に組み込まれた発注になることが望まれます。そうすれば、濁りの発生により漁協が施工業者へ改善を強く要請するようなトラブルはなくなると思われます。このような実地講習を行うことで、参加者を始めとする関係者の認識も深まり、河川環境の保全が図られる工事になることを期待したいと思います。
さて、修了試験は、講演・実地講習の後、当日の講演に関連する各5問程度の選択問題に、記述式の総合問題を加えた60分間です。試験内容も漁協が実施するだけあって、魚の目線に近い設問となっていて、かなりの難問もあるとのことで、とても単独の漁協が実施しているレベルではありません。
ところで、この認定で特徴的なのは、修了試験に合格した個人に直接与えられるものではなく、合格者が各自の会社・職場にて社内研修会を実施し、その研修会の開催報告書を提出することで、会社宛てに河川環境技術者講習受講認定証を、合格者には河川環境技術者の認定証を組合長名で交付する仕組みとなっていることです。加えて、毎年度の活動(河川清掃、講習会の実施等)報告書の提出も義務づけられています。
宮崎県などの講習+認定システムと比べた場合、①漁協単位の活動なので、漁場区域内における河川改修の関係者(発注者、コンサル、施工業者)のほぼすべてが参加する。②漁協が実施しているので、「漁協」、「河川工事と環境」、「河川生態系」に関する課題など水産的視点に即した講習及び試験となっている。③合格者が社内研修会を実施するので、会社・団体の構成員全員に講習内容が周知される。④認定後の報告書の提出を義務づけていることで持続的に環境保全が認識される、などの特徴があります。
ただし、課題となるのは、①単独の漁協で実施するのは技術・労力的に簡単ではない。②発注者ではないので入札等での加点措置がない、などの点があります。このため、このままの形で他の漁協へ横展開するのは難しいと考えられました。
そうであっても、このような講習会、修了試験、社内研修会、実地講習、年度報告というシステムを一漁協が主催しているのだから驚きです。多分ここまで単一漁協でやっているのは、全国広しといえども、この大内山川漁協だけでしょう。
これだけの人が集まり、研修会をしっかり実施できるのも、日頃から信頼できる良い関係づくりができているからに違いありません。大内山川漁協の渡邊典浩組合長は「ここまで来るのに15年かかった」と言われましたが、その間の努力と苦労は大変なものだったと思います。
さて、今回の現地視察では、時間の制約等もあり私自身は修了試験を受講しませんでしたが、講習会以外に漁協が行っている事業として、カワウ対策と駐車場の整備を見学しました。
先導していただいた漁協の軽4駆には、ライト、スピーカー、ウインチも付いています。これは災害時対応車両として町と協定を結んでいるからだそうです。漁協が通常行う放流事業や漁場管理だけではなく、災害発生時に地元との連携を図る姿勢には、学ぶべきところがあります。
また、無断駐車による地元とのトラブルを回避するべく、優良な釣り場の川岸には、各所に駐車場が整備され、分かりやすい看板も設置されていました。駐車場は釣り人だけのためではなく、川遊びの人も使えるよう「河川利用者駐車場」という名称です。釣り場への駐車場整備と管理。やれば良いことは分かっているけれども、地権者との調整や地元への説明等その手間を考えると、中々できることではありません。
そして駐車場前の堤防には、ピンクテープの付いた釘があり、よく見るとアユを食害するカワウの飛来防止のためのテグスが張ってあります。
大内山川漁協では、なんと20kmを超えるアユ釣り場全域に7mピッチで川を横断する黒テグスをドローンも投入して設置しているとのこと!!! 中途半端な対処ではなく、徹底した糸張りですが、それにしてもすごい努力量です。
その努力の甲斐あってでしょう、確かに視察中は、カワウを1羽も見かけませんでした。
今回の視察では、大内山川漁協の渡邊典浩組合長をはじめ、関係者の方々には大変お世話になりました。良い川づくりのためにすべきことと考えていたことが、実際に行われている現場を視察することができ、今後の川づくりの体制を整えるために、参考になる点が多数ありました。ありがとうございました。
3.おわりに
渡邊組合長が言う「業者を泣かせて魚の住みよい川づくりを進めることは間違っている。魚に住みよい川づくりのための工事を、確実に経費として発注者に見積もってもらうことが重要で、それができれば発注者も、受注者も、漁協関係者もみんな喜ぶ共存共栄『三方よし』の道を進むことができる。」は名言です。
多自然川づくりを進めるため、各地で行われている活動を視察して、色々な仕組みややり方の糸口が見えてきました。
これらを組み合わせることで、本事業の課題となっている「人と魚に優しい川づくり」の仕組み作りについて具体的な提案ができるよう、さらに検討を進めたいと考えています。
次回は、これまでコラムの中で紹介されてきた宮崎、三重、そして岐阜の事例の特徴をもとに、「人と魚に優しい川づくり」の今後の展開について考えていきたいと思います。
(第67回へつづく)

