水産振興ONLINE
水産振興コラム
20251
日本の浜を元気に! - フィッシャーマン・ジャパンの挑戦

第9回 リマーレと共に、いまだに解決策のない海洋プラ問題に挑む

津田 祐樹
株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長

前回はブルーファンドの組成までや、その仕組みについて解説しましたが、今回は、実際に投資先がどのような事業をしているのか、フィッシャーマン・ジャパン(以下 FJ)はどのように伴走していくかについてお話していきます。

リマーレとは?

株式会社REMARE(以下リマーレ)は、「燃やさず、埋め立てず、プラスチックを社会に貯蔵する」をミッションに掲げ、海洋プラスチックごみをはじめとする複合廃棄プラスチックの課題解決を目指して設立された企業です。複合廃棄プラスチックごみを独自の技術で加工・処理し、大理石のような板材を成形します。板材のデザイン性が評価され、空間デザイン業界へ多数採用されています。さらに、世界中で問題視されている海洋ごみを「資源」として捉える新しい発想が高く評価され、全国の漁村への展開が期待されています。

事業内容

リマーレの事業は大きく2つ。まず企業が抱える廃棄プラスチックを活用したマテリアル開発です。

「社内で出た廃棄プラスチックを有効活用したい」「脱炭素に社内の意識を変えたい」「CSR活動としてPRに使いたい」といったニーズに対して、これまで埋め立てや焼却しか手段のなかった複合プラスチックのマテリアルリサイクル手法の開発に取り組んでいます。

リマーレのマテリアルリサイクルは、1枚の板材に約35kgの複合プラスチックを使用します。板材は空間デザインの化粧材や什器、社内備品などに変換可能。社内で活用方法を検討すればするほど脱炭素が進みます。

また、リマーレの作る板材は石材のような外観を持ち、木工と同様の加工が可能で、金型の制作が不要なため、初期コストを抑えながら小ロットのアウトプットも簡単に行うことができます。アップサイクル品のノベルティや製品化が可能です。さらに、リマーレのマテリアルリサイクルはプラスチックを燃やさず再利用するため、焼却するサーマルリサイクルと比較してCO2排出量が少ないのも特徴です。

実際に、廃漁具から店舗什器を制作したり、海洋ゴミや顧客から集めた廃アメニティ(プラスチック)、施設のプラスチックゴミといった素材も融点も異なるプラスチックを回収・リサイクルしホテルの壁掛け時計という意匠性の高いインテリアへと変身させたりもしています。

二つ目は、企業から排出される複合プラスチックや海洋プラスチックを活用した、100%リサイクルプラスチック由来の板材制作・販売です。

通常、再生材は30%程度しかリサイクル材を混合することが難しいと言われていますが、リマーレのすごいところは、100%リサイクルプラスチックの板材を造ること。役割を終えた「廃棄物」から、100%リサイクルのマテリアルを生成し、新たなストーリーを持たせて、社会に循環させていきます。

一般的に、焼却・埋め立て以外の処理方法が難しい難処理プラスチックも、マテリアルリサイクルに落とし込むため、回収・洗浄・粉砕・成形・加工といった全行程を自社内で一貫して、独自の工場設計で板材を生産しています。各産業から出る色や形が異なる廃プラスチックは、マテリアル開発を通じて、石のような外観と木を加工する際の特性を兼ね備えるようになります。

成り立ち

元々、航海士だったリマーレ代表の間瀬氏。ネットも繋がらない過酷な環境下で数か月にわたる航海を続けるなかで、鉄を溶接することが楽しみだったそうです。しかし溶接は船のエネルギーを多く使うため、樹脂ならエネルギー消費が少なくて済むということで最高の遊び道具となったといいます。そして、フィリピン海沖に、海洋プラスチックが山のように浮いているのを見て、この素材を使って何かできないかと事業が始まったとのこと。

事業を始めた当初は、「お金にならない」などと、漁師さんたちからの理解がなかなか得られず、苦労したそうです。海洋ごみの多数を占める、漁具ごみ。使えなくなった漁具やロープを廃棄するのに数千万円の費用がかかります。そこで漁師さんの仕事を手伝いコミュニケーションをとりながら、廃棄する漁具ごみを有価で買い取りながら、海洋プラを再資源化する工業設備を作り、少しずつ事業がスタートしました。

まだ解決策がない海洋プラスチック問題

前回お話したように、ここ数年、魚が獲れないという状況はさらに深刻化しています。2050年には海のプラスチックごみが魚の量を上回ってしまうともいわれています。また、環境省のモニタリング調査によると、日本全国の10地点に漂着したごみの内、プラスチックの漂着ごみの中で漁具・漁網などの占める割合が大きいことが分かります。

平成30年9月 環境省 海洋ごみをめぐる最近の動向
https://www.env.go.jp/water/marirne_litter/conf/02_02doukou.pdf

ここまで問題として顕在化しているのに、いまだ解決策がない海洋プラスチック問題。間瀬氏は、「プラスチック自体が悪いわけではなく、その使い方や循環するような手段やインフラを作れば解決できる」と語気を強めます。リマーレが掲げる「プラスチックを社会に貯蔵する」というアプローチはとてもユニークで革新的です。私自身も、日々海洋環境の問題を目の当たりにする中で、共に海洋プラスチック問題解決のために、それぞれのやり方で挑んでいる仲間がいることは、非常に心強いものです。

リマーレ間瀬氏との出会い

そんな間瀬氏との出会いは私が通っていた大学院の先生からの紹介でした。海洋関係で面白い起業家がいるので話してみないかという連絡を受けて話したのが最初です。出会った当時は創業間もなく、まだ創業メンバーしかいない状況でしたが、壮大なビジョンを持ちつつも、地に足をつけて一歩一歩事業を進めている起業家だという印象を受けました。

そして、いざブルーファンドを立ち上げるとなった時に、投資先として真っ先に候補に上がったのがリマーレでした。海洋環境保全へのインパクトの大きさ、技術的優位性があること、市場性・事業性があることなどが投資の決め手となりました。

投資による事業の加速 (間瀬氏からのコメント)

事業資金が増えるというのはもちろんのこと、短期的な視点ではなく、長期の時間軸で社会的インパクトを判断してもらえるため、より事業に集中できるようになりました。一般的なエクイティファイナンスと違って、株式の保有がなく、事業に理解がある方から支援をしてもらえるというのは、経営者にとっては非常に心強いものとなります。

ブルーファンドにより調達した資金は、再資源化するための工場のラインに海洋付着物の除去と塩分除去をどう組み込むかの研究開発に充てます。その研究が成功すれば、ペレットや様々なもので素材を使うことができます。

さらに、ブルーファンドからは資金提供だけではなく事業化支援もして頂いています。製品の販売先の開拓や海洋環境意識の高い企業や団体とのマッチングやプロジェクト組成のサポートもして頂いています。世界規模の課題解決のためにリマーレとFJが一緒にどのようなインパクトを生み出していけるか今後の展開が楽しみです。

漁具由来のアップサイクル製品「GYOG」

そんな中、2024年10月、両社の新たなコラボレーションとして、リマーレが製造する使用済み漁具由来のアップサイクル製品「GYOG」が販売されました。

リマーレが製造する「GYOG」は、使用済みの漁具由来100%のマテリアルリサイクル製品で、板材やペレットといった形状で製造を行うことが可能です。板材は、主に建材や内装材として用いることができます。

使用後の漁具は、年月を経て生まれる独特の風合いと、人の手では作り出せない表情を持っています。そうした使用済み漁具の魅力をそのまま活かし、サステナブルでデザイン性の高い製品を作ろうという試みのもと、誕生しました。

廃棄予定であった漁具を新たな形へとアップサイクルすることで、海洋プラスチック問題の解決に貢献するだけでなく、付加価値を持つ製品として市場に再度送り出し、資源の再循環化を図っています。FJは主に海洋環境への意識が高い企業などに向けて「GYOG」の販売推進を行っており、ソーシャルインパクトにつながる一歩になればと思います。

実現したい未来

海を守りながら利用することで経済や社会全体をサステナブル(持続可能)にする「ブルーエコノミー」の推進を目的とし、フィッシャーマン・ジャパンとミュージックセキュリティーズが2023年に設立されたブルーファンド。いまだ絶対的な解決策のないプラスチック問題において、リマーレはとてもユニークで革新的なアプローチで取り組んでいます。今回、リマーレとタッグを組むことで、これまでの海洋環境保全に向けた動きを強化するとともに、漁業団体として見過ごすことができない漁業ゴミに由来する海洋プラスチック問題の解決を目指します。

さらに、水産業界だけでは解決が難しい大きな課題に対しても、リマーレを始めとした様々なプレイヤーとパートナーシップを結びながら、資源を循環させていく未来を一緒に築いていきたいと考えています。

次回は、もう1社の投資先である、ベンナーズについて解説していきます。

株式会社REMARE
https://remare.jp/

第10回に続く

プロフィール

津田 祐樹(つだ ゆうき)

株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長
宮城県石巻市出身のグロービス経営大学院卒業生。石巻魚市場の仲買を経て、東日本大震災の被害を受けて2014年にフィッシャーマン・ジャパンに参画。2016年には販売部門を株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングとして分社化し、代表に就任。国内外の販路拡大、飲食事業、コンサルティング、政策提言、海洋環境保全活動を推進し、日本の水産業の未来を切り開く。